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「我は魔女なり」 〜引きこもるためのスキル【マイルーム】をもらったがあまりに世界が酷いので暗躍することにした〜  作者: いかや☆きいろ
 老いたワルテルの悩み

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スクルドの成長

 マイルーム楽園と、地獄。ここの管理はスクルドにやらせることにしている。


 スラムで拾ってきたのはコイツが生きる気があふれていたからだな。他のヤツより強く生きようとしていた。私につかみかかってくるくらい。可愛いだろ。まずはこんなふうにスクルドを育ててみた。


 可愛いスクルドには教育を与えてやらなくてはいかん。やる気を出すのに必要なのはほめてやることでなめたらなくなるアメをやるのでは今ひとつだ。いくらでももらえて満腹にもならない無限に欲しがれば無限に得られるいつまでも胸に残る、なのに価値がある。それが心ってものだろう。私だな。それはもういいから。つまり優しさの記憶は強くなるためにあるべきだ。誰かに施すのは苦痛だが必要ならやらなくてはならない。無条件に与えては枯渇してしまう。強い心根は自分で育てなくてはいけない。そこまでを教えるのが第三者(かぞく)の役目だろう。なぜ強くならなきゃいけないのか、それは人生を楽しむためさ。それは体験で覚えていくしかないな。


 今までできなかったことがある日できるようになる、その体験をするためにはできることばかりに挑むのでは足りない。それももちろん大切だが、自分がなにをできないかは知らないといけない。無力を、無知を、それで失うものを、受ける痛みを。可哀想だって? そのうち知らないうちに死に目に突っ込むほうが可哀想だろうに。そこに抗う術や逃げる術を持たせてやれないほうが可哀想だ。だからやらせる。


「モンスターと戦う、の?」


「ここなら死ぬことも殺すこともないからね。まあリアルではあるけど」


 ゲームもひとつの現実だ。そこに得るものがないなら誰もやろうとはしない。人は知恵を求める生き物だ。いわゆる脳筋でもだ。人間に喜びや快楽を与えるものはなんだと思う? 人それぞれ? 違う。すべての人は脳で喜びを作るのだ。だから脳にアクションをかけない快楽は存在しない。外部から物理的になにかコーヒーや酒を飲むのも結局は脳に作用している。その結果脳がボロボロになるわけだが。


 よってゲームであれ単調に思えても必然鍛えられるものがあるわけだ。人はどこかで飽きることを覚えるがそれは自分の中で答えが出た時だ。必要なくなる時が来る。時間が有限でなければじっと苦痛を伴わないゲームをしていればいいんだ。だが残念なことに時間は有限で快楽を覚えるようなソースも有限だ。自分で増やしていくこと、それは創作だが、創作にも壊してはいけない必然がある。芯に人間がないとその創作にアクセスできないので喜びが生まれない。悲しみもまた必要だろう。恐怖も。すべて覚えるためだ。どうしたら問題を回避できるのか。例えば恐怖を感じるのは回避できないと感じるからだろう。そこに追い込まれてはいけないと学ぶわけだ。なので子供が怖がるから触れさせてはいけない、というのは間違っている。痛みを覚えることも必要だ。何がダメなのかといえば回復しない傷を負わせることだろう。それは心の傷もまたそうだ。立ち向かう勇気を教えずに強い恐怖に向き合えるものではない。


 なので。


「とりあえずまずは私と殺りあってみるか」


「いきなり無理」


「なのでまずは、美味しいものをたくさん食べるバトル」


「は? お腹はすいた」


「かかってくるがよい、私は少食だぞー!」


 マイルームの最大の権能、トレーニングルームではすべてを実体験として受け取ることができる。それは味もまたひとつ。そしていくらでも出せる。ここでは人が生きるか死ぬかまで私の権能の内なのでいくら食べても死にはしない。リアルでやると死ぬから現実にやるなら勝負は一分とか三分とかピッタリちょうどで小さいケーキを食べきる競争、とかするといい。美味しいね、と言いながら食べると目的がある中でも楽しんでいいことを学ぶ。勉強も仕事も楽しんでいい。楽しいのだからやらせなくてもやるだろう。


 ここではラーメンとかステーキとか寿司とかゼリーもプリンもアイスもケーキも好きなだけ食べられる。


「……うまい……うまい」


「なかなかよく食べるな!」


 栄養も好きなだけ与えられるし逆に削ぐこともできる。生き物を育てることができる空間だ。ちなみにここで物理的に得たものを外に持ち出すことはできないが対価を払えるならできる。外から持ち込んだ物を変質させて吸収させることができるわけだ。元素や分子を取り込んで変換するのが楽なんだがそこまでこだわる必要はない。質量だけあればいい。質量は存在。それがこの世界のすべて。まあそんなわけないけどね、質量やエネルギーがないと物ができないのは間違いない。


 世界は質量やエネルギーとそれにより複雑に形になった情報でできている。だから心は情報のひとつの形に過ぎない。なら心は機械仕掛けか。マキナか心ってことね。まあ私も突き詰めれば機械仕掛けなんだろうけどこんなボロくてなにするかわからんものを機械とは呼べないんではないか? 恋愛は執着か? ただの仕組みなのか? 経験は? 立場は? あらゆる物事は情報として複雑化し人の理解を超える。まあそれでもいずれ読み解けるんだろうが。怖いねえ。


 まあ、それはいいや。私にはわからんし。ちなみにマナに物理量はないが自分の体内や支配下に置かれたマナの量というのは存在するんだよな。自分が世界をマナでつかんだ量やつかんたエネルギーの量と考えるといい。どれだけ強く物質を捕まえられるか、捕まえているか、それがマナの量だな。無限には捕まえられないし資質もからむがこの星だとイルマタルの作ったステータスでその能力を上げることができる。才能を必要としないのがレベルのいいところだな。努力する才能は必要だけど楽しむ才能と言い換えてもいい。楽しくないことを続けるのは辛いからな。精神や脳の構造から言えば当然ストレスがあれば限界が来るしそれが来ないとしても人間の体力は限界がある。しっかり食べて鍛えてしておかないと頭も回らない。燃料が足りないわけだから。まあマイルームでエネルギー足りなくなることはない。すべては支配の中にある。なのでお腹が空くのは精神衛生上必要なことだな。外に出た時に気づかずに燃料切れになったら困る。本気で頭を使ってるヤツはヤセるのかというと脂肪を燃料に変えづらい体質というのもある。そればっかりは仕方ないよなぁ。時間が数秒あったら歩くとかそういうクセをつけるのはダイエットにいいぞ。体質は変えられないけどクセは変えられるからな。習慣をつけるのが難しい。最初はなにが楽しいのかわからないからな。そんなのはなんにおいても同じだろう。やってるから楽しくなるんだから。勉強も単なる習慣だ。覚えたりやったりをまずは楽しむといい。必要な知識は必然楽しく覚えられるようになる。実用的ならだけど。


 よってまずは必要とされる環境を与えないといけない。どこかの国みたいにぬるま湯につかってしまうと努力の必要性がなくなるからな。それがいいことではないのはわかると思うが。危機にひんしても対応できないからな。正直今の若い子が異世界に行って平気とは思えない。まずは虫や寄生虫に慣れないと精神を病むだろうな。清潔にする魔法のない世界に転生する物語がなぜ少ないか、そこをリアルに書いてしまうと文字通りそれだけのお話になってお話にならないからだろう。毎日朝起きたらシラミを掻き落としてダニをはたき落としてから一日の作業を始める。嫌だなあ。まあなのでマイルームが無いと私は死ぬわ。そういう意味ではスクルドのほうがたくましい。


 まずはモンスターに襲われる体験をしてもらう。スクルドは無敵に設定してあるが痛みは感じる。怪我をしないのでその場で痛い、となるだけだが、継続する痛みに慣れるトレーニングなんてそのうちでいいだろう。私みたいに首をはねられても冷静にいられる状態なんていきなり求められるわけがない。武器は与える。


「やあ、はい、あいたっ! えい、うおー!」


「がんばれー」


 しばらくはチャンバラだがそれは仕方ない。強い敵とばかり戦ってたら辛い。余裕がないと吸収できない栄養素はある。栄養素と言っても思考や情報だけど。つまり考える材料だな。それを手に入れないことには考える意味がない。いきなりハードな状況に突っ込まれても学べないのは当たり前だがただそういう環境のほうが考える材料はたくさん落ちてるからな。必要な知識はそのうち積み上げて行けばいい。必然となれば楽しくなる。


 必然とするには目標が必要だ。目標を持ち、価値を見出し、コントロール下に置くことを吸収と感じるなら吸収するほどに楽しくなる。やることが形になり、目標に近づく。 目標は遠くのものと近くのもの、目の前のものといくつも用意するといい。達成感が増せばどんどん楽しめるからな。


「目標は私に近づくことだな。私の能力って実はほとんどはマイルームがなくても得られるからな。時間がかかるんだけど。時間が有限なのはいつだって足かせに感じられるし気を重くするから時間については考えないのが一番だ。目の前のことを一個一個やっていけばいい。目前の目標、少し先の目標、もう少し大きな目標、最終的な目標」


「あなたの、最終的な目標って、なに」


「この国から戦争を遠ざけることかね。いや、神を戦争に関わらせないこと」


「それはなぜ?」


「答えを知ってると問題を解く意味や喜びは薄くなるからな。考えるといい。私たちに必要なのは実は喜びでしかない。ならその過程にあるあらゆるものは不要か? いや、そこに生まれる歴史にもまた喜びはある。これが答えだ、と与えることは実はいろいろ考えるという能力を奪う。考えた果てに答えが見つからなければヒントをくれてやろう。結局は知ることこそが目的だから。自分はなんであるか、なんのために生きるのか。それはな、自分で築いていくことだ。気づき、築く。世界には問題が山ほどあるがその答えをただ手に入れても成長はしないし楽しくもないぞ。脳に刺激がないと楽しくはならない。当たり前だけど」


 だから人は薬や酒に溺れる。考え、悩み、疑問を持つことは 喜びだ。そのうちわかるといいな。心地よき痛みと言うべきか、じゃないが。抱えきれないほどの悩みなんて持つ必要はない。悩みはいらない。考えることが必要なんだ。無心にやっている人がなにも考えていないわけではないだろう。言葉ではない。考えることが目的だ。問題が目の前に横たわった時に喜べるか、それが大切だ。強敵が現れたら楽しくなるからな。


「痛いのは嫌だろう。なら痛みを受けないか耐えるか乗り越えるか。ひとつできてもいい、全部できたらもっといい。人生が楽になるぞ」


「はい! うおー!」


 なんどか実戦をやらせてから楽園に帰る。ここでは漫画と小説をたくさん置いてある。自分で書くためのセットまで置いてある。楽しいことを楽しいだけするといい。だけど遊んでても退屈を感じることはあるだろう。そんな時すぐに別のことができたらいい。


 必要なことは教える。思うに日本語の難しさは人のベースを引き上げてくれるところがあるんだよな。だから日本人は馬鹿が少なくて賢い人も少ない。全体のレベルを上げるには教育は大切だ。自分の子供が特別に賢くないのはだいたい親のせいもあるだろう。


 親ガチャというのは違うがな。自分ガチャに成功してたら親が貧しくても一流になれる要素はたくさんある。なんせ日本なんてあちこちに図書館はあるしネットは充実してるしな。あとは自由に遊べるスペースさえあればいいんだが。それはな、地政学的に無理だしな。


 そのぶんここはマイルームに頼めばなんでもできるから。最高のトレーニング環境だ。


 そんなふうに漫画を読んだり教科書や図鑑や雑学を楽しめる本なんかを与えて楽しみ方を教えていく。そして歴史や科学を学ばせたりしていく。時には外の世界で遊ばせる。これが一番効果が高いな。人類史上最強の難問、世界とはなにか、をいつも問いかけてくれる。本なんて薄っぺらく切り取った世界とは質量がちがう。だけど大きすぎて全貌は見渡せない。だから本も大切。


 十歳になってもハイハイの練習が楽しいことはあるけど実利には遠いからもったいなくないか。まあだからぬるま湯なんだろうけど。競い合うことは楽しいからな。楽しいことをやるといい。限界に挑戦して一歩前に進めたら嬉しいよな。


 そうやってスクルドにいろいろな経験をさせ、社会も学ばせる。社会は主にうさぎが教えてくれる。いたずらしたり謝ったり抱きついたり逃げ回ったり。生き物はいい。私は生物が一番好きだ。凍りついた宇宙に思いを馳せるのもそれはそれで楽しい。スポーツも好きだ。体を動かすことはとても大きな学びがある。


 いろいろ教えた結果、なぜかスクルドは優等生キャラになった。つまらん! やんちゃしてもいいのよ!


 まあ仕事を任せるには足るくらいになったので頑張ってもらおうと思う。 







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