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「我は魔女なり」 〜引きこもるためのスキル【マイルーム】をもらったがあまりに世界が酷いので暗躍することにした〜  作者: いかや☆きいろ
 老いたワルテルの悩み

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貧民街の酒場にて

 この章の肝ですね。



 立石と水野に改めてこの領地に来てからの経緯を話そうと思う。これはひと月前ころの話だ。スラムとか裏社会を締めようと考えていろいろ下準備していたとき、情報収集のために寂れたとこにあるスラムすれすれの酒場に来た。まあ酒を飲めないのに酒場かよ、と思うけどな。情報収集は酒場。これが定番だろ。灯りが漏れるレンガ積みのおしゃれな建物に入る。


「わりと清潔な店だな」


「……ここはガキの来るとこじゃねーぜ」


 カランカラン、とドアベルを鳴らしながら店に入ったところ、なんかいきなり客の三十歳くらいの男に突っ込まれる。お前のほうがガキだけどな〜。ガキが酒場に来たらダメなんだっけ、じゃあ帰らないとだよな!


「じゃあお前ダメじゃん。酒なんかやめて早くママにおっぱいもらいに帰りな」


「てめえ……なんでもないですぅ」


 なんかいっそう噛みついてきそうだったので争いごとはイヤよ、とばかりに本気なら死人が出るくらいの殺気を今回はゆるーく叩きつけてやったら一発で黙った。私って相手に合わせるタイプだからね。噛んでくる犬は蹴るよ。まあ犬に噛まれたことないけど。動物はバカだから私を怖がらないからね。怖がらないならなでてやろうって思うよね。そのまま逃げる男を見送ってからカウンターに座る。雰囲気ある照明とかいろいろハイテクなとこがあるんだよな〜。


「オレンジジュースで」


「……はいよ」


 マスターは黒髪に黒目、黒い口ひげでずいぶん雰囲気のあるイケオジだ。腹が出てなかったらかっこいいんだがなんかひとつだけ欠点があると逆に目立つことない? 私がジュースを頼んでも文句も言わないあたり商売はできるようだ。


 隣に座ってるのもロマンスグレーのイケオジだ。ちょっと小柄でこっちも口ひげはやしてる。白い口ひげが渋い。この周辺では口ひげが流行ってんのかな。服装はピシッとしてて執事さん感がある。小さなロックグラスでウィスキーのロックを楽しんでいるようだ。飲みてえけどがまん。氷が普通にあるんだな。魔導具はわりと広まってるらしいしグラスとかも含めてダンジョン産だな。これがあるから技術が進まないんだろうな。紙とかも普通にダンジョンにある。科学技術を除けば文明レベルは十七から十九世紀くらいじゃないかね。新聞とかもあるらしいし。まあそれで建物は古臭い作りだったり識字率は五十パーセントとかいろいろチグハグなんだけどそこは仕方ないだろう。転生者多いからな。サッカーとかしてる子供がいたりアイドルっぽい歌手が道端で歌ってたりするし。可愛かったので歌い手さんに投げ銭するごとくおひねりの小金貨を出しといた。日本円で十五万円くらいだな。おっぱい大きい高身長な美少女だったからな。歌も普通に上手かったし。小金貨に驚いてて可愛かったぞ。普通は小銀貨くらいでも路上パフォーマーには大金なんだろう。ほかは銅貨だったし。


 まあそれはいいや。情報収集〜。マスターに頼んで隣のイケオジに一杯おごらせてもらう。私はいつも宅飲みだったからやってみたかったんだよな!


「どうも。このあたりでは見ない服装ですな」


「まあね、ちょっと遠くから来たんだよ。海を渡ってはるばると。……この領地の景気はどんな感じ?」


「海、そういえばソリド島に白の魔女様が住み着いていると噂になっておりますな。我が子爵領は……ギルドに白の魔女様がミネルバ商会を通じ黒うさぎ殿たちに卸させている品々で潤っておりますよ。望外の喜び、降って湧いた幸運と他の貴族家の方々もそれはそれは大騒ぎでございますな。偉大な白の魔女様には我が領の皆が感謝しております。出会ったことはありませんがさぞかし思慮深く可憐な御仁なのでしょうな」


 我がって言ったのはこのオジさんがこの領地の関係者だからだな。それでこの態度なのはこっちが白の魔女って知ってて持ち上げてきてるな。あんまり意味ないけどな。持ち上げられようが落とされようがやることは変わらんし。


「豊かになってくると人は集まってくるし変なのも湧いてくるよな。事件とか問題とかはあるかね」


 すっとぼけてみせるけど店長もこのオジさんも気づいてるんだろうな。あのガキに殺気出してみせたしな。まあそりゃいいや。イケオジはグラスの氷を少し揺らして語り始める。


「ふむ……。ついこの間、真竜のオークションが終わりましてそれは大きな騒ぎになりましたな。結果としてはムルベイ公爵が二十五億グリンでの落札。その竜の石像の型を作ったあとは解体して武器や薬品を大量に作られたそうです。詳細は聞き及んでいませんがかなり物資を得られたはずです」


「あー、真竜とか。そんなの大貴族や国じゃなきゃ買えないわな〜」


「ええ、ムルベイ公爵閣下はたいそう喜ばれておりました。ロードバース子爵も、白の魔女様に感謝しておられましたよ」


 とぼけてるんだから確定してるみたいに話しかけてくるのはヤメテ。


「まあ私が売ったわけじゃないからね」


 だからこっち見て言うな。まあバレバレなんだろうけど。


「他に問題と言えば最近は行方不明事件が多発しておりますな。Cランク以上の四十歳以上の冒険者が斬り殺されたあと死体が消えるという事件が多発しております。目撃者は殺害現場を見て隠れていたらしいのですが、怖いな、と思いつつもその現場に行ってみると、そこは人が斬られたと思えぬほどにシーン、としていて、周りを見渡してみるも血のあとすら残っていない。気のせいか、と思ったのだが斬り殺されたのが知り合いだった冒険者がそのことを衛兵に報告する、という事件が数件あり、調べてみたところ、なんと、Aランクも含む幾人もの冒険者が行方不明となっておりました。ここからが恐ろしいのですが……なんと、斬り殺された者たちは何事もなかったかのように順番に帰ってくるではありませんか!」


「しゃべり方こえーよどこのジュンジさんだよ」


 私怖いの苦手だっつーの。夏休みはテレビ見るの怖いから表で遊んでたっつーの。え、自分で斬り殺しまくってる? シミュレーションだから恥ずかしくないもん! もんとか言っちゃうほうが恥ずかしいお年頃だわ。その事件は捜査中だけど。


「その事件の犯人はどんな風貌だって?」


「ふむ、全身黒づくめで仮面をかぶっていた、マスクはしていたが服装は見えなくなっていた、長身の男だった、いや普通くらいの女だった、……証言は二転三転、まるで犯人は複数いるかのようです。不思議ですねぇ、怖いですねぇ」


「ふーん。アンタのしゃべり方がこえーよ。まあ犯人は変装の達人ってことか」


「捜査班はそのように見ております。しかし!」


「ひっ」


 急に顔を近づけてくるな。こえー。帰ろうかな〜。いやいや。こいつわざとやってんな。ホラーは真夏の夜だけにしてくれ。今真夏か。


「まあ領主がボンクラなので捜査は進んでおりませぬな」


「そ、そうか。……へー、領主はボンクラなんだな」


「そうなのです!」


「わひ、こえっつってんだろ!」


 わざとおどしてくるし。まあこういう話は聞き始めたら最後まで聞いちゃうんだけどな。ホラーって見始めたらラストまで見るよな〜。


「領主はまだ二十代なのですがその弟君(おとうとぎみ)がほとんどの政務を担っていて本人は毎夜遊び歩いております。家令には真実の愛を見つけたなどと供述しており……」


「犯人かよ」


 なんか抑揚つけて話すのに表情を動かさないのが怖い。その家令ってこのオッサンじゃないかな〜。いろいろ詳しすぎるし。オジさんの話を聞いてたら女の子の店員さんが話しかけてきた。


「魔女様〜、もう一杯オレンジジュースいかがですか〜?」


「お、ありがとう。ピーチジュースある?」


「ありまーす! おもちしますね〜!」


 元気な若い女の子が接客してくる。この店の雰囲気にはあってないが年寄り客の多いこの店では好意的に見られているようだな。若いのもデレッとしてるし。客は貴族っぽいのからチンピラっぽいのまでいろいろいる。女の子店員は茶髪で高身長でなかなかの美人だ。胸も大きいし好みだな。女同士だけどやはり好みはある。


「あんたももう一杯どう?」


「いえいえ、深酒はやめておきましょう。魔女様とご縁ができてよかった」


「あ、普通に魔女様言われて答えちゃった」


 まあバレバレだからいいんだけどね。


「それで家令さん、他に問題は?」


「おや、バレてしまいましたか。私はワルテルと申します、よろしくお願いします魔女様。問題は山積みでございますよ。なんせ領主が無能とは言わずとも働かない男。他に大きな問題といえば先日壊滅した山賊の村と思しき村やその近くにあった隠し砦など、他にもこの街に拠点を置くヤクザ者たちと、悪人が我が物顔をしてはびこっていたりそれが急速に消え去ったり、その結果別のものが調子づいたり、騎士や衛兵もあちこちに振り回されている有様でございます。それなのに領主は女の尻を追って忙しい」


「あっはっは、そりゃダメダメだな!」


 やっぱり家令なんじゃねーか。わざとだな。それにしても領主の噂は聞いていたがかなりダメらしい。なんでも両親が早くに引退して海際の街の別荘に越したとか。その際に弟くんがしっかりと引き継ぎをしたらしい。あくまで補佐の弟くんが。とうぜん街の評価は兄は領主をやめろ弟が領主をやれ、だ。ひどい話だが長子相続の制度はなくなりつつある中で古い形で長子が領主となったので批判が相次いだらしい。なんでも長男に任せると決めたのはその次男坊の方らしいからややこしい。陰ながら手伝うようなのが向いてるって判断だろう。間違ってないと思う。矢面に立つのは精神的に頑丈そうな、……無神経そうな長男のほうがいいだろうな。次男は胃が弱いと見た。


「はあ、私は笑い事ではありませんがな、外から見ればよく見る喜劇のようですな」


 実際に執務に携わる身としては確かに笑い事ではないだろうな。女の尻を追いかける貴族ってよくあるのかな? まあ悪役令嬢ものの小説だと聖女の尻追いかけて貴族子息が破滅するパターンが定番化してるけど。AIで書けないかな。それは置いといて、このイケオジが領地経営の不満を私にこぼす目的はなんだろうね。まあ私のやってることを詳らかにするためと、一枚かめってことだろうけど。


「なるほど、それじゃあんたが領主と繋いでくれたらいくらか問題を解決してもいいぞ」


「ほう、それがしていただけるのであれば領主との顔つなぎ程度は造作もありません。まずはなにをなされますかな」


 やっぱりな〜。最初からそのつもりじゃねーか。こっちの人柄もわからんだろう……と思ったがガキどもに施したのは知られているんだろう。あれも仕事があるならやらせるんだがないんだよな。意外となんでもそろってるんだ、ダンジョンのある領地のせいで流通が十分に届いてる。孤児院とか作るべきなんだろうけどギルド学校みたいなものはあるらしいし、そうすると情報が行き届いてない可能性が高いな。そのあたりは進言できるか。


「行方不明事件のほうはしばらくはなんともならん。そうだな、スラムの悪党どもは楽園に送ってやろう」


「おお、恐ろしいことでありますな」


 まあ楽園送りと言えば命を奪う隠語に聞こえるわな。実際はうさぎにしてから反省した順に呪詛と法術契約してソリド島送りだが。犯罪したら地獄を味わう程度の呪いと悪いことしたら額に文字が浮かぶ程度の法術を組み合わせてみた。なのでソリド島は平和だぞ。うん、まあ、一回様子を見るために帰るとしてこの領地の問題は整えておきたい。はやく帰りてーな。ニートしたい!


「まあ悪党の半分はこっちで使うかなぁ、とりあえず報告はしよう。あとは領主は、私の立場からなら一言くらいは言っても許されるか?」


「もちろん魔女様ならこき下ろして大丈夫ですとも! 助かります! 特に恋にうつつを抜かすヘボ領主には思いっきり活を入れてください! この老いたワルテルの悩みを聞いていただきありがとうございます!」


 若きウェルテルは恋に悩んだけど老いたワルテルは恋などにうつつを抜かす領主に悩んでる。皮肉が利いてるな。まあひとつずつ解決していこう。


 ウェルテルは自殺を選んだんだっけ。愛なんてしょせんは毒薬だ。酔っぱらってボケるのとなにも変わらん。まあ他人が酔っ払ってるのをながめるだけならおもしろいんだけどな。


 こんなこと言ってたら立石や水野にはすごいバカにされそうだけど。アル中が言うなとか言われそう。あの二人意外と乙女だしな〜。お前が言うなって言われそう。ぜったいこのときの気持ちは話さないことにしよう。






 やっと出てきましたワルテル。章のタイトルの意味も出てきました。ワルテル出るの遅い? まあ順番で言えばギルドに行く前の話ですが。



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