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1 それだけのために力を手に入れた

1話辺り1500~3000字程度

全部シリアス

「ルナ! 来て、早く来て!」


 お母さんに呼ばれた私はお父さんの部屋へ向かう。

 中に入ると宙にぶら下がった動かないお父さんの姿が目に入った。


 どう見ても駄目だと分かるけどまだ助かるかもと思い、悲しみを誤魔化しながら縄を切ってお母さんと一緒に下ろした。

 その後は大人の人達がやってきて必死に蘇生行為を行っていた。

 でもやっぱり駄目だったらしい。


 棺に納めたお父さんはまだ生きてるようなそんな気がした。その綺麗な顔を見るとまだ現実感が無くて悲しいと言う気持ちはすぐには来なかった。


 その日以降、お母さんは徐々に狂っていった。


 そんなお母さんが教えてくれた。

 お父さんは嵌められて悪い噂を流され所属していた冒険者パーティを追放されたということを。

 お父さんはそのことに気を病んでこの世を去ったのかもしれない。


 怒りが沸き上がった私はお父さんを追放した冒険者パーティに復讐へ向かった。

 でも当然返り討ちに合い、さらにお父さんの事を馬鹿にされた。

 親が屑なら子供も屑だと私にだけ聞こえるように言って来た。


 悔しい。

 私は無力だ。


 しばらくしてお母さんは男を作り、家を出ていった。


 私は捨てられた。


 家に一人残された私は絶望した。

 お母さんを憎いと言う気持ちはなかった。

 そんな余裕はなかった。


 全てお父さんを死に追いやったあの冒険者達が悪い。


 生まれてからずっと幸せだった私の生活はお父さんの死をきっかけに凄い勢いで全てが壊れた。


 私は父と同じ所へ逝こうとすると知らない女の声が耳に入った。


「まだ若いのにもったいないなぁ……」


 視界に映ったのは兎だった。


「ルナはまだ13歳と若いんだから無駄に死ぬのはもったいないと思うよ?」


 何故か私の情報に詳しい怪しげな兎。

 なぜ兎が喋ってるのかとか、驚く気力なんかない。

 もう何が起きてもどうでもいい。


 もう私はこの世から消えるのだから。


 無視して命を断とうとすると――


「復讐したいんでしょ? 力が欲しくない?」


 その言葉に心が揺らいだ。

 消えかけた火に油が注がれる。


 兎が言うには魔王を倒して欲しいらしい。

 そのための力を授けてくれるようだ。

 魔王を倒す以外にもその力を使ってもいいと言っている。


 魔王は世界を支配しようとしていて、世界中の国が協力して討伐しようとしてる悪者だと聞いたことがある。それほどの者を倒せればきっと地位も名声も手に入るんだろう。

 しかし私はそんなものは興味が無い。


 なんで私にその話を持ち掛けたのだろう、とかはいちいち考える余裕はなかった。


 魔王に挑めるほどの力が与えられるならあの冒険者パーティを皆殺しにするのは容易たやすいはず。

 私は迷わず兎の話に乗り、強大な力を得た。


 魔法とは無縁だった私は魔法が扱えるようになり、身体能力も格段に上がった。


 どれほどの力を得たのだろう。

 でも半端な力では返り討ちに合うかもしれない。

 だから力を確認するために魔物が潜むダンジョンに潜ることにした。


 ダンジョン内では時折冒険者とすれ違う。

 危険だから戻る様に言われるけど、私は無視した。

 お父さんがああなってから冒険者のことが嫌いになっていた。


「こんな所に潜らないで魔王を倒しに行こうよ。私にはあなたが十分に強いのは分かってるよ」


 と、私に力を授けた兎は言ってきた。


 あの兎はほぼ常に私の周りにいる。

 名前はサーナというらしい。

 兎と呼んでたら勝手に名乗って来た。

 私の話し相手になってくれる。

 そのおかげか気が紛れて塞ぎこんでた気持ちが少し晴れてきた。


 ダンジョンを進んで行くと魔物が現れたので私は魔法を放つ。

 魔法という初めての感覚。

 一瞬にして魔物を破壊する圧倒的なその力はあらゆる可能性を感じさせ、私に生きる気力を与えた。


 しばらくダンジョンに籠り念入りに力を試し、もう十分だと判断した後さっそく復讐しに冒険者ギルドに向かう。

 お目当ての人達はいなかったのでどこに行ったのか情報を集め、私がさっきまでいたのとは別のダンジョンにいることを突き止めた。


 目的のダンジョンに着き、少し緊張しながら潜っていく。

 浅い階層にはあいつらはいなかった。


 私のお父さんは自分のパーティは凄腕の人達ばかりだと自慢していた。

 だから奥深くにいるのだろう。


 ダンジョンは奥深くに行くほど魔物が強くなる。

 理由は知らない。

 どうでもいい。


 深く深くへと潜っていくと人を見つけた。

 1、2、3……多すぎて何人いるか分からない。

 でも見覚えのある顔だ。私が殺したいと思っている人達。


 でかい角の生えた牛の様な魔物と必死に戦っている。


 そうだ、ここでこいつらを殺してしまえば魔物のせいに出来る。

 私は嬉しさで口の端がピクピクと震えてることに気づく。

 私が殺したことを他の人にバレずに復讐が達成できると思うと心が沸き立つ。


 やっとこの時が来た。


「死ね」


 殺意を込めて炎の魔法を放つ。

 冒険者と魔物は私の憎悪の念が籠った炎に包まれた。

 しかしすぐにそれは鎮火された。


 そうだった。


 この人達は凄腕の冒険者パーティ。

 何かあってもすぐに対処くらいはできるのか。


 苦しめるために弱めの炎を仕掛けたのは失敗だった。


「あの子供だ! おい、あれチェリオの娘じゃねーか」


 チェリオは私の父の名前。

 彼らの一部がすぐさま私に向かって来た。

 3人。

 強くなったとはいえまともな戦闘経験の無い私は恐怖で動けなくなり、心臓の鼓動が速くなる。


 怖い、怖い怖い。

 死にたくない。

 

 お父さん助けて!


 私に向けて炎が放たれ、剣が振られ、矢が飛んでくる。

 体に切り裂く刃に燃え上がる肉体。


 悔しい。私は何も果たせずに死ぬのか。


 嫌だ、死にたくない!


 そう願うとすぐ傷が塞がり焦げた体も元に戻った。


 そんな私に向けられる視線には恐怖が混じっていた。


「こいつは人間のフリをした魔物だ! 絶対殺せ!」


 一人は剣を握りしめ叫びながら再び襲い掛かる。

 私は死んでも死ねないと分かると恐怖なんてものは消えた。


 冷静になると彼らの動きが遅いことに気づく。

 凄腕と聞いてたから戦う前からよく見ずに無理だと過大評価してたようだ。

 剣を躱し、顔に拳を叩きこむ。頭ははじけ飛んだ。

 悲鳴が狭いダンジョンの通路に響く。

 彼らは恐怖で逃げ出そうとする。

 私は逃がすつもりは無い。


 通路の全てを焼き尽くすつもりで炎を放ち、逃げられそうな者には強い魔法をぶつける。

 私を止めるために襲い掛かって来るが私は死なない。

 だから私は何をされてもひるまず魔法を中断せずにずっと放ち続ける。


 苦しめ。

 私を地獄に落としたお前達はゆっくりと苦しんで死ね。


 そして黒い体だけが残った。


 いや、まだ魔物は生き残っている。

 魔物はどうでもいい。

 私は目的を達成した。

 その瞬間に生きる目的を失った。

 後は人がやったことがバレない様にその死体を魔物にやられたように偽装したかったけど、もうどうでもいい。


 もう死んでもいい。


 さぁ、殺しにくればいい。

 両手を広げると角の生えた魔物が私に襲い掛かる。


 力を得た割に脆い私の体。

 徐々に変形していく。

 でも痛みはない。

 心臓の鼓動が止まった。

 でも意識はハッキリしている。


 やがて飽きたのか魔物はどこかへ去っていった。


 私の体は頭を除くと形を保っていなかった。

 でも痛みはない。

 そんな状態でも私の意識は消えなかった。


 死ねなかった。

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