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第4話

 後藤少佐が決断した最後の総攻撃は、十九日の夜に敢行された。

 清四郎ら約百三十人の兵士は、アンガウル島の無数にある鍾乳洞に潜み、夜という暗闇を利用して、現れたアメリカ兵を白兵戦にて減らしていく作戦に出た。

 最初は仲間と鍾乳洞に隠れて、通りかかったアメリカ兵を倒していたが、アメリカ兵も手榴弾や火炎放射器で応戦してきたため、洞内での戦いは不利と判断した清四郎たちは、鍾乳洞を出て銃声が聞こえる中へ躍り出た。

 しかし、次々に送り込まれてくるアメリカ兵に、清四郎たち旧日本軍はなす術も無く、清四郎がいた小隊も熱帯植物の陰に隠れながら戦ったが、一人二人とアメリカ兵の手に掛かり、現在の清四郎はアメリカ兵に追い詰められて一人で逃げ回っていた。

 村上水軍にいた武士の血を引く清四郎は、母方の祖父から剣術の指南を受けていた。十五歳の清四郎だったが、剣術を知らないアメリカ兵相手に勝つのは容易で、清四郎は日本人特有の小柄な体型で敏捷に動き、暗闇の中、熱帯植物の大きな葉に隠れながら移動し、一人でいるアメリカ兵に忍び寄り銃刀で殺してから全力で逃げ去っていた。

「これで十二人だ」

 そう言って満足する清四郎は、旧日本の教育方針により、アメリカ大陸の大きさを知らずに育った。島国の日本と違い、アメリカ大陸にはどれほど多くのアメリカ人がいるのか、清四郎は全く知らなかった。

 夜でもねっとりと肌に絡みつくアンガウル島を覆う湿気。熱帯雨林ならではの気候が清四郎の頬に流れる汗を増やす。

 熱帯植物の木の陰に隠れながら、清四郎はアメリカ兵の返り血で赤黒く染まった袖で汗を拭う。袖は血特有の生臭さがあったが、慣れてしまっている清四郎は気にもせず、暗闇の中で幼い瞳をギラギラと光らせて、周囲の様子をうかがっていた。

 視野が届くところには誰もいない。しかし、近くで銃声とアメリカ兵と思われる英語が聞こえてくる。まだ生き残っている日本兵と戦っているのだ。

 清四郎は、屈んだ状態で音がするほうへ静かに移動した。日本兵を、仲間を助けようと思ったからだ。

 暗闇が一瞬赤く染まる。火炎放射器を使ったようだ。

 一瞬で終わった火炎放射だったが、清四郎の網膜には火炎の残像が残っていて、今も暗闇の中に光の影として見えている。

 清四郎は瞬きをしながら更に移動した。

 その時、ジッポライターの金属の蓋が開く音がした。ライターの炎が思った以上に近くに見える。

 炎に映し出されたのはアメリカ兵の顔だった。ジグザグに折れ曲がった細いタバコをくわえて嬉しそうに笑っている。

 その笑顔を見て、清四郎は悟った。先ほどの火炎放射で仲間が燃やされた事を。自分もいつかはあの炎で焼かれるのだろうか。悲しみと恐怖で清四郎は震える唇をきつく結び奥歯を噛み締めた。

 あのアメリカ兵を倒さなければ、そのうち自分が焼かれてしまう。

 清四郎は、銃を縦にして構えた。弾は自決するために残しておかなければならない。ライターの炎で見えたのは三人のアメリカ兵。装備は火炎放射器のほかに銃や手榴弾もあるだろう。だが接近して戦えば、火炎放射器と手榴弾は使ってこないはず。また祖父に教わった剣術で武士のように戦えば勝てる。そう確信した清四郎は靴の爪先で地面の状態を確認しながら音を立てないようにゆっくりと歩いて更にアメリカ兵に近づいた。

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