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ううむ…… 思わずネットで検索してしまう。 騙されたとか家に置いてたら貴重品持ち逃げされたとかその手の類いのことを。



帰ったらもぬけの殻だった、みたいなパターンは頼むから勘弁してくれよ。 持ってかれたらマズい物は家には置いてないと思うし。



姫乃を100%信用してるわけじゃないしな、今の段階じゃ怪しさしかないし。



今日は家のことが気になって仕事にまったく集中出来なかった。 といっても仕事中はいつも心ここに在らずだが。



「お疲れ様でした」

「一条君」



帰ろうとしたら事務員に呼び止められた。



「さっき休憩の時一条君居なかったから渡しそびれたの」



そう言って渡されたのはお菓子。 休憩中いつもより長い時間外でタバコ吸ってたからな、にしてもお菓子なんていらないけど。



「あ、どうも」

「一条君今日はソワソワしてたね?」

「そうかな?」

「いつもボーッとしてるからわかるよ。 何か用事でもあるの?」

「これといったことは……」

「ふぅーん、じゃあまた明日ね。 お疲れ様」



俺って今日ソワソワしてたのか。 まぁ家に着いたら何もなくなっていた、なんて心の中で考えていたからな。



けど俺の心配は他所に帰ってみると……



「おかえりなさい」



玄関を開けると姫乃が快活な顔をして俺を迎えた。 俺がキョトンとしていると姫乃が「あれ?」と不思議そうな顔をする。



「どうかしたんですか?」

「もしかしたら金目の物持って逃げるかと思ってた」

「へ? あはははッ、そんなことするわけないじゃないですか。 他に泊まるとこあるわけでもないし」

「他に泊まるとこあればやるみたいな言い方だな」

「こう見えてもあたし受けた恩は返す主義なんです。 そんな失礼なことしませんッ」



俺から受けた恩があまりにも大きいしな四万円。 



そして部屋には姫乃の物らしき日用品と服がいくつか置いてあった。



「買い物してきたんだな」

「そうだ、お金余りました」



一万七千円ほど余ったみたいなので俺に渡そうとしたがこいつに預けておいた方がいいな。



「それ持ってろよ」

「でも結構な額だし」

「俺が居ない時何かで使うかもしんないだろ?」



何故か俺は見つめられる。



こんな子と一緒ってある意味目に毒だよな今更ながら。 こんなに親切にしてるんだからちょっと手を出しても許してくれるんじゃないか?



「一条さんって何気に優しいですね」

「今頃か? よくわからんお前をただで泊めてやってる時点で気付けよ」

「ああ、その言い方あたしの体目当てで」

「姫乃に弱味握られそうだからそれはしないよ」

「なぁーんだ、別に減るもんじゃないからいいけどなぁって思ったのに」



姫乃が自分の胸を寄せて挑発するように言った。 



マジかよ、手出してもいい? 合意の上だしと思ったけどやめた。 なんかこいつにそんな目論見で接したらこいつの思うままに使われそうだし。



「ふッ、いくらタイプだからってお前みたいに毛も生え揃ってなさそうなガキに手出すかよ」

「うーん、女子の方が男子より成長早いからそんなことないけどなぁ、乙女の日も来てるし。 ってまたセクハラ発言ですよ」

「とにかく成人してから言うんだな」

「なんか言うことおじいちゃんみたいですよ」



こ、この…… まぁいい。 居なくなる気配は無さそうだし暇潰し程度にって感じで受け入れとくか。



それよりこいつのことを知るのが先決だな。



「なあ姫乃、お前学校は?」

「しばらく休みます」

「そんなことして大丈夫か?」

「あたし今日初めて学校サボったんだから大丈夫です」



何が大丈夫なんだか。 無断欠勤3日以上したらこっちはヤバいってのに。



「学校休んでて親に連絡行くんじゃないのか?」

「来るとは思いますけど親はあたしなんてどうでもいいんです。 お母さんは新しいお父さん候補とよろしくしてると思うんで」

「そうなの? てかお前父親居ないのか?」

「はい、病気であたしが中学2年の頃に死んじゃいました」

「そっか」

「それだけですか? なんかあるでしょう? 可哀想にとか辛いこと聞いてごめんとか」

「ああ、そうだった。 ごめん」



こいつが飄々と話すから。



「軽いですー! まぁいいんですけどね、一条さんには関係ないことですし」

「関係なくないぞ、現にいろいろ積み重なって姫乃はここに居るんだし」

「じゃあもっとそれらしいリアクション見せて下さいよ。 あ、そうだ。 訊こうと思ってたんですが一条さん彼女とか居ますか?」



急に彼女のこと…… お前をここに住まわせてやってるんだから居るわけないだろ。 彼女なんて居たの高校生の時くらいだったか。 あの頃が懐かしい。



「居ないよ」

「良かったぁ」

「何が?」

「気を悪くしないで下さいね、もし彼女とか居たらあたし邪魔になりそうなんでちょっと心配だったんです」



そういうことか。 



「でもこれで心配なことは消えました。 あたしはここをゆっくり満喫出来ます」

「図々しい奴。 ん?」



姫乃が買ってきた物で不思議なものを見つけた。



「えっと、これはピアノです」

「見ればわかるけど」



小さいピアノ、それも幼稚園児とかが使いそうな……



「普通のやつだと音がうるさいじゃないですか? ここボロいし」

「お前失礼だな」

「でもでも! これ安いんです、それに音もうるさくなくて」 



姫乃は適当にピアノを弾いてみせた。



上手いなこいつ。 ピアノを俺に向けたまま反対方向から弾きやがった。



「確かにうるさくはないけど意外だな、姫乃がピアノ弾けるなんて」

「人は見かけにはよりません。 ん? てかあたしピアノ弾けそうなくらい清純な感じに見えません?」



ピアノ弾ける=清純とかって思ってるのかこいつは。



「死んじゃったお父さんがよくあたしにピアノ教えてくれたんですよ。 弾けるようになったら楽しくて。 弾いてると落ち着くんです」

「へぇ、じゃあもっとなんか弾いてみせてよ」

「はい、リクエストとかありますか? 多分大抵弾けちゃいます」



曲は姫乃にお任せと言ったら「あたしの好きな曲で」と言ってピアノを弾き始める。 聴いたことあるやつだ、くるみ割り人形だ。



ピアノを奏でる姫乃はとても楽しそうに弾いていた。 チャチなピアノなんだけど上手いと普通に聴いてられる。



「どうでした?」

「めっちゃ上手いってのはわかった」

「あははー、褒めても何も出ませんよ」



という割にこの2日で1番の笑顔が出た。


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