第六話 龍と時の血が交わった時
18:08
再びこの暗い空間に戻った俺は、頭がパンク状態だった。
(( 情報が断片的すぎて整理がつかねぇ。ただ、すべてが繋がっているのは
間違いないんだが・・・ ))
【 誰を選択しますか? 】
【 桐蔵 斉隠 】
【 半部 覆蔵 】
【 風間 幸士郎 】
【 佐川 鈴女 】
(( 選択肢が増えていない・・・再び誰かを選べということか。親父の時のこと
から、鈴女を選択しても同じ時間が流れるだけだろう。表示されている時
間が18:28、風間の親父さんの時がたしか16時台、斉がバンに乗って
いたのが・・・そう、18:30は越えていた。時間的にも親父の所か? ))
親父の名前を凝視した俺は光につつまれていった。
18:08
「「 そしてこの島は、竜人のご加護で守られていて、一般の人間は近づくことも
できません 」」
俺の耳にイルシオの声が聞こえてくる。足元に俺とつながったことで起きる
頭痛に頭を抱える親父と、それを気にせず、イルシオの話に耳を傾けるおふく
ろが見えた。
(( よし!前回の時間軸の続きだ!なんとなく法則がわかってきたぞ! ))
「「 ここに来ることのできるのは、竜人の血を引く血族の者です。さらにこの装
置は私と同じクロロック家の血脈がないと動かす事はできません 」」
(( おふくろが近づくと装置が反応し、触るとイルシオが話し出した。それは、
おふくろが、クロロック家の血脈の者ということか? ))
「「 二つの血脈が交わるとき、純血と同様の能力を持つことができます。ただ
し、一度きりですが。それが、お二人のご子息です 」」
「 それが、史歴書にある『 龍と時の血が交わった時、時空が現れる 』という
ことだな。それは・・・ 」」
「 あんた、集会始まってる頃よね?ひとまず、私たちの一族のこと使命のこと
、それで不久良がどう思うかわかんないけど、受け入れてくれれば、竜人の
継承も伝えなければならないわよね? 」
(( どう思うも何も、おふくろが装置に触った瞬間、それは、イルシオとの出会
いと、あの時空に飛ばされた瞬間なんだよな。もう始まってるし、どうみて
も拒否権ないんだが、まぁ、二人が今の俺の状況を予想することするの
は無理か・・・ ))
「 わかった、風間くんに連絡しよう 」」
その後親父が風間に連絡するが、しばらくすると大きな音とともに通話が
切れた。装甲車が突っ込んだ時だ。当然それを知る由もない、親父とおふく
ろが、何度も試みるが繋がらない。
「 なにが起きてるんだ! 」
「「 私がこの装置に入り、長きにわたって、たどり着いたものはいません。逃
げのびた一族はどちらも多くはありませんが、時がその子孫を増やしたこと
でしょう。それでもたどり着けなかったのは、何者かによる妨害もあるかも
しれません 」」
「 たしかに史歴書には・・・ 」
親父が何かを確かめようとした瞬間、おふくろの大声で遮られる。
「 さっきの大きい音と、銃声はなに! 」
「 えっと・・・ 」
画面の向こうで斉がどう説明しようか悩んでいると。
「 いいわ、それは後で!とにかく、もうすぐうちの人間が着くわ!今、どこ! 」
おふくろの叫ぶ声と同時に画面は真っ白になり、大きな音と銃声が響き、
また通話が切れてしまった。
「 なんなのよっ!あんた、子供たちが危険だわ、戻るわよ! 」
「 いや、しかし・・・ 」
「 しかしも案山子もない!え~と、イルシオさんだったわね、私たちは何をす
ればいいの! 」
「「 クロロック家の継承はすでに終わりました。あとは、竜人の継承さえ済め
ば、いずれまたお会いする時が来ます 」」
「 わかった!あんた行くわよ! 」
「 あ、ああ 」
まだ何か聞きたげな親父が、おふくろの勢いに押され洞窟の出口へ向かう。
そして、俺の視界は暗闇に包まれていった。
18:36
何故か落ち着いていた。これまでのすべての情報が理解できているわけで
はない、ただ自分の身に起きたこと、血脈に関してがわかったことが大きい、
普通では受け入れきれないであろうことだらけではあったが。
(( 竜人、そしてクロロック家の血脈の話しを聞いたときは、もっと驚くかと思った
んだが、なんだろう、この落ち着きは、懐かしささえ感じる・・・いやいや今
はそんな感傷に浸ってる場合じゃないな ))
【 誰を選択しますか? 】
【 桐蔵 斉隠 】
【 半部 覆蔵 】
【 風間 幸士郎 】
【 佐川 鈴女 】 【 佐川 龍之助 】
(( 店長の名前が追加されてるな、時間からすると装甲車が突っ込んできて
俺らが逃げたあとくらいだな、あいかわらず、このタイムリープ自体にどんな
理由があるかわかんないけど、とにかく進むしかないな ))
二度三度と繰り返し、選ぶべき選択とその先の状況の予想ができるように
なった俺は、迷わず店長の名前を凝視し、光に包まれた。
18:36
「 風間くん、奴らの注意をこちらに向かせるから、突っ込むぞ! 」
「 はい! 」
その声に目を開くと、まさに戦闘員たちが店長と風間に向けて銃弾を浴び
せて来ているところだった。二人の体にあたる銃弾は金属音とともに弾け飛
び『 龍の巣 』の店内に多くの銃痕を刻み込んだ。
一人二人と戦闘員を薙ぎ払い、出口の方へと進む。店の窓を突き破り表
に飛び出して一気に飛び上がり、ビルの屋上へと飛び乗ると、次から次へとビ
るの屋上を飛び移っていった。
(( 尋常じゃない身体能力。それに銃弾を跳ね返す強靭な皮膚。これを俺
は能力として引き継ぐのか。おふくろが継承がどうのと言っていたな、なに
か儀式的なものがあるんだろうか? ))
どのくらいビルを飛び移っていただろう、追手がないことを確認した二人は、
元の姿にもどりビルの屋上で身をひそめる。店長はおもむろにスマホを取り出
し、電話をかけ始める。電話の相手は【 黄 】だった。
(( これって風間の親父さんが連絡していた人だよな?店長もこの人物を知
っている?なにもんなんだ? ))
「 佐川です 」
「 おお、どうした 」
スマホの画面に映し出されたのは、頭が坊主のお爺さんだった。
(( これが黄って人か!?なんだこの雑音は? ))
「 店が何者かに襲われました。私と幸太郎くんは竜人化し、敵を引きつけて
逃げたのですが、桐蔵くん、それに竜人化できない娘の鈴女、半部くんが
一緒でして、なんとか手を打てませんか? 」
(( 俺は継承してないないからともかく、鈴女も竜人化できない?銃弾は弾
いていたぞ? ))
「 予感的中じゃの。先ほど幸士郎から連絡があっての、いやな予感がすると
いうことじゃったので、もうすでにヘリで近くまできておる。助っ人にちょうどい
い知人もいたのでのう 」
(( そうか、この雑音はヘリの音だったか!ってかヘリで移動できる爺さんって
どんな人物なんだ? ))
「 ん?何か先の方で光ったのう。たぶんあれじゃな、まぁ、こっちは任せて、わ
しの家でゆっくりお茶でも飲んどれ、みんな連れて後で行く 」
そんな爺さんの声とともに、俺の視界は暗闇に落ちていった。