サバイバルってなんで楽しいんだろうね
そういうわけでやっと私の休息日だよ。働きすぎだろ魔女なのに。あれか、神に対する反逆で休み無しなのか。いいかげん星のんも怒って怒鳴り込んでくるレベルで休み無しなんだけど!
「そういうわけで怒鳴り込んできたぞコラー!」
「星のん来たよほんとにくるなよ神は暇なのかよ私よりニートかよこんにちは」
「挨拶できてえらい子か! いやほんとに休め?」
「楽しいからいいんだよ! 今日もバーベキューの準備からサバイバルな環境で一からやるつもりだぜ!」
うへへ、楽しみだな。久しぶりに海にも入るか。いつの間にか夏も終わったし。泳げてねえ。まあいっか、水の中歩けばいいし。
「出たよ趣味で仕事するヤツ。そのうちおんなじ仕事ならお金になる方がいいんじゃね、とか言い出すんだ」
「それもそうだな」
「休めや」
まあ寝ていたかったらマイルームで千倍の時間寝れるんで特に困らんのだよな。寝てるだけって存在してる意味あるのかなって思っちゃうんだけど。体って休めたら休めただけ強くなるとかはないしやせ細っていくだけ、つまりは損し続けてるんだよな。そう思ったらなんか動いちゃう。貧乏性といえばそうなんだよな。かと言って掃除とかはあんまり好きじゃないんだけどそれだっていざ掃除を極めるぞ、とか思ってやったら楽しめたりするんだよな。
どこまでも求道って楽しいじゃんね。そのほうが生きやすいとも思うし。なんで不利なほう取るの? マゾなの? 仕事も勉強も地獄だと思いながらひたすらやらされる世界のほうが好きなんだったら私からなにか言うことないんだよな。別に楽しめよってだけの話で。苦しそうにしてたら心配になっちゃうからよ。なので私は楽しむだけだぞ。毎日楽しいぞ。
「辛くなったら引きこもり無制限にできる誰かさんがくれたスキルがあるから安心だぜ」
「そうかよ。十分に便利に使えて良かったな」
「神に感謝だな! さてまずは水の確保からだな!」
「なんでサバイバル始めてんだよ私も混ぜろ」
「神がサバイバルって成立するの?」
「むしろ縛り入れないでゲームして楽しいの?」
「やべえハードコア廃プレーヤーやべえナイトメア以外はイージーモードって言っちゃうヤツだ」
「まあ生まれとかはサイコロで決めるけど」
「ギャンブルジャンキー並にサイコロ振るなこの神」
「それが自由ってもんだからね!」
「ギャンブルやめられない人の言い訳か! この神で大丈夫か?!」
「最高神で頼む」
「そういうゲームじゃねーよ!」
人生はゲームだとしたら私のゲームはまあまあハードだな。インフェルノまでは行かない。下には下がいるからな。でもダイレクトに生きてる人間にはその時の苦痛が最大値だからな。あとになって記憶になってみるとやりようがあったなーとかそんなしんどくもない状況だなーとか思うんだよ。当事者じゃなくなったらそんなもんなんだから当事者じゃなくなってしまえばいいんだよな。今殴られてるのからはなんとか逃げるしかないわ。手を貸せるならとっくに貸してる。でも私の手は短いからな、代わりに杖を貸してやろう。自分で歩け。お前さんの荷物は持ってやれないが自分の荷物はみんな自分で持ってるんだからな。見えないとか見せないだけで。人に辛いとこを見せないくらいまで行ったら逆に心配になってこない? いいんだよ、辛いって言っても。なんにもしてやれないから通り過ぎるけども。でも聞いてるよ。的はずれなことばっかり言ってても聞いてるよ。
サバイバルの楽しいとこは考えることが多すぎて他のこと考えなくていいとこか、単純作業してるときに無になれるとこか、逆に考える時間が無尽蔵にあるとこがいいとこじゃないかねえ。私は好きだ。こう、火を起こすために枯れ木を集めたり。
「魔法使わないサバイバルってまた本格的な」
「本格的って言ってもいつでも逃げられる遊びなんだけどな」
まあ寄生虫とかいるしガチでやらないと死ぬところはあるんだけど、まあ今は平気だけども、現実にやるとだな、ノミやダニはもちろん蛇や蚊やアブや野生動物ならイノシシや猿も来るしクマも出るとこは出る。ヤバいよな。ヤバいんだよ。でも実際そんな不運なことになるのはよっぽどチャレンジングなことしてる人くらいだし人の管理してるキャンプ場とかでヌルめのキャンプもそれはそれで楽しいぞ。なんと言っても引っ越ししなくてもいい。ちょっとホームシックになれたら逆に実家の良さとかわかるしな。私が昔よく家出してたのも外で働けない子供がひとりでいるより家のほうがマシだなって実感できたからかもな。だからなんか家出が趣味なんだけど。それが今サバイバルになってる感じ。
家出もしたことないのはいい子ちゃんなのかそれとも危機感がなかったのかそれとも平和だったのかどれだろうな。逃げられないから逃げないってのはやっぱり損だな。逃げられるときは逃げなきゃ。抑え込まれて鍵をかけられて恐怖で縛られても逃げなきゃ殺されるんだったら逃げるよな。まあ私もそれくらい殴られたことはあるが家出したら帰ってきてから殴られなかったんだよなぁ。まあ私のときはだけど。そんな話は別によくないか?
星のんは普通の家庭なんだよな。ただし中身が神。すべてはヌルゲー。苦労はしてるらしいけど。その苦労が人生なんだってさ。私には……わからんでもないかな。じゃあ苦労なく寝て暮らす人生ってなんの意味があるのかって話。結局今しんどいから違う状況がいいってだけなんだよな。まあ逃げられるなら逃げるけどな。人生は逃亡だ。ルーザーは水野だけど。水野は引っ越しばっかりしてたから友達もできないし部屋にこもって帰ってこない親を待ってるのも嫌だからゲームばっかりしてたらしい。人生なんてゲームできたらそれ以上いらないってさ。アイツもちょっとおかしくね?
私はなんかできることがあったらやっちゃうんだよな。
さて、水を入れるために土器とかも作るかな。そのまま真水を飲むならなるべく流れの速い上流で飲むといい。そこまで行っても寄生虫の心配はあるんだけど死ぬよりかはいいし分のいい賭けになる。人生も実はそんなことの繰り返しじゃないか? 負けるとわかってるけどより分のいい賭けを探して張るんだよな。人生は運次第だからな。でも努力はその成功確率を高めてくれる。ゲームみたいなもんだな。百回に一回当たるなら一万回もやったら流石に当たるだろ。運ってやつはこれでも当たらないことがあるから怖いんだけどな。
目の前に理不尽があったら逃げるしかねえよ。ほんと。うちに空きがあったら逃げてこいって言えるんだけどな。だからソリド島はそんなとこにしよう。人生に負け続けて逃げてきたやつの行き着くとこだな。逆に勝ち組説ある。まあそんなもんだろ、人生は。
「ウチも水集める。氷で器作ってそこに水入れる」
「ギフト使ってんじゃねーよ」
水野はズルばっかりするんだから。まあいいんだけど、こっちが損になることはしないからな。
友達って心から分かり合えないとダメとか言うヤツもいるけどそんな肩肘張ってつきあうの辛くない? 適当に距離挟んで気楽に一緒にゲームしたりキャンプしたりでよくね?
愛情だの友情だの必要ないよな。そんなもん求めるから辛くなるんじゃね? 形がないだけに納得しない限り終わらないんだよ、その追求は。最低限で満足してるヤツを哀れに思うヤツは本当は自分が哀れなんだろうな。だからまあ寂しいんだろう。
てきとーでいいじゃん。てきとーで。
「石で刃物作ったぜ」
「なにやってんの立石。器用なの?」
こいつ機械とかは全然ダメなくせにイラストとか上手いんだよな。人には得意不得意あるんだよな〜。機械はなんかきっちりかっちりなのがイヤらしい。法律はカッチリに見えて裁判とかしない限りゆるいとこあるから好きなんだと。私にはわからんな〜。まあそういうもんなんだろう、そうやって人格ができていくんだからそれでいいんだろう。なにが好きとかなにが嫌いとかどんどん主張したらいい。私は好きなものは好きになってもらえたら嬉しいけど無理をしたって好き嫌いは変わらんからな。そういう根本的なことが変わるには自分から変わるしかないんだよ。それが不利益だと知っていくとかな。
「よし、炭を焼いたり粘土で作った土器に火を入れても割れないか試していこうか」
「本格的やの〜」
「こう、縄文式にしてみないか?」
「なんのこだわりだよ普通にしてたらいいよやりたきゃやればいいんだよなんでもウェルカムだぞ」
「息継ぎしろよ」
「私はリビングスペースを神の力で作ってみた」
「帰れ」
「いや、ただのハンモックだよ?」
コイツはコイツで寂しがりなんだよな。ひとりで大丈夫なら世界なんて作らないか。永遠に無をさまよっていればいいんだから。それは嫌だな、私も嫌だわ。じゃあ神もそこにいていいよな。
みんな仲良くが無理なのって人のもの奪うからだよな。分かち合うのは問題がないんだ。むしろ好きだろ。奪い合うと足りなくなって分かち合うと余るってヤツだな。ひとりが明日のぶんもと確保したものが誰かの今日のぶんだったら、そりゃ争いが起こる。腐る前に分けあって食っちまえばいい。
「そういうわけで釣りもするか」
「狩りでよくね?」
「ウチが氷漬けにするで」
「なんでお前さんはチートしたがるの? 好きなの?」
「好きかも」
ならいいや。まあ私のチート使うとぜんぶやる意味なくなっちゃうから使わないけど。ちなみにマリーちゃんやスクルドも参加である。二人でツタを編んでロープを量産してる。ああいうのはハマるとずっとやっちゃって大事なこと忘れてたりするよな。せっかくロープ作ったんだからハンモックとかテントとかタープとか作ったら? 布もいるな。布って作るの大変だから大きめの葉っぱ探してこよう。草でもいいけど乾燥させないとだな。
「また働いておる」
「こういう性なんやろな。怠惰はどこいったんな」
「アイツが仕事できないくらいいろいろ作ってやろうぜ」
「さすが立石、ルール内でブッ壊しに行くスタイルだな」
どっちかといえば星のんもそのタイプだけどな。ルールは守って安全にぶち壊しにしましょうチーム。こわい。
さて、しばらくは釣りを楽しむ。まあそこら辺の木に撚った草の糸、削った石の針、餌は川底の虫、それで狙うのも小さい魚だけどまあまあ釣れてくる。いや、この辺り魚がすれてないな。あとは貝とか拾ってくるかね。海藻も食えそうなの取ってくるか。海の幸はありがてえな。
「よし、適当にマズい飯食うか。サバイバルはこれがいいよな」
「ウチは美味しいんがええ」
「まあ貝の出汁とか出てるからスープはイケるんじゃね? 塩も利いてるし」
「明日は塩作りだな」
「明日もやるん? ウチはマイルーム帰る」
「なんでお前が帰るんだよ私が帰るわまだ帰らないけど」
「とりあえず冷たい水用意しよう」
「働く神」
「まあコイツも忙しいんだよこれで」
「神さんなら時間無限やろ」
「私を無限に働かせるな!」
神様なんて毎日祈られて大変だよな。それで祈ってるだけの信徒に不幸になったってブチ切れられるんだぜ。可哀想。神がなにかしなきゃいけなくなった時点で世界なんて終わりなんだよな。世界なくていいやはいリセット。そうならないために生きてるのかもな。
そんでみんなでワイワイやってたら夜になって、火を囲んで誰も寝ないで適当にくっちゃべってたら空が曇ってきた。
「きゅー」
「え、嵐? 流石にそれはこっちに来させないとかできない? できる?」
普通にベルは嵐も好きだからな、嵐を消せとは言えない。しかしこっちに来させないくらいならいいらしい。気に入られてるな〜。
「自分もチート使いよるやん」
「これは私のじゃないしな〜」
ベルは別に私の奴隷ではないからな。友達? ストーカー? まあ楽しいこと好き仲間かな。
そんで、その夜は大嵐で高波はこっちまで来たけど私たちのとこだけ雨も風も波もなかった。私らは風の音すげーとか言って笑いながら眠りもせずに火の番をして過ごした。
そして、夜が明けた。
……明けゆく夜空の一番星が次の物語の始まりを予感させる、そんな余韻を残して。
第二章はこれで終わりです。結構暗躍してしまいました。もう少しあとになるはずだったのに。まあいいや。あらすじ詐欺になってたらすみません。第三章はほぼできてますのでできるだけ早めに投稿再開したいと思います。
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