第十一話 新たなる血の交わり
18:40
風間の親父さんに諭されたとはいえ、親父とおふくろのことを完全に納得で
きたわではない。ただ、選択できなくなったことで、状況の確認が取れない以
上、生きていると信じるしかない。
【 誰を選択しますか? 】
【 桐蔵 斉隠 】
【 佐川 鈴女 】 【 佐川 龍之助 】
(( 風間の親父さんの名前も消えた!?あの病院の原因究明は顔を合わ
せてのお楽しみってことか?斉と鈴女は黄の所だから、どちらを選んでも
変わらない。 だとすれば、店長のところか? ))
俺は店長の名前を見つめ、光に包まれた。
18:40
連絡を終えた店長は少し何かを考えている。俺も現状を考え話しかけず
にしばらく様子を見ることにした。
「 さて、鈴女たちのことは心配だが、龍玄師に任せておけば何とかしてくれる
だろう。もし、何者かに我々がつけられているとするならば、逆に邪魔にな
るかもしれんしな。師の言う通り追跡を警戒しつつ少し遠回りして屋敷に
向かうとしよう 」
「 店長! 」
「 どうした幸太郎くん? 」
「 実は・・・ 」
突然話し出した幸太郎の話しはこうだった。
昨年夏、毎年恒例で母【 祥江 】の実家に帰っていた風間家だっ
たが、高校に上がった幸太郎は部活で、また幸士郎もちょうどその時大きな
政界のスキャンダルがあり仕事で、それぞれが母の実家に帰れないとなり、母
だけが実家に帰ることになったそうだ。
ところが、母が帰郷した翌日、幸太郎に1通のメールが届いたという。そこ
には、母を預かった、誰かに話せば母の命はないと。さらに、父・幸士郎の
追っているスキャンダルの詳細を探って報告せよとあったそうだ。誰にも相談
できず、部活を諦め。父への探りと母の探索に時間を費やした幸太郎。母
とは連絡がとれぬまま1週間が過ぎ、なんと母は何事もなかったかのように帰
ってきた。しかし、最後のメールに常に君と母親を監視しているとあったと。
幸太郎は、今回の襲撃がこれのせいではないかと思っているようだ。そうだ
とすれば、母の身にも危険があるのではと。
「 ふむ、それでは幸太郎くんの家に行ってみよう。場合によっては、一緒に龍
玄師の所へ 」
「 はい! 」
二人は一瞬にして竜人になると、幸太郎の家に向かった。ビル街から住宅
街に入り、竜人も目立つこともあり、人気のないところで、元に戻ると足を早
める。向かう最中、何台もの消防車が二人を抜いていく。向かっているのは、
幸太郎の家の方だ。
幸太郎が、母親が狙われたのではと、足を速めようとした瞬間だった。路
地から突然一人の女性が飛び出してきた。黒のレギンスにショートパンツ、T
シャツに薄手のパーカーとジョギングでもしていたかの恰好。その顔を見た幸
太郎は目を丸くさせた。
「 母さ・・・ 」
そこまで言いかけた幸太郎の口を手で押さえると、反対の手で口元に指を
立て、静かにという感じでウインクすると、手招きで二人を誘導した。
「 しばらく会話は控えて、話しは目的地に着いたら話すわ 」
そういうと、近くに待たせてあったタクシーに乗り込む、後部座席に座った幸
太郎と祥江、助手席には店長が座った。心配そうに祥江を見る幸太郎に
笑みを見せる祥江。
(( 大きな胸に、豊かな腰回り、に対してくびれた腰、とても40過ぎには見
えないな。うちのと大違いだ ))
突然の俺の思考に、驚き周りを見回す店長。それを見た幸太郎が
「 どうしました店長? 」
「 い・いや・・・ 」
(( あ~すいません店長俺っす、不久良っす。えっと、何事もなかったように
黙ったまま、話しを聞いて下さい。今、直接脳に話しかけてるって思って
ください ))
それから俺は、これまでのことを簡潔に店長に話した。話しを一通り話し終
えたころ、タクシーは駅へとついた。タクシーを降りると祥江が周りを見わたし、
一台の黒塗りのハイヤーに近づく、そこに立っていた初老の男性と何やら、
二言三言話すとハイヤーに乗るよう促した。
三人が乗ると静かに走り出す。沈黙が続いた中、切り出したのは祥江だった。
「 あーもう、せっかくパパがやっとの想いで買った一軒家が・・・キッチンも気に
入ってたし、まだローンだって残ってたのよ! 」
(( いや、そこかよ ))
「 だな・・・ 」
店長が思わず俺の言葉に反応してしまう。
「 だな? 」
祥江も思わぬ言葉にキョトンとした目で店長を見つめる。
「 あ、いや、こっちの話しで、で、祥江さんは何事もないんですね 」
「 ええ、私は大丈夫ですわ。日ごろから警戒はしていましたから 」
「 日ごろから警戒って!?母さんどういうこと? 」
それまで黙っていた幸太郎が、知らない話が進んでいくのを不安に思ったの
か口を挟んだ。
「 そうね、幸太郎にも話さなきゃね 」
そう言って幸太郎を見つめながら、祥江が話し出した。
幸士郎が20代前半、何者かによって龍の一族ということがばれ命が狙わ
れたという。それを助けたのが黄だった。当時の風間祥江を紹介し、風間姓
を名乗る事、そして現在の新聞社に入ったことで、それまでとは別人の人生
を歩き始めたという。風間家は代々忍者、風魔一族の末裔であり、現代の
忍者として諜報活動を生業としていたそうだ。無論、幸士郎もそれは知って
いた。祥江の諜報活動は黄の元行われていたため、あくまでも幸士郎の新
聞社での出世は本人の実力のものらしいが。
そして、幸太郎が話していた昨年の祥江の誘拐に関しては、幸太郎につ
いた嘘であること、諜報活動に専念しなければならず、連絡が取れなくなる
ため、仕方なくついた嘘であり、心配し行動した幸太郎に心が痛んだそう。
「 ごめんね幸太郎。龍の一族の継承であなたがとても悩んでいたのを見て、
私の一族のことまでは話せなかったわ 」
「 幸太郎くん、今いろんなことで頭が混乱しているだろうし、感情も安定しな
いと思う。が、風間家だけでなく、うちも半部家も同様なんだ。特に不久
良くんは、今日まで龍の一族のことすら知らせれてなかった。さらに・・・いや
それは、本人と話しをするといいだろう 」
「 わかりました 」
俺の気持ちを察してか、言葉を濁した店長、そして納得はいかないまでも
なんとか気持ちを整理しようとしている幸太郎。それを見た祥江は幸太郎を
抱きしめた。しばしの沈黙の中、俺の視界は暗くなっていった。
19:53
【 誰を選択しますか? 】
【 半部 不久良 】
暗闇の中には俺の名前だけが残されていた。
(( 黄の屋敷に全員が集結すると考えていいだろう。そこでのそれぞれの情
報も集約される。特に黄という爺さんの情報は未知だ。どんな人物で何
を知っているのか。いったいどんな結末が待ってるんだ!? ))
俺は自分の名を見続け、光に包まれた。