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4 力の代償

「その痣は力の代償として現れたもの。あなたのその人間離れした力を得るには代償が必要なの。今までどんな代償を払って来たか知ってる?」


 そう言われても初耳だった。

 私が払った代償って言われても、そんなことが必要かどうかも知らなかった。


「代償って何? なんで最初に言わなかったの?」


「言った所であなたは力をほっしたと思うよ。死んでも復讐を遂げたい、そんな風に見えたもの」


 そうかもしれない。

 今になって思えば復讐なんてどうでもよく感じるけど、あの時はそれ以外のことは考えられなかった。


「代償ってなに? 私は何を払ってたの?」


「あなたが払ってる代償はあなたの魂、つまりは命。早く別の代償を用意しないと死んでしまうよ」


「え? 死……なんで、なんで今頃になって言うの? 嘘でしょ?」


 ついさっきも体が傷ついても痛みも無くすぐ治っていた。

 今までと変わらない。

 死ぬって言われても信じられない。


 私は持ってた剣で躊躇なく自分の腕を切り落とす。

 痛みはない。

 そして腕を切断面に合わせる。

 ちゃんとくっついた。


「ほら! いつも通り痛みはないし、くっついた。私は死なない! これでも死ぬと言うの?!」


「生きてる間は傷はすぐ治るからそんなことしても分からないよ。とにかく一月ひとつきもしないうちにあなたは死ぬ」


「そんな……。そ、そうだ。他の代償を払えば助かるんだよね? 魔王を倒せば私は助かるんでしょ?!」


「そんなことを言った覚えはないんだけど?」


「え……? じゃあ何で魔王を倒せって言って来たの?!」


「力があれば名声も欲しくなるでしょ? 欲を煽れば契約してくれるかなって、ね? だから魔王は延命には直接は関係ないの」


 元々魔王には興味がないし、私は復讐できる力だけが欲しかった。

 それ以外はどうでも良かった。


「どうすれば助かるの?」


「人を一人殺せばあなたは一月ひとつき程度の寿命が延びる。だから殺し続ければ長く生きられる。もし誰も殺したくないなら朽ちて死ぬけど、その時は苦しみは無い。だから死ぬのも怖くはないよ、いいことづくめだね」


「人を殺せば……助かる? でも、そんなことしてイリスに知られたらきっと嫌われちゃうよ……」


 あの冒険者達を殺したときみたいに上手くいく保証は無い。

 それにバレたらイリスは人殺しの仲間として見られてしまう。


「魔王との戦いの最中に死にかけの人を殺せばいいじゃない。戦場は死人なんて珍しくないし、強大な力を持つあなたのために命を捧げる仲間だっていっぱいいるはずだよ」


「だからサーナは魔王を倒しに行けってしつこく言ってたんだ……」


「ま、そんな遠くに行ったらイリスといつ会えるかは分からないよね。じゃあさ、いなくてもいい人を殺しまわるのはどうかな? その辺を歩いてる浮浪者とかいらないでしょ」


「出来るわけないでしょ! なんでそんなこと平気で言えるの?! サーナ、あなたはおかしいよ!」


 なんで、なんのために私にこんな力を授けたの?

 なんで私だったの?


「私はね、人の魂を集めてるの。私が好き勝手に人を殺してはいけないけど、代行者がやる分には問題ないの。君に声を掛けたのはたまたまだよ、でも誰でもいい訳じゃない。まぁその辺の理由なんてどうでもいいよね?」


 確かにそんなこと知ったってもう意味はない。


「それでね、一人殺せば9割の魂を私が頂き、残りの1割はあなたが貰い受けることになる。その1割が一月ひとつき分の命。でも嫌ならしなくてもいいんだよ。無理強いはしてない。人のために自分が死ぬか、生きるために誰かの命を奪うか。それはあなたが決めればいいから」


「急に言われても困るよ! 他には方法は無いの?!」


「……ちなみに私が死んでもあなたにかかったその“呪い”は消えないから変な気は起こさないでね。それとあなたにはもう時間が無い。今すぐにでも討伐隊に志願することを薦めるよ。じゃあ用事があるからまた後で会いに来るね」


 サーナはどこかに行った。

 

 どうしよう……、死にたくない、イリスと別れたくない。





 夕食の時間。


 目の前にはイリスがいる。

 顔を合わすのが辛い。


「元気ないけどどうしたの?」


 イリスは心配そうに私のおでこに手を当てる。


「熱はないね。今まで体調を崩してる所みたことないから珍しい……今日は早く休んだら?」


 人を殺せば私の寿命は延びる。

 だからまだどうにかなる。

 でもそれは絶対駄目で、だからといって他に方法は……ない。


 まだ時間はあるし、慎重に考えよう。


「うん、疲れたみたいだから横になるね」


 部屋には今はベッドが2つある。

 私は気兼ねなくベッドに横になりこれからのことを考える。


 だけど、考えても分からない。


 自分のために誰かを犠牲にする……?

 それじゃ私のお父さんを追い詰めたあの人達と一緒だ。


 出来るわけないよ……。


 でも私が死んだらイリスはきっと悲しむ。

 私はイリスと離れたくない。

 

 でも、でも……でも……。





 翌日、私は仕事を終え帰宅途中に親と過ごした元自宅前を通りがかる。

 私がかつて過ごしたあの家は今は誰かの思い出で上書きされている。


 もし、お父さんが死ななければ今も私はあの家にいたのかな。

 あのまま何も無ければ私はイリスと出会わずにいたのかな。


 でもそれはそれで良かったはず。

 イリスは店を畳んでたかもしれないけど。

 いや、私以外の人がイリスの横にいて、それで二人は協力して店は繁盛してた可能性もあるよね。


 はぁ、なに考えてるんだろ……。

 そう思うと悔しい気持ちが沸き上がって来る。

 今の私だってイリスの役には立ててるんだからね!


 そして家に向かいながら今日の痣のことを思い出す。

 痣は昨日と変わらない様に見えた。


 でも1日1日が過ぎていくにつれ悪化していった。

 今まで感じなかった死の恐怖が私を不安にさせる。。


 怖い。


 死にたい時は死ねなかったのに、なんでいつも私の希望を断とうとしてくるの?


 そう思った所で何も変わらない。

 生きるための方法はある。

 私にはまだ選択肢は残ってる。


 でも選択肢があった所で簡単に決断を下せない。


 ……誰かを犠牲にして生き永らえるか、死を受け入れてイリスの元から去るか。



 

 

 2週間が経過し全身の痣は増えて大きくなった。

 そろそろイリスに見つかってもおかしくはない。


「最近全然元気ないけど大丈夫?」


 イリスは優しい。

 いつも私の事を心配してくれる。

 その優しさが嬉しくて、辛い。

 私はこの優しさにずっと触れていたい。


「大丈夫だよ」


 私は大丈夫じゃない、でも言えない。

 私を失うか、私のために誰かを犠牲にするかをイリスには考えさせたくない。


「何かあったらすぐ言ってよ? なんでもいいからね」


 そう言われて私は無理矢理笑顔を作り誤魔化した。


 ううん、駄目だった。

 涙が一滴零れると滝のように溢れて止まらない。


 イリスも困惑し始めた。


「ど、どうしたの? 仕事が辛いの? ごめんなさい、私が不甲斐ないからルナに苦労ばかりかけて」


 違う、そうじゃない。

 私は顔を横に振り否定する。


「じゃあ体の調子が悪いってこと? もう夜だから明日は仕事を休んで病院に行きましょ、ね?」


 私は顔を横に振る。

 涙は止まらない。


 どんなに力があっても私の心は弱い。


「そうじゃない、そうじゃないの」


「じゃあ……何なの? 私に言えない事なの?」


 言えない。

 言えるわけない。


「そうじゃないの……」


 イリスを悲しませず、私も悲しまずに済む方法は討伐隊に入って誰かを殺すしかない。

 もう先延ばしにはできない。

 サーナに言われた通り明日には志願しよう。

 ある程度命が溜まったらイリスの元へ戻ればいい。

 それを繰り返そう。


 しばらくイリスには会えなくなるけど、永遠に会えなくなるよりはいい。


「ごめん、疲れてるから部屋で休むね」


 私はそう断ってから立ち上がる。

 

 あれ……?

 

 床が近くなり体に衝撃が走った。


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