表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/85

第五話 アーシャ、子供の引率をする

本当に一年と半年くらいは、あっという間だった気がする。

その一年半の間に、変わった事もいろいろある。その中の一つとして、あのぼろ屋がなくなった事があげられるだろう。

何でなくなったかって? おいらと先生……先生ってのは魔族の人の事だ、薬草つみの先生だから先生って呼んでるんだ……がしょうもないとしか言われない喧嘩をして、家を潰してしまったのである。

まさかぼろ屋も、目玉焼きに塩をかけるか砂糖をかけるか、なんていう、当人たちにとっては大事でも、まさか家を潰すほどの喧嘩になるとは思わない中身の喧嘩で、潰されるとは思わなかっただろう。

実際に、おいらはつぶれた家からかろうじて脱出したし、先生は無傷で何事もなかったかのように、皿の食事を片手に外に出ていた。

先生の優しさは、おいらの分の食事も救出してくれていたところである。

そしてぼろ屋が壊れた、もとい壊した以上、新たな場所を確保せねばならず、騒ぎを聞きつけた近所の大工さんたちが、簡単な造りの家を建ててくれた。

本音を丸出しにして言えば、ぼろ屋よりもずっとまともな建物だった。


「自分一人でくみ上げたから、思い入れがあったのだがな。壊してしまった以上仕方がない」


というのが、新たな家を見た先生の感想だった。そうか、あのぼろさは一人でくみ上げたからなのか、とおいらは妙な所で納得した。

おいらは、時に先生と一緒に薬草採取に出かけ、時に近所の子守をし、時に海に出る魔物を叩きのめし、といかにも何でも屋といった具合の仕事をしている。

なんでも屋だからだ何でも屋なのだ。とにかく、依頼された仕事をきちんとこなすのが一人前の何でも屋である。

しかし、おいらは見た目がこの一年、ちっとも成長しなかったため、いまだ年齢を三つほど間違われてしまう毎日だ。

おいらがこの見た目で、実は十七歳なんだ、と言っても、あほみたいな冗談にしか受け取ってもらえない。

実は魔王の加護が、何か悪さしてるんじゃないか、とおいらは睨んでいる物の、お医者様に相談しても


「魔王の加護は謎が多いから、私にもお手上げよ」


一応調べてみるけれどね、と言われてしまった。

そしてそのことにいちいちショックを受けていたら、仕事も何もできないため、おいらは気にしない事にして、毎日を送っている。

今日は朝から学校に行く子供たちに付添う仕事だ。

前に学校に行く子供を狙った悪質な誘拐犯がいたから、この街では学校に行く子供たちに、引率の護衛をつける事になっている。

護衛じゃなくても、保護者でもいいのだが、おいらはそれを仕事の一つにしている。

事実として、数回怪しい奴をぼこぼこにして、警邏に引き渡したところ、そいつらがすごい悪い奴らの手先だった、という事も判明した。

そしておいらがいる以上、子供たちを狙うのは得策ではない、とその拠点の分からない悪い奴らは判断したらしく、犯罪数がぐっと減ったという事で、おいらは町長さんから感謝された。

さすが先生の所のお弟子さんだ、と言われるけれども、おいらはお弟子さんじゃなくってお手伝いさんなんだな。

その微妙な違いを、誰も突っ込まないだめ、放っておいているのである。


「おはよう!」


「おはよう、アーシャちゃん!」


子供たちの待ち合わせ場所に行くと、子供たちの数人はもう集まっていて、他の子を待ちながら、影ふみをしていた。


「今日もいい天気だっぺ」


「アーシャちゃんって変な言葉を使うよね、いつも」


「おいらの出身地はここからうんと遠い田舎なんだ」


「へえ……大変な所?」


「見渡す限り畑畑畑って感じだっぺな。面白いものなんて、町と比べちゃいけないくらい少ないな」


影ふみをする子供たちを見守っている間に、他の子たちもやってきて、さて学校に行くためにぞろぞろと歩き出す。

子供たちは歩きながら、色々なお喋りに花を咲かせている。それを見ながら、おいらは周囲に気を配る。

何回か怪しいのをぼこぼこにしているからか、ここ何か月も怪しい奴らを見かけていない。

いい事である。


「ねえ聞いた? 今度海の国の王子様の、お誕生日でしょう? 国旗を皆家の軒先に飾るんだから知っているだろうけれど」


「ん、そんな事やってるんだ」


「アーシャちゃんだめだよ、王族の記念日には国旗を軒先に飾らなくちゃいけないのよ!」


「おいら去年はやった覚えがないんだけんども」


「まああのあばら家だもんね……」


近所の子供たちにすら認識されている、先生の家があばら家だった事実。

時々、家が変わった、って驚くお客さんもいるくらいだから、もしかしたらなにか目印になっていたのかもしれない。あのぼろ屋。


「国旗が家の中にあるかどうかも怪しいけど、頼めばそこら辺の人が、買える店を教えてくれるよ」


ダニエルという、年齢の割にしっかりした男の子が教えてくれる。

おいらの腕にくっつきながら、リジーがはっきりとした声出言う。


「私の家でも買えるよ!」


「皆ありがとう。それで、お誕生日だから何かあるのけ?」


「王子様の成人の一つ前のお誕生日は、どの王子様も王女様も、お船の上でパーティするの! 海に花火が上がってとってもきれいなんだから!」


「へえ……花火」


花火って、この街に来て初めて見たけれども、綺麗なんだよな。花火が上がっている日は、お仕事もお休みだから、じっくり屋根の上で花火を見られるし。

楽しみだなあ。おいらは他の子も加わりだしたおしゃべりに、耳を傾ける。


「記念のお菓子を作るんでしょ、ジョンの家」


「うん。サニアの家では、仕出し料理を作るって言ってたでしょう」


「港の一番おいしい料理を、船に乗せるんだって、母ちゃん張り切ってたぜ」


「町じゅうお祝いで一杯になるしね!」


そんなにぎやかな会話をしていると、学校の門が見えて来る。


「ほら、もうつくから、手を離して」


おいらは腕にしがみつく数人に声をかけ、彼ら彼女らが腕から離れて、学校の門をくぐるのを見送る。


「じゃあねー!」


「じゃあね!」


「うん、また明日!」


子供たちの声を聞きながら、おいらは踵を返し、次の仕事場に向かうのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ