風の精霊竜
初めての最終決戦!
さて、あれからもハクスラを重ねて十分な力を手に入れた。レベルは百八十まで上げたぞ。多分もう十分だろうな。必要な物もそろえた。ダンジョンがなかったら金欠で困っていたけどな。外に出たらやっぱり精霊竜が襲ってくるんだもん。ヒマなのかよ。
しかし次こそ白の魔女カーラの真骨頂を見せてやろう。あの緑の精霊竜に。
名前 カーラ 天職 ニート
レベル 183 LP 915 MP 9150
・スキル 全鑑定 アイテムストレージ 素材ストレージ マナストレージ×20 情報ストレージ 怠惰 マイルーム(ギフト) 風魔法 キサラギ流片手剣術 サツキ流柔操術 解体 乾燥 熟成 テイム 錬成 付与 呪術 法術
・アビリティ 種族特性(仙人) メッシス大陸共通語上級 最大マナ十倍
スキルとかはあんまり変わってない。サツキ流は対人に取っておいたがあんまり使ってない。マナストレージはバカみたいに積んでるがミスティルテインがあるのでほとんど自在に魔術を使えるレベルだ。もう鍛える意味はあんまりない。あとはプレイヤースキルを鍛えまくるだけだな。
「イケそう?」
「まあな、これだけ準備したんだし、イケるだろ」
風の精霊竜。全長はコントロールできるが通常十数メートル。体重は気圧の関係で変動する。世界中の空気のマナの集合体であり世界中の空気がヤツを作り、ヤツの力となる。不老不死を超えた不滅。
不老不死の敵の倒し方なんてなんパターンも考えたがコイツはヤバい。なんせ殴る蹴るが実質通じない。ギフトの中には物理無効なんてものがあるがコイツは元々のポテンシャルが物理無効で不滅だ。殺し方は現実問題として存在しない。ならどうやって倒すのか。圧倒的な力を見せて抗うのは難しいと悟らせる。ヤツは風なので退屈なのを嫌う。地道に殴り続けてもそのうちどこかに行くだろう。しかしそれでは面白くないからな。
まずかったのは私が風魔術でヤツに抵抗したことで親近感と新しい面白さを感じさせてしまった、つまり興味を持たせてしまったんだ。なのでストーキングされている。人間の姿とか取らないよな。気持ち悪すぎる。まあ竜のスタイルはもふもふ系で可愛いんだけどな。
しつこい男は嫌われるぞ。まあメスかもしれんけど。精霊に性別なんてないか。アイツらは意思を模していくうちに意思を持つようになったんだ。つまり個体なんだよな。ただ量子みたいに箱の中に閉じ込めても観測するまでどこにいるかわからないし箱の外にいるかもわからない。厄介極まりないんだが。
そんなヤツをどうやって屈服させるか? 意思を拡散して死を疑似体験させてやるのが一番だと思う。どうせ死なないしな。ぶっ飛ばしてやる。私も死なないけど死んだ瞬間は気持ち悪いからな。軽く絶望感がある。つまり強く意識を向けさせたあとに意識を拡散させる大規模な変質をさせてやる。そのためにマイルームも通販も全力で使わせてもらう。幸いなのは邪神のダンジョンでいろいろ稼げて日本の物資を買えたことかな。足元に置いた一斗缶を素材ストレージへ仕舞う。これをどう使うかはあとのお楽しみだ。
ちなみに邪神にはダンテと名前をつけてやった。地獄っぽいから。すごく喜んで骨の手をワシャワシャして若干キモかったのは内緒だ。まあ邪神だしな。
さて、始めようか。
まずは私の近くにいる精霊、上位精霊に空気の乾燥を頼む。周辺半径一キロの領域だ。あの精霊竜はこちらをナメてるので光速で移動してきたりはしない。私が精霊に頼みごとをしているのにも干渉はしてこない。ナメるのはけっこうだが精霊竜であれマナの性質を覆せるわけではない。
つまり濃度や強度、距離。これらを優位に持っていった場合支配権はこちらに移るのだ。つまり王より私に従う。革命家だな。風の支配圏を書き換えてやるぜ!
ごうごうと風が集まり、うねる。私のマナに従い、気圧がどんどんと上昇していく。すべての仕上げの準備から始める。ヤツはこちらに近づいてくるな。相変わらず無駄にマナを放出してやがる。自分が放出したマナを風が受け取り自分に返ってくるので事実上無制限にマナを使えるわけだ。チートもいいとこだな。逆に言えばこれくらいじゃないと私とガチではやりあえないだろうけど。
ここで説明しておくと無限と無制限は違うものだ。英語でもインフィニティとアンリミテッドだしな。たとえば一個のリンゴを食べたらすぐに次のリンゴが出てくるのが無制限。無限の場合リンゴが宇宙空間を満たすインフレーションが起こる。やべえなリンゴ。無限は概念であって現実には存在し得ないけど(次元を変えるようなことが起こればあり得るけどその場合すべて吹き飛ぶ)無制限は事実上の終わりがないことでキャンセルも利くし実現もできる。インフィニティと呼ばれる魔法も無限ではなく無制限のはずだ。インフィニティじゃなくてアンリミテッドだな。だけどインフィニティって名前がついてるのは、星のんのことだからなにか仕掛けがあるんだろう。赤の魔女に会うのが楽しみだ。今は十三か四歳らしいけど。幼女じゃん。身長は百七十あるらしい。ぎゃふん。私は百三十八で変わってないよ? うっせえ誰が小人族だ。言ってない? 大丈夫?
ゼロとかインフィニティとか概念に過ぎないものもギフトなら実現しうるのか。真空って厳密にはゼロではないんだけどギフトのゼロなら真空崩壊起こせるのかな? インフィニティも実現してるなら宇宙破壊できるし実はヤバい? 私はマイルームに逃げるぞ、星のーん!
天丼は置いといて。実際にマイルームのほうがヤバいギフトではある。すべてのスキルの中で一番ヤバいのがどこからでも消えられて移動できるところだろうか。宇宙に飛び立ったりもできる。地球から宇宙へ置いて行かれてもポインタが置いてあれば帰ってこれるぞ。チートすぎる。なので別にうらやましくなんかないんだからね! 実戦向きスキルとかうらやましい。ぐすん。まあマイルームで私は良かったけど。
天職にはニートの他にも七つの大罪天職とひとつの美徳天職がある。美徳の天職は七つの美徳を一人で使えるルシファーっていう天職でメチャクチャなチート野郎だがギフトはない。というかそれがギフトだ。七つの大罪がもらったギフトは私のマイルームのほかは、インフィニティ、ゼロ、物理無効、マナ無効、コピー、そして今は使い手がいないがイーブンという相手と同じ能力、同じ体力、同じマナになるギフトがある。どれもクソヤバい。攻略法考えとけってことかな。マナ無効とかどないせーと。まあマイルームはギフトだから武器庫を作っておけばいいんだがな。
まずは風の精霊竜を倒して、支配下に置けたら置く。手に負えなければ奥の手を使って反省するまでタコ殴りにする。使いたくないけどな。
風の精霊竜はなにやら面白そうなことをしている、とこちらを観察しているようだ。少し遠くで渦のように風を起こしながらこちらを見ている。もう少し近づいてくれんかな。右手で丸を書きながら左手で四角を書くようなものだがこれをやりながらキャンディを放って誘いをかけてみる。
なんだ、おんなじことするの、でも楽しそう、そんな感情なのか、波打つように風をまき散らしている。すげえ暴風が起こってるんだが? コイツなら生木の十本や二十本楽に蹴散らしそうだな。
マルチタスクはできないとは言うが身を固めつつ殴るようなことはできる。同時にいくつかやるのを経験して記憶して素早く再現する、これなら見た目はマルチタスクになる。記憶の再現なのでトラブルには弱いけど。キャンディを呼吸をするように放てばいいだけだ!
「きゅいいいん♪ ぴぎぃいいいいい♪」
「楽しそうにしやがってえっ!」
躱すでもなくすべてを食らってケラケラ笑ってやがる。改めてレベルが違いすぎる。ポテンシャルというか種族特性が桁外れだ。物理的な力じゃなくてマナで結合している上に風のある場所はすべてヤツの支配圏みたいなものだ。こちらは至近距離で濃密なマナを使って空気を集めているが接近しすぎればその支配権も奪われかねない。これなんて無理ゲー? 風対風は終わりがないぜ! ヤバくなったらマイルームに逃げるがここはじっくりやりあうしかない!
「とりあえずこの魔術を完成させないといかんが……、ここは!」
木の枝が二本絡まったような白い杖、ミスティルテインを出して右下から真上にゆっくりと上げ、左下におろし、右少し上に切るように振り上げる。瞬間に自分の周囲五メートルくらいのマナを掌握する。
「きゅー?」
「この支配圏はさすがにお前さんも侵入できないぜ」
本当は十メートルの範囲で切り取るつもりだったがあまりにも莫大なマナの渦の中では御しきれる自信がない。範囲を半分にすると立体にすれば八分の一、さすがにこの中なら支配権を握れる。接近されたら相変わらずマズいのだが。キャンディで牽制にならない牽制をしてみる。
「きゅおおっ、きゅおおん♪」
「楽しそうにキャンディ食ってやがる。まあ気を反らせてるならそれでいいが」
ぎゅんぎゅんと私の周りのマナもたくさんの空気を巻き込んでいく。妨害してこないのは余裕と、こちらがなにかやるのを楽しみにしているんだろう。特に恨みはないが一回ぶっ飛ばす! 追い掛け回されてるのは恨みといえば恨みだが!
「奥の手、行くぜ、炎の壁!」
「きゅおん?」
ドオオオオオオオオン……、と爆音が響き私たちの周りから三百メートルくらいの場所をぐるりと一周囲むように火柱が上がる。なにを使うか迷ったが簡単なのでガソリンにした。ロケット燃料とかもあるけどコスパが悪いからな。ガソリンをマイルームの取り出し機能で半径三百メートルの場所をグルッと一周囲むように撒き散らかして今、遠距離ファイアピストンをロケットみたいに発射してぶつけて放火したわけだ。
周囲を炎の柱が覆いこの空間は空気が減っていく。私が巻き込んでいくぶんは引き続き増えていくが気圧と酸素濃度は下がっていく。生物は生きていられないだろうがあらかじめこの辺りの生き物をマイルームにしまっておく周到ぶりよ! ほめて!
まあ植物は焼き尽くすけどあとで栄養剤まいとこう。これからやることのほうがヒドいからな。風の精霊竜のヤツはさすがにヤバさを感じているらしくキョロキョロしている。
「きゅいいいいい?!」
「炎はやっぱり風の天敵らしいな。これが第一の策」
炎は風を吸い込み、熱し、巻き上げる。こんなに風と相性がいい物はない。相性がいいからこそ巻き込まれたら逃げられない。これが第一の策! 次に窒素も凍る液体ヘリウム! 辺り一帯にばらまいてやる!
「ピイイイイィ?!」
「周りは上昇気流、中は下降気流、これなーんだ!」
「ぴきゅ?」
「お前さんが好きそうだな、そう、竜巻だ!」
「きゅおおおん? きゅいいい♪」
「楽しんでやがれ、これが第二の策! ちなみに足が凍ってめちゃ痛い」
「君は実にバカだな」
「うっさいわミネルバぁ!」
「バァ言うな!」
「ぷうぷう!」
ミネルバと大剣とレイピアも見物している。のん気にかまえてるけど逃げないとさすがに一回死ぬぞ。さあさあ、準備してる風の塊を下降気流の風を受けてさらに集め、圧縮、圧縮ゥ!
流石にヤバいのは精霊竜にも伝わっているはずだが強烈に渦巻く風が楽しすぎて考えられなくなっているのか逃げようともしない。絶対王者、絶対不滅の自信のようなものを感じる。私もこれでコイツを仕留められるとはまったく思わないが、ビックリするのは間違いないはずだ。
これで私は最強の生物になる。
「オッラア、仕舞いだァッ! 第三の策、」
「ピギッ!?」
マイルーム、っとただいまー。
さっきまで集めていた風を自分だけマイルームに入ることで一気に解き放った。
「食らってみやがれ、十万気圧」
マイルームのカメラは外を映し出している。一立方メートルくらいにまで圧縮した風は一息に解き放たれ、あまりにも強烈な爆風と圧縮熱は周囲の物を溶かし気化しプラズマ化し、跳ね飛ばし閃光を放つ。これが私の奥の手のひとつ、破滅の一撃だ。気圧はまだまだ上げられるが流石にこれ以上やると核融合が起こりかねない。私自身にはなんのダメージもないけどな。
「ひ、ひどかろうさすがに」
「ぷいっ、ぷぅ……」
「わりぃ、忘れてた」
ミネルバと大剣とレイピアが焦げ焦げになって帰ってきた。さすがに一回死んだらしい。天使も殺すとか凄まじすぎるだろ。ミネルバの眼帯取れてないんだが? 髪型はミネルバもうさぎもなぜかアフロだけど。
「私から中二の魂はそげないぜ」
「なんか納得しちゃうんだよなぁ……」
あれだ、あの世で星のんが中二スタイルでいたみたいなもんでこれが魂に定着してるんだろう。魂の世界って楽しそうだな! もう行きたくないけどな!
炎が収まってきたので外に出てみる。アチチ、やっぱり暑いわ。いやあ、われながら……、焼け野原じゃん。やりすぎだわ。……あーあ、これ元に戻せるのかねえ? あれ、白のベルで呼ばれてる。ダンテか。邪神ダンテのダンジョンの中にまで振動が響いたらしい。情報ストレージから映像を見せてやる。マイルームの機能って録画とか外に接続できるものもあるんだよな。本当に万能スキルだわ。
『ちょっとちょっとちょっとなにこれなにこれなにこれひどすぎねえーッ?!』
「わりぃ、やりすぎたわ。相手が精霊竜だったもんで」
『神にも等しい相手となにやってんノォーッ?!』
「神にも等しいからここまでやらんと退けられなかったんだよ!」
『いやそれはわかるけどぉー。すごいね白さん』
「まあな!」
正直巻き込まれたら自分も死ぬのでマイルームありきの技だけど、これを超える破壊がこの世界で起きたことは天体の運行とか災害クラスの自然現象くらいしかないはずだ。核爆発起こせるヤツはいるかも知れんけど。さすがに超新星爆発は再現できん。しかしまあ、惑星の上でやるなら最強クラスの破壊だろうな。うーん、やりきったぜ。マナがストレージまで空になったからな。ふうー、疲れたわ。あとで風呂に入ろう。デッカい風呂作っておこう。
「きゅいいいいいいいいいん!!」
「おっわあああああああああッ!?」
風の精霊竜が飛んできた。ちっこくなってるけどやっぱり生きてやがった。襟巻くらいの長さになってるな。うーん、ペットのフェレットみたいな。背中は薄い緑色だけど他は白い。
「きゅーん! きゅーん!」
「ハイハイ……。なんか懐かれたみたいだな。さすがに一回は死んだというか意識ごと吹き飛んだらしいな」
めっちゃ首に巻き付いてスリスリしてきやがる。可愛いじゃねえか。……マフラーの位置に収まったんだけどどういうつもりだ? あ、なんか繋がった。使役したってことか。
人化したりしゃべったりしなくてよかったよ。人づきあいも大事だけどそれをペットにはしたくないからな。ペットにするならやっぱり無言の動物だよ。まあしゃべるペットはミネルバと星のんがいるからな。
最強の生物を使役してしまったな。これで私が最強だ!
「名前、名前か〜。あ、ベルダンディーがいいな。ちょうどいいや。私の今によりそってくれ」
「くぃ? きゅー、きゅぴー!」
「理解できたみたいだな。頭は私よりいいかもしれんよな、精霊王だし」
ふうううぅ、準備からなにから大変だったがなんとか精霊竜にストーカーされ続ける事態は避けられたな。……避けられてない!?
まあいいか。使役したなら戦力として使いまわしてやるぜ。もう必要ない気もするけど。私に勝てるやつなんてもういないだろ。フラグがヒーローが勝ち名乗りを上げるときの勢いで立った気がする!
「さあて、そろそろ…………ゆっくり引きこもろう」
「きゅいいん?」
あー、スライムたちも見ておかないとだしもう少し色々やろうかなあ。まあこれで一区切りだな。
☆きいろメモ☆
これで第一章は終了です。第二章ではいよいよカーラが町に……無理やり連れて行かれるかも?
再開をお待ちください!
時間がかかるかも知れませんがお楽しみに!というかここで終わるとタイトル詐欺!
ちなみに十万気圧くらいでは核融合は起こらないし水爆ならこれよりすごいですが正直そこまでやる意味ありません。あしからず。




