第二話 突然の来訪者
18:05
光からはじき出されたリザードマン、いや斉は、俺を抱えたまま見事に着地し、
素早く路地へと逃げ込む。周りを見わたし誰もいないことを確認すると元の姿に
戻っていた。しかし、抱えられた俺は、助けられ見るからに怪我のない様子だが
ぐったりと斉に抱えられている。
((何が起きてる?斉のあれはなんだ?俺はなぜ気を失ったままなんだ?))
斉は俺を背負いなおすと、路地を奥へと進む。その先には【 龍の巣 】の裏口
があり斉はドアをノックした。出てきた鈴女が斉と抱えられている俺を見て驚く。
「 斉くん、不久良!どうしたの!パパッ! 」
そう呼ばれて、奥から龍之助が出てくる。
「 桐蔵くんいったい・・・。と、とにかく中へ! 」
「 鈴女!タオルと着替え、それと居間に布団の用意を! 」
「 うん、わかった! 」
そして俺は、奥へと斉に背負われていった。その時、店内からこちらの様子を
伺っている【 風間 幸太郎 】がいるのを目にした。
(( 風間がなぜここに?俺が店を出るときにはいなかったはず・・・ ))
俺は着替えさせられ、居間の布団で鈴女に看病されている。店内ではテー
ブルに3人が座って、今、起きたことを話し始める。
「 桐蔵くん、何が起きたんだね 」
「 はい、ここに来る途中、この先の大通りの交差点で、不久良が急に通りに
飛び出して・・・」
(( ちょっと待て、俺が少女を助けたの見ただろう! ))
「 それで、竜人化して助けたんですが、気を失ったままなんです 」
(( 竜人化?さっきのリザードマンのことか? ))
「 二人とも怪我はないんだね、それと竜人化を誰かに見られては? 」
(( 店長も風間も竜人化に関して驚く反応がない、知っているのか? ))
「 はい、僕はもとより、不久良にも怪我は無いはずです。すぐに路地に入り、
確認もしましたので、見られてもないかと 」
それまで黙って聞いていた風間が、二人の会話に割って入る。
「 もしかしてなんですが、不久良の親父さんからあった連絡と関係があるかも
しれません。俺の親父に連絡があったのですが、親父は今日来れなくて、か
わりに俺に伝えてくれと言われたことが・・・ 」
(( 親父から連絡!?何故俺に連絡しないんだ? ))
「 【 覆蔵】 はなんと? 」
「 今日の集会で、不久良に伝える決心をしたと。多分もうすぐ連絡がくると思
います 」
(( 集会ってなんだ?伝える決心って?わかんない事だらけだって! ))
すると、言ってる矢先に風間の携帯が鳴る。
「 風間くん、モニターに繋げてくれ 」
風間はうなずくと、モニターに繋げる。すると大画面のモニターに親父の顔が
大きく映り込んだ。
「 おお、龍之助、桐蔵くん、風間くん、急に悪いね 」
「 覆蔵、どういうことだ!?あんなに伝えることを渋っていたお前が急に 」
「 それなんだがな、俺の考古学研究所宛に届いた、古代史歴書を調べてい
たら、とんでもないことが分かってな、どうやら不久良に関連しそうなんだ、と
ころで不久良は? 」
「 それがな、実はさっき事故にあって・・・ 」
龍之助がそこまで話しかけると、画面の覆蔵が弾き飛ばされ画面から消え
た。すると、横から不久良の母 【 美雪 】 の顔がドアップになる。
「 不久良が事故ですって!怪我は!大丈夫なの! 」
「 美雪さん落ち着いて、怪我はありません。ただ、気を失って起きないんです 」
「 分かったわ!それは私の方で何とかします。研究所に連絡して、すぐ向かわ
せるわ! 」
そう言って画面から消えた美雪に代わって、頭をさすりながら覆蔵が画面に
戻ると。
「 龍之助、事故の時間は? 」
「 桐蔵くん、18:05位だったね? 」
「 はい 」
「 なるほど、若干の時間のズレはあるが、こちらのタイミングとほぼ一緒だな 」
「 覆蔵、お前一体今どこに? 」
「 ゴルディア王国だ 」
親父がそういった刹那、『 龍の巣 』 にいた三人がピクっと何かに反応する。
「 なんの音だ? 」
「 ダンプ?いや、もっと大きい 」
ゴゴゴゴゴと地響きをたて、その音はどんどんと近づいてくると。
” ド カ ー ン ”
『 龍の巣 』の道路のガラス面は、粉々に砕け散り、装甲車らしきものが、店
軒下で止まった。すると装甲車から、戦闘服を着た数人が飛び出してくる。手
には、マシンガンらしき物を持っていて、それはすぐさま放たれた。
” ズ ガ ガ ガ ガ ガ ー ン ”
連射された銃弾は、容赦なく三人へと放たれる。が、撃たれた銃弾の数だけ
キン、という金属音がなる。足元を見ると、三人が竜人化していた。
(( 斉だけじゃなく、店長と風間も竜人化? ))
「 ここは、僕と風間くんで引き留めておく、桐蔵くんは、半部くんと鈴女を
たのむ! 」
「 はい! 」
斉は、踵を返すと居間に向かう。
「 風間くん、数分でいい、ある程度かたずけたら、すぐに引くぞ! 」
「 わかりました! 」
” ウ オ ォ ォ ー ”
その咆哮は、明らかに人間の者ではなかった。竜人化した店長と風間は、
銃撃をやめない戦闘員を、弾を弾きながら近づきひとり、またひとりと薙ぎ払っ
ていく。しかし、よほど訓練されているのか、味方が倒れてもその銃撃を止める
事はなかった。
俺を担ぐ斉と鈴女は家側の玄関から出る。斉は元の姿に戻っていた。
(( おい、それじゃ、銃で撃たれちまったらどうすんだよ! ))
「 いたぞ!こっちだ! 」
その声とともにまた銃撃音が鳴り響いた。その中の一発が才の腕に、一発が
鈴女の足へと当たるが、キンという音とともにはじかれた。当たったところは鈍く
銀色になり、薄っすらと衣のような模様が浮かびあがっていた。
(( 全身、あるいは部分的に竜人化の効果が使えるのか、しかも鈴女まで! ))
大通りの目前までたどり着くと、目の前に黒いバンが急ブレーキで止まる。
「 しまった!待ち伏せされたか!くそっ! 」
斉が路地を戻ろうとした瞬間、バンの窓が開き叫び声が聞こえた。
「 半部研究所の者です。急いで乗って! 」
(( 味方か!助かった! ))
その声と同時にバンの横のドアが開く。斉は、俺をバンに乗せ、鈴女が乗り
斉が続く。三人を乗せると同時に急発進したバン。
また、その後方で 『 龍の巣 』 から出てきた竜人化した店長と風間が、型
破りな跳躍力で、ビルを登り、バンと反対方向に逃げるのが見えた。