リベルト=ムルベイ公爵の思惑
新年、明けましておめでとうございます。今年中に終わるかな〜。書きたいのがたくさんあるので頑張ります。応援よろしくお願いします!
一旦ロードバース子爵領大量行方不明者帰還事件は幕を下ろした。しかし領主はそのために十分な仕事をしたと言えるのか。まあその責任を取ってロードバース子爵マウロは弟ルイジに爵位を譲る流れとなる。予定調和と言えばそう。そのために騒動を大きくしたんだしな。最初は犠牲者をソリド島に取り込んだら帰還させるつもりなかったんだがいつでも帰れるほうがやりやすいかとそう結論づけた。そして問題解決後弟くん、ルイジの手腕によりロードバース子爵領は白の魔女と契約してソリド島との交易を開始する。これで領地自体にはお咎め無し。ここまで私が考えたんだがロードバース家のみの一存で領主交代から家の維持までやるのが難しかったんでルイジは親戚筋で寄親のリベルト=ムルベイ公爵に話を持ちかけ承認を受けている。流石に公爵家なので王家や議会にも顔が利く。そして私と交易できるのだから当然と一枚かんでくる。逆に言えばこちらもそうでないとやりにくいのだが。こちらの言い分だけ聞け、など取引で通じるはずもないのだ。仮に通じたら借りが怖くなる。どこかの国みたいに借りなんか知らん国民感情が大事みたいにやったらそれはもう外交を捨てているのと同じことだ。国民感情なんていくらでも作れるしな。情報を切って与えたらいいだけだ。嘘はついておりません。
まあそんなふうに情報の切れ端を流すのに冒険者は使える。冒険者とある程度のやり取りがある食料品関連から民衆に話の切れ端が伝わっていく。そして国民感情が爆発するわけだ。政権を交代しろーと。頭をすげ替えてもその下が変わらないのに気づかないんだよなー。
まあこの領地の官僚は悪人というより未成熟なのでいろいろと手を入れていった。主にルイジくんがやってくれました。配下にどんな人がいるかどんな能力かなんて私が把握してるわけないだろ。そんな暇じゃねえよ。使える人材は見繕って紹介はした。探すのはベル任せだし私はマイルームからプライベートを探って精査しただけだ。日記とか書いてたらどんな思想かとかはすぐにわかるんだがそうじゃないズボラなヤツは調べるのが大変だった。ほぼ寝てるだけなのに仕事はできてるとか能力把握しづらい。これだから人事は大変なんだ。必要なのは協調性と能力だけだからな。正直連携できん社員なんていらないだろ。会社への忠誠はカッコだけだしいらんけど。まあブロッサムプロジェクトの話なんだがな。そっちも動いてるよ? 怠惰の罪とはなんだったのか。人間がからむと仕事してしまうから街に出るのイヤだったんだよ!
まあそういうのはいいや。そんなわけで私はムルベイ公爵について調べてから会談にのぞんだわけね。調べていくとなんか変な動きしてるんだよな。例の真竜はムルベイ首都に魔法で作った像を飾ってるわけだがその素材のほうが行方不明なんだよな。だって竜骨や竜鱗製の武器防具とか竜の肉とか出回ったら話題になるはずだし寄り子のロードバースにだってひとつやふたつ回ってくるはずなのに無い。Sランク冒険者なら必ず耳に入るはずなのにグイードも知らないときた。コイツはくせえ〜、ってわけで一回ムルベイ首都にまで行って一通り調べてきたりもしたよ。マイルームとベルをからめたらこの世界に隠しおおせる手段なんて存在しないからな。資金の動きとか調べてたけど領地内の領地の開拓や量産体制の構築とか極めて普通の内政に金を回してる。資金が必要なようにも思えないしそれなら竜装備売れって話なんだよな。なんじゃこれ。
それで歴史とか外交関係とかも洗ってみたんだが。うーん、うっすら思惑は見えてきた、ってところで面会になった。
さて、ムルベイ公爵はなにを思ってなにを計画してるのかな?
「よっす、俺がムルベイだ! 白の魔女ちゃん可愛ぅいね〜!」
無茶苦茶ムサくてゴツいばっかりでヒゲが顔全体を覆いかねないくらいボサボサで頭だけキッチリオールバックのとにかくイカついムルベイ公爵だった。芸人みたいなノリだし。
「影武者は選べと言っておけ」
「本人だよ!」
がっはっは、と豪快に笑う。うーん、本人なのは知ってるが部下の前ではシャキッとしてたんだけどなー。ちなみにマウロとルイジのロードバース兄弟とワルテルもいる。
「ムルベイ公爵の顔が高い位置すぎてカーラ様には見えませんぞー!」
「ごめんね! デッカくて!」
「削ってみますかな? ノコはこちらに!」
「なんで公爵と執事がコントしようとしてるんだよ!」
大して面白くないし! いい加減にしろ!
まあこの豪快な陽キャおっさんとこれからいろいろと関係していくのだがそれはあとの話だ。一旦はソリド島に帰るしな。
「へーい、ノリが悪いね魔女ちゃーん!」
「カーラって呼べちゃん言うなデカい体で狭い部屋で踊るなクネクネはやめろダンス上手いな」
「息継ぎしなよー!」
うっさいわ。声もデケえ。話が進まんので無視することにした。と、急に真面目な顔で説明を始めた。逆に笑うだろうが!
「子爵の兄弟間での権利譲渡はそもそもその家の問題なんで王家から口出しはできないと連絡が入った。なので王家は承認の意向だな。お披露目は先になるが通達はすぐに出される。そもそも管理してる貴族の長は国が決めるわけだがまあ内務状況からみて外から人を入れる案は、まあ一部の実権を持ちたい侯爵とか侯爵とかが文句言ったが文官だし地方統治は面倒だしですぐに話は流れた。まあ文句言ったのは侯爵だけだったしな。無意味ぴよ」
マジトーンでいきなりぴよはやめろ。陽キャで自由人のわりに優秀、まあ公爵って権力的には王の身内だし血が絶えたらあっさり子爵くらいまで落とされたりするらしいからな。この国も血縁は強いってところか。優秀な遺伝子が必要みたいな考えは事実だしわからなくはないんだが、なら優秀な人間が優秀な指導者かというとそんなことはないからな。武術や魔術に優れているより人を使えるヤツのほうが偉い。王に万能を求めても仕方ないんだよな。強い軍人や強い魔術師や賢い研究者や賢い商人がいてはじめて国が回るわけで。指導者とかトップに実力が必要みたいなのは古い軍人の考え方でこの国は愛の女神が支配していたこともあって自由とかそっちの傾向が強い。ただ政治については王政を崩す気がなかったみたいだな。愛の女神が王子様というキャラクターを無くしたくなかったとかくだらん理由な気がする。別に民主主義は正義でも完全でもないからな。かと言って政変が民に良い結果をもたらした事実が歴史的にはあまり存在しない。だって気候とかのほうが重要なんだよな。寒冷期で飯が食えないのに政変したって意味あるか? むしろそんな大変な時に指導者変えたりしたらそっちのがピンチだろ。そういうのがわかってないんだ。だから民衆なんだけど。民衆の平均はどこまで行っても六十点なんだよな。
そもそも民衆が頑張ればベースは上がるけど国のトップが頑張ったとこで手足に回る栄養が増えるわけじゃない。手足がしっかり動いて餌を取らないとダメなんだよな。当たり前だけど無いものは無い。対価も出さずに得るものなんて何もない。すごく当たり前のことなんだが上位十パーセントに入る結果を得られるのは能力や資産上位の十パーセントだけだ。全員に回るならそもそも努力の意味がない世界だ。私ならそんな世界ごめんだね。なので不均衡は起こるしだから頑張りに意味がある。これが不正とかでもたらされたら文句を言っていい、と思うかもしれんが悪いのはその不正であって能力格差でも結果格差でもない。そこがズレてると永遠に意味のないことを叫び続けることになるぞ。騒がしいだけの無能とか実に邪魔だ。
親ガチャとかの運だけで得られるのがひどいって賭け事しまくってるヤツが言ってたけどアホなんだなーと思った。そんなもん運がいいヤツの大勝利に決まってるだろ。チートもらえた私大勝利。いい大学行っても就職した先の上司とたまたま合わなかったとか運だよな〜。まあ学生上がりがガキすぎるのも間違いないんだけどそれも巡りあわせって運次第だし。私なんて四十過ぎてもガキだぞ。身長の話はしてねえ。だから最初の三年は耐えろって言われるんだろうな。耐えたとこでダメなんだけど。そもそも自分自身の力不足は知っとかないとダメだろうな。それを知るのは味があるし意味も価値もある。積み上げればいいだけだ。能力がないなら上を目指して積み上げる余地があって楽しみだろ。運がダメなら世の中の九割のお話はダメなんじゃなかろうか。運が悪ければチート持ってても早々に見つかって目をつけられて使い潰されてはたまた殺されてお話にならないもんな。チート無しでも結果を出したら妬まれて前線送りで死亡待ったなし。運が全てとは言わんけど運がないとお話にならない。自分が何も持ってなければ得る物なんてあるわけないんだよな。そこでおすすめなのが勉強だ。体力は落ちるけど知識は増えるだけ。四十過ぎまで酒飲んでたら前頭葉溶けるけどな!
まあいつもの脱線は置いといて、ムルベイ公爵だよ。取引についてはロードバースの港を使うってことで問題はない。間に領主サイドの商人をかませるのも政治家が口出すと周りがうるさいんでパス。物が入ってくるのがメリット。あとは公爵領の大型ダンジョンで金になる物を他に回す。ダンジョンの経済って鉱山とおんなじでタダで物が生まれるようなものだから戦争の種になるんだよな。なるほど、読めてきた。
「それでムルベイ公爵さんは独立を狙ってるわけだ」
「はあ?」
「へっ?」
「おお、そう思ったか。なんでだ?」
ロードバース兄弟はいきなり話が変わったのでわからなかったようだな。理由はいくつかある。まずムルベイ公爵領はもともと小国ムルベイ王国だったので立地的にアナナス王国の端にして北側大国二つ、憤怒……正義の女神の国アールバイエンと商業の神の国ドラウブンに接していて、更には西にはピーア共和国と接している。つまり要衝になってる。ここが独立したらアナナスは実はドラウブンとピーアから離れられて軍事的には楽になる。ムルベイ公爵を倒そうとする動きは出るかもしれないが根回しが行ってたらむしろ楽になることからこの国の独立を認める動きを作れるだろう。ただそれで困るのはムルベイだ。それだけだと困る。
なので真竜装備なんだが流通してないのに表に飾ってるのはコピーした石膏像。つまり消えた真竜の素材は全部ムルベイ公爵が抱え込んで取引に使ったか騎士に回したかしている。これがな、力をつけすぎてる。そういうわけだな。
ロードバースの人材不足にしてもそうだ。ここはムルベイ公爵の寄子なんだからムルベイ公爵に人を派遣してもらえばいい。だがしていない。マウロはともかくルイジくんは思いついてるはず、むしろ打診しているはずだ。だが成果は薄い。ルイジくんに聞いたら一人か二人くらい計算ができる程度の人間が送られてきたらしい。
「でよ、ムルベイ公爵は愛する母国アナナスのために独立を企んでいる。まあ私が口を出すことじゃないんだが」
「ふむ、面白い推測だな」
「そうだな、ただの推測だ。だから人材よこせ」
「……ふふ、寄越しているとも」
「スパイな〜。まあロードバースが独立阻止に動いたところで紙くずだろうけど」
「え、ちょっとそれどうしたら?!」
「ルイジくん、慌てるな。むしろ敵を引き込むような事態になりかねないんでな、そんなに簡単にはやらないよ。今も下の方で水面下でいろいろやってるんだこのおっさん。ブロッサムに話来てるし」
そういったとこでリベルトのおっさんの顔色が変わる。
「あっちゃー、あの組織最近すごい拡大してるからなんでだとは思っていたが」
「隠してないが?」
「お前さんの組織か! まあバレるわな!」
「私としてはアナナスから人とか送られるほうが攻めづらそうに思うけど。私がソリド島との取引を持ち出したの実はヤバくないか?」
「そうだな。ソリド島とムルベイ公爵領のダンジョンから得られる物資がアナナスに回らなくなる可能性があればそうだろうな」
「それでブロッサムね。流通経路をふさごうにもブロッサムは大陸全体に広がっていこうとしている。こりゃ使える、そう思うわな」
「戦争っていうのは裏があるもんだからな。ブロッサムはその裏になる。各国とソリド島、ダンジョンの物資をやり取りするようにすれば各国から狙われると同時に大義名分が立たなければ他の国に叩かれることになる」
そうだ。ブロッサムは大陸の戦争をコントロールする組織となる。そのうちな。既存の利権とかもあるから今すぐは無理だが、少しずつ大金をテコにして食い込んでいく予定だ。その過程で私もめっちゃ儲かってたりするけどそれはいい。どうせ泡銭なんで民間の教育施設に利権をもらいつつ食い広げていってるところだ。
「お前さんヤバくない?」
「魔女がヤバくないわけないだろ」




