表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「我は魔女なり」 〜引きこもるためのスキル【マイルーム】をもらったがあまりに世界が酷いので暗躍することにした〜  作者: いかや☆きいろ
 老いたワルテルの悩み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/86

推理と切り裂き魔

(青の魔女フローラ視点)



 なにか推理小説みたいで面白そうなので弟子のマリーと共に街の行方不明事件を追うことにしたわ。槇中はなんか領主とかスラムとかで遊んでてあっちも楽しそう。私はこっちで探偵ごっこよ。楽しい。まあ犯人にはすでに目星がついてるわけだけど。本人はすっとぼけてるけど街全体で死者を誘拐して生き返らせて返すとかそんなことができるのは白の魔女カーラこと槇中こころしかいないわけで。なので問題は殺人事件の解決なの。犯人はヤス。あとは主人公の助手。もしくは語り手が犯人とかもあるわね。そう、この事件の犯人は私とマリー。


 そんなわけないわね。真面目にやろ。目ぼしい候補は……んー、たぶん槇中が接触してる人物の誰かね。スラムに犯人がいる可能性もあるわ。物語で犯人が最後までわからなくて脇役も脇役だった人が犯人だった、とかあるわよね。犯人最有力の相手にアリバイがあって実は奥さんが犯人だった、とか。推理小説はよく読むけどああいう肩透かしはまったく面白くないわね。意外性を出そうとしすぎてかえって意外性がないと言うか荒唐無稽というか推理無意味ってなったら推理小説を読む意味ないし。だとすると今回の犯人は意外性がある人か。槇中が隠すってことはそういうこと。楽しんでるのよ。善悪? 魔女になにを求めてるの?


「それで受付嬢さんが犯人かと思ったんやけど」


「えーと、事件発生当時は私はこの街に赴任していませんでしたよ?」


「そうやったな」


 この人が来たのが半月前で事件は一ヶ月前、奇しくも槇中がこの街に関わりはじめた頃に起こりはじめている。なのでスラムの悪党は有力なのよね。犯人は実は知られていない誰かケースだわ。登場人物でも名前がかするくらいしか出てきてないヤツを犯人にするな!っていつもうっすい小説本を破り捨てたくなるのよ。もう犯人は私でいいんじゃないかしら。どうせ捕まらないし。


「師匠、やってもないのに犯人に立候補しないでください」


「マリーちゃんは犯人、誰や思う? たぶんウチらがもう会ってる登場人物の誰かなんやけど。捜査はじめたばっかやけんスラムにおる人でこれからウチらが当たる人の可能性もあるけんどな。マリーちゃんも犯人候補やね」


「メタ読みはやめてください。よく助手が犯人とかありますけど私なわけないじゃないですか。まあそれで犯人が見つかるケースもあるしそれがミスディレクションのこともありますけど」


「うーん、犯人はワルテル?」


「なんで領都の執事さんが急に思い立って切り裂き魔になるんですか」


「ちょっと調べたんやけどワルテルさん剣の方いけるらしいで」


「いつの間に調べてるんですか! 意外と優秀だこの人! 師匠だけど!」


「まあウチはふだんからポヤポヤよーるけん信用できんやろけどな。わっはっは」


「自分で言った。しかも自嘲(わら)った」


 自己評価低いヤツしか星野が呼んでない気がするわ。まあ欠陥のない人間ほどつまらないものはないものね。私は完全無欠ボッチ体質だしね。えへん。槇中とか立石も孤高って感じよね。悪く言えばボッチ。ボッチが三人集まるとボッチじゃないけどね。あれ、星野もボッチじゃないの。ボッチしかいない。謎はすべて解けた。えへん。


「なにを急にほこってるんですか?!」


「氷みたいに表情変えずにツッコミ入れる優秀な実は戦闘狂の弟子をほこってる」


「ほこられながらけなされた!」


 まあマリーは可愛いからおいておいて、うーん、一番ありえなそうなのはSランク冒険者のグイードかな。本人はギルドの酒場で飲んでいたので話しかけてみた。


「オレ? オレはその捜査で呼ばれたんだが? あと魔女も調査対象」


「捜査対象にバラしてどうすんねん」


「本人に聞いたほうが早いこともあるだろ? 魔女なんていきなり道の真ん中で消えたり普通にするし気配もマナも断って接近してもなぜか察知されるし追跡調査できないなら聞き取り調査あるのみだろ」


「魔女は首をはねたくらいでは死なんしな。マナ断つんもゼロやとかえってバレるけんアンタのやっとる周りに気配合わせるんスキルの気配遮断なんか知らんけど優秀やな」


「バレてんじゃねーか。だから聞いたほうが早い」


 ダンジョンで得られたスキルのひとつらしい。ダンジョンではスキルスフィアがまれに落ちているけどそれは見つけた人が使っちゃうから世に出るぶんは少なくてレアになる部分もあるということ。Sランク冒険者が使いまくっててもなにも不思議じゃないわね。


「魔女になるのに首をはねられても平気にならないとダメなんですか?!」


「そのうち種族進化スフィアとかマリーのための積立で買ったるわ。積み立ててるんウチやけど。仙人とか超人とか不死人になったらマナの高いマリーなら首ハネくらいなら余裕でイケる。金を貯めるんも助手のマリーは優秀やけんすぐやで」


「不老不死になること決定されてる!」


 まあ、捜査の方はたとえ優秀なSランクのグイードでも私や槇中を出し抜くのは難しいでしょうね。私の場合周囲半径一キロの範囲で全員の気配を消すとかもできるし察知もマナを使って気配を同調してるとかなら察知できる。私が気配を消すのはエネルギー低いものをゼロにするだけで簡単なのよ。本当にチートスキルだわ。誰の気配もなんの気配もなくなったらみんなが混乱するからやらないけど。察知の方はダンジョンで鍛えてたら普通にできるようになったわね。薄いマナの膜を常に広範囲に広げているの。アクティブだから気配を消しても無駄ね。範囲が広いから察知もされないわ。


「まあ情報交換はできるやろ。怪しいんはどいつな?」


「あー、怪しいのはC級のフォルゴレのパーティー大意震のメンバーが武術系のパーティーだし怪しいかな。あとはBのアンドレアのパーティー、氷華乱舞だな」


「チーム名初めて聞いたわというか登場人物全員怪しいヤツやん」


「まだ序盤なのでそういうこともあるのでは」


「アンタもメタ読みするやん」


「師匠に倣いました」


「そーゆうんはならわんでえーねん」


「魔女のくせに可愛い奴らだなぁ」


 私はただのモヤシだけど。可愛い弟子だわ。まあそれは置いといて、やっぱり犯人は武術系の達人と見てるのね。


「被害者が全員B以上のベテラン冒険者で一人でいるところを襲われてる。ターゲットは剣士も魔道士も関係なし、帰ってきたヤツらは記憶をなくしてるがなぜかソリド島移住計画を立ててる。実力から言って犯人はかなり上位の腕前だ。A以上だな」


「もうあのアホが犯人決定やん」


「白の魔女が犯人説はもちろんあるんだがそんな回りくどいことする必要があるほど力がないのかってところにブチ当たる」


「あー、たしかに。動機を隠すわけでもないのに犯人も捕まえず……。いや、ちょうどえーから放置してる説が濃厚やな」


「犯人放置しちゃってるのかよ!」


「するなあ、槇……白の魔女はそーゆうヤツやん」


「まあ正義完遂ってタイプじゃねーのはわかるけど」


「グイードは犯人やろ?」


「まーオレは間違いない……わけないよね?!」


 冗談は置いといて。まあメタだとこういう話の中核で犯人を追う側が犯人とか定番だわ。今回は私とマリーとグイードは関係ないけど。たぶん。というのも手口が片手剣での斬殺なのよ。かなり絞れると思わない?


「極端なことを言えば推理小説は登場人物みんな犯人の可能性があると思って読むものらしいですよ」


「アンタ実はメタ読み好きやろ」


「私も読書好きなもので」


 えへへ、と表情変えずに笑う弟子。可愛いわね。実は夜はおんなじベッドに入ってくるし。可愛いからいいけど。そういえば弟子だけどレベリングしかしてない気がするわ。なつかれてるからいいか。


「大意震メンバーなら剣を主に使うのはユースティアって女だな。武を極めんってタイプだ。剣だけならオレとタメを張れる。氷華乱舞は剣士三人、リーダーアンドレア、イシドロ、ニコラ。三人が片手剣使い。フィオレラはねーな、純粋に風魔法使いだし」


「意外と多いやん。でも犯人はその中におるんやろな」


「この街での活動期間は長いのですか?」


「どっちも半年くらいだな。この街でなんかむしゃくしゃすることがあってたまたま事件に及んで死体がなくなったからバレなくていいやってなってそれからひと月やり続けた、感じかな」


「動機は苛立ちからの突発的な犯行、あのアホのせいでバレんかったけん継続して犯行、かな」


「白の魔女が犯罪幇助してますって報告したほうがいいか?」


「まあ意味ないやろけんしたかったらしたら? 嘘書くにしても突然に人が生き返ってソリド島移住計画を進めてます、やと突拍子なさすぎるやろ。事実やけんバレバレやし書かん意味ないわ」


「だな国が全軍差し向けて白の魔女討伐しようとしたらどうなると思う?」


「全滅」


「だーよーなー。はあ。面白いから報告しよ」


 あとは私にできることはその容疑者四人の後をつけてみるくらいしかないわね。犯行現場を槇中のアホが片付けちゃうし現行犯じゃないと捕まえられないわ。


 それからグイードも入れて三人で捜査を開始した。まずは犯人ぽくない大意震のユースティア、女剣士だわ。


 ユースティアは酒場で飲んだくれてフォルゴレの悪口言ってるだけで怪しいことはなかった。後をつけてる時に他に事件が起こったのでコイツは無し。


 同様に怪しくなさすぎて怪しいイシドロを追いかけてみた。やっぱり事件が起こった。別のところで。ただコイツはコソコソしてて怪しい。剣の腕は槇中とやり合わなかった割に実はかなり高いし。トレーニングしてるとこまで観察したけどやっぱり動機がわからない。


 同様にアンドレア、ニコラ、フィオレラまで追いかけてみたけどなぜか追いかけてる時に別に犯行が起こる。これ絶対に槇中単独犯でしょ! そう思って問い詰めた。


「アホか。領政が忙しすぎてそんな気力わかねえわ」


「でも死体は持っていってるやん」


「だだだだだ、誰が持っていってるんだ?」


「あからさま過ぎやろ?!」


「まあそれはそれ、殺ってんのは私じゃねーよ」


「登場人物全員追いかけとんのに」


「全員? ソフィアも?」


「ギルドの受付嬢さんやん。アリバイ一番に……あれ?」


「そーゆうのが大抵は犯人なんじゃねーの?」


「ウチとしたことがそんな王道見過ごすとはな」


「んー、それなんだがな、ソフィアが半月前まで王都にいたのはオレが裏を取ってあるんだわ」


「この優秀な助手が憎い」


「助手?! しかも八つ当たり?!」


「私が弟子なのにぐぬぬ」


「なんだこの可愛い弟子私にくれよ」


「アンタはおじいちゃん弟子にしたんやろ」


「ワルテルな。かわいいスクルドもいるし弟子には困ってなかったりする」


「ずるいやん。嫉妬するわ」


 私は嫉妬の罪だしね。槇中は怠惰。そのまんまね! いや槙中はめっちゃ働いてるかも? まあそれはいいわ。どうせこんなキャラ付け星野の遊びだもの。怠惰を罪と思ってるからとか嫉妬を罪と思ってるからって理由な可能性まであるわね。どうでもいいわ。


「そうか、犯人は複数犯の可能性もあるやんな」


 探偵物の基本として犯人と関係ない第三者が何気なく証拠を隠したりはよくあるわね。共犯もあるけどどうかしら。犯罪の性質からして凶悪だし単独犯な気もするんだけど。でも全員にアリバイがあるとしたら二人以上犯人がいると思うのが正解だわ。そうなるとパーティーでやってることになるから大意震と氷華乱舞は怪しい。


 それに急に目撃件数が増えてるのも気になるわね。わざと犯行を見せてるような。そうか、だとしたら。


「やっぱりアンタ仕組んどるやろ」


「乱暴な推理やめろそうかもしれんけど動機とか組み立てろやあとわざとそんな遠回りなことをするなら最初から全員マイルームでかっさらうわ」


「うぐっ、正論やな、もう」


 槇中が犯人で司令塔みたいな役割なのは間違いないけど全体の構図はわからない。確かにそこを整理できないと推理とは呼べないわね。これは長丁場になりそうだわ!


 この件には槇中は確実に絡んでるしそれに多分犯人も知ってる。吐かせるのは無理ね、楽しくないって言うわ。殺人事件とは言うけど死んでないし腕試しだと冒険者たちも思ってて捜査を個人でやってるヤツがたくさんいるし、そいつらが殺られて帰ってくる。そしてなんかニヤニヤしてるのよ。多分槇中に口止めされてるんだろうしそれを無理矢理吐かせるのもつまらないし、正直拷問で犯人がわかりました、なんて推理嫌すぎる。そう、私も面白くないわ。


 うーん、犯人は女かもしれないらしいし大意震も十分怪しい。ニコラたち氷華乱舞はフィオレラ以外剣士で剣の腕を試すために辻斬りをわざと繰り返すようになった可能性は高い。


 ダメね、捜査が足りない。推測だけを積み重ねて答えが出る段階じゃないわ。うーん、どこから聞き込みをやり直そうかしら。……やっぱり冒険者ギルドよね。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ