引きこもり、引きこもれ、引きこもれば
最初から出す予定で話にあまり上らせなかったキャラの一人です。ちなみにこのお話五章仕立ての予定です。
今日も今日とて引きこもり。今日はおそとでキャンプするかな。真竜のハムを作ったのを厚切りして豪快に焼くつもり。さて、と、拠点テレポートで移動した海際の最初の私の出現ポイントからマイルームを出る。
「お前が白の魔女か」
マイルームに戻る。いやー、疲れてんのかな。無人島に人がいるとか。幻覚を見はじめたらさすがに酒はやめたほうがいいぞ。あれ、やめてたわ。
『消えてんじゃねーよ、さっさと出てこんかい!』
なんか白い神官みたいなローブ着た金髪碧眼でサラサラロングヘアの女が随分やさぐれた口調で呼びかけてくる。なんだあいつ。この島まで渡れる教会関係者で私に用がありそうなのは一人しかいないんだよな〜。教会の魔女……。
よし、今日は寝よう。ごろりん。
『てめえ、無視とかナメてんのか!』
前世のダチにこんなヤツいたな〜。やたら法律とかうるさいクセにモラルは低いし口調は汚いヤツ。は〜。あいつか。
私は人の名前を覚えるの苦手なんだよね。特徴のあるヤツはすぐ覚えるんだけど。関連付けした記憶は忘れないんだけど単独で年号とか覚えようとしてもまったく無理だし人の名前も何回も聞いても忘れてしまう。例えば大岩さんって小さくてほっそりした女の子とかは覚えられるんだけど、どこが大岩なの、って。高橋さんとか斉藤さんとか言われて大した身体的特徴や顔の特徴がないのは覚えられない。こういうのは差別とか言われてもな〜。能力的に無理だし。私はできることしかしないからな。無理しても楽しくないし。
『は〜や〜く〜で〜て〜こ〜い〜や〜!』
「うっせ〜よ立石法子。お前が教会の魔女かよ」
マイルームを出てとりあえずやかましいので文句を言っておく。コイツは前世の高校のときの不良仲間の立石法子に間違いない。
「は、さすが槙中だな。勘のいいガキは嫌われるぞ」
「うっせーわ。誰がガキだこののっぽ立石法律大好き法子」
「懐かしい呼び方すんなや。千年前のこと思い出したじゃねーか! バイク乗り回すのに交通法規重要だろうが!」
「バイクと言えば?」
「カワ○キ一択」
「懐かしいな〜。どこのバイクがいいとか私に言ってもわからんわ。お前いつ死んだの?」
「んー、私が死んだのはたぶんお前よりちょい後だぞ」
マジで時間とか関係なさ気だな。まあそれはいいや、いまさらだし。
山野といい水野といい立石といい、それぞれ会ったタイミングの問題で知り合ってないから他のヤツがどうしてるかは聞けないな。あ、コイツと山野は一緒に集まって遊んだことあるし水野もコイツと旅先で会ったってメールに書いてたな。メールでダチがそっち行くって送ったら水野のヤツがいつも無気力なクセになんか張り切って出迎えたらしい。その時は四国まで立石がツーリングして水野はうどん屋巡りにつきあったとかメールしてきてたな。水野と山野はどうだったかな……なんか集まって遊んだんだけどそのときは地元だったしな。山野の引っ越した田舎は長野の方だっけ? だからそっちで一緒はしてないはずだ。遊んだのはうちの近所でだったし。いや、コイツ全国旅回りしてたっけ。じゃあ会ってるわ。
「はあっ、たくよ〜。ギルドと聖王国から使いできたっつーのに相手がお前ってさ〜」
「うるさいわ。さっさと要件言え」
「とりあえずソリド島の権利は星野が手続きしていったからお前のもんになった」
「まてまて、いろいろ情報が多いけどわざわざ手続きする神ってなんだよ」
「アイツは面白かったらなんでもやるだろーが」
「やべー反論できねー。嬉々として怯える役人と事務手続きしてるのが目に浮かぶわ」
「もともとお前に贈っとくって言ったらしいじゃねーか」
「おくっとくとは言われたけど島に送迎の送っとくじゃねーのかよ!」
「ぎゃはは、その反応狙ってたんだろ!」
「また意味のわからん伏線はりおって」
ノリは大切。まあ星のんのやることに突っ込んでたらきりがないけど、最初からこの島は私のもんだったわけで。やはりここに王国を建てよう!
「それとギルドだな。やっぱり真竜の扱いは大変だったらしいぞ。税金はミネルバ商会の方から三割で取ってあるけど経費とか処理すんなら早めにしとけってさ」
「そっちはミネルバがやるだろ。私は知らん」
「ミネルバの売買スキルは私らギフト持ち全員使っていいって話だが」
「え、そうなの?!」
「このギフトサービスでつけたヤツだし、いちおうアンタのマイルーム通さないとダメだけどね〜」
「いきなり入ってくんなミネルバ。それ完全に私が有利じゃね?」
「ギフト持ちにギフトの制限は無効よ」
「え、マジで?! それギフトのメリット無くね?!」
「マイルームの設定は自由なんだからそこならアンタ無敵でしょーが」
ようするにマイルームに入ったら地獄だから入れないけど無理矢理は閉じ込められない。なので入れたら使われるだけだから入れるなということか。前に私が独占して神に取引を持ちかけるって話があったが星のんの思惑を知られたら実は使い放題ってことかな。ただマイルームを展開してしまってもそれだけだと商談室まで入れないけど知られていたらその入った段階で使えるってことだな。白のベルとか渡さなければ使い放題にはならない。ちょっと混乱したわ。
「あー、後でやれ後で! てわけで私は知っちゃったけど他には黙っといてやる。ミネルバビール売ってくれビール。じゃなくてだな」
いきなり依存症患者の前で飲もうとするな。コイツにデリカシー求めても無駄だけど。法律に従ってたらなにしてもいいってヤツだからな。きょうあく。ミネルバを通したらマイルームは通さなくていいのね。そもそもミネルバは通販スキルのほうをメインで管理してるんだったわ。そう言われてみれば通販って私がサービスでもらったスキルなんだから他のギフト持ちも使えて当然かも。他のギフト持ちは天使いるかいないかわかんないけどマイルームの管理までミネルバに任せてるし私が通販スキルまで独占したらズルって言えばズルだしね。まあそれはいいか、どっちにしろチートだし。白のベルはギフト持ちにはくれてやろう。
「立石の鑑定していい? するけど。こっちの名前はサンドラ? 忘れるわ」
「覚えろや。相変わらず記憶力偏ってんな。あと誰もサンドラって呼ばないから教会の魔女と呼べ」
「教会のって呼ぶわ。心の中では立石って呼びそうだけど。そういえば天職はルシファー、ギフトは七つの美徳だっけ? てめーめっちゃチートじゃねーか!」
「ふはははは、天職スキルがギフトだから他には無いけどな!」
「それもまた辛いな! いやいや、七つの天職スキルがヤバいか」
「試してみるか?」
ん? やり合おうっての? それも面白そうだな。なんか昔からコイツの顔見るたびに喧嘩してた気がする。そのあとで仲良く遊ぶんだけど。じゃあ場所は用意するか。ふふふ、我が新たな奥義を見せてやろう!
「マイルーム・マイワールド」
パチン、と親指と中指を弾くと同時に周囲のデータをすべてトレーニングルームにぶち込んで相手と自分をそこに移し替える。よっぽど勘が良くなければ世界が変わっていることに気づけない。普通のヤツならハメ放題だけどギフト持ちにダメージを与えるのはこのスキルでは難しい。ただ地形を変えることはできるんで相手に空を飛ぶスキルとかが無いと溶岩にダイブすることになる。溶岩の雨を降らしたりもできるが私もダメージを受けるんでそこはできなくなってる。まあミネルバだってギフト持ちは全員優遇するだろうしな。そしてもしそんなことをしたらつまらないっていう最悪のデメリットがある。星のんが許さないだろうな。まあ私もやらんし。
ただ、自由に暴れ回るための場所提供としては最高だ。
「へえ、おもしれえスキルだな。コイツがお前のギフトか。攻撃力はなさそうか?」
「むっちゃあるぞ。無敵まであるぞ」
「そりゃやべえ。まあ地形を自由に操れるとかならダンジョンでもあるけどな」
ダンジョンってマイルームに近いスキルだよな〜。あっちもギフトと言えばギフトなんだがやってるのがイルマタルだから上位の私らには通用しないとこがある。それに向こうは地形変化にはマナポイントがかかるし。
まあそれは置いといて、やるか。
「七つの美徳、節制」
「ん? 環境対策か?」
「気づいたか。酸欠とかにされたらたまんねーからな。七つの美徳、節制。補給の一切をマナ任せにできる」
そういえばコイツはレベルを持ってなかった。この世界だとモンスターと同じでポテンシャルだけで戦ってくるってことだな。実にマズいのはコイツは千年も生きてるってことだ。どう考えても化物だぞ。
「さあ、やり合おうぜ! 聖魔法、神聖なる光撃!」
「直接攻撃はマナバリアだろ!」
神聖魔法は生命の魔法だ。当然だがギフト以外も使ってきやがるな。マナバリアはマナを単純に反対方向に向けて並べるだけでエネルギーは相殺されて消える。その際に使用するマナは相手の半分だ。
「七つの美徳、希望」
「貫通?!」
やべ、なんとか避けたが光速だったので致命傷で済んだ。げほお! めっちゃ直撃。どうやってマナのバリア貫通するんだよ!
「量子トンネル効果の確率を操作してエネルギー障壁をジャンプできる程度の能力だ」
「チートすぎんだろがい!」
反則もいいとこいってるな! 量子トンネル効果で壁抜けができる可能性があるなんて馬鹿なことを言うやつがいるけどそれは全身を作ってる量子全部が壁を作ってる量子全部のエネルギー障壁を一度に突破するってことなので例えばそんなことが起こるなら指だけ壁に入って切断される、とかが日常的に起こることになる。当然そんな馬鹿なことは起こらないので量子の持つ確率とエネルギー障壁の関係を知らなすぎゆえにそんな発想になる。例えば一万発水を殴ったら海が割れることが一回くらいはある、というくらい無茶だ。現実は一生殴り続けても宇宙がもう一回始まって終わってもまったく無理だ。
世界中の誰にも干渉しないで生きるくらい無理だ。人の作ったものを一切触らないばかりか人間の親からも生まれないくらいの確率だ。もちろん誰にも確認できないので無理だ。
量子トンネル効果はあくまでも微小の量子のサイズで起こり得ることがわかっている。なのでそれ自体が嘘というわけではない。量子トンネル効果で壁抜けできるというのがこのクジは千京回毎日引いていたら千京年くらいしたら当たるかも、ただし一円だけ、というのを絶対当たる、儲かる、というくらいの詐欺だ。当たらないとは理論的に言えないが当たると言い切られたらどうか、と言うことだ。そんなクジを買うヤツはただのカモだ。当たりが入ってなくても見分ける術すらない。間違いなく起こらないと断言しても絶対ではないと反論はできる。ただそれをあり得るからある、現実的である、というのはまったく違う。非現実的だ。
まあそれはいい、問題はそれが可能になっているということなのだから。クソチートがあ!
「大したことねーよ。正義、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
「ぐべ?! ちょま!?! 全部、ダメージ?!」
「ライフポイントに必中だぜ!」
「反則じゃねーか! いや、そういうことなら! 酸素の風、ファイア!」
「ごはっ!? 信仰、慈愛!」
「神の奇跡で環境、地形効果、状態異常も無効にできて慈愛の力で回復か、わかってるけどなんでもありだな!」
ほかは勤勉とかだな。さすがに全部戦闘向きじゃないってことだ。今使った四つだけでもチートだけど! コイツは?! 黒飴!!
「甘い、不屈!」
「肉体の頑強化だな! 洒落にならん! まあ通じるなら!」
戦いながらマナ領域支配を広げ一息に空気を束ねる! くらえ!
「五千、六千気圧!」
「やばっ!?」
ドカッ、と音より速い爆轟が一気に広がる。周囲のすべてが溶け散らかす超高温超圧力だ! このドミニオンの下ではすべての風は私の支配下にあるので私には効かないけどな! ただマナはバカみたいに減るが。それは全身吹き飛んで再生しないとダメなコイツもだ。
「はあ、このバカ魔術、さすがだな。科学知識があって勘のいいやつをこの世界で放置したらこうなるってか」
「ほめるなよ」
「呆れてるんだよ! なんで自分に被害無いんだ物理だろが!」
そんなもの自分が集めてきた力と同等の力をもう一つ集めて、それで逆向きに押し込んだらいいだけだ。原理は簡単だから現実的であるとは言ってないが。
「人のわかる言葉なのに人と話してる気がしねえ」
「ほめるなよ」
「呆・れ・てるんだよ!!」
「仕方ないやつだなあ」
「聞き分けのない子みたいに言うなや! この常識が非常識!」
「なんだその呼び名初めて聞いたわ!」
常識だって突き詰めて行けば非常識。当たり前だよな。世界のすべての常識知ってる人がいたら雑学博士だわ。そんな人が溢れていたら常識的じゃない。常識で考えたらほとんどいない。そして科学や物理学の常識を組み上げたらスマホが作れる。どれくらい常識ってものが非常識かわかろうというものだ。
「理屈が通ってるのに屁理屈に聞こえるってなんですかねえ」
「なんでもやり過ぎたらギャグだってことだな」
「自分のやってることをギャグにするんじゃねえよ」
実際に世の中の大抵のことは限度を知らなきゃ別の質の物に姿を変える。水だってコップ一杯と海のそれじゃ意味が変わるように。水一杯飲む? 一杯とは言ってない。コップ一杯と海一杯はどっちも水一杯だろ。常識。
「いろいろ説明しても言葉が足りてないんだよ!」
「論文の内容を一言で言えってくらい無慈悲だな!」
説明足りなくても仕方ないだろ。世界ナメんな。説明足りないの仕方ないだろ、長い説明いらないなら論文いらないじゃん。まあそれはいいや。
「はあ、このへんでお開きにするか」
「しんど、もうお前とはやり合わねーぞ」
「お前さんと話してると昔の言葉に戻るわ。おっと、自室に案内するぜ」
指一つ鳴らして自分の部屋にする。あ、キャンプするんだった。
「まあちょっと休むか。千年も生きたんだから積もる話もありそうだな」
「まあな。ここでバイク買ったらどうなるんだ?」
「動力はマナになるけど正直オススメしないわよ」
「あ〜、知識チートとかやらんほうがいいけどそもそも珍しい物持ってたら貴族だの司教だのがうるさそう」
「でも乗るんだろうな」
「誰に言ってんだ当たり前だろ私のすべてだぞ」
「息継ぎしろや。まあ私が払うんじゃないしいいけど」
ミネルバが取引するかどうかはミネルバが決めるんだよな。じゃあマイクロ原発よこせとか言っても売ってくれないかも?
「売るけど?」
「買わねーよ!」
どこからか取り出すんじゃねーよ。ミネルバえもんめ。
「はー、しんど。お…うさぎがいる。こっちゃこいや。ゴロゴロ」
「いやー、うちの街で一番有名な不良が乙女趣味ってウケるよなー」
「お前もだろが。私は好きなもんを人に縛られないぜ」
「私もだな〜。そういうわけで休んだらキャンプな。ドラゴンハム食いたいし炭火焼きしよう」
「なんだそれ楽しそう」
コイツもツーリングでミニキャンプとかしまくってたわ。じゃあゆっくり遊びますかねえ。
立石はバイク知識はあるけど機械工学は触りたくないタイプです。バイクの話しても異世界なんでもっと楽にいいもの作れちゃうんですよね。知識チートでなんでも現代風になる、なんてことは起こりません。




