冒険者と魔女
このお話は最初は魔女がいろんな人を助けるオムニバスにしようと思ったんですが魔女を主人公にするのでよくね、と思って作りました。いろいろ助けます。
それからしばらくスラムで暮らしていたりする。まあ部屋はマイルームだけど。住んでるヤツがいなくなった屋敷をマイルームにつなげて誰でも入れるエントランスを作ってみた。侵入したら敗北だから敵対すらさせてもらえないという。ほんとチートだよね、これ。
それでしばらく暮らして状況を把握しながらいろいろ作業というか交流というか、まあ色々やりながらこの町を見ていって、ついに冒険者ギルドに行くことにした。まあいろいろ理由はあるんたが、やっぱり冒険者に会わないと異世界って感じがしないよね。中世の冒険者って言えば船乗りだろうけど、まあこの世界はモンスターが多いからね。中世の冒険者はアフリカでライオンとかと戦ってたんだろうか。あいつらはもう銃持ってるけどな。こっちは魔法あるし。
私も銃と変わらんくらいの速さで魔術を放てるけど。手を振る必要もない。頭からマナを伸ばすだけだからな。マナは光速だから銃よりちょっと速いかも?
ガンマンの撃ち合いってなんか両方とも死ぬためにやってるのかなって思うよね。銃弾が出たらあらかじめ躱してないと相手が死んでも銃弾止まらないもんね。まあ実際は撃てなかったらしいけど。殺人は重いからね。それは刑法で決まってるからじゃない。人間にとって人の命は重い。
この世界の冒険者はどうだろうね。犯罪者は切り捨てても許される世界。人の命の重さをその手に抱えて生きてるのかな。……興味なくはない。
シミュレーションでかなり殺したけど実際には殺す勇気なんて生まれるわけもないよな。よかったよ自分が人間で。
さて、冒険者ギルドだね。
(ギルド受付嬢、ソフィア視点)
ここは冒険者ギルド、ロードバース領支部です。血や土などで汚れた冒険者に相対するといっても受付は依頼人にも対応しますから制服などはぴっちりと着込まなくてはいけません。毎日の業務を真面目にこなしているとふと、ものすごい気配が近づいてきました。
ときおり冒険者の中でもBランクを超える人たちが強い気配を放つことがあります。マナを変質させるほどの気配、そこに殺気などが乗ることでとても強い気配になるのです。それまで騒がしかった冒険者たちが一斉に静かになり、何人か上位の方が腰を抜かしています。気配がよくわからないかわかっても震えるだけの下位冒険者と違い、上位の方たちにははっきりと死の予感が感じられるのでしょう。私も脂汗が頬を伝います。
「おや、思ったより静かだね。くっせえ! 浄化しろや!」
入ってきたのは小さな女の子でしたが誰も侮る者はいません。当然でしょう、それほどに強い気配です。彼女がパチリと指を鳴らすととたんに辺りの空気が清潔な感じになりました。いつもは臭いで鼻が麻痺していたのがよく分かります。……一瞬でこの広い空間を浄化するなんて並の神官や、聖者でも難しいのではないでしょうか。しかし彼女から感じるのは静謐さではなく、強い圧力。強者の存在感です。
この状況にはたまたまここにいたSランク冒険者のグイード様ですら飲まれているようです。ギルドの併設の酒場の席でビールを飲んでいた体制から体を大きく入り口に向けて冷や汗を流しています。この状況でも眉一つ動かしていない人が一人いますが……当然でしょう、彼女は最近このギルドに来たのですが間違いなく最も強い人ですからね。その彼女に匹敵する白いコートの少女。フードをはがして笑顔でこちらに寄ってきます。その瞬間殺気を解いたようでふっと体が楽になりました。
「やあやあ、ここが受付かい。悪いね、絡まれるの嫌でちょっと殺気放っちゃったよ」
「分かっていてやっていたんですね。はじめまして、魔女様」
「うん? わかるのかい?」
「貴女ほどの気配を放てる人はそうはいませんから。その白い服装、白の魔女カーラ様とお見受けします」
「おー、すごいね受付嬢さん。そうだよ、私が白の魔女、カーラさんだよ」
どうやら私の推測は当たっていたようです。彼女はちらりと壁際に立って微動だにしない青い魔女服の少女を見やります。しかし気にした様子もなくこちらに笑いかけて、顔立ちはとても可愛らしい方です。
「さいきん景気はどうだい?」
「カーラ様の使徒の黒うさぎ様たちのお陰で潤っていますよ。有難うございます」
「黒うさぎたちってどうやって取引してんの?」
首をひねるカーラ様の様子は普通の女の子のようです。可愛い。黒うさぎ様たちは基本は筆談ですが、たまにバカな冒険者に絡まれてはサラリと返り討ちにしていますので私どもも侮ってはいません。持ってくる資源も一回一回オークションを開かねばならないレベルです。
「先日の真竜はオークションで二十五億の値がつきました。買ったのもムルベイ公爵閣下です。すごいですね」
「私の懐に入ったのは十億だけどね」
「仲介の方の手数料もありますが三割ほどは税金ですね」
「まあ税金あるよね。巨額取引だもの」
「源泉徴収にならないだけお安くはなっています」
「誰だ申告してるの。ミネルバかな」
「巨額取引なんだからミネルバ商会で登録してるわよ。税金六割も払えないでしょ」
「うへえ、そりゃ無理だ。オークションだと三割なの?」
「前に言ったと思うけど最終的には二割五分。というか商会にまとめてかかる税金なんでただの収入からだとしたら六割、経常利益なんで四割五分、申告して経費とか戦時関連の優遇措置とかで値引きになるのでもう少し安くなるわけね」
「まあ私の取り分は四割で変わんないからいいや」
カーラ様は近くの妖精様とお話になっています。こちらもただの妖精ではなさそうですので対応を気をつけなくてはいけませんね。
「最近このへんで物騒な事件があるんだって?」
「あ、はい。私は半月ほど前に赴任したので詳しくはないのですか、ひと月ほど前から行方不明事件が相次いでおります」
「依頼とか入ってるのかね」
「ええ、その関係で冒険者へ詳細を開示しています。資料をお持ちします」
一ヶ月前から起こる行方不明事件。実際には斬り殺される場面が目撃されていますがその血痕も死体も残らず、暴れたらしい形跡だけを残している事件です。狙われるのはB級以上の冒険者。Sランク冒険者のグイード様がこちらにいるのもその調査のためですわね。目撃者の話では相手は中肉中背なのですが男か女か分からないようです。証言が人により大きく食い違っています。
「その話は聞いたね。酒場で飲んだくれてたロマンスグレーの爺さん、ワルテルさんだったか、が愚痴ってたよ。私は飲めないんでジュースもらってたんだけど、やっぱり情報収集ったら酒場かギルドだよね。まあこっちは怖いお兄さんが多いからあとになっちゃったんだけど」
「は、はあ。ワルテル様と言えば子爵家の執事をなされている……。カーラ様はいつ頃からこちらで活動されてるんですか?」
「ひと月くらい前からだよ。それにしても謎だね、犯人はなんで死体を隠してるのかね」
「ひと月、ちょうどこの犯罪が起こり始めた頃ですね」
「たまたまだよ〜、私は殺しはやらないしね。殺さないとは言ってないけど」
「えっ」
「あーなんでもないなんでもない。いやー、年食うと話が長くなるんだよ、すまないね。無駄に雑学ばっかりかじってるからかなんかあちこち話が飛んじゃってさ〜、そーだ依頼として、私とギルドの冒険者何人かで勝負してみない?」
「依頼ですか」
「ぜんぶで五百万グリンくらいでいいかね? 勝てなくてもひとり十万くらいで。相手はあんたらで選んでくれたらいいし。いやあね、私の実力とかを知らしめていたほうがいろいろ取引とか楽になるじゃん? わかりやすいしさあ、だからまあそこのSランクの兄さんは確定として」
カーラ様は突然勝負を申し入れたかと思えば初対面であるはずのグイード様をSランクと見抜いたようです。気になって話を遮ってたずねてしまいます。
「いやいや、なぜグイード様がSランクだと?」
「ここでは二番目にあのにーちゃんが強いから? そっちの青いのはケタ違いだけどアレとはやりたくねーな」
「あ、やはり青の魔女様はわかるんですね」
「げげえ、やっぱりアレが巷で噂の青の魔女かい!」
「知り合いでしたか?」
「……初対面のはずなんだけど知ってる顔なんだよねえ」
「なんな、槙中やろアンタ」
「うげえ、やっぱり水野とまりか!」
「みずたまりとか言わんのはええとこやけどうげえはないやろ」
どうやらお二人は知り合いだったようです。青の魔女フローラ様と白の魔女カーラ様、知り合いでも不思議はないのかしら。実はお二人とも実年齢が数千歳、とかは、ないわよね。
「あとでうちともやろや。そんで、どちらさんかコイツと試合やらんの? 小銭もらえるで?」
「まあそうだけどお前って見た目より好戦的だよな」
「貧弱やけん負けるけどな」
「駄目じゃん」
「あー、俺やりまーす! お前らもやるだろ? 負けても金もらえるんだぜ!」
「おう、やってみるか」
「仮にもBランクパーティーだしね」
Bランクパーティー、氷華乱舞様ですね。サブリーダーの剣士アンドレア様と探索者のイシドロ様、魔法使いのフィオレラ様と荷物持ち、歩荷のニコラ様の四人パーティー。リーダーは意外にもニコラ様です。ストレージ持ちはリーダー格の方が多いのですよね。その存在、それだけで冒険の幅が広がりますからね。
……私も彼女の実力を見ていた方が良いでしょう。少し楽しみでもありますね。
グイード様も勝手に試合を決められて不機嫌そうですが異論はなさそうです。少し試してみたいのでしょう。強者にはよくある傾向です。
「じゃあ、マイルーム・マイワールド」
「ん、これがアンタのスキル?」
「そうだよ。お前さんも思い切りやり合ってみたいだろ? ここならどれだけ暴れても人死も出ねーからな、思いっきりやれるぜ」
「よ、水野。今はフローラか」
「あん、立石までおるん?!」
「コイツ教会の魔女な。うちのスキルに住み着いちゃったんだよ。困るよな自由人は」
「それアンタが言うん? 立石もなんでスキルに住み着いたん?」
「それが聞いてくれよ、コイツ星野に通販スキル強請ったらしいんだよ〜。それ使わせてもらってるんだけどな」
「え、通販? 日本のもん買えるん? うちもここ住も! マリーも住むやろ?」
「師匠、お話についていけません!」
「まああとで話したるわ。そんでコッチの……白いんでえーか」
「いいんじゃねーの。私も青いのって呼ぶわ、人前だと」
「じゃあコッチのは教会のん」
「お前は槙中じゃねーんだから名前呼べや。サンドラな」
「えーやん普段は立石呼ぶし。世話になるで槙中」
「……増えた」
「よろしくお願いします、カーラ様」
「なんかオマケもいるし。いい子そうだけど。あー、白の魔女カーラだよ。よろしくね」
なぜか突然教会の魔女サンドラ様も現れました。やはり魔女には魔女のネットワークがあるのでしょうか。最近は赤の魔女様も活躍なされていますし黒の魔女様も現れたとか噂になっていますし突然サンドラ様以外の魔女が現れ始めたのはなにか理由があるのかも知れませんね。
「えーと、それでやるんだろ、試合」
「おう、なんだっけ、コイツ」
「試合するんだろ! 俺はBランクパーティーのリーダー、ニコラだ」
「俺はアンドレア」
「イシドロだ」
「フィオレラよ」
「そかそか、よろしくな〜」
んじゃ裏に行くか、とカーラ様は知ってるかのように修練場へ向かいます。……なんでしょう、この場所の景色が、感触が? なにか変わっているような気がします。魔法使いの使うドミニオンという技がありますがそれでしょうか。この辺りのすべてがカーラ様に支配されているような。
「ほほう、マイルームにデータ引っ張りこんだからわかってたけどなかなかいい広場だな」
「修練場やで」
「今日は見学にしとくか」
三人の魔女……。この状態は異常なのではないでしょうか。フローラ様のお弟子のマリー様も私の横で見学するようです。
「んじゃ、そっちの剣士さんからやるか」
「おう、負けねーぞ」
「まあ負けは決まってるけどな」
「うっせーニコラ、お前もやるんだろ?」
「当たり前だろ、こんな面白いことやらんわけないわ」
「ちっ、まあいいや、さて、魔女さんはどんな戦い方するんだ?」
「ん〜、まあ片手剣から行こうかね」
アンドレア様が中央へ向かいます。大剣を引き抜き構えるその姿は確かにBランクの剣士、様になっていますね。対するカーラ様は片手剣をどこからか出してだらり、と両手を下げています。あれは?
「へえ、師匠みてえな雰囲気だ」
「え? ニコラ様には剣のお師匠が?」
私の横にいつの間にか来ていたニコラ様が呟きます。
えと、カーラ様は魔女ですよね? 倒されたドラゴンも魔法で仕留められていましたし、どういうことでしょう。いや、私も数多くの冒険者と渡りあってきたので強者の雰囲気はわかるのですが、……なぜ魔女のカーラ様から剣聖の雰囲気がするのでしょう?
しばらくあちこちで実力を見せます。まあカーラを捕まえるのは不可能なのもありますし目立ちに行くスタイルです。
税金の計算はテキトーです。まあミネルバは商会で節税してると思ってください。必要ないけどね。




