シメんぞオラァ!!
ワルテルと出会って、その後もスラムでガキどもに施しを続けていた頃の話になる。まあガキどもに仕事か勉強をさせてやりたいと思ったんだがギルドの寄宿学校にしても十歳から入学となっていてそっちに大きいガキは送り込んだが小さいガキが残った。
大きいガキは小さいガキの面倒を見ているので学校に通えなかったのがあるらしい。食うもんも大変だったろうしな。私が見ておくと言えば喜んで学校に入学した。勉強したかったんだろうな。ちなみに寄宿学校は三食出るらしい。神に対して私らは偽神とは呼んでるがこの国の人たちにしてみれば立派に神様で仕事はしているらしい。
スラムの子供となると洗礼は受けていなくて天職が明らかになっていなかったが法術を持ってるので私が洗礼した。洗礼ってマナをかなり食うので街の神官くらいだと他に仕事もあって全員に天職を、というのは難しいらしい。やってもあんまり意味がなかったりするしな。職なしでも鍛えれば強くはなるし。
スラムにいたのはだいたい村人とか荷物持ちとかの最下位職だったが中には上位職でも上位の錬金術師なんかもいた。これだけの天職を持っていれば引く手あまたなんだが事前知識なしで取り込まれるのは良くないだろう。ある程度職業を隠しつつ勉強させることにする。誘拐とかされて奴隷のように働かされては困る。本人が働きたいだけ働くのが一番だ。
仕事したくないというヤツは誰かに面倒みてもらうのかね。そもそも仕事しないと暇だろうに。ゲームだけしてるなら金になるバイトでもしたほうがマシだと思う。社会の総生産量が一人分は増える。
アルコール依存症は精神障害だから難しいけど。仕事とかストレスかかると猛烈に飲酒欲求に飲まれることになる。自営ならなんとかなるだろうがたびたび動きが止まるからな。アルコール持ち込んで仕事されても困るだろうし。依存症で怖いのは止めて数年経ってても欲求がなくならないことだ。慣れるしかない。依存症に至るとキッツいからアルコールに頼ってるヤツはできるだけ早く止めるべきだ。まあやめろって言ったところで止められないから危険性を訴えるしかないんだが。治療法は酒を断ち続けるしかないし根治はしない。辛いぞ〜。やめろって言ってやまる依存症なんてないし我慢しろとか言われたら我慢したくなくなるのは人間の脳の仕組みだからな。こればっかりはどうしょうもない。
この体になってからは飲酒欲求も弱まってるけど依存症は精神病だからな、頭が変わってるわけじゃないから治りきらない。症状を軽くするには他の楽しいことをするのが一番だな。
それは置いとこう。小さいガキどもにトランプとか与えて数字と簡単な計算を覚えさせる。トランプはこの世界にも広まってるんだが、ジョーカーがなぜか魔女なんだよなぁ。教会の魔女も昔はこのかっこだったらしい。立石は、あいつ形から入るんだよな〜。今は普通に教会の制服みたいなの着てるけど。
「わーい、カーラ神経衰弱よわーい!」
「ぐぬぬ、酒で前頭葉溶けてんだよ!」
前頭葉溶ける前から記憶力は無かったとか言ってはいけない。大事なことは覚えてるし! 楽しいことなら覚えるんだけどな。
「次はブラックジャックな」
「けいさんにがて〜」
「ふふふ、ぜったいかーつ!」
「大人げなーい!」
「大人なのに毛がなーい!」
うっさいわ。大人、気だからな? 大人の毛がない言うな。怪我なくてよかったじゃねーか。変に日本語めいた言い回しがある世界である。
子どもたちは私が楽しそうにやってたら乗ってくる。勉強ってこうすればいいんだよなぁ。嫌なことだけど無理矢理にでもやらなくてはいけない、みたいな空気作る親は馬鹿だと思う。子どもに大人になるまでの知識や経験、常識を与えるのも与えることだし親の愛だと思う。愛は与えるもので奪うものは執着だ。理性や思考力や常識や現実や社会や試練や未来を子供から奪ってはいかん。そんな奪う愛はいらん。道徳を教えたりも与えることだしな。手に合わないほどの試練を与えるのは押しつけでしかない。自由や平穏を奪うに等しい。理屈に合わない説明なんていらん。子どもは筋が通らないことは嫌う。私だ。
「なんで人を殺しちゃいかんの?」
「そこらじゅうでぶっ殺しあってたら住みづらくてしょうがないだろ」
「だよねー、バカでー」
「うっさいな」
「いいんだよバカで。だからいろいろ勉強して大人になるんだから。私だってまだまだバカだしな」
人間の無知なんてクイズ王でも治らんわ。
「いつまでもバカなの?」
「そうだな、学んだぶんだけは賢いぞ。私は算数はできる!」
「ボクもできるー!」
「カーラよりかしこーい!」
「まだまだお前さんたちには負けないね!」
子どもというのは意外と大人げない大人のほうが好きなんだよな。上手に楽しませてやりたい。まああんまり私に経験がないのが問題だが、けっきょく親や教育者も社会じゃ若造だし一緒に学ばないとダメなんだよな。完全な大人なんかいない。子どものころって大人はみんな正しいとか思ってたよな〜。そのうち大したことないぞって気づくんだけど。そこで調子にのせるのはダメだけどプライドを折るのもダメだ。ならまだまだ〜と挑戦しつづける姿勢を見せるべきだな。子どもは大人のやり方を学ぶ。ほっといても学ぶんだから自分が勉強好きになるのが一番いいかもな。勉強はそれぞれが好きなようにやればいい。必要になってからやるんじゃ遅いけどな。だから学校って勉強の仕方を学ぶとこなんだと思う。高校くらいの知識じゃあんまり役に立たないし、でも基礎ではある。生涯勉強だ。まあ他人がやらないとしてもやれって言えばやるならとっくにやってるから。依存症と一緒。勉強やらない病を治したかったら勉強やる依存症にしてやればいい。勉強は楽しくて仕方ないぜ!
ガキどもに勉強を教えたりその間メシを食わせてると飢えたオッサンどもが寄ってくる。どこから手に入れたもんか酒瓶あおってたりするのとかいるんだよな。そういうヤツには呪術で働かないと落ち着かない呪いをかけてやる。呪術はなんでもできるわけじゃないが人間の精神を基盤にして相手のマナを使って魔術を行使しつづけるようなことができる。体温を上げる魔術を使いつづけさせる程度なら難しくない。熱病の呪いだな。呪いを解くにはそのかけられた魔力を浄化するだけの純粋な魔力か生命力、いわゆるオーラの圧がかかればいい。少しずつ削ることもできる。呪い自体が呪いを修復しつづける自己修復タイプの呪いもあるので時間経過で必ず治るというものでもないが、多くの呪いは時間で治る。私のは治らないやつ。そもそもマナの量がケタ違いだしやることもしょぼい。
呪いにかかったオッサンたちは酒瓶を捨てて仕事を探しに行く。ドブさらいとか公務系はなくならないからいいぞ。Fランクでは文字が読めなくてもできる仕事も冒険者ギルドで斡旋してくれる。覚えたければ文字は寄宿学校で教えてくれるしな。昔から商業ギルドで計算を教えたりしていたらしい。
この世界の冒険者ギルドは実力者の冒険者が権力者に無理に取り込まれそうになったときの対抗組織なので下位冒険者の擁護はおまけみたいなとこがあるけど、そこは貧民出身者も多い冒険者なので個人でやれることは税を支払うくらいだし文句もないようだ。
中世から近世にあったギルドといえば封建社会で貴族なんかの無理に対抗するための商人や手工業従事者のための組合だったわけだがこの世界では冒険者は一次産業みたいなとこもあって商人に買い叩かれたり貴族に徴兵されたりを防ぐ目的で存在している。徴兵に応じることはとくに禁止されてないけど。自分の出身村が他国に襲われているのを助けるな、とかは言えないしな。なのでまあ貴族が圧力をかけてくる場合には対抗措置が必要となる。家族なんかを盾にとって脅してくる貴族がいた場合ギルド法でその貴族の土地にギルド員が寄りつかなくなるばかりか敵対組織にギルド員が与しても問題行動ではあるが無視したりする。ギルド員を守る組織であって取り締まる組織ではない。行き過ぎたやつを処断する執行部みたいなのはあるけど。
日本の農協とかはたちが悪いみたいに言われるけど一次産業が儲からないのは仕組みとしてしかたなくない? 売れるものが必ずできるわけでもないし商人は売れるものだけ買えばいいし、そうなってくると容易に仕事を変えられない農家が不利になるのは仕組みの問題で仕方ないよな。もちろんいないと困るから救済は必要なんだけどそれこそ不作なら補うけど売れないものを作ったから補えと言われても困るよな。うちの畑は石を生産してるんだよ、とか言いだすバカもいそうだ。じゃあ売れよ。働かざるもの食うべからずなのは農民の言葉じゃないのかね。まあ一部のバカを全体のことのように言うのは日本人の悪いクセだよな。なのでそんな意図はないと言っておこう。身内のバカは身内が駆逐するべきだよな。どうしよう、魔女の中だと私が一番バカかも。
金持ちを貧乏にしてもそれ以外が豊かになることはない。それは鉄則なんだけど、人間は嫉妬する生き物だからな。例えば百億円持ってる人なんてほとんどいないと思うけどその人の資産を解体しても日本人ひとり百円だ。しかもそのお金はその場限りだしそれならお金持ちには生産や投資をしてもらったほうがいい。お金が巡る仕組みを作るのが経済だからケチとか予定のない貯金はマイナスでしかない。株にでも投げこんでおけば少しは役に立つ。ひとりがなにかしたところで、みたいなこと言うやつがいるがひとりがなにかしなかったら全体がなにかできるわけがないだろ。まずは自分から、これも鉄則だ。世の中を良くしたいなら自分から良くすればいい。コンビニでほがらかに挨拶とかするといい。それだけで世界は変わると思うぞ。明るく他人に接せないヤツってもしかしたら自分は価値がある、注目されてると思ってるのかもしれないけど無いから気にすんな。ひとりの人間が噛んだり笑いそこねたからって世界が終わったりしない。自分が注目を浴びてるとか勘違いだ。コケた人がいてもみんな一瞬見てるだけですぐ忘れる。自分がしつこく覚えてる? それは性格直したほうがいいぞ。そんな小さなことで傷つくわけない。いきなり罵倒から入るやつは直したほうがいいぞ!
一日に触れ合うのなんてせいぜい百人くらい、それくらいで世界で有名な失敗マンですって紹介されるのか? 小さくて楽な世界だな。誰が失敗してもみんな次の瞬間忘れてるわ。自分は自分以外のすべての人にとったら脇役だ。それ大事。恥ずかしいことなんて法を乱したりくらいだ。バカなこと言うくらい許してやれ。
たとえコンビニ飯を食って寝るだけのニートでも流通とか労働とか社会の恩恵に与ってるんで社会なんか知らねえ、はメシを食って水飲んでクソして風呂入って服を着て歯磨きなんかもして家で寝てる以上通用しない。そもそも金が通用するのは社会があるからだしな。社会貢献はまず生きることだな。なんでいつまでも鳥のヒナみたいに口を開けて待ってるんだろうね。よく働く呪いをかけてやろう。
まあそれはいい。そうやって大人も子供も学んたり働いたりが楽しくなるように改革していってたらその土地の有力者みたいなヤツに目をつけられるわけだ、裏の。汚いオッサンが二十人くらいで来た。多い!
「ネエちゃん、ちょっとツラかせや」
「面を貸したら困るだろ。飯食えねえじゃねえか」
「テメエ、ふざけんなよ! おい、ガキを」
「地獄に落ちろ」
ガキに手を出そうとしたので一瞬で接敵し顔面を割れるほどの握力でつかんでから、メキキ、メキキ、バキ、と音を立てて半分くらいに潰してからマイルーム、「地獄」に落とした。地獄はうさぎにする楽園と違って自分の罪を自身で味わい続けるだけの空間だ。過去にレイプとかしてたら幻覚にレイプされ続ける。うへえ。他のなにもない、まさに地獄。救済もない。罪を犯したぶん相手の苦しみや痛みが延々と与えられるだけ。慣れもない。地獄だからな。そのうち精神が壊れて真っ白になったらうさぎにして楽園に送る。はやく人間になれたらいいな。
「おい、テメエら、わかってるだろうな? ガキに手を出すなら生まれてきたことを一億年は後悔させてやる。魔女をナメんなよ?」
「ひ、ヒィィィ!?」
こいつら相手のことを調べずに来たのか? さすがに馬鹿すぎねえ? 上の方の少しの人数だけが計算はできる馬鹿なんだろうな。
「めんどくせえ、掃除しておくか……」
「こ、このガキ!」
「チビが!」
「チューニー病!」
「なんだチューニー病って! シメんぞオラァ!」
中二病のことはチューニー病として知られているらしい。中学校もあるらしいからそっちでは中二病言われるらしい。大人になるために必要な儀式だコラァ! 私が心身ともに大人に見えたらだいぶ目が悪い。誰が身長は永遠にガキだぁ! 中身もずっと中二病だあ! それいいの?
その場にいた全員をサツキ流柔操術で投げ飛ばしていく。手が触れあえば飛ぶと思っていい。手首関節肘関節肩関節を極めて投げる。体重なんか関係あるわけがない。むしろ重いほうがヤバイ。どっかの合気の先生が組み付いて投げようとしてたけどそもそも合気の投げ技は離れてたほうが効果高いのでは。先生がやってるんだから正しいんだろうけど。実際に巨漢を握手で落としてたし、あの技はすごいよね。
サツキ流は実戦合気なんで刀を持ってやるのを前提にしてる。相手が武器を持ってるのはなんら問題ない。武器を持ってるってことは手が長くなってるってことだ。剣先に手を置いて押し返してきたら手元を掌底で突いて剣を落とさせつつ手首をつかみ体を巻きつけるように後ろに周り肩に手を当てて落とす。サツキ流は変幻自在を売りにしてるので技名がなかったりする。剛術のヒナタ流は一撃必殺が奥義なのでやっぱり特別な技は少ない。あっちは一撃必殺正拳突きが奥義だしね。この世界の武術日本人が開祖のが多いんだよな。キサラギ流はよくわからんけど一応開祖は日本人ぽい。よくわからんがサッカー少女らしい。それはいいか。
全員地にはわせたとこでリーダー格のヤツをひっぱり起こして頬を張る。ビターン。
「はい、ちゃっちゃとボスのとこ案内しよか〜」
「な、テメ、えと、あの、それは」
ビンタが思ったより効いたようで話し方が変わる。
「こいつらは暴走してもなんだからうさぎにする。心配するな」
「え、いや、あの、スミマセ、ごめんなさい」
「いいから、道案内。あれ、ひょっとして大陸語通じない?」
「通じましゅう!」
キリキリ歩けい!とか言いながらガタイのいいオッサンのケツを蹴る。どうせ弱い者いじめ大好きなんだろうしいじめてもいいよね。集団で襲ってきたんだから集団に襲われる地獄とか味わわせてやろうかな〜。キモそう。まあそれはいいや。
スラムを泣きながらゴツいオッサンが歩いてそのうしろで子供が大きな顔をしている不思議な構図をスラムの住人が影からながめるという変な光景がしばらく広がった。さてさて、大きな組織だといいけど。うさぎが増えるからな!




