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2 もう何もいらない

 しばらくすると魔物にやられて歪んだ体は元の形を作り始める。


 ……なんて体にしてくれたんだ、あの兎め。


「私はサーナだよ、名前で呼んでちょうだい」


 この兎は人の思ってることが読める。


「死にたいんだけど」


「その体があればきっと活躍できるよ。魔王を倒しに行こう」


 サーナは魔王を倒しに行かせたがる。


「嫌。みんな死ねばいい。だから行かない」


「みんなってのは私も含まれてるの?」


「そうだよ、力をくれてありがとうね。死ぬのが嫌なら私を殺してよ」


「死にたかったら魔王の所に行くといいよ、彼ならきっとあなたを殺してくれる」


「はぁ……面倒臭い」


 私はとりあえず家に戻ることにした。





 とはいっても家には誰もいない。


 お金もない。


 食料も底をつきかけている。


 楽しかった思い出が詰まった今では苦しい場所、こんな所にいても楽しくない。

 だからといって他の所へ行きたくない。

 もう楽しい場所なんてない。


 友達とも会いたくない。


 何もかも、どうでもいい。


 ……部屋の片隅で横になることにした。





 1週間が過ぎた。

 何もせずずっと横になっていた。

 何も口に入れてないけど心以外は不思議なくらい元気を維持してる。

 この体は何も食べなくてもなんともないようだ。


 退屈だ。


 復讐を達成しても生きる気力は湧いて来ない。

 もう昔の幸せな生活は戻らない。


 そういえばあいつらがいなくなって冒険者ギルドはどうなっているんだろう。

 凄腕なら影響が大きいかもしれない。

 冒険者ギルドに向かった。





 特に混乱はしてなかった。

 私が現れても特に騒ぎは無かった。

 父が所属していたパーティを私が皆殺しにしたことはバレてないようだ。


 どんなに凄腕だとしても元々そんな人たちはいなかったかのように日常は流れていく。

 空しい気持ちが込み上げた。

 凄くても役目を終えた人間は忘れ去られる。


 私はふと掲示板に張られた紙を眺める。

 魔物退治、薬草などの素材採取、荷馬車の護衛など様々な依頼が書かれている。


 ・魔物退治はどれも安定して報酬が高い。危険だからか。

 ・薬草の採取の報酬はピンキリ。

 ・荷馬車の護衛は魔物退治よりは低いけど一定以上のランクが必要。


 冒険者ではない私には縁のない話だ。

 今の私なら危険でも平気だしできるけど、やる理由が無い。


 家に戻った。

 そしてまた何もせず片隅でただただ時間を流していく。





 ある日、私は家を追い出された。

 家賃を滞納したからだ。


 私には金がない。


 仕事もする気が無い。


 だって死にたいから。消えてなくなりたいから。


 だからお金を稼ぐ必要は無い。


 だからこの場所にこだわりはない。


 どこへ行っても同じ。


 どこでもいい。


 全てがどうでもいいと思っていたのに何故か涙は流れる。

 思い出の場所を失ったのが私は辛かったのか?


 私は涙を流しながら街中をさまよう。


 もうあんな場所はいらないけど、でも泣いた。

 何か諦めきれない気持ちが残ってるようだ。

 

 家を追い出されたその日から、町の人があまり来ない荒れた公園に住み始めた。

 他には誰も住んでいない。


 ただ空を眺める日々が過ぎていく。

 雨が降っても構わない。

 私は風邪もひかないみたいだ。





 ただただ公園で何をすることも無く、無意味に3週間を過ごした。


 なんとなく思い立ち、町を散策することにした。

 私が元住んでた地域から遠いからか知り合いは歩いていない。


 すれ違った浮浪者っぽい人は悪臭を放っていた。

 もしかして私もあんな匂いがしてるのかな?


 そんな私の背後を付けて来る者がいた。


「魔王を倒しに行こうよ」


 私に力を授けた兎がそう言って来た。

 嫌だから無視する。


「兎じゃなくてサーナって呼んでよ」


 心を読んできた兎が私にそう言ってくるけど無視。


「せっかくその力があるのに……何かしたら? 魔王と戦争の最前線は人がいっぱいいるんだよ」


 だから何?


「みんな死に物狂いで戦っているのに、なんとも思わないの?」


 思わない。みんな勝手に死ねばいい。


「後悔するよ?」


 しないよ。

 もう失うものは何も無いから。


 サーナとの会話はここで途切れた。





 自宅の公園に戻り、また何もない時間を過ごす。


 私はいつまでこんな生活をするんだろう?

 永遠に? 

 魔王を倒せば終わるのかな?


 そう思った時、声が掛かる。

 女性の声。

 サーナではない。


「君、いつもここにいるよね? 家は? 親は?」


 多分20代の女の人。

 私は一切動かずに無視した。

 すると頭に手を置かれ撫でられる。

 こんな汚い頭、触らないで欲しい。

 でも撫でられていくうちにお母さんやお父さんに頭を撫でられたことを思い出し、涙が出て来た。


 あぁ、戻りたいなぁ……あの頃に。


「辛かったでしょ? とりあえず私の家に来てみない?」


 あの頃に戻れるような気がして、私は付いて行った。

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