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「我は魔女なり」 〜引きこもるためのスキル【マイルーム】をもらったがあまりに世界が酷いので暗躍することにした〜  作者: いかや☆きいろ
 老いたワルテルの悩み

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最初からの約束

 後半の視点は特殊な移り方をしますのでご注意ください。


 この章から時間の移り変わりが前後することがありますがちょっとした仕掛けのためだったりします。ご了承ください。




 とりあえずロードバース子爵領の領都に来た。栄えてるな〜。建物も石造りだったりコンクリっぽい。馬車とかもあるけどとにかく人が多い感じ。この世界はモンスターの土地のほうが広いからな。みんな元気に仕事してるわ。やる気と元気が一番。やる気のない人間よりゾンビのほうがフレッシュだよな。脳味噌ちょーだいとか言ってさまよってるほうが元気だろ。人間にとって欲は大切だ。楽を求めるなら死んだほうがマシ。存在してるだけで価値はあるから生きろとは思うが。私は金を稼いだらニートしてゲームするけどな。欲深いから。ゲーム高い。


 門番に山賊砦を落としてそこから人を助けた話をしておく。あとはジョシュくんに聞け。止められてもマイルームに逃げるだけ。突然に消える、まさしく魔女だぜ。ふはは。仕事スゲー大変だろうけどまあ山賊退治しなくてすんだんだから命を粗末にしなくてよかったんだろうね。


 バカやってないで街を見るか。近世風の町並みが広がっているね。


「まずはスラムでも行くかね」


 え、冒険者ギルドはって? 最初は冒険者ギルド、なんてルール誰が決めたんだ。冒険者ギルドなんてヤクザ者ばっかりなのに怖いだろ。モンスター殺して金稼いでるヤツらだぞ。大人しくて清純なモンスターキラーってなんだよ。いるかそんなヤツ。なので行きません。ひと月くらいしたら行くよ。用はあるしな〜。まあまずはスラムかな。


 ここのスラムは建物がボロボロで地震きたら一発で終わりそうだ。臭いももちろんひどいが人はまあまあいるね。ただ、下水は通ってるんだよな。進んでるねえ。転生者多いから当たり前か? いろいろ意見だけは出してるんだろう。臭いの嫌だもんな。


 うーん、とりあえずスラムに来たけど飲んだくれで寝転がってるようなヤツばっかりだな。金をくれとか言って寄ってくるガキもいるが数日食えるくらいの小遣いを渡して追い払う。オッサンは知らんけどしつこければ楽園行きだな。もっとくれというガキもいるけどあんまり大金渡したら巻き上げられるだろ、と言っておけば小銭でも散る。それでも巻き上げられてたらベルに感知させて巻き上げたヤツを楽園送りにする。中にはそんな間抜けさらさねーよとか言ってくる元気なガキもいるが重力と風の操作で空に二、三回投げて間抜けじゃん、って言ったら泣きながら逃げていく。捕まえて小銭はやるけど。ちょっと頬を赤くするのはなんだ。あれか、強者に憧れるとか?


 引き続きスラムをさまよってるとフラフラとこちらに寄ってくる幼子がいる。黒髪に黒目でなんとなく日本風な顔立ちだ。転生者? なわけないか。三つか四つくらいかな。子供の成長は早い、とは言ってもこの年だと栄養状態で変わるからわかりにくい。


「お前さん、生きたいか?」


 なんとなく聞いてみる。死にたいなら楽園送りにすればいい。死ねないと生きるしかないと思えるだろ。


「……生きたい」


「おや、なんでだね。そんなにやせてろくなものも食えてないだろう。人生はしんどくないかね?」


「しんどい。でも腹いっぱい食べたい。美味しいもの食べたい。生きたい。生きたい。生きたい!」


 ほほー、元気のいい子だね。よく見ると女の子だけど。ここまで汚れてるとな。服はボロボロの貫頭衣と言うやつだけど靴もはいてないし、本当に破れた布を羽織ってるだけだ。シラミだのダニだの集っててもおかしくない。うーん、想像するといたたまれないな。


「お前さん、タダで養ってくれる人がいると思うかね?」


「そんな間抜けはいない」


 たぶんどっかにいるだろう善意ある人間を間抜けときたか。働く気はあるのかな。うーん。覚悟を見て決めるかね。


「私はお前さんの未来を全部奪う。永遠に奪う。千年か万年でも生きてもらう。それでも生きたいか」


「生きたい! 生きたい! 生きたい!」


「元気じゃないか。一人で生きればいい」


 言い捨てて去ろうとすればがしりと抱きついてくる。頭のいい子だね。私ならボンヤリして逃げられるところだけど。


「私は喋るケモノは嫌いなんだよ」


「ケモノじゃない!」


「プライドはあるのか。無駄に」


「私は、人間だ!」


「人間がなにかも知らないくせに」


「……勉強する!」


 へえ。コイツはいい拾い物かもしれん。物じゃないが、面白いのでからかってみるか。


「物じゃないなら拾っても大変そうだねえ」


「物じゃないけど、なんでもする!」


「人殺しも?」


「……しなきゃいけないならする」


「絶対に殺すなよ。ケモノじゃないならね」


 頷く。ケモノじゃないらしいので拾ってやるか。


「お前さんが持つものはなにもなく、人に与えられるものもなく、それでも生きたいがために届かぬ木の実にはいのぼってでも手を伸ばそうとするのなら」


 見つめていると言われたことを噛み砕いたのか娘は頷く。かなり力強く。


「この魔女が杖を貸してやろう。お前さんの名前は今日からスクルドだ。私がお前を未来へ連れていってやろう」


「みらい?」


「そうだよ。さて、私についてくるならしっかり学んでもらうし働いてもらう。覚悟はいいか?」


「うまいものが食えるなら!」


「山盛りフルーツゼリー食べる?」


 百円で売ってるやつ。フルーツいっぱいなのに安すぎるよな。果物なんて機械生産じゃないんだから味が変わりそうなのに変わらないし。品質管理ってすげー。現代人はこういうのが贅沢だって意識がないんだよな。


「うまい…うまい?? めっっっちゃうまい!」


 スプーンも使わずに蓋を剥がしただけのカップにかじりついてる。よっぽど飢えていたらしい。はあ、未熟な世の中って嫌だよねえ。


「あんまりがっつくとお腹壊すよ。まあマイルームに入れば問題ないか」


 マイルームに入るとそこは花畑。近くには果樹園があり白や灰色や茶色やはてはハーレクイン柄のうさぎたちが遊んだり畑仕事したりしている。山賊たち(・・・・)楽園の暮らし(・・・・・・)を楽しんでいるようだ。


 ここの管理はこれからこの娘に任せるとしようか。いちおうミネルバに話を通しておいて、ふむ、楽しくなってきたね。



(スクルド視点)



 母親は売春婦ってヤツだったらしい。ときおり酔っ払った勢いで父親は貴族だとかぬかしてたが一度もその父親に会ったことはない。この母親が見栄をはってるんだろうなって子供だけどわかった。


 お前は幸せにならないといけない、そう母親だった女は言っていた。酒で頭も足もやられてそのまま死んだ。ボロ小屋に死体を残しておけないので川まで運んで流した。周りのジジイどもは不味いものを食べたような顔をしていたがなにも言わなかった。死体があっても臭いしね。


 それからは生ゴミを漁ったり畑に生えてる未熟な野菜をかじったりして生きてきた。収穫できるほどになったら見張りがつくし他のヤツが持っていく。なので生えたばっかりのヤツ。他に食えるものはなく、孤児院に行ったところで拾ってくれることもなかったばかりかそこの子供には石を投げられた。黒髪が嫌いらしい。この国で黒髪は貴族に多いからだ。王様は金色で奥様は二人とも黒色らしい。そんなの決まってるわけじゃないと思うんだけど。


 大人たちは私を見ると不味そうな顔をして立ち去る。走って逃げるヤツもいた。別に人間は食わないのに。飢えても殺しなんてしたくない。どうも親のいない子にすがられるのが面倒だと思われていたらしい。幸いなのか女に見られなかったのは助かった。普通に売られるところだしな。


 死ぬまで謝ってた母親を思い出す。母親はクソだったが私もクソだ。せめて人間でいたい。


 ハラが減った。そこで出会ったのが白の魔女、カーラ様だった。


 彼女がどれほどすごい存在なのかはもちろん知らなかった。ただ、子どもたちにこづかいを配っていた。


 そんなこづかいじゃお腹いっぱいにならない。たくさんお金がほしいけど、もらっても誰かに取られるだけ、それは彼女の言うとおりだろう。もし小銭まで奪うヤツがいたら楽園送りにされたんだろうな、と今なら思う。


 必死にしがみついた。私はモノじゃない。ケモノでもない。人間だ。


 人間の母親(・・・・・)から生まれたんだから、人間なんだ。


 人間だから働けと言うなら働く。そのかわり、腹いっぱい食わせてほしい。必死にしがみついて懇願した。わけはわからなかったが、なぜかカーラ様は私が気に入ったらしい。


 もらったゼリーは美味しかったな。



 今でも好きな物はゼリーですわ。ここからは修行の後、いろいろと変わりましたので、今の口調で話しますわね。ちなみにこの口調はカーラ様が嫌がるのでお気に入りですわ。



 そのあと瞬きしたかどうか、一瞬で花畑に私は連れていかれました。そこには一メートルくらいの大きさのうさぎの群れが。しばらくはカーラ様に絡みつくうさぎたち。


「ちょ、お前ら、やめい!」


「……なにしてんの」


 うさぎたちは意味もわからずうさぎにされていた(・・・・・)のだからカーラ様に元に戻してほしくてしがみついていったのでしょうが、そんなことでカーラ様が願いを聞くわけがない。覚悟を持つこと、人として生きること、願い、必死に手を伸ばし、それでも力が足りないこと。そうでなければカーラ様は助けてくれませんわ。身にそぐわない願いをするものも駄目でしょうね。私はお腹いっぱい食べたいと、それだけでしたから。


 まっすぐ歩きたい老人に杖を貸すくらいのものだと言ってましたわ。本当はお人好しなのでついつい助けすぎてしまうのですが。仕方ありませんわね。


 そのあとは、私はカーラ様にいろいろなことを教わりました。三年くらいでしょうか。カーラ様によると一日だとか言ってましたわ。カーラ様ならば一日にそれくらいの時間を使えるということですわね。ここでたまに修行もするらしくそれに私もつきあいました。基本の魔術といろいろな科学的な物質の特性なども教わりましたわ。多少強いくらいの冒険者には負けない程度には鍛えてくださいました。身長も三十センチ近く伸びまして、……ちょっと私のほうが高くなったのでカーラ様は涙目になっておりました。恩知らずな身長を削ってしまいたいですわ。まあ気にするなと言われましたけど。


 その間に楽園の仕組みを教わりました。なんでも殺されるくらい、死刑になるくらい悪い人を更生させるために閉じ込めているらしいですわ。やがてはカーラ様の国の住民になるようですが今はここでうさぎに姿を変えられて反省させられているらしいです。


 ここではあらゆる暴力が意味をなしません。お腹は空きますし畑は用意されますが盗みはできます。ただしカーラ様のしかけで盗んで食べたら食べただけお腹は空きますし動けなくなることはないもののそうとうに辛い目に合います。自分で畑で作ったものや好意で分け与えられたものだけが飢えを癒せます。ここの畑で取れるのは金色のリンゴだけ。一生懸命世話をするとどんどん実がなりますが手を抜くと腐ります。たくさんの人が世話をすると早く実ります。カーラ様によるとこれで経済の基本の仕組みを学べるようですわ。まずは畑に種をまき世話をし見守り、働いて働いて、時期を待たねば収穫の旨味も味わえない。当たり前のことなのに多くの人は忘れているのだと。とくに成功したいと思っている人間ほどなぜか自分の力ではない他人の力が見えなくなるのだと。そうすればいくら豊かになっても満たされない。そういう仕組みでこの楽園はできています。でもそれって普通の社会なのでは。それがわかるのは私が賢いからだと言ってもらえましたわ。えへへ。


 まずは生み出されるものがなければ得ることはない。奪い合うことは人の常でもそれだけでは生きていかれない。喧嘩はしてもいいけれどそれで相手がその場所を去れば自分の取り分も少なくなる。


 そんな当たり前の世界。この楽園はただの縮図です。


 ここで私は様々なことを学び、魔女の弟子を名乗れるようになりましたわ。もちろん、カーラ様のつゆ払いくらいはさせていただきますわ。美味しいものもたくさん食べられましたからね。牛丼とかトンカツがとくに大好きですわ。


 私は満たされた。ならばまずは借りたものを返そう。そして利子として私は彼女を支えていきましょう。


 ただの、最初からの約束ですわ。






 楽しめたら幸いです。



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