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「そろそろ離れてくれないと寝れない」
「じゃあ一緒に寝よう?」
「やめといた方いいぞ、俺寝相悪いし」
「あたしも悪いのでおあいこだね!」
修学旅行から帰ってきた姫乃のスキンシップはいつもよりベッタリでそれはそれで後ろめたいことをしている俺は気が引ける。
引き離そうとすると……
「やだやだッ! 今日は一緒に寝るったら寝るの!」
「わかったから。 寝てる時に俺に蹴られても文句言うなよ?」
「あゆ君はあたしにそんなことしませーん」
なんの根拠なんだか。 浮気はしてるんですが…… この浮気がバレる前に俺はこの状況をどうにかしなきゃいけない。
悪事はバレると言うがそれはバレるまで悪事をするからバレてしまうもの。 けど泣きを見るのは確かで白城に傾きかけてるこの気持ちで姫乃に別れを告げるなんて姫乃にとってあまりにも酷くないか?
だって姫乃は俺から離れようとしないのを無理やり引き離すなんて無責任だ。 拾っておいて他に好きな人が出来たからなんて。
だから姫乃のことは姫乃自身の俺が居なきゃダメという状態をなんとかしなきゃいけない。
「なあ姫乃、もし俺と暮らせなくなったらどうする?」
「なんでそんなこと言うの?」
言った途端姫乃は泣きそうな顔になる。
「いやいや、もしだよもし」
「…… もしか。 うーん、あたしもう生きたくない」
「え? それって死ぬってこと?」
「そうかも。 あゆ君居ないなんて考えられないもん、あたしはあゆ君のお陰でいろんな嫌なこと全部忘れられる」
「そうか」
これは…… どうしたってダメなやつではないだろうか?
けど物事は水面化で起き始めていた。
「あれ? 帰ったばっかでもうお出掛け??」
「そうなんだ今会社から電話掛かってきてさ、悪いけどちょっと戻ってきて欲しいって」
「そっか、せっかくあゆ君が帰ってくるタイミングで夕飯間に合ったと思ったのに」
「ごめん、帰ったら食べるから」
「ん、あゆ君早く帰ってきてね」
もうなんやかんや適当な理由で外に出るのも慣れた頃、俺は無理にどちらとも言わないでもしかしたらこれは両立出来るんじゃないか? そうなればもっと考える猶予はある。
とあまりにも自分に都合良く考えていた矢先のことだった。
「待たせた?」
「ううん、あたしも今来たとこ。 …… んん?」
車に入ろうとすると白城が俺を見て怪訝な顔をしていると思ったらよく見ると俺の後ろの方……
「は?」
俺は間抜けな声が出てしまった。 なんせその後ろに居たのはかつて俺の家に来た角谷竜太だった。 角谷本人も俺と白城を見て驚いた顔をしている。
なんでこいつがここに? いや、そんなことより……
「姫乃?? ……にそっくりだけど」
「姫乃…… 誰? ていうより一条君の知り合い?」
「あ、えっと……」
俺の頭がこの状況についていけない、見られてはマズいものを角谷に見られた。 しかし何故角谷がこんな夜にここに?? それと白城にはなんて説明する?! と焦っていると角谷が何か察した顔をする。
「はッ、そういうことかよ」
角谷は俺に敵意剥き出しな顔になった。
「姫乃のこと大切に考えてるみたいに語っておいてあんたは他人の空似にうつつぬかしてたんだな!?」
「い、いやそうじゃなくてッ!」
俺は白城に聞かれないよう車のドアを閉めた。 もう遅いかもしれないけど……
「つーかなんで姫乃に似てんだよ?」
「それよりなんでここに?」
角谷は思い切りタメ口になってるのはもう俺を蔑みの対象として認識しているからだろう、けどここは極めて冷静にいかなければ。
「ああ、ちょっと姫乃に用事があって。 それとついでにあんたにも、仕事とかあるだろうから夜の方がいいかなって思ってみれば」
なんてタイミングの悪い…… でも俺が悪いかそれは。
「話ってなんなんだ?」
「もうあんたに話す必要ないんで。 そこの姫乃に似た女の人とデートでもなんでもしてればいいじゃねぇかよ」
角谷はニヤッと笑うと俺の家の方へ走り出した。
「あいつ!!」
「一条君!」
俺が追い掛けようとすると白城から呼び止められた。
そうだ、白城が居たんだった。 冷静になるとかこの状況絶対無理だ。
「ごめん白城、ちょっと急用出来ちまった」
「嘘だね」
即答された、そりゃあさっきの見てれば……
「一条君。 君さ、あたしに黙って何かとってもやましいことしてない?」
もう白城も何か察してる顔だ。
「あ、あのさ……」
俺がバツが悪そうな顔をすると手を引いて俺を車の助手席に乗せた。
「いい加減入りなよ。 それで姫乃って誰?」
「ひ、姫乃は……」
やっぱり聴こえてたのか。 愚かで浅はかだったな俺。
「姫乃は見た目とか白城にそっくりで…… 姫乃を見掛けて白城と無意識に重ねて、そんな時白城とまた会って」
何を語っているのか自分で言っててわからない、かなり動揺している。
「ふぅん…… とにかくあの子追い掛けてみればわかるか」
「え!?」
「いいよね一条君?」
そう言った白城の目はそうさせないと許さないと言っているみたいで俺は頷くしか出来なかった。




