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「ただいま〜」

「おかえ…… ん?」



姫乃が俺の腕を掴んでクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。



「な、なんだ?!」

「なんかいつもと違う匂いがする」

「え?」



匂い? 俺は特に何も感じないけど…… と匂いを嗅いでみるがやはりよくわからない。



「なんもしないじゃん?」

「するよ、あたしわかるもん!」



わかる…… のか? どうしよう。 そうとなれば白城と会ったら匂いですぐわかられてしまう、汗とか大量にかいて白城と会った証拠隠滅しとけばよかった。 というかなんて言い訳しようか。



「あ、今日も飲み会だったし俺の隣女の人でその匂いじゃないか?」

「ふぅん……」



これは納得したか? しかけてる顔だよな??



「それならまぁ」

「だろ?」



でも姫乃は納得してないのか……



「でもこんなに匂いがするくらい近くにいたの? その人と浮気?」



なんでそうなる。 でも実際俺は浮気めいたことしているので姫乃の言うことは正しい。 罪悪感に苛まれるがここでボロを出すわけにはいかない。



「そんなわけないだろ、何度も言うけど浮気出来るような顔してないって俺は」



なんか言ってて心がチクチク針で刺されるようだけど仕方ない。 



白城と会うのはこういうことがあるからたまにしか無理だ、姫乃は俺と長い間生活していて俺の行動を大分把握している。



唯一俺だけの部分は会社のことだけ。 これを理由にしないと姫乃は多分変に思ってしまうだろう。 



けど今までは会社からまっすぐ帰ってくるような俺が何故ろくに飲まない飲み会なんかにたまに行くことになったかと怪しく疑われるのも明白。



なので結構貯金がなくなってたまに残業するという体でいくことにした。 



たまに残業するなんてなんの足しにもならないのだが高校生の姫乃にはよくわかっていないらしく「ごめんね、あたしのせいで」と申し訳なさそうに言われたから更に罪悪感という言葉が胸に響く。



そして今日はその白城とまた会う日だった。



「仕事帰り?」

「そっちもだろ」

「あはッ、今日はあたしお休みなんだ。 ていうかちょっとお洒落したつもりなのにそれはないんじゃないかなぁ〜? 今日は都合が良かったけどこの前会おうって言った時も会ってくれなかったし」

「仕方ないだろ、こっちだっていろいろあるんだし」

「へぇー、あたしは二の次か」

「なんでそうなる?」

「ふふッ、嘘だよ、お互いもう高校生じゃないもんね」



流石にちょくちょく会うのはマズいからこうしてたまにしか会えない。



「今日はどこ行きたい?」

「夕飯まだなんだ、なんか食べないか?」

「そっか、お腹空いてるんだ。 ならあたしが作ってあげようか?」

「作れるんだ?」

「もぉ〜、みくびらないでよね。 ちょっとは作れるよ、美味しいかはわからないけど」

「そうだったんだ」

「ちなみにご飯は一条君と付き合いだした頃から一応作れたんだからね! まぁあの頃は下手くそだったけど」



ふぅん。 え? てことは……



「あのさ、どこで料理作ってくれんの?」

「あたしの家に決まってるじゃん?」

「マジ?」



そう訊くと白城はニッコリ笑ってコクコクと頷いた。



そうして白城は車をしばらく走らせる。 



本当だ、俺のアパートからちょっと離れたとこに住んでるんだな。 それなのにこいつと偶然ばったりと出会うなんて。



「着いたよ」



白城は俺のボロいアパートより立派なとこに住んでいた。 



多分俺より給料いいんだろうなぁ。



「ほらほら遠慮しないで」

「お邪魔します」



ここが白城の部屋か。 思えば高校時代付き合ってた頃は白城の家とかに一回も行ったことなかったなぁ。 それが今になって来ることになろうとは。



「あたしの部屋に一条君が今になって来てるなんてちょっと不思議だね」

「俺もそう思ってた、あの頃は誘ってなんてくれなかったしな」

「あはは、それは言わないでよぉー。 今日来たからいいじゃん、ちゃんと手料理でおもてなしするんだし。 じゃあ支度するからそこらに座って待ってなよ」

「ああ、うん」



俺はソファに座って少し考えた。



なんで俺は白城の部屋に普通に来てるんだよ!? そしてなんでこうも白城と会話なんて楽しんでんだ?



都合よく白城と付き合ってそれから白城なんてポイしてやるんだろ? 白城も白城だ、昔は好き勝手してたくせになんで今はまともっぽくなってんだよ?? これじゃ俺の目的がボヤけてしまいそうだ。



半端な気持ちだった俺の動機は今の白城をこれまで見ていて大きく揺らいでいた、姫乃も居るのに自分は一体何をしているんだろうと大きく後悔していた。



料理をしている白城を見ると姫乃が料理している姿とダブる。 



あいつ今頃何してるのかな? 俺が残業だからって寂しく過ごしてないかな?



そうして白城の部屋に居るのに姫乃のことを考えてまたも罪悪感に苛まされていると……



「お待たせ、出来だよ。 やっぱ思い付きでご飯作るってなるとちょっと時間掛かっちゃいそうだったから簡単なのでごめんね」



目の前に出されたのはパスタ。 



「へぇ、白城が作ったんだ?」

「ぷッ、ボケてるの一条君? あたししか居ないじゃん」

「そうだった、ええっと…… じゃあいただきます」



俺がひと口食べて美味しそうな顔をすると白城はジッと俺のことを見ていたみたいで「美味しい?」と笑顔で問われる。



「美味しい」

「そっか、良かった良かった」



満足したかのようにそれを聞いて白城もパスタを食べ始めた。



それから夕飯を食べて白城と少しお喋りして車で近くまで送って行ってもらった。 



ここで真っ直ぐ帰ってしまうとまた前の二の舞になるので俺はとりあえずランニングをする、まさか夜に走る羽目になるなんてと思いながら少し走ると汗をかいてきた。 



白城の匂い消えたかな? と自分の体の匂いを嗅ぐ様はなんか怪しい奴みたいだ。



時間を見ると23時過ぎになっている、携帯を見るとメッセージが来ていたが多分姫乃だろう、俺はメッセージを見ずにもしかしたら姫乃はもう寝てるかもしれないと思って玄関を開けた。



「おかえりあゆ君」

「え? なんで起きてんの?」

「だってあゆ君残業だったんでしょ? ご飯もまだかもなぁって」



そういえば夕飯のことは何も言ってないし訊かれてもなかった。



「一応LINEしたんだけど既読にもなんないし忙しいのかなって」

「ああ、ごめん」

「今ご飯温めるから待ってて」

「え、作ったの!?」

「うん! ってあゆ君ちょっと汗臭いよ? お風呂にする??」

「良かっ…… ゴホン! ご飯でいいや」



ずっと待ってたのか姫乃のやつ。 それにしても匂いはバレてないみたいだ。



だが姫乃が作っていた夕飯もパスタだった。



「こ、これは?」

「パスタだよ?」



姫乃は驚いてる俺の顔を不思議そうに見て言った。 



なんで被ってるんだ…… ??



俺はひと口食べる。 味で言えば白城の作ったパスタの方が美味しかった。



「美味しい?」

「ああ」



こんなとこまで同じだなんて。 本当に何やってんだ俺。






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