迷宮を作ろう
移動型迷宮塔型って書くとロボット物っぽいですね。好き。
白いベルをその場に置いてマイルームに帰る。
「帰るってそこで? テレポートして帰らないの?」
「わざわざ移動する意味あるの?」
「ないけどさぁ……なんか見られてるみたいで落ち着かないよ」
「じゃあ白のベルのリンク切ればいいだろ」
マイルーム連絡用の白のベルはこっちでメインとしてコントロールできるけど持ち主にもコントロールできる。切ったら切ったで寂しいんじゃね? いいけど。ポインタは設置したからいつでもアドバイスもらえるな。ダンジョンを作るとしてどんなものを作るといいのかな?
「もっと話そうよ〜」
「いいけどさぁ……。邪神ってなんだっけ?」
「主にダンスする?」
「なんで疑問形だよお前まで踊るのかよ流行ってんのかよ踊る神々」
流行ってんのあのゾンビダンスみたいなダンス。面白いけど。
まずはダンジョンを買うことにする。いらない装備とかは手っ取り早くミネルバに売る。冒険者ギルドの依頼人用の管理札っていうかメンバーズカードみたいなものをもらってるので買いに行けなくはない。行けなくはない。えー、行けなくはないけどさぁ。なんか現地住民って怖かったりしない? 海外って犯罪率ヤベーとこあるし日本が平和だよね。行くけどさぁ、そのうちは。まだなんか自信がないんだよな。もっと鍛えてから。
つーか、今外に出たらあの精霊竜絶対ついてくるだろ。出られねえ。よし、引きこもろう。え、変わらない? そんなことないさ。後ろ向きな引きこもりじゃなくて前向きなの。私はポジティブなニートなのさ! それはニートと呼ばないとか言わない。ニートって就業意欲がなくて資格なんかの勉強や職業訓練とかもしてない人のことだしね。職業ではない。ニートが天職ってなんだよ。まあ便宜上ってやつだろうけど。
外には出られないけど建築はできる。ダンジョンを作ろう。ちなみにダンジョンの外見は自由に作れるし私の場合マイルーム専用の隠しストレージがあってそこに収納できる。マナストレージなんかは自分で増やせるので表示があるのだがスキル専用ストレージは任意で増やしたり減らしたりはできないのでわざわざ表示していないらしい。なんでも見えるわけじゃないってことだな。人為的制限がかかる代わりにぶっ壊れ性能なのがギフトだ。マナの消耗は神が代替するようなものなので気にする必要はない。神が介入したら世界の存在の意味は無くなるがルールを決めるだけなら問題はない。そもそも宇宙のルールってものがあるしな。ルールの無いゲームは面白くないし。
ダンジョンってなんでマイルームでできるの、と思うかもしれないがそもそものダンジョンって貴族の家にある塔とかの意味で貴族が幽閉されたりしたから監獄って意味に変わってそこから地下牢って意味が出てきたらしい。私は塔型のダンジョンを作るつもりだけど地下牢が迷宮仕様になってても問題ないってことだろう。まあ星のんだからな。本人はかなり細かい仕事してるけど説明する手間って必要なのは間違いないけどそもそも一人一人説明する時間なんて無いんだよな。星のんには無限に時間あるけど。めんどくせえ、って投げそう。天使とかに。
さて、塔を作るとしてなにをコンセプトに作るか。アイデアとしてあるのは難民救済用ダンジョンなんだけど、要するにダンジョンでスライムを倒したらご飯が一杯食べられる、ような物を作りたい。前も言ったが私が全部やるなんてつもりはまったく無い。一人の人間が世界を救う、なんて状況にするのはバカだろう。そんな世界すぐに滅びるし滅びたらいいと思う。星が一個無くなったからって宇宙には問題ないしな。マルチバースの宇宙なら宇宙が滅んでも問題ない。たまたま生まれただけの人類に星や宇宙が配慮したりしない。そもそも個人にそんな力が持てる設定の宇宙なら自然になくなると思う。
まあ私がなにもしなくても人類が生き残るなら生き残るし滅びるなら滅びる。私はちょっと杖を貸してやるだけだ。このダンジョンがその杖の一つだな。
構成としては植物系のモンスターから米とかをキロ単位でドロップするようにしたい。小麦とかの場合粉を引く施設とか必要になるけどその辺りはやってもらおう。最初から小麦粉ドロップしてもいいんだがなるべく手を入れたくないんだよな。この世界では服もダンジョンで取れるので裁縫技能がスキル頼みから進歩しないという問題が発生している。技術の進歩の補助のためにスキルがあるとしたら本末転倒になってる。魔法についても神が定めた魔法のみを使って魔術は使うべきではない、とか言い出すバカもいたらしい。イルマタルはそんな規制はしていない。そもそも十分に魔術が発展したらステータスやスキルはなくなるだろう。マナ生物が強すぎるんでバランスが取れているところはある。極めて緩いバランスだな。星のんはそうでもないがイルマタルは人類が滅びたらつまらない、くらいは考えていそうだ。まだ本質的には星のんのレベルにないんだろう。神様になる途中という感じなんだろうな。
将来的に人類も存亡の危機に立たされるんだろうが今はまだそんな段階ではない。人類の存在意義を確立できるのは人類しかいないんだがね。神に頼ってどうする。
日々から開放されるのは考え方一つでどうとでもなる。心を閉ざさなければ。だが私に一人一人と寄り添う時間なんて当然無いのでそれは各個人でやってもらわないとな。前に進めないならじっくりゆっくり休むといい。私がニートだし。
一階は米を出すか。小麦はそのまま食うならいいけど貴族が税金で取り小麦粉にしそう。食うにも困ってるのに無理言うなと言いたい。もっと稼ぎがほしいなら才覚を磨けばいいだろうに。まあ権力者に潰されるだろうけど。この世界はレベルがあるんだから努力したら努力しただけの結果は出るからな。才覚も重要だけどそんなのはガチで冒険者やるレベルにならないと必要ない。食うだけならレベル三十あるだけでも困らないからな。
どこまでやれば「支えるだけ」のレベルになるかは難しいな。私にセンスなんて無いからな。ある程度強いモンスターを設定するとしてもレベル十くらいでも倒せるようにしたほうが良いだろうか。専門家しか勝てない、では意味がないから罠は設定するとしても怪我をするレベル。死んだら装備をはいで放逐としよう。ダンジョン内の生物の生死はダンジョンの手のひらの上だ。強制的に殺すようなのはダンジョンの天使に止められてそうだが。ダンジョンの天使というとアリアドネとかになるのかな? 天使の権限で作られたダンジョンなので天使の制約はある。自力でダンジョン作ってもいいけどこの世界の冒険者は敵に回したら神が出てくるからな。核爆発は抑えれる程度の魔王とか。
二階は野菜、三階は魚、四階は肉、五階は調味料でいいか。別に難攻不落の塔を作るつもりはないし。んー、将来のことを考えたら隠し階層とか用意してもいいかもな。
モンスターを決めていくか。五階でレベル四十必要になるくらいでいいかな。モンスターのレベルとして一階で五、二階で十三、三階で二十、四階で二十八、五階で三十五くらいでいいか。群れたら同レベル帯ではキツいんで三から五レベル低く見積もっておこう。自分より上位の相手ですら倒しまくらないとレベルが上がらないんだけど、ダラダラやっててもレベルが上がるようなら最強無敵人間のバーゲンセールになっちゃうからな。この設定はイルマタルが作ってるはずだけどそもそもレベルが存在するだけでもかなりの優遇だからな。前世みたいに性別や人種による骨格の限界で能力が定まったりしないって意味では平等なんだけど。そこがレベル制の魅力だな。
さっそくダンジョンの階層を作っていく。一階は二百万、二階は四百万、三階は八百万……まあまあかかるな。ドラゴンさんお一人ご出荷でーす。……本当にこの島のモンスターいなくなるぞ? 狩りに行くには精霊竜のヤツが邪魔だから在庫処分だな。もっと儲けるには町に出てスフィア拾ったのを売りさばくしかないが……。そのうちでいいや。まずは邪神のダンジョンを何周か周回しよう。あそこにも何故かお金が落ちてるからな。スキルにお金を払いまくるとデフレになってダンジョンにアタックしまくるとインフレになる社会システムだ。謎である。たぶんイルマタルがゲームならダンジョンでお金が手に入るべきというロマンでシステムを作ったんだろうな。当時はお金とか無かったのかもしれん。
この世界をゲームのように楽しめてるヤツなんているのかな? 私以外にも。まあ生きてる人間の暮らしはあるからな、不老不死でもないと辛いだろうが。なんでもメリットとデメリットは対になっている。不老不死はそうとうデメリット大きいんだよなぁ。だって何回も死ぬってことなんだから。怖いよな。普通に権力者がなんで不老不死を求めるのかわからんな。
例えば楽で儲かる仕事をって誰もが考えるけど楽な仕事ってたいていやりがいもないんだよな。苦労した分を的確に評価される仕事はやりがいがある。給料を払うときに「やったから働け」と言われたら嫌だが「やってくれた分の評価だ。ありがとう」と言われたら嬉しい。でもやってることは同じなんだよな。言葉一つ、人の見方次第で心の環境は変わるんだ。そこを上手くするヤツが成功するんだろう。人は心によって動く。その心をどう持っていくかは環境もあるが当事者のほうが変えやすいだろうから本当は労働者のほうが考え方を変えるべきだが。
なにが言いたいかって結局やってみたら思ったのと違った、なんてことはいくらでもあるのになんで理想を正しいと思いこんじゃうんだろうなってこと。夢は幻でしかない。現実を見ないとね。
私は不老不死は自分の責任を果たすためだと思ってるけどそこは今はいいだろう。不老不死もマイルームも私が望んだわけでもないし。ただ、星のんが私に必要だと思って与えたのはなんとなくわかるんだ。今はまだなぜか、まではわからないけれど。
ぶっちゃけ中高の私って頭の悪い不良でしかなかったと思うんだが。そのうち役に立つかも知れんから授業だけは出てた変な不良だ。放課後にゲーセン行って金がないからよその学校のバカたちとバカ話してたな。星のんがなぜかいつもいたけど。勉強しろやって言ったら一時間もしたら良くね?とか言いやがった。頭って使い続けたらそんなに酷使しなくても良くなるものらしい。うらやましいな。ちなみに星のんは金持ちだから対戦ゲーで相手にされたりしてたな。ラッキーだよな。まあ生徒会で来れないとかもあったけど。普段は指示書を学校で作って副会長に仕事やらせてたらしい。昭和なのにすでに現代のできる経営者みたいなことやってたな。卒業したら大学行きながら起業したらしいし。流石にその頃は私も母親の世話とバイトで忙しかったからな。
さて、タワーの内装とかも考えなきゃ。名前は白鐘の塔にするか。最上階にマイルームの一室にワープするポイントを置いた鐘楼?を作ったらなんかかっこいいだろう。
なんかかっこいい、これ大事。モンスターは稲とかだけど。歩く稲ってすごいシュール。大きさも三メートルくらいあるし。倒すとお米がたっぷり詰まってる。新種の生物だから生存条件を満たすようにミネルバに細かい加工を任せたわ。パソコンとかがないと無理なレベルでの作業、遺伝子改変とかは天使に任せるに限る。天使もパソコンとか使うのかと思ったら脳を直接そういう超未来のスーパーコンピューターみたいなものにリンクさせてるらしい。人間がそこに行くのは普通に難しいだろうな。この星は文化レベルも低いみたいだし。村とか藁の屋根とか普通にあるぞ。石造りの建物とかもある。ものすごいアンバランスだな。
このモンスターは本当はここまで遺伝子とかまで作る必要はないんだけどスタンピードで自然繁殖させるつもりなのである程度強く命として活動できる仕組みを入れてもらっている。コストはミネルバにオヤツを買ってやるだけでいいらしい。ミネルバなら私の隣でせんべいかじってるよ。うさぎもせんべい食ってるけど大丈夫なのか? マイルームのモンスターはたいがい不死身だから食べ物の毒性で死んだりしないらしい。本当にこの黒うさぎたちは無敵だな。
迷宮の回廊や階段、小部屋なども少しずつ考えながら組み立てていく。まあ手元の球体にゲームみたいにパーツを配置していく感じだが。情報空間では外に出さない限り無限の設定など概念でしかない設定を作れる。もちろんバグも起こるからそれは天使が修正したり警告したりしてくれる。
「ふと思ったが天使の仕事ってオートにならんの?」
「というか天使がシステムみたいなとこあるんだけどね」
天使はAIみたいなもんらしい。まあ神ならわざわざ仕事しないのか。天使たちの仕事って実は趣味みたいなものなのかもね。ほとんど無意識に処理できるらしい。実体はないんだよな。ミネルバが外で妖精になるのは顕現するのがダルいかららしいし。働けや。まあ天使は無意識で働いてるってことか。
働かないと星のんが怒るからな。ベーシックインカムもらえるようになっても仕事を探してそうだからな。勉強も仕事も楽しめるのはそれだけで強い。なんで勉強や仕事は楽しんじゃダメとかアホなこと言うんだろうな。うちの親とか。だから私は楽しめる勉強や仕事しかしないことにしたけど。それが一番だよ。収入とかそんなにいらないよ。幸福と収入って絶対比例しない。狭い家で米ばっかり食ってても仕事が楽しければいいや。風呂は足が伸ばせるほうがいい。一億円もらっても友達や親戚が急に増えるだけ損だよな。家族愛? なにそれ美味しいの?
私は愛は二十歳のときにドブに捨てたわ。正義も愛も敵だ。あの時は星のんが急に現れてメシに誘ってくれたわ。さすが神。悪魔は友達の顔で現れるけど神は敵の顔で現れるのかもしれんな。え、最初はガチのケンカしてたけど? 中学入りたての時に不良なら勉強なんてしないで落ちこぼれになってくれみたいなこと言われたから殴り合いになった。なんか不良なのに学校には通ってたからウザかったのかもしれん。給食食えるから対価に授業真面目に聞いてるんだよ、って言ったらキレた。親に。お前になにがわかる、話さなきゃわからん、で、うっせえってドロップキックに行ったら余裕で躱せるのに食らって仰向けに倒れて起き上がってきて走り込んできて大外刈りで投げられてカウンターにラリアット入れてヒザ入れて、たしかそんな展開でそこから拳は使わないけどバトった。……楽しくなってきちゃったんだよな。んで先生は止めに入らないの。クソだね。まあ星のんがなんか手を打ってたのかもしれんけど。それからスーパーマ○オとかドラ○エとかの話になって気がついたら放課後に一緒にゲーセンに行って格ゲーしてた。格ゲーめっちゃやってたな。
さて、ダンジョン作ったり邪神ダンジョンアタックしたりするのも楽しいんだけどそろそろアイツの対策するか。
☆きいろメモ☆
天使は神の分霊だったりやってみたい人にやらせているようです。天使とはしていますが正確には神の元で世界を眺めつつ神になる道を模索している人たちでそのうちイルマタルのように星を任されたりします。イルマタルもまた修行中の神様でその権能の中で遊んでいます。
ルールのないいい加減な世界ということもないですが人間の存亡に関しては手を出さないですね。自然に任せます。




