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「ごめん、やっぱちょっと遅くなった」
「いやこっちが無理させて今日会いたいって言ったんだし」
「あははッ、そんなに会いたがられるなんて嬉しいなぁ。 今日はどうしよっか? あたしまだご飯食べてないんだ、一条君食べた?」
「俺もまだだよ」
「じゃあ一緒にどこかで食べよう」と言われとりあえず2人で食事を済ませた。
「結構食べてたな」
「そりゃ忙しくてクタクタだしさぁ〜、それに…… どしたの?」
白城が何か言うのをやめて俺に尋ねる。 ここだ、ここしかない。
俺は優柔不断だ、今を逃したらまた今日もタイミングとか言って引っ張って言えなくなるに決まってる、だから今だ。
「あのさ白城……」
「ん?」
「俺、俺さ……」
「えいッ!」
俺が言う前に白城は俺の腕に抱きついた。
「白城?」
「いやぁ〜、お腹いっぱいになったら一条君にくっ付きたくなったゃった」
「…… あ、ああ、あのな」
「ねぇ、お酒飲みに行こう」
言おうと思ったら潰される……
いや、酒の席なら自然と話を切り出せる…… か?
白城と寄ったのは初めて白城と飲みに行った小洒落たバーだった。 まさかここで白城に別れようなんて言うことになるのか。
「飲もう! かんぱ〜い」
「なんか白城今日は凄い食べたり飲んだりするなぁ」
「ん〜? まぁ何言われたりしても動じないようにってね」
「え?」
そう言われた時ギクリとした、白城は俺が何か大事なこと言おうとしてるのをもう察してた? と思ったからだ。 確かにソワソワしていたけど。
「それで? 何かな?」
白城がカクテルを一気飲みして訊いてきた。
「あのさ……」
もうここしかない……
「俺姫乃のことが大事だ、だからごめん。 俺白城のこといいように扱おうとしててやっぱり白城のことが好きで姫乃のことも大事でどっち付かずで今更姫乃のことが大事なんて虫がいいにも程がある、けど」
「なぁーんだ」
「へ?」
白城は俺が言うことに大して驚く様子もなくあっけらかんとしたリアクションだ。
「なんかそんな気してたんだよねぇ、あたしだって付き合ってた相手と別れる時言い出しにくい時あってあったしなんとなくわかったよ」
「え? で、でも」
「でもじゃなくて一条君が今言ったようにそういうことなんでしょ?」
「あ、うん…… そうだけど」
拍子抜けというかあまりにもサッパリしていて俺はもうちょっと何かあると思って…… 修羅場的な何か。
そんなのないにこしたことない方がいいんだけど俺は呆気に取られた。
白城にとって俺はそんな存在だったのか? あれだけお互い好きになったのにとこの後に及んで思ってしまう。
「話はわかったよ、飲もう? ほら」
いまだカクテルを飲んでない俺にグラスを勧める。
「んあ〜、ちょっと飲み過ぎちゃった」
「大丈夫かよ? って前も思ってたけど飲酒運転だろそれ、前はともかくそんなに酔ってちゃ……」
ともかくも何もない気がするが……
「平気だって」
「平気じゃないよ代行呼ぶからさ」
白城に俺の思いを言ったはいいが酔っ払って全然覚えてないということはないだろうか?
俺がスマホを耳に当てると白城は手で俺のスマホをはじき地面に落ちる。
「つまんない」
「え?」
「つまんないって言ったの」
いきなり白城は酔いが冷めたような口調だと思って見てみるとやっぱりまだ酔っていた。
「いいよもう。 あたしはやっぱりあたしだった」
「白城?」
ヨロめく白城の肩を掴もうとしたが平手で振り払われる。
「あたしね、一条君に別れるって言われても何も思わなかった。 ふぅんって感じで…… 人間変わるなんてことそう簡単に出来やしないね、あたしにとって一条君はそこまでの存在みたい。 いろいろ自分のこと話せてスッキリはしたし一条君もちゃんと聞いてくれるから勘違いしたんだよね多分」
白城は淡々と語り俺はそんな白城に戸惑いを覚えてなかなか飲み込めないが白城はまだ語る。
「だから別になんかしてほしいとかもう思わないしこんな風に近付かれるのもちょっと不快、よーするに別れて正解だよ。 つまりバイバイ、君とはもう終わりでいいや」
両手で白城に胸を押されて手を振られる。
う、嘘だろ!?
「帰りはあたし勝手に代行でもなんでも呼んで帰るから悪いけど一条君もひとりで帰ってね」
俺は手を振る白城を見てショックを受ける。 白城にとってはやっぱり気分で俺に言ったことやしてくれたことも全部白城の気分で心の奥底では何とも思ってなかったのか?
力なく白城に背を向けて俺は帰り道を歩き出した。
これで正解なんだろうけど俺が思ってたような終わり方と全然違った。 ここまで来ても俺の頭の中ではなんとか円満に終わってなんて自分に都合のいいことを考えたりもした。
けど現実はそうじゃなく俺がフラれたような錯覚まである。
普通に考えて俺みたいなのが白城と付き合えたことが奇跡みたいなもんだけど。 でも仕方ない。
白城と別れてから少し歩いていたがあることに気付いた。
「ヤバ……」
財布がない。 店ではあったのにと思って店に忘れてきたと思って踵を返すが立ち止まる。
戻り辛い、白城が居たらどうしよう? 代行呼んだとしてもまだ来るはずもない。 けど誰かに財布を盗まれでもしたら生活が……
仕方ないので白城に見つからないようにと祈ってコソコソと店の周囲に戻る。
白城を気に掛けながら白城の車をなんとなく見てみると居た。
まさかあいつ泥酔状態で飲酒運転して帰る気か!?
でもこんな状態で俺が行ってもますます不快な思いをさせるだけだったりして? と思ったがよく白城を見てみると目をゴシゴシと手の甲で拭っていた。
な、泣いてるのか?
そう思っていると俺は無意識に白城の車に近付いていた、そしてそんな俺に白城も気付いてギョッとした顔をしていた。
「白城」
手で車の窓を小突きながら話しかけてしまった、そうすると白城は服の袖で顔を拭いて窓を開け伏し目気味で言った。
「なんで戻って来たの?」
「あ、ええと…… 財布を店の中に忘れて来たのかもって」
「見たの?」
「え?」
「あたしのこと見てたの?」
嘘を言ってもと思って「うん」と言った。
「…… そっか、見てたんだ。 カッコ悪あたし」
なんて言ったらいいかわからない、けどああいう風に振る舞ったさっきの白城の言ったこと嘘だったんだとわかった。 なのに俺は……
「ごめん、あんな風にしか突き放せなかった。 だからあたしに優しくしないで? 優しいこと言われたらあたし…… もうわかんなくなる」
そう言って白城はバッグの中から俺の財布を出して渡した。
「忘れたの見ててとりあえず待ってたけどあんな風になったからどうしようって思ってた、けど取りにきてもらって良かった。 もう会わない方がいいね、あたしと一条君は」
「白城、俺」
「いいからもう行って、ちゃんと帰るからあたし。 でもちょっと頭冷やしたい」
そう言われて俺は白城と別れる。 白城の言ったことは嘘だったということはわかったけどそれを知ったって後味が悪いのは変わらなかった。




