第八話 究極の選択①
19:00
「 敵さんも異変に気づいて後始末にくるじゃろ、長居は無用じゃて、詳しい
ことは屋敷についてから話そう、それまでヘリでの夜景でも楽しみながら、少
し休んでおれ、ほっほっほ 」
黄はそういってヘリへと歩き出す。俺・斉・鈴女、それと人型に戻った五角
鬼も黄につづいた。
(( 銃撃戦だとか鬼の強襲だとかまともな状況じゃないんだぞ!なんなんだ、
この落ち着いた爺さんは! ))
ヘリに乗り込み飛び立った眼下では、後から来たおふくろの研究所の数台
のバンが、倒れている十体ほどの人間に戻った鬼を回収していた。
斉はすぐさまおふくろに連絡したが、ヘリからということもあって、何者かに襲
われた事だけ伝え、落ち着いたらまた連絡すると電話を切った。
30分ほど飛んだだろうか、ヘリから見える景色は町並みの明かりはなくなり
周囲は山と森になった。ただ、ポツンと光を放つ場所が見えてくる。そこには
大きな屋敷と広い庭、どうやらヘリポートまであり、そこに向かっているようだ。
屋敷につくと俺は一室に寝かされる。すると間もなく黄が部屋を訪れた。
「 詳しい話しは皆が揃ってからじゃ、それより今はこれを不久良くんに飲ませ
てくれ 」
「 血清丸ですか? 」
「 そうじゃ、緊急の継承が必要になるやもしれんと、ゴルディア王国に行く前
に覆蔵から預かっておった。本来は本人の意志を尊重したいとこなんじゃが
この状況じゃ、竜人なら死ぬことはまずないが、生身の人間では守るにも
万が一があっては困るんでの 」
(( これが、龍の血を目覚めさせるための儀式ってことか!? ))
鈴女が手に取った血清丸を、俺の口に半ば強引に押し込む。俺がそれを
飲み込んだとたん。
(( ぬぉぉぉぉぉ~ ))
斉に繋がっていた俺の意識体?は、眠っている俺に向かって一直線に引っ
張られる。ぶつかると思った瞬間、思わず目をつぶった。
(( ん?なにが起きた? ))
ゆっくりと目を開けた俺の目の前に鈴女の顔が見えた。
(( 目の前? ))
「 不久良!斉くん不久良が! 」
「 あれ、ここは? 」
目の覚めた俺に斉が説明し始める。
「 ここは、龍玄師の屋敷だ。お前事故の後から意識がなくなって・・・ 」
「 いや、そうじゃなくて・・・ 」
まさか自分の体に戻るとは思ってもみなかった俺は、ひとまず起き上がろうと
するが体が動かないことに気づく。
「 体が、動かない・・・ 」
「 血清丸の影響かのう、眠っておったせいか、まだ体になじんでおらんのじゃ
ろか 」
黄の言葉を耳に徐々に意識が遠のく。
(( ちょっちょ、せっかく自分の体に戻ったのに・・・ ))
「 不久良!不久良! 」
そんな鈴女の声を聞きながら俺は意識を失った。
18:46
真っ暗闇、遠くにある光、この光景ももう見慣れていた。
(( 一時的とはいえ、自分の体に戻った。血清丸での継承が引き金か?た
だ、今後体に戻るには、どうすれば戻れるんだ? ))
【 誰を選択しますか? 】
【 桐蔵 斉隠 】
【 半部 覆蔵 】
【 風間 幸士郎 】
【 佐川 鈴女 】 【 佐川 龍之助 】
(( 時間的には、親父の所か、店長・風間の所だが、風間の名前が出てこ
ないこととこっちは時間が揃ってきていることを考えると親父の方か ))
現状だけでなく、何故か不安に感じた俺は、親父の名前を選択した。
18:46
「 わかった!あんた行くわよ! 」
「 あ、ああ 」
目を開けると出口に向かう親父とおふくろがいた。
【 どちらを選びますか? 】
【 1,戦う 】
【 2,従う 】
10・・・9・・・
(( このタイミングでこの選択? ))
8・・・7・・・
(( 危機が迫ってる?俺たちの時と状況が同じ? ))
6・・・5・・・
(( 同じ奴らの仕業か?おふくろがいるんじゃ戦うのは危険か? ))
4・・・3・・・
(( ならば従うしか! ))
そう思い” 2 ”を見つめる
2・・・1・・・
「 不久良か?どこにいる? 」
(( なんだ?意識が繋がってる? ))
「 意識が繋がるってなんだ?おいかあちゃん!不久良が俺の頭ん中でしゃべ
ってるぞ 」
「 やめてよね、あんたついに頭がどうかしちゃったの? 」
そう答えたおふくろのスマホが急になりだした。
「 斉くん?え?なに?よく聞こえないわ!襲われた?ヘリ?わかった!あん
た不久良たち、なにものかに襲われたって 」
「 おい不久良!襲われたって本当か? 」
(( ああ、それよりそっちにも危険が・・・ ))
「 キャー 」
先に洞窟を出たおふくろの悲鳴が聞こえてくる。慌てて表に出る親父。そこ
には、頭に角を携えた鬼たちにおふくろが捕まっていた。
「 美雪! 」
(( 親父、俺らを襲ったのはこいつらだ、竜人化した斉でもこの人数相手じゃ
かなわなかった。おふくろが危険だ!無理するな! ))
今にも動きだしそうな親父を制したその瞬間。
「 逃げて~~~~ 」
おふくろの大きな声が響く。
“ ボ キ ッ “
「 ギャーーーーーーーー 」
背筋が凍るような音とともに、おふくろの絶叫が轟く。腕が異様な方向に曲
がっていた。
「 黙れ女。半部教授だな。妻の命が欲しくば、我に従え。竜人化なんぞし
てみろ、こいつの首が飛ぶぞ 」
おふくろの姿に呆然とする親父。俺も完全に思考が停止していた。
「 に・・・げ・・・て・・・ 」
激痛の中絞りだしたおふくろの声。ただ、それは鬼によって首がもがれること
でかき消された。激高し竜人化する親父。ただ、あっという間に数体の鬼に
取り押さえられた。その光景を目に俺の視界は暗闇に包まれていった。