世界との接触
予約間違えて1回飛ばしましたすみません!
白の魔女が世界に現れる。
さて、いま私はソリド島を出てメッシス大陸中央南部海岸に来ております。正式にはムルベイ公爵領ロードバース子爵管轄領内南海岸。森とか草原とか土地はまあまあ広いけどド田舎だ。ここから冒険を始めるぜ。海は空を飛んですぐだった。ちなみに立石はマイルームでゴロゴロして漫画読んだりしてる。ちくしょー私がニートなのにー! 重鎮だが千年もやってたら部下に全部仕事を投げてしまって特別な仕事は特にないのかもしれん。うらやましい。
私もスローライフしたい。まあな、世界にかかわらずに生きるのもせっかくこの世界に来たのになんか違うだろ。楽しむならいいだろう。別に世界を滅ぼしても星のんはなんにも言わん。私が世界を滅ぼしたくなるようなら滅ぼせばいいらしい。まあそこは信頼されてるのもあるだろうな。実際私はひとりも殺すつもりはないんだから。
いろいろトレーニングしてたのだって人一人も殺さずに世の中を平和にするためだ。力こそパワーたけどそのパワーがあれば殺さないのも自由だ。まあ現代の日本で力こそ正義とか言ってたら暴力装置に負けるけどな。力が正義なんじゃなくて思想を通すには力に負けないことが必要なんだろう。負けないためには争わないことだ。思想を通すだけなら抗う意味がない。この世界では抗えるので抗うけどな。
まあそれはいいや。さすがに山賊には負けないだろう。いろんなシチュエーションでマイルームで戦いまくったので大丈夫なはずだ。まあ今回は命を奪えないのが初めてなのが心配かな。
それに楽園の下地を作るのに人がほしいんだよな。教育が上手く行けばいいんだが。犯罪者をどうやって集めるか。
犯罪者がモラルが薄い理由なんて、一旦力に屈服してから後にいい思いができたらそうなるだろう。普通には手に入らないものが暴力では手に入る経験をしたらそれこそが自分にとって正しいことになる。それでは損をするんだと教えこまないといけない。それが矯正というものだろう。方法はある。さて、それを通すのにこの国の法律には従っていられんので、今から本物の魔女になるわけだ。
私の正義のほうが正しいのは当たり前だと思う。洗練された未来の法を知っているんだから。戦争は絶対に悪、なんてこの世界では一般的ではないと思うぞ。なぜなら大昔は民衆が戦争の原因になることなんて日常的にあったことだからな。家族のために、生きるために、己の尊厳を守るために戦わないといけない。負ければ奴隷、味方を攻める前線に立たされたりもする、そんななんの国際条約もない時代に戦争は悪だとするのは無理がある。やられたらやり返せ、だろう。ならどう止めるかと言うことなんだ。
教育だろうなあ。一番は。戦争なんてメリットないぜ、そう思えばやらないだろう。それには民族対立みたいなものも無くしていくべきだ。それをわざわざ煽って植民地に紛争を起こさせた国もある。そんなクソな植民地時代の先進国は未だになんの罪も償ってないぜ。まあ平和と平等が支配するようになったなら歴史なんてどうでもいいことなんだが。この世界の人間がそう思えるかは難しい。
……正直世界全部の戦争なんて無くしようなくないか? 現代でも無理なのに。某大国の戦争だって実質不利益だぞ。頭のいいリーダーがそんなことに気づいていないわけがない。ならやめられない理由があると考えるのが普通なんだよな。まあ他国のことはわからないからな。情報が入ってきにくいから。意地なんて理由じゃないと思うぞ。予算割いたのに成果上げないわけにいかないとかかも知れんけど、それは見積もりが甘かったんだから知らん。
まあそれはいいや。問題はこの世界のことなんだから。さっそく寂れた村を見つけたんでいろいろ調べていくか。
「おんや、珍しい。お貴族様みたいに綺麗な服だ」
「こんにちは」
ちなみに今の服装は例の真っ白いローブだ。お貴族様並みの綺麗で汚れもないローブ、それだけでもこの辺りでは高級品だ。フードはそのままおろしてるのでつやつやな毛並みもよく見えるだろう。髪質がいいだけで育ちの良さって映るだろうな。
うーん、日本の田舎みたいにすれ違う人に挨拶するみたいなことはないか。都市部ではそんな機会まずないけど田舎だと挨拶が犯罪抑止になるからな。小さい集団でコミュニケーションはストレス軽減に重要な役割を担ってる。まさか気分で挨拶してるとかそんなことはない。じっさい効果あるからやる。対話のリズムをつかみやすいしな。
この辺りだと旅人なんてすぐにいなくなる相手なんで気を使う必要もない、みたいな感覚なのかもしれないが実際田舎でも雰囲気を良くしたほうが栄えると思うんだが。まあこういう、首長がなんとかしてくれる、自分がなにかする必要はない、とか思ってる人間は日本にも多いしな。個人が積み重なって村や町や国になっていくんだから個人に責任がないわけない。豊かに暮らしたかったら明るく元気に働いたらいい。歯車として。それのなにが悪い。
まあそれはいいや。私はニートするし。挨拶好きだしな。
「ここは作られたばかりの村なんだな」
「ああ、敗戦者が流れてきて作った村だからな」
暇なんだろう、話に応じてきた。ふむ、別に悪人の村とかファンタジーにありがちな村でもなさそうだが、私がここに宿泊したら村の一存で荷物とか奪おうみたいな話し合いがあるかもしれないな。犯罪者が犯罪者になる一番の理由は貧困だ。
「この辺りに山賊が出たりはしないのか?」
「大きな山賊団はある。村を作って収穫時期に他の村を襲ったりしているよ」
「行商はどうしてる?」
「行商人は馬鹿じゃない、身を守る手段は整えてる。そんな危ない相手を襲うくらいなら商売が終わったあとに戦力の知れてる村のほうを襲ったほうがマシだろ」
「詳しいじゃないか。この村でもやってるんじゃないか?」
「ぶはは、まあ悪いことはしてないとは言わんがな」
そんなもんだろうな。まあ私みたいに目立つ人間をさらったりしたら背後についてくる武力が怖いだろう。さらったり殺したりしたら適当な理由で村を焼かれて全滅だ。高貴な人間の誘拐なんてやるわけないな。犯罪を犯すにも確固とした力が必要だ。この村にはその気配は無い。戦場をシミュレートしまくった私の気配察知でわからないとなると相手は超達人だ。そんなやついるわけないな。
「山賊団の場所がわかるなら潰すんだが」
「嬢ちゃん魔法使いか。相当強い貴族の魔法使いさんに見える」
「わかるのか?」
「ここは敗戦者の村だ。別に最初から田舎育ちじゃねえ」
「なるほど」
ある程度教育を受けた者が集まっている村だ。そして村の端は外からの侵入者やモンスターと対峙する可能性がある。この男はそこそこの知識と実力があるんだろう。私に対してフレンドリーなのは勝てないのを見越しているからだ。抗っても無駄なら仲良くするのは最強の戦術だからな。まあ貴族っていうのは外れてるんだがそこはいいだろう。
「お嬢ちゃんみたいなのに狙われたらアイツらも終わりだな。このあたりに廃棄された山砦があるんだがそこを根城にして山賊村を作ってる奴らがいるよ」
「協力してる村とかは?」
「はあ、さすがだね、その山砦の近くに大きめの村がある。宿もある大きな村だが」
「行方不明がよく起こる村か」
「知ってるから誰も近づかねえけどな。がっはっは!」
「違いない」
「まあ掃除してくれるなら助かるよ。俺もついていこうか?」
「ん? 畑がいいなら道案内を頼むか」
「俺が奇襲かけたりするかもよ?」
「はっはっは、通じると思うならやってみるといい」
「おおこええ、こりゃ大物だ。アイツら終わったな!」
話が通じる男を連れていくことにした。名前はジョシュというらしい。助手くんだな。
「お前さんくらい強かったらまだ冒険者やれるだろ」
「おいおい、見ただけで戦力わかるのかよ」
「お前さんならグリズリーくらい真正面からでもやれるのにしっかり奇襲かけそうだ」
「うわ、こええ。こりゃかなわん。こっちだ」
ジョシュくんは革の鎧をカタカタ言わせて走る。まだ少し遠いんだろう。このあたりにはモンスターの気配も薄い。まあなんかあっても私には最強のマフラーがある。
「きゅ?」
「ベルはマフラーのフリしてな」
「きゅうん」
寝た。こいつは本当にお気楽だな。ちなみに漫画が好き。風の精霊王にそのへんの騎士団長くらいでは勝てると思えん。偽神でも怪しいってか無理。私が寝てても問題ないくらいだろう。よく使役できたな。まあ私の周りが一番楽しいとは思うが。
さて、森の風の気配から大きめの村があるのを感じるな。さて、どうしたものか。
「一網打尽にするには村のボスに喧嘩を売らせるのがいいか」
「村も潰すんだな。アイツらなら俺が剣を抜いて正面からいったら襲いかかってくるわ」
「犯罪に走るようなヤツは低能に決まってるって?」
「頭が働くのなんて上澄みだけだよ」
「違いない」
殺気を少し漏らしつつソラノツルギを抜く。実戦か。うーん? ちょっと緊張するか。
「問答無用でいいんだな?」
「問題ない。全員打ち首になっても仕方ないヤツらだ」
「世も末だね」
「なんだあ、お前らあ! おい、討ち入りだぞ!」
「おい、襲撃だ!」
「集まれ、早く!」
おーおー、蜂の巣を突っついたみたいになってる。違いない。
「外道の巣らしいな。お前たちを楽園へ送ってやろう」
私としてはマイルーム内の新しい施設に送るだけだが端から聞いたらあの世送りだろう。大して違わんけど。
「てええい!」
「うおおお!」
「大ぶりすぎ。遅い。ほれ」
「え? え?」
襲いかかってくるヤツらを次々顔にタッチしてみせて楽園へ放り込む。わざわざ顔に触って見せてるのはフェイクだ。勝てると思う要素がなければ逃げ出すだろうからな。接近できるだけで倒せる気がしてしまうもんだ。普通は剣が当たれば死ぬ。しかしジョシュくんまで動揺してどうする。ジョシュくんは剣を構えたカカシになってるぞ。強いはずだけどまあ怯んでも仕方ない、戦闘経験を積み上げまくった達人の私がチートまで振るってるんだからな。門にいた十人くらいは楽園の住人になった。さて、次も来てるな。おやぶーん、も来てる。ちょっとくらい逃げ出しても戦いが面白くなるだけだ。さあ、こい。
「きさ、貴様、なにもんだ! どこの使いで来やがった!」
「楽園だよ。女神様が待ってるぜ」
待ってるのはミネルバと立石だけど。あとうさぎ。
楽しくなってきたのでどんどん放り込む。まずは村が落ちたな。……というかオッサンばっかり。当たり前かも知れんけど。
そのまま山賊砦に行くがあんまり変わらんだろうな。
剣を下げたまま砦に向かうと矢が降ってくるがマナバリアで落とす。私がリアルでマナを固めた時には諦めたほうがいい。どこかのマッチョさんの腹筋より硬いから槍も通さないけどな。真正面から砦に向かい扉を力でこじ開ける。レベルを上げたからオーラは使わなくても怪力だ。オーラも基礎は学んでる。生命の精霊の魔術なので難しくはない。出力がパワーだ。
「はいはい、早く出ておいで。うさぎにしてやるから」
「……わけのわかんねえことを……。かかれ!」
「ほらほらどーしたどーした」
攻撃をスルスル躱して躱しては顔面にタッチ。触れられなければどうということはない、というふうに見せかけてる。スピードも必要ない。剣術の達人はスピードで戦わない。間や隙やタイミングや呼吸や体の仕組みや物理で曲げられないとこを攻めていくだけだ。相手にしてみたら魔法にかかってるようにも見えるが、これが術ってもんだ。焦ってかかってくれば動きは大雑把になり慣性で前に進めばフェイントもクソもない。フェイントがどんなに優れていようが人間は運動法則で動ける範囲から飛び出したりはしない。量子も光速は超えないように物理ってのは曲がらないものだ。魔法があってもな。そこが曲がるとしたら考えるだけ無駄だ。
さて、だいたい終わったか。被害者もいるみたいだからそこまで行って扉を破壊して回る。あとは知らん。勝手にやればいい。助かったと喜ぶ、おそらくは奴隷に売られる予定だっただろう人たちが騒ぐが、うーん、面倒くさい。
「じゃあこれで。ジョシュくん、あとは任せた」
「おいおい、どーしろってんだ」
「山賊討伐したから報奨くれって言ってその金で面倒みてやるとか?」
「勘弁してくれ……」
まあ私はなにかしてやるつもりもないしさっき捕まえた犯罪者がいっぱいなので楽園の整理をしてくる。はあ、面倒くさい。やっぱりニートするぅ!
そういうわけにもいかないので子爵領の首都へ。まずはこの世界を知らないといかん。誰か報告とか変わってくれんかね。
カーラがいまさら一般人に負けることはないですね。どうやっても風の精霊王ベルを突破できませんし。マイルームなきゃカーラにもできないので。そもそも腕が違いすぎるのでフェイントかけようが奇襲かけようが当たりませんけど。小さいカーラがひょこひょこ攻撃の隙間を縫って進むのを見てると楽しいかも?




