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第5話

 三人のアメリカ兵は楽しそうに雑談をしていた。詳しい内容は分からないが、内ポケットから出した写真を見せているところを見ると、彼女か家族について話をしているようだ。

 それだけならよかったのだが、アメリカ兵の足元に転がっていたのが、十体はあるの日本兵の焼かれた死体だった。

 焼かれて炭化した手足は肉組織が萎縮して折れ曲がり、犬の死骸のように四つん這いになって倒れている。手足を空に向けて仰向けになっている者。横に倒れている者。土下座のようにうずくまっている者。黒い彫像に見える日本兵の肌は、ひび割れていて、割れた部分からは焼けていない赤い血肉が見えていた。

 それは清四郎がアンガウル島に来てから何度も見てきたもの。だからもう泣く事はない。見慣れてしまった焼身に恐怖する事もない。殺し合いに慣れてしまった心は、なんの起伏も無く、仲間の日本兵の死を受け入れていた。いつか自分も同じように焼かれると分かっていても。

「ふっ……」

 清四郎は草むらの陰で呼吸を整えた。銃を縦に構える。そして一気に走り出した。

「日本万歳!」

 清四郎があげた声に、驚く三人のアメリカ兵。

 清四郎は、銃刀を振り回した。

 火炎放射器を構えたアメリカ兵だったが、一人が左耳の下を斬られた。鮮血が噴き出す。

 アメリカ兵が白目をむいて倒れていく横で、清四郎は二人目のアメリカ兵の喉を刺した。新撰組の沖田総司が得意とする三段突きである。

 村上水軍の菩提寺の多くは、新撰組がいた京都にあるため、清四郎の家系は沖田の天然理心流の影響を受けているようだ。

 最後に残ったアメリカ兵は、死の恐怖を感じて自暴自棄になり、火炎放射器で応戦してきた。接近戦で火炎放射をすれば、自分自身が燃えてしまう危険があるのに、その判断がつかないくらいに清四郎を恐れて錯乱してしまったようだ。

 清四郎は伸びてきた火炎を掻い潜ってアメリカ兵の懐に入り銃刀で胸の急所を刺した。

 胸を刺されたアメリカ兵は、タバコをくわえていた。清四郎が銃刀を引き抜いた時、胸から血が溢れ出て、アメリカ兵の口が開き、くわえていたタバコを落としてから地面に倒れた。

 耳の下を斬られたのと喉を刺された二人のアメリカ兵は既に息絶えていた。

 胸を刺されたアメリカ兵は、まだ息があり、震える唇を動かして涙を流している。

「ママ……。パパ……」

 清四郎も知っている父と母を示す英語。アメリカ兵にも家族がいる。しかし、殺し合いで凍てついてしまった清四郎の心に、アメリカ兵の両親を思う気持ちは届かなかった。

 清四郎は、銃刀を下に向けた。もう一度胸の急所を刺してアメリカ兵にとどめを刺した。

 引き抜いた銃刀から血を滴らせながら清四郎は移動して地面に倒れている日本兵を見て回った。

 焼身の日本兵は、顔も焼けてしまっていて誰が誰なのかよく分からない。

 清四郎は、日本兵やアメリカ兵の持ち物を調べて、使用できる弾や武器を確保した。ついでにアメリカ兵のポケット内にあったビスケットを食べる。水筒の水も飲む。

 死体から略奪しないと生きていけないほど、清四郎は飢えていた。

 以前、先輩兵士がした略奪を見て、最初は躊躇った略奪行為。しかし、飢えというものは十五歳の少年の心を簡単に感化させた。また次のアメリカ兵を殺せば、食料が手に入る。と。

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