第四話 火のないところに煙は立たぬ
【 誰を選択しますか? 】
【 桐蔵 斉隠 】
【 半部 覆蔵 】
【 風間 幸士郎 】
再びこの空間に戻され目の前には、すでに新たな名前が出てきている。
【 風間 幸士郎 】たしか、風間の親父さんの名前だ。ただ先ほどの続きが
気になった俺は、もう一度親父を選択した。しかしながら、先ほどと同じ時間
が流れ、ここに戻ってきてしまった。
(( つまり、ただただ選んでも意味がない。なにかきっかけ・・・そうか!選択・・・
親父を選んでループした。選択肢がなかったから?が、斉の時出てきたも
のは間違ているとは思えない。と、やはり、風間の親父さんを選択すべき
か?新たに情報を得ることで選択肢の是非もわかるかもしれない・・・))
イルシオという少女の言葉、左上に見える時間から自分がタイムリープしてい
ると判断した俺は、風間の親父さんを選択することにした。
名前を見つめて数秒、また光に吸い込まれていった
16:11
周りがざわざわとしている音で、移動し終わったと感じる。目を開けると、そこ
は、大きな部屋に3・40はある机と人が入り乱れていた。机には多くの資料
らしきものが積み上げられている。
俺の体は足元の白髪の男性に例の白い糸のようなものでつながっていた。
(( これが、風間の親父さんか? ))
左手に外したメガネを持ち、右手で目頭を押さえるようにしている。俺とリン
クした時に起きる頭痛かもしれない。
「 ったく、明日は雨か~。低気圧のやろう! 」
そう言いながら、机の引き出しを開けると小さな小瓶を取り出す。2粒出す
と机にあった水で口に流し込んだ。すると、目の前の机に座っていた若い男性
が大きな声でしゃべりだす。
「 首・肩のこり、眼精疲労、頭痛の理由なんて他にもいっぱいありますよ、年
なんじゃないっすか!?編集長 」
(( そういえば、風間の親父さん新聞社に勤めてるって誰か言ってたな、編集
長だったのか!ということはここは編集部 ))
「 うっせいぞ【 成田 】!石松だか、丑三つだか変な名前しやがって 」
「 【 石光 】です!ひっでぇ~なぁ。親が名付けてくれた名前っすよ~
今は課関係ないじゃないっすか! 」
「 あ、すまん。ってお前が年とかいうからじゃねぇか!ってか、例の件ちゃんと裏と
ってきたんだろうなぁ~石光さんよ~ 」
成田と呼ばれた男性は、黙って立ち上がると手に封筒を持ってくる。その封
筒はいやにぶ厚かった。そして、成田は編集長に近づくと耳元でつぶやいた。
「 データは例の場所にも、それも読んだらシュレッダーしといて下さいよ~、例
の件俺の推察もありますが、結構奥深いですよ。ここじゃなんなんで、モクで
もいきませんか 」
すると二人は、立ち上がり部屋を出る。向かった先は非常階段だった。そこ
には灰皿があり、どうやらここがこの会社の喫煙所なのだろう。密談にはうって
つけということだ。つくなり、封を開け書類に目を向ける編集長。表紙にはある
大臣の裏金疑惑についてとあった。
(( 最近ニュースになっている件だな。とはいえこれが俺と関連するのか? ))
すると、煙草に火をつけた成田がしゃべりだす。
「 で、【 吉豊 秀臣 】大臣の件ですが、闇に葬られそう
です。ってか、この件の出どころも怪しいって噂も流れてますが。とにかく、関
連で出てきたフェザントSECURITY、FUJI製薬他数社、大臣の後援会にも
名前はなく、各会社の株主などに大臣はおろか、家族、側近の名前もあり
ませんでした 」
(( どっかで聞いたことあるぞ、たしか警備会社の方は、親父の発掘調査の時
によく聞いた会社だ。態度が悪いと嫌がっていたな。製薬会社の方は、引
き抜きの勧誘がしつこいって、おふくろが文句言ってた )
「 それが何故、ニュースになるほど取り上げられてる?それもTVだけで、新聞
社、雑誌社にはいっさい情報が入ってきてないんだぞ? 」
「 すいません。それに関してはTV局にもさぐり入れてんすけど口固くて、まった
く情報が出てこないんす 」
「 たしかに出てきた会社の名前はどれも一癖あるが、逆に大臣失脚を狙った
という線もあるか? 」
「 その線もなくはないんですが、ただ、あ、6ページ目の写真見てください。大
臣の隣の男性 」
(( あれ、この人おふくろの引き抜きで何度も家に来てたぞ? ))
「 誰だ?見たことはないが・・・ 」
「 【 青木ヶ原 源三 】FUJI製薬の副社長だそうで
す。なんでもFUJI製薬の破綻の危機回避の重要人物とか。そして先ほど
名前のあった警備会社他、彼の卒業した東医大人体解剖学研究院・同
スポーツ医学研究院、さらにアスリート治療院などなど。今回名前の挙がっ
たところすべてに彼が関与しているという話です。ただ、大臣同様私的な利
益に繋がる要素が一切ないんですよね~ 」
頭を掻きながら行き詰ってる感がうかがえる成田。
「 それで終わりじゃないんだろ?先を話せ先を! 」
「 さすが編集長!お目が高い!って言いたいんすけどね、俺が唯一引っかか
ってるのが、あまりに非現実すぎて、なんで引っかかってるのか自分でもよくわ
からないんですよ 」
「 で、その非現実的なこととは? 」
(( おいおい、まさか竜人とかの話じゃないよな? ))
「 医大から製薬会社、関与してるのもほとんどその方面の青木ヶ原氏なんで
すが、歴史に興味があるらしく、奈良の山上ヶ岳に登山によく行くそうで、そ
こは役小角の修験道の霊場がいくつかあり、その役小角が鬼を弟子にして
いたという伝説があって、その鬼に興味があると・・・ 」
(( 待て待て、今度は鬼だと!? ))
「 なるほど、たしかに非現実的すぎだな。なんか引っかかってる気持ちもわか
るが、ネタにするには信憑性のかけらもない。今回の件は手を引いとけ。下
手に嗅ぎまわって、うちの悪いイメージつけたくないしな 」
「 ちょっと待ってください。もうちょっと探れば・・・ 」
成田がそこまで言いかけたが、編集長の顔が一気に険しくなり言葉を遮る。
「 いいから手を引け!いいな! 」
低く凄みのある声に成田は頷くしかなかった。
その瞬間、例のごとく目の前に選択肢が現れる。
【 どちらを選びますか? 】
【 1,伝える 】
【 2,伝えない 】
10・・・9・・・
(( 毎回毎回、誰にとか何をとかないんかよ! ))
8・・・7・・・
(( まぁ、何をってのは、今得た情報ってことだろうな ))
6・・・5・・・
(( ってことは誰にだが、こんな話しするっていっても・・・ ))
4・・・3・・・
(( ただ、風間の親父さん何か知ってるみたいだし、共有?伝えるだな ))
そう思い” 1 ”を見つめる
2・・・1・・・
選択肢が消えると、成田は編集部に戻ったのか、すでに編集長1人にな
っていた。おもむろにポケットから携帯を取り出すと電話をかける。連絡先は
【 黄 龍玄 】?数回のコールで相手が出る。
「 風間です。ご無沙汰しております。例の件で関連しそうな案件が出てきま
したのでひとまずご一報をと思いまして。はい。はい。わかりました。それでは
集会のあとで、私の方はもう少し調べてから直接お伺いします 」
(( くっそ、聞こえねぇ。頭につながってるのに相手の思考も伝わってこないし、
こっちの事も伝えらんねぇ。何のために繋がってんだ!ただ、やっぱり風間
の親父さんは何か知ってる。そしてこの黄って人、編集長って役職の人間
がかなり丁寧な言葉遣い。よっぽどの人物か? ))
電話を切った直後、今度は携帯が鳴り始める。相手は半部覆蔵。
(( 親父?あ、たしか風間が言ってたな、連絡があったって ))
「 おう、どうした覆蔵、え?ずいぶん急だな。ああ、わかった。こっちも動きがあ
ったんでな、集会の後みんなには龍玄師のところに行ってもらう。俺もそっち
で、直接合流するんで、話し次第では改めて連絡するよ 」
(( なんで風間の親父さんガラケーなんだよ、そのせいかまったく相手の声が聞
こえてこねぇ ))
すると急に非常階段の扉が開く。
「 編集長! 」
「 なんだ!そんな慌てて! 」
「 な・成田さんが、社の前で交通事故に! 」