魔女の集い
フローラねえ、ずいぶん可愛らしい名前だこと。まあ私も人のことは言えないんだけどな。Sランクの冒険者は実力がかなり高かったんであんまりゆるめると十分やられてたが百パー暴れたかっていえばそんなこともない。次は魔女同士の対決だ。派手にやろうかね。
「あの、大丈夫でしょうか」
「受付嬢さん、心配することないよ。ここじゃなにがあっても死にゃしない。今だけ私の力で魔王の学園みたいになってるのさ」
「魔王様の……すごい力をお持ちなのですね」
「もらいもんだけどねー。あ、終わったらなにもかもなかったことになるけどギルドの人の仕事だけコピーしておくからね」
「そんなこともできるんですか?」
「物が無くなったり増えたりしなければ大丈夫」
かなりチートすぎるだろと思ったけど焼き払った森を元に戻すのに役立ったのですごい助かる能力だ。事前にコピーしないとだめだけど今回だけはってミネルバが一瞬でやってくれました。基本的に情報だけをやり取りするスキルだからね。ストレージに存在を押し込んだりはできるんだけど新たに作ったりはできない。コピーして新しく取り出すには材料があれば行けるらししいけど例によってつまらないとやらないという障害があるのでできないこともある。これだけのスキルもらっといてまだ贅沢言ったら私が嫌だわ。ちなみに今は外からはギルドに入ってこれなくなってるけど立ち入り許可もできる。
「そーゆーわけで気にすんなよ。立石ともやりあったしな」
「立石も強いんな。あとでやってみよかな。……ほな全力でいくで。ゼロ」
あ、いきなり周辺の空気凍らしにきたな。事前情報の通り数字で表現できるあらゆる状態をマナ次第でゼロにできるようだ。相手が弱ければ存在ごと消しされるかもしれん。原子とかは強固なので莫大なマナが必要になりそうだが。ギフト持ちにギフトは効かないとは言っても私に直接は無理でも周辺の空気にはアクセスできるもんな。でも風を消そうとしたのは悪手だ。
「ぴいっ!」
「おっと、いきなり気圧戻したらやべえからな?」
「ぴゅぅい!」
ベルがすぐに対応する。流石にゼロはマナを食うタイプのギフトだ。疲れるのを待つ戦術は使える。そう考えるとインフィニティがガチやば。マナいらないってのが反則すぎるだろ。え、ベルがいるからある意味私もインフィニティ?
「そっちが精霊使うんやったらうちも使うけんどな」
「なに?」
「海で会うたんよ、リバたん」
どん、と音を立てて水野の後ろに海竜? 水の塊が現れる。あれだ、水路がある限り無敵のヤツだ。懐かしーな。ってリバたんってリヴァイアサンかよ!! ヤバすぎるだろーが! 大質量だとベルも相性悪いか? 波のレベルなら押し返せるか?
「ぎゅごおおお……」
「ぴゅい、ぴゅー!」
「ぎゃごん」
「ぴい」
なんか二匹が勝手に仲良さげに話し合ってるんだが。今回はどちらも手を出さない方針らしい。いいけどさあ。
「ゼロの弱点わかってるしこれ以上やりあう意味あるか?」
「やっぱりわかるんやな。どなん考えなん」
「ゼロって要するにゼロまで減らしたり増やしたりする力だろ。私も減らしてやればいい。自分には足す方向で」
「空気か、なるほどな」
さすがに呼吸できなければ対応策はないはずだ。まあそうなってもこっちも削られるんでどっちが勝つとは言い切れないけどな。
「まともにやりあうのも面白いけど」
「はよきまい」
やべえ、なんか自信あるらしい。普通ならギフト無効がない限りは触れられたら仕舞いではある。ギフト持ち同士になると即詰みはないが接近戦のほうが魔法やギフトの威力は上がるのでやはり近づけないほうがいいだろう。接近戦がヤバいのはこっちも同じなので遠距離物量戦になる。向こうも物量で攻めてくるかもしれないが物量で押しつつ奪い取る技なら持ってる。
「ナイトロジェンストリーム」
「これ、やばいんちゃう?! ゼロ!」
「窒素だけ凍らしてきやがる!」
「ゼロ!」
「へ? おわっ!?」
今、距離をゼロにしやがった?! そんなこともできるのかよ! 慌てて距離を取る。どうやら距離を詰めすぎるのは自分も危険だと考えたのかあっさり距離を離せた。距離の詰め方によっちゃ大事故か起こりそうだよな。ゼロだもの。
「ん、マナの自動回復と減るんがだいたい釣りおうとるな。マナ量だけはあるけん覚悟しまいよ」
「うへ、やべえ。マジ勝てる気がしない」
「ん? もしかしたら、酸素消費、ゼロ、マナ消費、ゼロ。マナは無理か。エネルギー消費、ゼロ」
「消費する方をゼロにできるのかよ……」
「マナは食うけんあんま意味なかったわ」
「削り合いは削り合いだな。周りはなにが起こってるかわからなそう」
「さっきからあんたなんか投げてきよんなんなん。凍らしとるけんべちゃりって落ちるだけやし」
「透明な空気玉」
「厄介やな。ウォーターショット、ゼロ、ウォーターボール、ウォーターボール、ゼロ、タイダルウェーブ、ゼロ」
「水で浸してそれを凍らせるのか、ヤバすぎない?」
かろうじて空を飛んだり空気の膜で真空を作って温度伝達をなくしてみるが凍る水をかぶれば寒いは寒い。体温ゼロになる前になんか対処をしないとな。いわゆる過冷却水ってやつで温度はゼロだが水として振る舞っている。当たるとたちまち凍る。囲まれたら彫像だ。
「キャンディ早爆破、いくらでもくらえ!」
「む、厄介やな! ウォーターボール、ウォーターボール、ゼロ、氷玉!」
「だからヤバい。なんかいくらでも手がありそうだな!」
「もう、しゃんしゃん死にまい!」
「死なないが?! 魔術だけじゃねーぞ!」
思いきってソラノツルギで切りかかる。で、杖で受けられた。
「ふん、うちも杖くらいあるで!」
「まあまあ腕が立つってどこで習うんだよ!」
細かく打ち込んでみるが重心付近を持った杖を細かく振り回してくる。杖術の基礎はつかんでる感じか?
「ふふん、うちも人の動きとかは盗み放題やけん盗むんやで」
前世からの持ち込みかよ。杖術なんて教えてる人いるんだな。前世でやりあったらヤバかったけどコイツも私につきあってたことけっこうあるからヤバいのに絡まれたりしたんだろうな。コイツの性格だと折れるとか怯むとか考えられん。のんきそうに見えても芯が滅茶強いヤツだから。負けても平気そうにしてるけどめちゃ嫉妬はしてるらしい。
そのままお互いの魔法、魔術を空中で叩きつけあってるとあたりはすっかりブリザードである。私の風と水って相性良すぎないか?
「「へっくし!!」」
二人で思いきりくしゃみした。不老不死で状態異常無効なのに寒いとくしゃみは出るらしい。
「も、やめるか。私寒いの嫌いなのよね〜」
「うちもや」
「ゼロと相性悪い?!」
「寒いもんは寒いわ。熱の流れゼロにしたら蒸すけどどないしょ。まあええか、仕舞いにしよ、みんな寒そうやん」
「そうするか」
このまま殴り合ってもまったく終わりは見えないし我慢比べになる。ディバステイティングストライクはなー、さすがに観戦してるヤツいるし。まあキャンディもものすごい爆音や爆圧で死ねるんだけどそこは遮断してる。これ戦場でやったら一軍くらい壊滅できるぞ。レベル二百超えはやべえ。ふう、しかし寒いな!
「はーいおっつー。おしるこ作ったぞ」
突然立石がおしるこの入った鍋を持って現れた。まあマイルームで好き放題してるんだけど人んちで勝手に調理までするなよ。助かったけど。変なとこ気が回るよな立石教会の魔女法子。
「あ、元に戻すか。おでかけマイルーム」
「なにそれ可愛いやん」
「槙中は乙女だよ」
「乙女ゆーな。上手い表現思いつかなかったんだよ!」
データをそのまま外に適応させすべてを戻す。これで死者も蘇るぞ。マイルームマイワールド時点で情報ストレージに記録していたらだけど。記録したあとなら何回死んでも記録した時点でよみがえれる。やらんけど。ちなみに死体を復活させることも五十日経ってなければできる。それにしてもおしるこうまい。立石って短気だけどいろいろこだわるんだよな〜。バイク好きなのにメカとかはなぜか全然だけど。私も苦手だから言わない。まあこの世界の物なら動力が簡単に用意できるし加工もスキルでできるから簡単なんだけど。原理自体は私もわかってるからな。
「それで、情報交換しよや」
「いいぞ。お前も弟子取ったんだな」
「ええ子やで」
「しっかり世話してんのか? なんか放置してそうだな」
「うーん、お互い無口やからな、普段は。槙中の弟子は?」
「呼ぶか、おいでスクルド」
「ウルドとベルダンディーもおるん?」
「ベルはこれ。ウルドもおいで」
「きゅい〜……」
スクルドがウルドを抱えてきた。ベルは適当な説明に不満そうである。ウルドはハサミをカシャカシャ言わせてる。なんかその音で会話しようとしてるらしい。頭いいな。
「水野もコイツんち寄生しよーぜ」
「増やすな」
「宿代浮くな。世話んなるで」
「決定かよいいけどなんで増えるんだよ赤いのとか黒いのとかも来るのかよ大変だよキャパオーバーだわ人口密度増えすぎたろ」
「息継ぎしまい。マリー」
「はい、お師匠様。初めまして白の魔女カーラ様、教会の魔女サンドラ様、マリーと申します」
「お、いい子そうだな、スクルド〜」
「はい、カーラ様。初めまして青の魔女フローラ様。スクルドと申しますわ。マイルームの楽園の管理を任されておりますの」
「しっかりした子やな」
「わしが育てた」
「私も育てたぞ」
「なんで立石が育ててんの? 居候だから?」
「お世話になってるんだから仕事するだろ」
「相変わらず律儀だな!」
「ほんまやな。てきとーでも槙中ならどーでもえーゆうやろ」
「まあそうだけどな」
堂々とされるとちょっと気にしておくれよって思うよな。まあ気にしてくれるんだけど。気にされると気にすんなよって思うしな。わがままだな。
「ゼロでゼロにできるのは……運動エネルギーも?」
「できるで。およそ数値のつくもんならな」
「奪ったエネルギーとかどこに行くの?」
「情報世界とこっちの世界で対流しとるみたいやな」
「マジこの世界わけわかんねーな。理屈は通ってる感じがするんだけど」
イメージひとつでなんでもあり、とかはないけど私の場合マイルームで人間をうさぎにしたりできるんだよな。まあそのまま外に出せるわけじゃないけど。素材があればできるけど。
犯罪者うさぎたちはうさぎ生活を満喫したあとソリド島の私の新しい街を管理させてる。暴力的なヤツはうさぎのまま。犯罪とかは呪いとか法術の契約とかで起こらないようにしてるけどな。無理やり縛り付けるのは嫌だが制約を外れなければなんともない。便利だぜ。プライバシーも犯罪抑止になるなら無くていいと思うんだよな。どうせ管理するのAIだし。
「そんで槙中、この街でなにしよんな」
「私は今はロードバース子爵の側近みたいなことしてるな」
「はい?」
「面白そうなことしてるからいろいろ話してやるぜ」
「お前さんも手伝えよ立石」
「うさぎとか使えよ。私は漫画やゲームを千年分楽しむのに忙しいんだ」
「ちくしょー私のスキルでニートしやがって」
「トレーニングとかもできるんな? ほなマリーも修行しよか」
「のんびりニートしろや」
「どっちやねん」
そりゃせっかく再会したんだから友達とゆっくり遊びたいじゃん。あ、そうだ、ギルドに来た目的果たさないとな。
「それで今はロードバース子爵領都で起こってる連続行方不明事件を追ってるんだよな。水野なんか知ってる?」
「うちも最近きたけんよーわからんで」
「私の方で少し調べました。行方不明事件が起きたとされる場所の目撃情報のある点などポイントをマッピングしています。あと行方不明になった人たちなんですが少しずつ帰ってきてるという話です」
「よく調べてんなマリーちゃん」
「むむ、わたくしもがんばりますわ!」
「対抗しなくていいからなスクルド」
スクルドはなんかお嬢様言葉になってるけど憧れとかあるみたい。貴族なんてなにがいいのと思うけどこれくらいの子供だと舞踏会とかして遊んでるとかキラキラしてるとかくらいしかわからんよな。めちゃ仕事してるんだけど貴族。ロードバースの現当主もヘタレでへなちょこだけど仕事の量だけは山積みだからな。おっと、ロードバース子爵と懇意になった経緯はこいつらにも話しておかないとな。
そのあと冒険者たちがトレーニングするのになぜか私に指導を求めてきたがまあそれは別の話だな。
ゼロは当然絶対零度にもできますので過冷却水というのはコントロールが必要だったりします。水野ことフローラもわりと化物です。




