第七話 五角(いつつづの)の鬼
16:39
【 誰を選択しますか? 】
【 桐蔵 斉隠 】
【 半部 覆蔵 】
【 風間 幸士郎 】
【 佐川 鈴女 】 【 佐川 龍之助 】
(( 時間的には風間の親父さんのところだな。ただ、もうちょっと早い時間に
戻って選択肢を変えれば、もしかしたら成田さんも・・・といっても自由が
利かないんだから今は先のことを進めるしか・・・ ))
光に包まれながら、そんなことを思っていた。
「 風間です。たびたび申し訳ありません・・・ 」
その声に目を開く。俺がリンクした時に起こる頭痛だろうか、頭を軽くたたき
ながら首をぐるりと回した。
(( たしか、黄って爺さんに連絡したところだったな・・・ ))
「 吉豊大臣の件で、情報を集めていた部下が事故で亡くなりました。まだ
詳細はわかりませんが、何者かに狙われた可能性があります。いやな予感
がします。・・・わかりました、もう少し探ってから、そちらに合流します 」」
そういうと風間の親父さんは、編集部に戻ると近くにいた男性に声をかける。
「 すまんが、これから出張に出る、社長と副編に伝えてくれ、詳細は改めて
連絡すると 」
元気のいい返事をした男性が内線で連絡し始めるのを見届け、編集部を
後にすると、非常階段から屋上へと上がった。
(( 屋上?何をする気だ? ))
屋上につくと、一度深呼吸をし、体を一瞬硬直させたかと思うと光に包ま
れ竜人へと変化した。そしてそのまま勢いをつけると、ものすごい勢いで隣の
ビルへと飛び移る。
(( なんでこんな真昼間から竜人にまでなって移動する必要がある?もしや
狙われたのは成田さんじゃなく、風間の親父さんだったとか?だとすると、
『 竜の巣 』にきた奴らは、俺だけじゃなく、狙いは竜人化できる者全員と
いうことか? ))
数十分ののちたどり着いたのは閑静なオフィス街にある古びたビルだった。
三階の一室、扉には『 嵐山探偵事務所 』とある。その扉を
ノックもせずに開けると、一番窓際の席に座っている人物がいた。机の上の
プレートには『 所長 嵐山 キヒト(きひと) 』とある。フードを被って両手はフー
ドのポケットに突っ込み、到底所長という姿ではない。
「 ほう、珍しい客人だな、竜の者が俺になんの用だ 」
(( 風間の親父さんが竜人ということを知っている? ))
見た目は30前後だが、目上に対して礼も尽くせぬ態度の大きさ、嫌悪か
侮蔑か睨む目がそれを感じさせる。
「 いいかげん、電話なりパソコンなり連絡方法を考えてくれ。直接来るしか
方法がないのはさすがに面倒だぞ 」
(( 風間のおやっさん、あんたもスマホに変えてくれ・・・ ))
「 俺らは貴様らと違って、正体がばれるわけにはいかんのでな、で、要件は
なんだ 」
「 龍玄師からの伝言だ。手をかしてほしいと 」
「 はぁ?お前らほどの力のある者が、俺に力を貸せだ?なんの冗談だ!」
「 まだ確証を得た訳ではないが、お前の仲間たち【 鬼 】の居場所がわかる
かもしれない 」
(( この人が鬼!?あ!たしか、斉たちが捕まったあの異形、まさに鬼。いや
でもあれは時間的にはこのあと起こる出来事。つまりそれについては以前
から調べていた・・・そして、成田さんの情報で何かが繋がった?それに、
この人が鬼ならば敵か?なのに力を貸してほしいとは・・・? ))
「 貴様、そのことを口に出せば俺が協力するとでも思っているのか!? 」
「 俺らはそもそもが人だ。竜人はただの血脈であり、子たちは人と何ら変わり
はない。血脈というだけで、子からは力は得られない。儀式を行った者は、
寝てようが、気を失おうが【 龍皮 】により守られ、やはり力を奪われることは
ない・・・と思っていた。が、近年ごくわずかではあるが、竜人が消えた。それ
をさぐった結果。そこには、お前ら鬼の存在、いやそれだけではない、この国
に古より伝わる異形が、実験体として捕まっている可能性が出てきた 」
(( 龍・鬼それ以外の異形?捕獲・実験?一体何が起きている? ))
「 ガセネタじゃないだろうな 」
「 鬼がいるとは言っていない、しかし、そこから辿れば、すべてとは言わんが、
お前らの仲間が助けられるのは間違いないだろう 」
「 違ってたらただじゃおかねぇぞ、で、何をすればいい 」
「 龍玄師の所に行ってくれ、文句も直接言ってくれると助かるな 」
不敵な笑みを浮かべる風間の親父さん。それに舌打ちしながら立ち上がる
嵐山。その瞬間俺の視界は暗くなった。
18:55
【 誰を選択しますか? 】
【 桐蔵 斉隠 】
【 半部 覆蔵 】
【 風間 幸士郎 】
【 佐川 鈴女 】 【 佐川 龍之助 】
(( 今だ何が起きているのかはわからないが、少なくとも龍や鬼その他の異形
なるものが捕獲され実験体とされている。つまり、俺を含め竜人もそのタ
ーゲットであり、嵐山という鬼の仲間も捕まっている?それと成田さんの情
報、FUJI製薬の青木ヶ原という人物が関係しているのか? ))
考えがまとまったわけではないが、すべてにつながりがあることは、ほぼ間違
いないと確信する。
(( いずれにせよ、先に進むしかない。選択肢は増えていないし、時間的に
鬼に捕まった斉の所か? ))
そして光に包まれた
「 さすが竜人だね~ 」
その言葉に俺は目を開く、三匹の鬼に押さえつけられた斉、鈴女と俺の本
体は、別の鬼に抱えられている。そこに現れた声の主は鬼の姿はしていたが
他の鬼より一回り小さく、どちらかといえば竜人と近い鬼人といったとこか。
「 自分もこの力を得るまでは、にわかに信じがたかったけど、いるんだね~ひ
とあらざる者って、ん? 」
その鬼が話をしていると遠くから何やら音が聞こえてきた。
(( 黄とかいう爺さんのヘリか!? ))
その瞬間、大きな爆発音とともに先ほどのバンの止まってるあたりから、黒
煙が立ち上る。
「 なんだ?おい、お前ら! 」
鬼人の声に鬼たちが一斉に臨戦態勢をとる。そこに現れたのは、10匹は
いる鬼たちよりさらに一回り大きく、頭には五つの角を携えていた。
” グ オ ォ ォ ォ ”
五つの角を持った鬼の咆哮が公園内に響き渡る。すると鬼たちは見る見
るうちに小さくなり、人の姿になってしまった。鬼人だった奴だけがなんとか意
識を保ってはいたが、
「 クソ!・・・ホン・・・モノ・・・カ・・・ 」
そう言って、意識を失った。
気がつくと、斉も五つ角の鬼も人型に戻っていた。多くの車の音が公園の
周りから聞こえてくる。
「 美雪さんの研究所の者も来たようじゃな、ほっほっほ 」
目の前には、いつの間にか黄という爺さんが後ろ手に立っていた。