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「確かにどっか連れてってとは言いましたけど……」



どこに行こうかは迷ったけど俺もいきなり言われてそうそう思い付かなかった、なので……



「何もないですよぉーッ!!」

「だって姫乃が俺に決めろって言うから」



レンタカーを借りてあてもなく走らせて小一時間、俺もよくわからない田舎に来ていた。



「はぁ〜、今までつっこまなかったんだけどなんで一条さん車持ってないんですか?」

「だって給料そんなに高くないし買ったら車検とかガソリン代とかも掛かるし会社はそんなに遠くないし」

「セコい、セコ過ぎる! 電車代だってお金掛かるのに。 そんなんじゃ彼女とか出来ませんよ、出来たとしても続かなそう」

「余計なお世話だ。 大体そんなセコい男の世話になってる奴がどの口で言ってんだよ?」

「ああー、そうやって図星つかれるとあたしの弱味を言うなんて器が小さいです」

「うるさいな」



俺も車は中古でも買った方がいいんじゃないかと思ってたけどやっぱりあった方がいいのかもしれない。 電車代だってちりも積もればだし。



でもたまにはこんなところも悪くないな。 俺の住んでるとこは都会というほどじゃないにしろこんな田舎だといつもの現実から離れられたみたいで。



そんな中車をゆっくりと走らせていると……



「見ろよ姫乃、あのバス停」

「うわぁ、なんか昭和初期の香りがしますねぇ。 ちょっと中覗いてみませんか?」

「文句言ってた割にウキウキしてるな」

「だってあんなバス停初めて見ましたもん」



車を適当な路地に停めた。 ここら辺道路はあるけど全然車も来ないし大丈夫だろう。



そして近くに行くとやっぱり物凄く古い木造の屋根付きの小さなバス停、所々朽ちているけど中には雑誌やら漫画が置いてあった。



ちょっと漫画は古いけど誰か乗るのかなここ? てかバスなんて来るのか?



時刻表を見ると確かに来るようだけど時間間隔がとても長い。 



「うわわッ!!」

「いてッ!」



姫乃が顔の周りを払いながら背中から俺に突っ込んできた。



「どうしたんだよ?」

「く、蜘蛛の巣がッ、うえ〜、口にも入っちゃった!」



姫乃はハンカチを取り出して口に当てて不快な表情をしながら俺に背中を向けて近付く。



「蜘蛛付いてない?! あと髪の毛にも!!」



慌ててるのかタメ口になってる。 



「あ、付いてる」

「うそ!? 取って!」



姫乃のゆるふわな茶色い髪の毛には蜘蛛の巣と一緒にホコリが付いていた。 



「まったくドジだよな、周囲確認してから歩けよ」



姫乃の髪の毛を軽く払うとなんか頭を撫でてるみたいだ……



「仕方ないですよ、あたし目がそんなに良くないので」

「そうなの?」

「はい、眼鏡はお家ですしコンタクトは洗浄液もないから外したままですし」

「買えばよかったじゃん、お金渡したんだし」

「結構掛かりますしもったいないかなと思って。 なくても近くなら見えますし」

「とか言って蜘蛛の巣直撃してるけどな」

「こんなとこに連れてくるからです!」

「そんなこと言ってるけど割と乗り気だったじゃん蜘蛛の巣に突っ込むまでは」

「まぁそれなりに楽しかったですけど。 田舎って意外に風景とか綺麗ですね、住みたいとは思わないですがこうして来てみるといいかも」 



姫乃の言ってることは俺もそう思うけど田舎の人が聞いたら絶対怒りそうだな。



「どうせだったらここら辺もっとよく見ましょう」と姫乃は言ってたのでこいつは何気に楽しんでるみたいだ。



「最初はガッカリでしたけど案外楽しかったですね!」

「そりゃどうも」



ひとしきり車を走らせながら見て周り帰りにジュース飲みたいと姫乃は言って自動販売機があるところで停車させた。



「ありがとうございます。 って乗らないんですか?」

「タバコ吸おうかなって思って」



なんかこんなにのどかだと仕事なんて行きたくなくなってきた。 いや、そうしたら生活出来ないよな。 それに姫乃の面倒も見れない…… それよか姫乃はいつまで俺のとこに居るんだ?



生活用品まで買ってるから腰を長く落ち着かせる気なんだろうけど。



「なんだか物思いに耽っている一条さんってちょっと大人っぽいですねぇ、大したこと考えてなさそうですけど」

「一言余計だ」

「それより今更ですが今日のあたしの格好田舎に咲く一輪の花的な感じで良くないですか?」



姫乃が花柄のワンピースのスカートの端を摘んで少し上げてクルッと回ってみせた。



「自分で言うなよ」

「安物だけどせっかく住まわせてもらってるから一条さんこういうの好きかなぁと思って選んだんですよ、可愛いですか?」

「可愛いんじゃないの?」

「てきとー!」



姫乃は俺の態度に少しムッとしていたが実際に可愛かった。 



そして家に帰るとドッと疲れた。 姫乃も同じだったのか隣の部屋の布団にドサッと倒れ込んだ。



「なんだかんだでここが一番落ち着く〜!」

「お前の家じゃないのにそこまで落ち着けるなんて大した神経してるよな」

「酷いなぁ、それだけあたしが落ち着ける空間を作ってる一条さんを遠回しに褒めてたのに」

「はいはい」



その後俺と姫乃はいつの間にか寝ていて起きた時には夕方になっていた。



「ありゃ〜、やっちゃいました。 これはもう晩ご飯はカップラーメンでいいですよね?」

「それでいいよ、片付けもしなくて済むし」



夕飯後、姫乃が先に風呂に入り俺は適当にスマホを弄ってると風呂場の方のドアが開いて姫乃が濡れた髪の毛でひょこっと顔だけ出した。



「なんだ?」

「シャンプー切れちゃってて。 キッチンの辺りに買ったの置きっぱなしにしちゃってたんでした、取ってくれます?」



そう言われたのでなるべく見ないように姫乃のとこに行ってシャンプーの詰め替えを渡すと……



「もしかして邪魔しちゃいました?」

「なんの?」

「昼間のあたしを思い出してムラムラして」

「あーないない、お前襲われたいのか?」

「うふふ、揶揄ってみただけです」

「いいからさっさと入れよ」



襲っても別にいいよスタンスだから本当に困るんだよなぁ。 でもあいつはガキだしいざそういう場面になったら怖気付くはずだ、既に経験済みとかではなかったらだけどな。




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