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アナナス王国と愛の女神

 別のお話を書きたいのですが三章だけでも書きます。四章からは展開がまるで変わるのですが、このお話は私が書きたいだけのお話なので必ず書くでしょう。

(アナナス王国国王アレクサンドロ視点)


 私はアナナス王国の国王、アレクサンドロ。どうせ誰も聞いていない独り言なのではじけようとおもうぜ。アレクちゃんと呼んでくれ!とかな。まあ内面がどうあれうわっつらだけ整えてたらいいんだよ。内面では誰でも自由なのだ。宰相の石頭サルバトーレも赤の魔女とはけしからんとか言いつつ頭の中ではリディアちゃんのおっぱいおっきーけしからん赤の魔女をアイドルにしたい、とか思ってるんだ。たぶん。なのでてきとーにやる。


「白の魔女の暗躍について、既に余の耳に入っておるが、暗部の調査はいかがしておる」


「急にかしこまってどうされました王よ。執務室なのだしいつもみたいに適当で良いですぞ」


「リディアちゃん可愛いよな」


「ぼいんぼいーんですな。尻もいい! 何を言わせるんですか!」


「自分で言ってんじゃん。まあいいや、白の魔女の情報は集まっているか?」


「赤の魔女リディア=モッセレンは身内ですのでいかようにも情報が入ってきておるのですが白の魔女の情報はどうもムルベイ公が出し惜しみしている様子です。独自に協定を組むか配下に引き入れようと画策しておるのやもしれませんな。まあムルベイ公は忠臣ですし王の従兄弟にも当たります、おかしなことにはならぬかと」


「あそこの娘は薄いよな」


「そうそう、やっぱり女の子はボリューム……ですから仕事中ですので王よ」


 コイツは昔はムッツリスケベだったが四十になってからオープンになったな。性欲が落ちてきて逆にそうなってしまった感じだろうか。性欲がなくなると逆にあんまり忌避感がなくなるんだよな。セクハラしなきゃいいけど、まあ咎めるお方もおらんのだが。


 愛の女神ソフィア様がお隠れになられてから。いや、本当にどこに行ったかわからんのだがそれから亡くなったという話がどこからか聞こえてきて、実際あのにぎやかなお方がどこかに閉じこもって黙っていることは考えづらいし彼女もイルマタル様の娘なのだ。そうそう非道な目にあっていたりはするまい。


 と、言うことは、薄情な方であるはずもない愛の女神がこれほど現れぬとなればやはり亡くなったというのが正解なのであろう。もしくはさらなる上位神の座に招かれたか。だが国として公にすることもかなわぬので公式にはお隠れになっていると言うことになっている。神なのだ、死んだとは言えぬ。よって適当な言葉ではあるな。アレクちゃん超困惑とか言ったら革命が起こりそうだが超困惑である。早く帰ってこないかな。……本当に亡くなられたとしたら、国が傾くのでやはり隠し通すだろうが。それこそ上位神の座へ向かわれたと発表するだけだろうな。


「白の魔女でわかっているのは真竜を軽く屠り外傷もつけずに多くのモンスターを殺したあとギルドにミネルバ商会を介して売りつけたと言うこと。風の魔法にもサクリフィケーションという対象を真空により神の元に送るとされる魔法がありますが、それをとても大きな範囲でやっているものかと思われます。対抗魔法はありますが効果があるかどうか。サクリフィケーションは真空を生み出し相手が窒息に至るのを待つ魔法ですが白の魔女カーラのそれは空気が動かなかったと言うのです。わずかに風は吹くものの、大規模な真空が生まれれば普通はそれではすみませんからな」


「我らには感知できぬ手段があるということか。厄介だな」


「それにSランク冒険者のグイードが赤子扱いされたという話も入っております。個人戦力は一軍に匹敵するとされるSランク冒険者が、です」


「危険すぎないか? 流石にそれはヤベーな」


「素が出てますよ」


「出ちゃうだろ」


 聞いただけで喉が渇いた。冷めた紅茶をすする。


「真竜などを大量に売りさばいたことで経済的にも国を傾けるレベルになろうかと」


「ブフォ! ッゴホッ、ゲヘ、おま、わざと」


「そして先日聖王国、イルマタル教国から使者が参りソリド島が真なる神の手からカーラに譲り渡されたと」


「ゲベッ!ゴブッ、ゴフォ!」


「だれか、王が! 王が!」


「お前のせいだろが!! 真なる神ってイルマタル降臨前の世界の神が?! 今では名前しか残されていないのに?!」


「教皇が確認したところ間違いがないと。なんでも宇宙の広さを味わわせて頂いたらしいです。中性子星とかブラックホールやべえ、などと供述していたとか」


「意味がわからんな。ソフィア様の歌の歌詞に恋はブラックホールとか言うのがあったが」


「コンサート行きたいですなあ」


「ホントな。新しい聖女を作ってコンサートやらせようぜ」


「それも一興ですねぇ」


 愛の女神ソフィア様は一年に一度だけ祈年祭と称してコンサートをやっていた。その時期は毎年盛り上がっていたのだがこの数年はそのお姿を見ることも叶わず、正直景気にも悪影響が出ている。そこに来て白の魔女の出現。教会の魔女や赤の魔女の能力からしてかの魔女も神々に匹敵する力を持つと言われている。いや、報告からは事実神に並ぶ。手を出したらヤベーヤツだ。経済にも影響があるとなるともはや一大権力者だがさらにはソリド島を正式に得たとなれば女王でもある。魔女王と呼ばれることになろうな。私なら中二臭くて恥ずかしいが。呼んでやろ。せめてそれくらい反撃したい。まあそれを置いても危険な人物である。人柄はいかようか。


「王様ってなんかアホな話してるな〜」


「はん? ん? 何奴?!」


「貴様、え、それは白の魔女の服装?」


「はっ!?」


「よっす〜」


 突然執務室に現れたのは白いコートを着てフードをかぶった小柄な娘。そのフードをくいと親指で上げて見せた顔は美しい銀の髪にサファイアを思わせる美しい翠の瞳。そしてやはり幼い容姿だが、その体から吹き荒れる暴虐の如きマナは命の危険を感じるほど。見れば見るほど白の魔女としか呼べぬその姿。なによりもその姿に説得力がある。


 白の魔女、直接乗り込んできたか!


「ごきげんよう。私が噂の白の魔女カーラだよ。しばらくはソリド島開拓してる予定なんだけど公爵が顔だけでも繋いでおくべきだと言うのでね。ああ、緊張しなくても取って食ったりしないから安心しな。魔女の定番だけどね」


「ふう、それはそれは。確かに顔も知らずば語れる物も少ないからな。お初にお目にかかる。アナナス王国国王、アレクサンドロ=トーナイン=ムルベイ=アナナスだ」


「サルバトーレ=モッセレン=パーリングです。宰相をやらせていただいております、魔女王様」


「なんだよ魔女王って気持ち悪っ!」


「気持ち悪いときた!」


「ぶぶ、王よ、言葉が乱れておりますぞ」


「うむ、良きにはからえ」


「かしこまり〜」


「コントすんな王と宰相とかそれだけで笑うだろうが」


 白の魔女が与し易いと感じてすぐに態度を崩す私とサルバトーレにそのままにツッコミを入れてくる白の魔女。うむ、恐るべき相手ではあるが話が通じるようだ。しかもだいぶ緩いのでやりやすい。上手くやればこちらの旨味が大きい相手と判断した。失敗しても国を失うくらいであろう。国だけ失われるなら問題はない。そこにいる民や経済や自由やが失われないのであれば国は肩書に過ぎぬのだから奪うことすら意味はないのだ。だが戦争なんてものは単なる略奪だからな。


「なにごとですか陛下! 貴様あ! 何奴!」


「あー、うるさいのが来た」


 魔女に質問をしようと構えたところでアナナス王国総騎士団長、アントニオ=ザーム伯爵が入ってきた。うるさいしややこしいのが来た。総騎士団長はいわゆる将軍職だがこの国では王が将軍であるので軍部最高責任者程度の位置づけだ。戦時なので重要な役どころではあるが軍人の地位が高くなることを我らは望まなかった。愛の女神の庇護の元にあるのに力で支配とか意味がわからないしな。


「総騎士団長、挨拶を」


「はん?! 宰相、ボケたのか?! 侵入者であろう!!」


 緊急の状況で間違いがないのだが、しばらくはサルバトーレとアントニオの言い合いが続くことになる。いつもの光景ではあるがタイミングを選べ。質問したいのにできないじゃないか。


「おもしれーじゃん、ジョバンナが言ってたけど騎士団長って強いんだろ? やってみようぜ」


「は?!」


 ジョバンナといえばアリーチェ付きにしてある女騎士だな。魔女がパチリ、と指を鳴らす。すると景色は唐突に平原に変わった。机と椅子が消えて思わず尻餅をつく。瞬間移動? いや、瞬間移動とか幻覚などというちゃちなものではない。もっと恐ろしきものの片鱗を感じる。ソフィア様がよく言ってたなこのセリフ。


「初めまして、騎士殿。白の魔女、カーラ」


「む?! ……アントニオ=ガンバ=ザーム!!」


 スラリとどこからか片手剣を取り出し魔女は剣をぶら下げただけの態勢でアントニオに向き直る。不動の構えか。そしてシンプルな決闘前のような名乗り。アントニオは条件反射で剣を抜き正眼に構え、名乗る。脳筋のアントニオには確かに一番わかり易いが白の魔女の理解と反応が速すぎる上に、なんなのだ、この技は。恐るべき事態ではあるが、私とサルバトーレは面白いものが始まったと思わず笑んでいた。


 戦いが始まった、はずだがアントニオは動かない。しかし、何を思ったのか突然全身からオーラを吹き出す。この圧は、こちらまで吹き飛ばす気か!


 しかし白の魔女の顔色は変わらない。ニヤニヤしたチェシャ猫のような笑みはそのままだ。まさしく愛の女神様が語った不思議の国のアリーチェのチェシャ猫ではなかろうか。場をかき乱すあたり、特に。


 突然のことに頭が回らない者は王や宰相などできぬが、特大の爆弾である。面白い。


「……す、スキが無い、なぜ魔女が! 剣聖殿のような圧を!」


「剣聖は知らんけど、いいのかい構えてるだけで」


「はっ?! ブゴハッ!!」


 パアン、と鼓膜が破れるような音。いや、全身が震えるほどの音がして、ヒザをつきそうになる。これは、魔術か! 一撃もらったアントニオはそのまま後ろに倒れる。


「剣聖とでも戦ってるつもりかね。私は魔女だよ?」


「す、すさまじいな」


「……これは、アントニオ?! し、死んでる?」


「生きてるよ。すごいね〜。ああ、大丈夫、ほれ」


 一撃で倒されたアントニオにサルバトーレが駆け寄る。その様子を見つつパチン、と魔女が指を再び鳴らす。すると顔が潰れて明らかに死んでいたアントニオが何事もなかったかのように綺麗な顔になり、ガバリ、と起き上がった。


「か、顔は、ついてるな。な、なにが……」


「頑丈だねアンタ。四十気圧とは言え音で周りに被害出さないために方向を絞って一点に集中したのに。二百気圧相当はあったはず。ぼんやり使っててもオーラか。それがなければミンチだったんだが」


 風の魔法、しかもノーモーションであれほどの威力を放つ。人間の叶う相手ではない。Sランクが子供扱い、は評価が低いとさえ感じた。全力ではないもののオーラを固めたアントニオが一撃で仕留められるのは、当たり前なのだが初めて見た。そう、アントニオが騎士団最強であり、無敵、その剣はすべてを穿ち、敵の攻撃には傷一つつかない不沈の男、というのが日常の光景で、今までの当たり前の景色。……それが、この事態。


 彼我の戦力差に頭が痛くなるがこの相手と交渉すれば神無き今もこの国を守れるかもしれぬ。ここは真摯に当たるところであろう。なによりもその後にある経済的な旨味は国の長としては捨て置けない。


「魔女よ、なにが望みか」


「お、話が早いねえ。いやね、二つ三つあるんだけど」


「聞こう」


 交渉などできる相手ではない。この場合相手の意見を飲んで機嫌を損ねないこと、あわよくば与えた物より大きな物を返してもらう。その態度でいい。しかし白の魔女は話の通じる相手だ。いい結果をつかめるやもしれん。欲張っては痛い目を見るだけになる。


「いやもっと気軽に行こうぜ。どうせ誰も文句言えないし。まずは国内のテロが増えてるんでこっちでもやってるが対策はしてほしいのと、ソリド島とムルベイで取引を行うのでそのこと、他には〜、そうそうタイミングを見て落ち着いてからでいいんだけど。いや、荒れてから?」


 その最後の魔女の提案には私も、サルバトーレも、アントニオも、苦笑いするしかなかった。確かにそれは必要と思えたからだ。その件について早急に予算を組み、準備を整えることになる。時期は二ヶ月後ほどが有望か。ちなみに娘のアリーチェが船舶事故で行方不明となっていたが、カーラが助けてくれ保護してくれているらしい。それについては親として感謝した。いろいろ複雑な想いはあるが、魔女に任せていれば間違いない。そんな気がする。真の神の使徒なのだ、魔女とは名ばかりだろう。本人は魔女としか名乗っていないし、問題もない。


 問題となったのはその後、最後の発言だった。


「あともうひとつ、愛の女神は殺されたはずだがなんで誰も話にも出さない?」


「は? はあぁ? っッ、ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!???」


 最後の最後、本当の最後に、魔女は超巨大な爆弾を落としていった。






 この章でだいたいアナナス王国は掌握します。




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