切り裂き魔の正体
(青の魔女フローラ視点)
はあ、あの槙中のアホ娘が犯罪を放置してるのは罪の重さも理解させるため。というのも人を殺すことが当たり前になったらその時にわかる。あ、これ意味ないなって。
必要になって殺すのではなく、そのケースは置いておいて、人が人を殺して興奮するのは性癖もあるかもしれないが法を乱すという自分の力に酔うための行動であることが多い。相手を支配下に置く意味もあるだろう。コントロールする欲求であるならば人を殺すという行動はまさに己のコントロールを損なっている間違いだし大きな失敗となる。自分をコントロールするのは自由に生きるため。
性癖にしてもそうだが暴くことに興奮しているのだろうが暴ききったらとたんに無価値になるしそれは医学的に学べることでしかないしたかだか人間の解体で得られる知識などたかが知れている。
相手の気持ちになって考えろと言うくせに犯罪者の心理を分析しようとする人間は少ない。共感するための分析ならたしかになんと非道な、となるがそんなはずがないだろう。否定し、拒絶し、断絶するために根を掘るのだ。もし善意があるというのなら犯罪者の心も知るべきだ。止めるために。そしてズレてはいても犯罪者の多くは正常な判断力を有している。そうでなければ計画的に人を殺すなんて不可能だ。誰も殺されたくはないからな。もし人を出し抜いて殺すのが面白いとか言うヤツがいたら平和な世の中で相手を信頼している人間を殺す程度のヌルゲーで無能を証明してどうする。出し抜くというのなら犯罪予告でも出せばいい。警察は有能だ。そもそも自分で設定したゲームで勝ちたいなら小説でも書いていたらいい。他人のルールで戦って勝てるはずがない。ルールを決めるなら最後に私が勝ちというルールを書いておけばいいのだから。無意味だ。
人は相互干渉して存在している。誰かと関わることこそ存在証明だ。槙中がいう価値や意味のルール。線を引くには白紙が必要なように意味は一極では生まれない。他者の存在があって初めて人の意味がある。
無人島でボッチ遊びしてたヤツが言うと説得力があるわね。さて、御託を並べたからいよいよ本番ね。とは言ってもこの連続事件の犯人って誰、に行き着くのだけど。あんまりに犯人が見つからないから基本に立ち返って怪しそうなヤツを尾行することにする。
今回はBランクパーティー、氷華乱舞の怪しげなヤツ、イシドロ。アレは槙中ともやりあうのを回避したけど片手剣使いの実力者なのがわかってるわ。力を隠してるとしたら一番怪しいのよ。街の気配全部消してるから絶対に悟られないけど逆に私が捜査してるのはバレバレね。だけどどこにいるかはわからないわ。今回も一応マリーは連れてきている。正直守るのも大変なのだけどこの子はただ守られるほど弱くない。下級職のひとつ、闇の魔法使いはレベルがとても上がりやすいので闇しか使えなくてもチートの次くらい強い。悪いけどAランク冒険者では勝負にならない。連携すれば竜も倒すAランクでさえね。なので心配はしない。心配だけどしない。
「どなんもならんげやったらびっこ引いて逃げまいよ」
「何を言ってるのかはわかりませんが逃げますから心配なさらないでください」
強い子ね。まあ心配しすぎるのもウザいわよね。人って感情を引きずるのが嫌いなんだわ。すっぱり切り捨てたらいいのよね。
さて、音も気配も消してあとは光の反射もゼロにして貫通させることで姿を消していく。すごいでしょ、ゼロは便利なのよ。本当になんであれ消せるから。マナはいるけど。宇宙とかも簡単に消せるから怖い。まあやらないけどね。たぶん星野がブレーキかけるし。
完全に消えるとマリーもついて来れないので触感だけ残してマリーには服につかまらせる。可愛いわね。身長あんまり変わらないけど。私も槙中ほどではないけどチビだしね。星野もチビだし。まあ立石がデカいのよ。身長ゼロで削れないかしら。
そんなアホなこと考えながらイシドロを追いかけているとばったりと他の冒険者と出くわす。たまたまだと思う。計画とかで人を追いかけていたとかではなくまったくの偶然。のはずなんだけど二人してキョロキョロし始める。
「祭りの話は聞いてるか?」
「おうよ、楽しんでるところだぜ」
祭り? 楽しんでるところ? そんな祭りがあるとか聞いていないんだけど。実際にこの世界の祭りも出店があったりするんだけどそんなのはないし、そもそも噂も聞いていない。冒険者の中でもグループはあるから特定のグループでの話なのかしら。だとしたら……?
「怪しくないですか? あ、抜いた!」
「こたえるしエラいけど止めたほうがええんかいの?」
「……様子見ですかね」
「……あー、そういうことか、そんなら犯人探ししよるのに他所でばっか事件が起こりまくるわけやん」
祭り。つまり剣士同士出会ったら殺し合う祭りだ。本来そんなことは残虐すぎるし誰かに見つかれば止まるはずだが槙中が生き返らせる祭りとなれば参加しないヤツがいても皆で黙らせられる。犯人がひとりじゃないケースは考えていたけど、
まさか街中の冒険者全員が犯人。
はあ? 推理としてはこれは破綻してるんじゃないの? いや、そもそも誰がこの祭りを始めたかってことよね。たぶん事件が複数回起こるうちに目撃者が現れて実際にその複数人が話し合ってやってみることになった。そしたらアホの槙中がしっかり死体を連れ去ってソリド島でなんらかの体験をさせて送り返して、その帰ってきたヤツらがルールを決めて誰かが槙中に話を通して祭りが起こった。それなら。この事態は予測できなかったとしても、じゃあ原因となった最初の犯罪は? それを調べないとことが収まらないのでは? まあアホの槙中を追求したらいいんだろうけど。
「そういえば祭りの話をしても断るヤツがいないのはなんでだろうな」
「リピーターが多いからじゃね?」
「お前もリピーターかよ」
「まあな。そんでリピーターが身内に話して広まってるからやってみようってなってるんじゃねえか?」
「楽園が待ってるからな」
「まあそれはいいや。お前とは初めてだな」
「おう、ふっふっふ、聞いてるぞ、剣聖に次ぐ実力者なのに実力を隠してるって」
「そんなわけねーだろ、リーダーのほうが強え。隠してたほうが実力者っぽいから隠してるだけだ」
「ぶはは、チューニー病!」
「うっせえ! やっぞオラァ!」
あー、始めてしまったわね。まあいいわ、こいつらもアホなのね。脳筋な感じ。うん、普通の剣士という感じの相手の男はBランクはあるらしく正眼に構えてるけど堂に入ってるわ。対してイシドロは、ん、最近よく見る不動の構えね。流行ってるんでしょうね。槙中の馬鹿が好きな構えだし、あの戦いを見ると一撃で決めるかっこよさがわかるもの。ちゃんばらなんて低位の実力のない者がさらに力を読みきれないから起こるのよね。普通に命を預けてる剣をまず叩きつけに行かない。槙中が鍔迫りをかける時は剣をぶつけあわせるのではなくて沿わせるようにして押し込む。剣にダメージが入らないように力押しで勝てそうな時にしかやらない。キン、キン、と叩きつけあってガシッとぶつけ合って鍔迫りは流石に頭が悪すぎる。剣を弾くのも剣先をちゃり、と軽く当てて様子を見て踏み込む。その際も鍔迫り狙いより払って打ち込むほうが多い。先の方をチャリチャリぶつけてるやつね。間合いを測る意味もあるわね。
面白いけどこれ見てていいのかしら。見物人は流石に私たちだけだけど。ん? なんか変なのが来てるわね。顔が見えないというか配置が曲がって見える。見ていたくない感じ。認識阻害と言うやつね。精神に作用する術はマナじゃなくて見た目の気持ち悪さとか二次的な精神干渉なのね。あくまで物理。相手の脳に作用できるなら即殺できるしそれはドミニオンのように濃密に体内を循環してる普段は使えないマナにより阻まれる。私の場合ゼロはギフトなんでスキルでも阻めずに脳を凍らせられるわ。無敵よ。ギフト持ち以外にはだけど。まあそれは置いといて。二人とも気づいてないわね。あ、イシドロと戦ってる方の冒険者が気づいたわ。急に唐竹割りで襲いかかる襲撃者に対抗するように剣を沿わせに行った……けど剣を切られた? いや、仮にも打った鋼がそんな簡単に切れる?
冒険者はあっさり真っ二つ。しばらくして死体が消える。槙中のヤツどこで見てるのかしら? これも謎だわ。まあマイルームなら直径二キロは届くんだけど、この街全体をカバーするなんて無理なはず。あ、風の精霊王に監視させてるのか。贅沢な使い方ね。あ、槙中が簡単に事件を解決してしまわなかった理由ってそれもあるのね。精霊王に楽しませるためだわ。きっとそういう契約なのね。具体的な契約を結んでる感じてはないけど。どっちも自由ラブすぎるからね。
「お前、噂の絶対切断使いか!」
「……」
絶対切断使い? スキルね。ギフトではないから私なら止められるけど。そもそも体が絶対貫通できるようになってないなら体の方を凍らせるなりマナやオーラで押してやれば防げるからそんな大したスキルじゃないけど。よく次元を切るとかって表現あるけどそんなもん切って真空崩壊とか宇宙開闢とか起こったら洒落にならんのになんで何も悩まずにやるのか、そんな原理も知らんやつに切れるもんか、って言ってた。まあ正論なのだけどそんなこと言ったら携帯小説なんて八割読めないじゃないの。バカね。そういうクソ真面目すぎるから逆に性格曲がって見えるのがアイツだわ。適当でいいじゃん。楽しけりゃいいのよ。時空を曲げてテレポートとか嘘技術で時空を削って物も削り取ればいい。まあ時空を削ったら宇宙が変質するんだけどそれは神の力でなにもなかったのよ。まあ変に科学知識あると納得できないことはたくさんあるわね。そこを読んでる読者なんてほとんどいないけど。ちなみに星野ならひとりにひとつ世界与えるとかそんな資質ある人間がいたらそいつが自分で世界作るって言ってた。自分で作った世界で遊ぶのは退屈よね。だからみんな記憶を無くして世界を輪廻するし自由なんだわ。なにもしないで与えられるとかそれは甘えがすぎる。それはわかる。でも甘えられたら楽だものね。楽は楽しいの対極だと思うけど。人に必要なのは心地いいストレスなんだわ。
まあこのお祭りもそうなんでしょうけど。ふうん、イシドロも冷や汗をかいてる。襲撃者の方、腕がそもそもいいのね。その上であのスキルは厄介ね。
それにしても冒険者か。ギルド職員のソフィアに聞いたら父親が良い年して冒険者辞めてくれないとか嘆いてたし、普通にみんな若いのよね。ソフィアになんでギルド職員やってるのか聞いたら安全な仕事を斡旋したりお年寄り向けの仕事を探して振り分けたりしたいかららしい。本気でお父さんに辞めてもらいたがってるわね。四十過ぎてスポーツは本格的に鍛えこんでないと難しいしね。チャラチャラCランクやってる冒険者は早期引退も難しいんだけど。Bくらいからは家も建つしひと財産稼げるらしい。そこまで行けば成功よね。早期引退も簡単。引退したら暇でしょうけど。
イシドロはキサラギ流を納めてるだけあってフットワークが切れてる。認識阻害冒険者と剣を合わせないように、かつ、いつでも体を入れて必殺の一撃を入れるべく立ち回ってる。強いわね、コイツ。たしかにあのリーダーに近いかも。リーダーのほうがフットワークに頼らず相手の間をずらしてたからたしかにあっちが上だわ。なのに実力者ぶるために力を隠す、中二! 私も好きよ。ふふふ、ゼロを使った秘術とか考えてるわよ。誰かに試せないかしら。
そういえばこの認識阻害冒険者って犯人よね。流れから言って。さっきの二人みたいに祭りとかのことを話してからやり合ってないし。明らかに手慣れてる。うーん、動機とか謎だけどとにかく止めてみようかしら。
……イシドロが負けたらね。だって面白いんだもん。襲撃者の唐竹割りを半歩で避ける。服とかかするだけで切れるから少し大きめに動いてるわね。こういう駆け引きが好き。相手はとにかく剣を筋を立てて当てれば勝ち。だけどイシドロはよく鍛えてるのね。間合いを外しきらずに回避してる。横薙ぎの一撃をギリギリのスウェー、背中をそらして仰向けに躱す。剣を直角に動かすのは無理なのよね。二キロのダンベルを振り回してみたらわかるけど手の先で持ってるのに制御するなんて無理。肩や肘で振ると振りが大きくて前駆動作が見えるテレフォンになりがち。なので体で入れたり引いたりの動きと剣の動きはセット。相手を斬るための剣だけど簡単に相打ち狙いみたいなことはやるはずもない。斬るというのはなかなかに覚悟がいるのでカウンターは狙ってやらないと難しい。体が完全に覚えてるレベルならできるでしょう。技のぶつかり合いが見ていて心地良いわ。フットワークって武術にはない、そんなふうに思っていた時代が私にもありました。むしろ膝下の動きが武術の核。素早く意識させないフットワークはガチャガチャと殴り合うようなパワーとスピードで潰すタイプには難しい。それも理に適ってるんだけど武術の捌きとは相性が悪い。後の先と言うやつね。大きく振ればとうぜん捌かれるし小さいジャブは絡めとられる。厄介なことね。まあ剣でやってるのでひらりひらり舞ってるようで美しいわ。
「すごいですね。どちらも強いけどイシドロさんのほうが技術は上でしょうか」
「絶対切断相手に長時間立ち会えてるんやからもちろん半端やない技術やで。うまげにやりよる」
絶対切断は奇襲なら無敵でしょうけど上手と正体を明かして立ち会うには今ひとつのスキルね。まあ少しずつ削っていこうとしてるからなにかの拍子で逆転しそうには見えるけど。
「青の魔女!」
「なに? あ、」
急に襲撃者が私に反応した。まあ姿を見せてるからね。イシドロは私に気を取られた隙に剣を折られてそのまま踏み込まれて横薙ぎで倒された。あー、やっちゃったヤツ。あとで思い出してしょげるといいわ。しかしグロシーンは嫌ね。すぐに消えたけど、槙中は痛みを味わわせたいわけじゃないものね。
「……なんだ、私を止めに来たのか?」
「なんで? 見よっただけやで」
「……捜査しているのでは?」
「よーご存じで。しゃーないけん止めたるわの」
私が剣士と接近戦。槙中なら絶対に見にくるわ。アイツに振り回されてばかりじゃシャクじゃない。私もしかけてやる。ふふふ。
フローラ「解決せんかったやん」
カーラ「待て、次回!」
サンドラ「まさかあんなことになるとはな……」
カーラ&フローラ「誰だお前」
サンドラ「泣くぞコラァッ!!」




