風魔術最強説
このダンジョンの適正レベルは一応百二十から二百五十です。カーラの強さはすでにレベルでは測れなくなっています。
まあせっかくなんで遊んでいくことにした。アイテムはギルドで売っても安くなるような無駄なヤツはミネルバに叩き売った。
「量が多すぎて捌けないわ」
「まあそれでも買う契約だしな」
「ただの報告。どうせ売りに行くのはうさぎたちだし世界中で売るし。白の魔女カーラの名でね!」
「嫌がらせか。新種の嫌がらせだな?」
世界で有名な白の魔女カーラさん、絶賛引きこもり中です。自分を売り出せや、だと? 嫌だわ売れたくないわ。こっそり暮らしてお金がもらえるならそれが一番だよな。無理だけど。うさぎたちに頑張ってもらおう。ニート社長になりたい。
ダンジョンはずっと灰色一色だ。カラフルだと目が痛そうだけど。なにかガチャまであるんだしもっと細工したらいいのに。森ステージとかあるとこにはあるらしい。王都のダンジョンは教育用なので浅い層はいろいろ工夫が凝らされているようだ。あとアルバイト用のお金になるモンスターの迷宮も隣接させているらしい。親切設計っていうか学園が魔王の親切で運営されてるんだよなぁ。魔王なんだから世界を征服しなさいよと思うけど知恵のある生き物は命を大切にする。進化の過程が存在する中で命を守る本能を有しなかったら自滅して滅ぶからな。この世界は生物学もファンタジーではない。まあモンスターがファンタジーなんだが自然に適応できない生物はダンジョンの外では死ぬ。
自然が一番なんだよな。当たり前だけど作り物の世界ではない。地球の物理と違う世界にもルールは生まれる。それがないとグチャグチャに撹拌されてただの高エネルギーの真空になる。純粋に物理学が極まったら世界はエネルギーだけでできているとわかるかもしれないが複雑な世界が存在できるのはそこに数多のルールがあるからだ。ルール無き概念は矛盾を孕む。だからパラドックスって腫れ物扱いされるんだよな。人の作った概念は矛盾を孕みうるけど世界に矛盾が存在したら存在自体消え去りかねないからな。パラドックスが生まれるのは前提が間違っているとか定義が足りてないとかいろいろ理由はあるだろう。いくつかのパラドックスは問題が提起された時点でその問題が矛盾を孕んでいるんだよな。そしてそれを解明するのが理論なわけだが。
理論は絶対じゃないからな。よく勘違いされるけど答えを出してもそれが正解と言ってるわけじゃない。今の所考えられるのはこうだ、と言ってるだけなんだ。だから実験が必要になる。
さて、じゃあ実験していこう。なにをって、ダンジョンはいつか作るつもりだからな、私の想像に矛盾がないか実際ダンジョンに潜って調べるんだ。フィールドワークだな。理系の人って外に出て人と関わったり社会と関わらないとならないから引きこもりオタクじゃできないんだよな。マッドサイエンティストなんて社会実験やりまくってるし自然を調べるにしても現地の人に話を聞かないとダメだし、人と接する機会なんてめちゃくちゃ多いし外に出ないと始まらない。ラボで一人研究してるだけとか頭の中で理論をこねくり回してるだけじゃ科学じゃない。理論物理学ってのはあるけど数学者とかと話し合ったりしないとまとまらないからな。人付き合い大事ってことだな。
まあ実験すると言っても壁の耐久力調べたりモンスターの体内構造を調べたりだけどな。グロもエロも芸術や科学を挟むとただの現象を理解するためのアプローチだ。戦いも楽しむし肉も食うけど。もったいないからな。
ダンジョンの生物にも生殖機能はあるが遺伝子も存在しているので生殖によって増えない、もしくは植物のように自分の種を他の生き物に世話させたり気持ち悪いと思うかもしれないがただの生態だ。同種コピーなのでオスが増えやすいしメスは自分の体内でそのまま子供を作って育てるから逆にメスだけの群れでも育つ。結果として強い個体を必要とする場合はオスが働き蟻になってメスが増える形の方が生存しやすいらしい。人間と一緒で社会が安定すると増えにくくなる。不安を煽る報道もなくてはならないわけだな。なんか腹は立つけど不安がないと性欲も減退する仕組みはどうしょうもない。社会が戦争を必要とするなら私はそれと戦うが。それよりも政治家を叩いてるほうが世の中平和だぜ。ちなみに政治家が叩かれまくってるのなんて昭和から変わってねーぞ。
この世界はモンスターがいるんだから人間が強くなりすぎないほうが生活は守られるのかもしれないが戦争も無くならない。核エネルギーなんかが容易く取り扱われるのも困るがな。さて、このダンジョンのモンスターはどうだろう? 普通に陸上生活は無理な個体しかいないな。海にでもスタンピードさせるのか? 確かにクラーケンらしき生き物もいたけど。クラーケン? 死の風で死ぬけど? 大昔に海が無酸素状態になって大量絶滅が起こったことがあるらしいぞ。こいつらも酸素なしだと生きられない。風魔法最強じゃね?
キャンディもいろいろ試してみるか。私は風魔法を習得してるので風の上位精霊は身にまとった状態だったりする。酸素とか二酸化炭素とかも教えてやる。一酸化炭素はよくわからないらしい。精霊の知能でヘモグロビンを理解するのは難しいようだ。科学知識まで理解できるとしたら「ヤツ」くらいだろう。言葉を覚えるつもりがまったくなさそうだけど。最強の生物がわざわざ虫けらの言語を聞こうとか考えないよな。思い知らせてやるぜ……そのうち。
三メートルくらいありそうなイソギンチャクのモンスター発見。……こいつどうやって飯を食ってるんだろう? チョコバーを触手に投げつけてみたら捕まえて口に運んだ。イソギンチャクの口は筒状の胴体の上にありその周りに触手が生えている。キモいが人によってはキレイに見えるオレンジ色の触手がフラフラと波に揺れるように動いている。ん? なんか感覚が繋がったような……。
そういえばイソギンチャクを殻に着けて背負うヤドカリがいる。ウルドに装着してみるか? 武器の装着が面倒だがつけてみるか。近接戦闘はコイツに任せよう。……名前はトゥッカでいいか。なに、チョコ気に入ったの? 与えて大丈夫なもんなのか? いまさらだか。ダンジョンのモンスターは半精霊なので大丈夫らしい。半ナマじゃなかった半マナ生物だな。ヒルスネイルみたいなもんかな。
こんな調子だとなかなか腕試しにもならないな。しかしガチでやりあうとなると風魔法が強すぎてな。例えば青酸カリなんかも胃酸と反応した青酸ガスがヤバいんで現物を用意できればいくらでも毒殺できるしそもそも死の風を使えばまったく問題ないからな。強すぎて芸がない。即死チートと違って半端な量酸素を抜いたら昏倒で済ませることもできる。私がやらないのは確実性がないからだ。麻酔薬も大量なら死に至るようにちょうど気絶というのはなかなかに難しい。個人差もあるからな。魔法ならちょうど全員眠りました、みたいな無茶な注文も精霊の管理で可能になる。精霊を使うと高度に医学的なことでもできてしまうわけだ。魔法の分野だから私はなるべく使わないことにするが。マイルームと死の風があればどんな相手でも制圧できる。風魔法が強すぎるんだ。
なぜ風魔法が強いのか、それは生物も化学変化も酸素がないとゆるくなってしまうからだ。硫黄やフッ素なんかもヤバいがなにより酸素はいろいろ重要な位置づけになっている。その酸素を自在にコントロールできるなら風より優れた魔法などない。コントロールできる物質量、エネルギー量に使用マナ量が比例するのがこの世界の魔術や魔法だ。なので絶対とか完全とか無限とかの概念を冠する魔法はそれなりの効果しか発揮できないのだ。例外があるとすれば、例えば真空のエネルギーを扱う魔法だろうか。世界のどこからでも、どれだけの量でもエネルギーがある。まあそれを無尽蔵に引き出せないわけだが。なのでやはりマナ量に依存しそうなのだが、ここで神のスキルやギフトとなるとマナを必要としなくなる、もしくは操作に必要なマナだけで済むとなる。
マイルームも洒落にならないチートだけど他のギフトは警戒しないとな。バチバチやりあうためのスキルじゃないからな。他のギフトは戦闘向けが多いらしい。まあマナ次第ではあるんだけどできることが多いのがギフトの強みだろう。シンプルだけどクソ強い。
そのギフトを除いたらやっぱりどこからでも必殺の一撃が放てる風魔法って最強だと思うんだよな。どんな敵が相手でも気圧一つ変えてやれば押し返せる。考えてみれば台風なんてたかだか四分の一気圧くらいだからな。範囲が馬鹿みたいに広いしエネルギーが膨大すぎるけど。でも台風の風くらいでも人は前に進めなくなるんだ。十気圧とかをマナ数ポイントで扱える風魔法はチートすぎるだろ。まあ魔法はみんなチートだけどな。物理法則から大きく逸脱しなくても充分奇跡の御業だ。イメージも必要だが理解が何より必要なのは好ましい。
風はどこにでも侵入できるし空気がなきゃおおよその生物は行動もできない。自由に圧縮できるし毒でも燃料でも拡散できる。
マイルームて物を買えるからほぼ無敵だね。マイルームがすごいんだけど、強請って商談室もらった甲斐はあったと言うわけだ。マイルームの中から物を取り出すのはスキルにチャージされてるマナが利用されるんだけど取り寄せたものやダンジョン内で生み出したものを外に出すには別途マナがかかる。生物として生存できない環境だとそのまま死ぬ。いろいろややこしいけど実態はシンプルなんだよな。マナと物質、エネルギーの総量が常に一定になる。科学は究極的にはシンプルに世界が表現できると考えてる。そうでないと自然発生できないからだ。この世界も究極的にはシンプルな一次元に収まるんだろうと思う。物理を勉強してると素粒子の世界とかとてもシンプルには見えないんだけどどこかでアインシュタインの方程式みたいなシンプルな式が出てくるんじゃないかな。世界は自然発生したはずだからそこには複雑な手順は存在しないはずなんだよね。生物が複雑なのは歴史をかけて積み上げてきた部分もあるし、生物の基礎のアミノ酸もすごい複雑なんだけど突き詰めると数種類の原子が複雑に組み合わさった結果で原子の大きさで一旦考えをストップすると世界は分子の複雑さだけで美しい世界や生物を構築していると考えられるし。
世界の本質はシンプルだ。たぶんなにかを見落としてるから複雑になってしまうんだろう。それは科学の世界だけの話じゃない。予期しない奇跡は起こっていいけどそれは予測できてないだけで起こりうることだった。そうでないとどこか別の次元からの介入があったことになって世界のルールが変わってしまうからね。真空崩壊みたいなことは起こらないと思うんだよな。また話がそれた。
さて、ダンジョンの探索を進めるか。なんか無敵っぽいんだけどな。頭が三つあるサメとか出てきた。B級映画か。生物なので例外なく無酸素で死ぬぞ。海洋が無酸素状態になって生物の大量絶滅が起こった歴史が幾度かあるらしいんだけど赤潮の酸素不足と違うんだろうか。期間が滅茶長いんだけど。一度に死滅したら魚とか復活しなさそうだけどサメは長いこと存在してるしな。どうなんだろう。星のんに聞いたらわかるんだろうけどそういうのは自分で研究しろって言われそう。なんでもわかってしまうとつまらないよな。
また話がそれるけど酸素を作る珪藻って珪素を含んでるんだよな。それで人間の中にも珪素はあるんだけどそれを補給するサプリみたいなものがあるらしい。はっきりと言えば生物由来の食品にはたいがい珪素が含まれるからわざわざ取らなくてもいい。植物だとジャガイモや麦、稲とかもたくさん含んでるしな。ちなみに珪藻は一応炭素系生物だぞ。珪素系生物は存在しないけど珪素を含有してるなら人間も含めほとんどの生物が含有してる。
こういう知識って聞くだけなら面白いよな。覚える意味はあんまりないけどそれがまた楽しい。調べれば調べるほど前提としてる知識が間違ってたりするんだよなぁ。だから私は自分は相当に馬鹿なんだと思う。まあ世界のすべてを知る人なんていないからいいんだけど。漢字をすべて読める日本人なんて研究者にもいるか怪しいしな。だから馬鹿でいいとは思わないけど。少しずつ知っていこう。
まあそれは置いといて。うーん、敵を倒すのがほぼ作業なんでダンジョンの罠とか探っていこう。そっちのほうが楽しそうだ。
作業してると他のことばっかり考えてしまうよね。強くなりすぎるのも困りものだ。
おっと、階段だ。シンプルな壁の構造とか変えるらしい。なんか壁が水色と灰色のブロックを組み合わせたみたいになってる。あんまり退屈してたからかモンスターもスライムみたいな酸素一つないくらいでは死なない生き物が出てきた。体内に葉緑素と空気嚢を持ってて体内で呼吸と酸素合成を繰り返せるらしい。ダンジョンの灯りは植物が育つ程度に明るい。
まあキャンディボムで弾いていくだけだが。破壊力はエネルギーだけで決まるわけじゃないんだよな。形とか硬さとかも影響する。固体や液体は気体に比べて密度が高いし気体みたいに簡単に拡散しないから圧が運動エネルギーに変化しやすいんだろうな。極端なことを言えば熱も気流も運動エネルギーも、同じエネルギーなんだろう。ジュールで表すもんな。勉強しないとわからないことってすごいたくさんあるけど少しずつ知っていくのは楽しい。
鉄片入りの黒飴をたくさんごちそうしてやるぜ。
『黙々と進んでいくね〜。簡単?』
「普通の人には厳しいと思うよ?」
時速八十キロくらいで泳いでくるマグロみたいなモンスターとか前に立つとヤバい。余裕で殺しながら躱していくけど死んだから即ブレーキがかかるなんてことはない。巨大なドラゴンとか死んだら真下に落ちたりするけど高速で飛んでたら死んでも慣性でそのまま飛んでくるからな。真正面から押し返すエネルギーをぶつけても対消滅するわけでもなくそのまま横や斜めに落ちてくる。
表面だけの打撃で生き物が死ぬのも相当におかしいしな。腕や足が千切れても失血死とかで脳が死なないと死なない。脳や臓器が粉砕されても即死はしないし実験だと首がないのに生き続けた生物もわりといる。最低でも数十秒は生きてる。意思決定能力は失われているってだけ。
こういったことを経験だけで知ってる人ってプロスポーツ選手ならいるんだろうな。あの人たちは科学的センスの塊だ。理論で理解してる人もいるかもしれないけどそれはそれですごいよな。やっぱり体を使うことって大事なんだよ。スポーツで頭良くなるって聞くし。それだけじゃダメだけど。
退屈なので片手剣で魚たちを八つ裂きにしていく。魔法使わせろ。鉄の甲羅のカニとかは面白いので魔法で潰してやる。鉄分で甲羅を覆うほど鉄を吸収できる環境とかあるのかな? 地球は鉄の惑星だから鉄をまとう生物はありえなくはない。ウロコフネタマガイって貝とか実際にいる。この世界だと生態系の中で肉体に鉄を多く含む生物も充分存在しうる。一見するとファンタジーだけど異世界なんだからこうでなくては面白くないよね。世界はそのままでも充分ファンタジーなんだから別の星とかならファンタジーに感じても不思議じゃない。ヨーロッパから見た日本、日本から見たヨーロッパ、それだけでもファンタジーだ。治安が悪いとこは行きたくないけど。
異世界に来たからにはその土地を楽しまなくちゃね。
鉄のカニがいたかと思えばその爪を拾って武器にするサハギン?がいる。半魚人かあ。なんか顔がほぼ魚。人間ぽくない。昔の漫画にいた手足の生えた鯛とも違う、とりあえず胸びれを手にして鱗を鎧のように付けてる感じ。指も親指がない。吸盤みたいに物を掴んで投げてくる。
……観察してるだけで楽しいな。とりあえず片手剣で捌いていった。首はないけどハゼみたいな頭はこちらを向いて曲がってる。それを切り落としていく。背骨が硬いな。尾頭付きにすんぞ。口の中にキャンディ放り込んでいくほうが楽だな。内臓がズタズタになったら売り物にならないけどしばらく放置したらドロップアイテムに変わった。どんなルールだろう。死体はすぐに収納したら収納できる。ダンジョンにオリハルコンゴーレムとかいても収納する前に消えそうだけどね。相場が維持されてるということは収納できるかできないかもダンジョンのマナの残量次第なんだろう。
☆きいろメモ☆
ダンジョンやトレーニングルーム内の物質はデータであるためストレージに入れても物理的な物として取り出せず消滅します。ダンジョン内だけで有効なアイテムなどが作れます。持ち出す際には代替となる物質やマナと精霊が必要になります。エネルギーの情報量が保存されるようになっていまして、仮に存在値としておきます。ストレージなどには存在値としてデータ化されて入っています。エネルギーを質量に、とかは研究者じゃないのでわかりませんけど物理量は保存されるということです。




