卒業
「それでは、君たちに幸多からん事を祝し、卒業式を終わりとします」
適性検査からあっという間に時は過ぎた。
横を見ると、真帆呂の席は空いたままである。
あれから真帆呂は特別として、先に卒業を終えたのだ。
そう……もう既に俺達よりも先に高校で英才教育を受けている。
周りを見渡しても、真帆呂以外の空席は見当たらない事から、Sランクと判明したのは真帆呂1人となっている。
俺はというと、うまく騙せたおかげで、今こうして卒業式に出られている。
卒業式が終わり、周囲は両親に祝福されている者や、友と話をしたり、写真を撮ったりと、各々で動いている。
中には制服のボタンが全部無い者や、後輩たちに囲まれている者もいる。
「おーい、写狩」
「おう」
「一緒に帰るんべ」
「ヴィルは両親と帰らないのか?」
俺に話しかけてきたのは、身長が190cm以上で、がっしりとした体格、そして、ブラウンヘアーであり、我が校きっての男前であるヴィル・ウィンチェスターが俺を呼び留めてきた。
まぁ、何を隠そう……俺の数少ない友達だ。
「父ちゃんと母ちゃんには歩いて帰るって言ってあるから大丈夫だ」
「いやいや、こういった日は両親と帰るのが普通だろ」
「いいんだよ。 2人ともこの後仕事に戻るって言ってっから! 俺はお前と帰りたいんだ。 ニヒッ」
満面の笑みを見せるヴィル。
この屈託のない笑みを見せられたら断るにも断れん。
ヴィルを見ると、制服のボタンが全部無い事に気付く。
「ん? あぁ、これな! 全部持ってかれた」
「お前はみんなから人気があったもんな」
「人気者はつらいぜ……まぁ、有無を言う前に、ほとんど持ってかれたんだけどな……」
ヴィルに影が……
どうやら相当揉みくちゃにされたみたいだな……
「あ、あの……」
後ろを振り返ると、前髪で目が隠れている女の子が話しかけてきた。
なぜか小刻みに震えているのが見て取れる。
「うん? どうしたんだい?」
ヴィルが話しかける。
「あ、あの……先輩のボ、ボタンをいただけませんか?」
「あ、ごめんよ……もう既に全部取られちゃってさ~」
あぁ、なるほど!
ヴィルのファンか。
勇気を振り絞り、ヴィルに声をかけてきたのに、かわいそうだな……
俺はヴィルに視線を向けると、それに気付いたヴィルは頭をかく仕草をする。
「う~ん……ボタンの代わりにあげられる物があるか――」
「え、あ、ちがうんです! そ、その……万矢先輩のボタンがほ、欲しいんです!」
「……」
思考が数秒停止する俺。
横を見ると同じく思考が停止しているヴィル。
若干悔しそうな表情を浮かべているヴィル……その顔やめてくれないか?
視線を彼女に戻す。
目が見えないが、頬が赤くなっている。
その上、勇気を振り絞って言い終えた後の仕草……その姿が可愛らしく思えた。
「お、おい写狩……何か答えてやれよ」
「あ、あぁ……そうだな……あの、もう一度確認なんだけど、ヴィルのではなく、俺のボタンでいいのかい?」
「は、はいっ!」
かわいらしい声と共に、突如風が吹き、彼女の前髪が上がる。
その瞬間、目の前にかわいく、綺麗な青い瞳をした女の子の顔が露わになり、一瞬だが俺の心臓が高鳴る。
だがすぐに前髪が戻り、表情が見えなくなる。
「い、今見たか?」
「あ、あぁ……」
「ま、まさか、こんなとこに天使がいるとは……」
俺以上に驚いているヴィルを見たら、俺はすぐに冷静になれた。
視線を彼女に戻す。
何故俺なんだ?
この子と俺は面識無いはずなんだが……
「あ、あの……ダ、ダメでしょうか?」
「あ、いや、別に俺ので良ければ」
「えっ⁈ いいんですか⁈」
俺はそう言い、ボタンに手をかける。
「はい。 これでいいかな?」
「えっ⁈ 2番目のボタン⁈」
「え?」
俺がボタンをあげると、彼女は何故か驚く。
「何か不味い事でも?」
「えっ⁈ いえ、ありがとうございます! 大事にします万矢先輩!!」
「あ、あぁ……そう言ってもらえるて、俺も嬉しいよ」
「あ、あの、よ、万矢先輩の進学する学校に、わ、私も行きます!」
「そうなんだ」
「そ、そしたら、ご一緒に狩りを……万矢先輩のパーティーに入れてもらえませんか?」
彼女の言葉に驚く俺。
彼女の言葉に対し、どう返答を返したらいいのか困る。
「おい写狩……ここはOKって答えたらいいんじゃないか」
「あん? いやしかし……」
ヴィルの言葉を聞き、それでいいものか考える。
だが、震える彼女を見ていたら、OKと答えるしかないと思った。
まぁ、1年も経ったらきっと忘れているだろう。
「わかった。 君を待っている」
「はあっ⁈ ほ、本当によろしいのですか⁈」
「あぁ」
「あ、ありがとうございます! 残りの1年、精進していきたいと思います!」
「あ、あぁ……あまり根を詰め過ぎないようにな」
「ご、ご心配いただきありがとうございます! あ、すいません! 私まだ名乗っていませんでした! わ、私は日南 希桜と言います。 万矢先輩、お時間を取らせてしまいまして申し訳ありませんでした! そ、それでは1年後にお、お会いしましょう。 し、失礼します!」
そう言い、日南さんはお辞儀をし、すごい速さで消えていった。
「い、行ったな」
「あぁ……もの凄い速さで消えていったな」
「で、いいのか?」
「何が?」
「1年後にお前のパーティーに入れるって話しよ」
「いやいや、OKと進めてきたのはお前だろが」
「俺ならそう言うが、お前は違うだろ! 『いや、それは無理な話だ』っ的な感じで断ると思うだろ普通! 」
「お前、俺を何だと思っているんだ?」
「冗談だよ冗談! そっかそっか……彼女はお前の眼から見てどうなんだ?」
「あぁ……彼女、強いよ」
「おっ! お前さんのお眼鏡にかなうとは……ねぇ……しっかし、名前を聞いたけど、初めて聞いた名前だしなぁ」
その場を一瞬で消え去る程の速さを見たら分かる……あれは速さだけではない……彼女、日南さんは強い。
1年後……果たして彼女は俺の前に現れるのであろうか?
驚きと期待の高鳴りが、俺を楽しませてくれていた。
目を留めていただき、ありがとうございました。
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