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うすよごれたせかい

初めて小説を書きました。

よろしくお願い申し上げます。

 

 side A.瀧口龍平の世界


「はあ、、わかりました…」


 取引先からの電話を切ってスーツのポケットに仕舞い込む。


 先ほどからホームのアナウンスが喧しい。

 駅員の大声が聞こえてくる。

 なにやらまた人身事故の様で、遅延がどうのと騒がしく喚いている中年男が口角から泡を飛ばして駅員に食って掛かっている。


 どうやら帰社の時間が遅れてしまいそうではあるのだが、龍平の思考は全く明後日の方向を向いていた。


  「あー、またキャンセルかよクソが。今月もまたハゲに未達はお前だけだとか言われんぞ」


 中小営業マンとして日々を過ごす龍平にとっては目先の人身事故よりも今月の契約件数の方が関心の強い事柄なのだろう。


「仕事辞めたいけどなぁ…」


 そうぼやく龍平だったが、現実問題として転職するにも金が要る上、大学時代の先輩の紹介で入った会社なのでしがらみもあり、非常に辞めづらいのであった。


 在学当時、何度も何度もお祈りメールを送られ疲弊した龍平の目には先輩が神様に見えたものだ。

 今では、自分の失敗をなすりつけてくる同僚(クズども)の一人ではあるが。


 プルルルル

「チッ」


 スーツのポケットから取り出したスマホを一瞬だけ見た龍平はすぐに電源ボタンを押して着信を切った。


 消費者金融からの督促の電話だろうその番号は龍平の着信履歴の大半を占めていた。


「どいつもこいつも…」


 龍平の中にはやり場の無い怒りだけが渦を巻いていた…





 side B.坂下知美の世界


「今月も30万しか無い…どうしよう…」


 夜の店に勤める知美はくすんだ赤色のハンドバックにくしゃくしゃにした封筒を詰め込みながら呻いた。


「またサトシくんに怒られちゃう。うう、いやだよう。いやだよう。」


 そう、うわごとのように繰り返しながら店の裏口からヒールに履きかえ、知美は足早に店を出た。


 一般的に見て、美人といえるであろう容姿を持つ知美の顔は同居人への恐怖と、睡眠不足など生活の乱れで見るも無惨なものになっていた。


「早く帰らなきゃ…早く帰らなきゃ…早く帰らなきゃ!!!どうしてこんな日に限ってなかなか帰らねェんだよあのブタ!!」


 深いクマを作り落ち窪んだ目をぎらつかせるその様子を見て、かつて夕方のニュース番組でアナウンサーをしていたあの()()()()()と結びつけるものは皆無であろう。


 ヒールを響かせながら、大慌てで帰宅した知美を迎えたものは静かな罵倒と暴力であった。


「おっせぇんだよこのボケが。今何時だ?23時までに終わる筈だよなぁ?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいすぐに支度しますから」


「ごめんじゃねぇんだよ。なんで俺を待たすの?そんなに客と喋るのが楽しかったの?なんで俺の言う事守らないの?なんで?なんで?なんで?」


「違うんです違うんです違うんです違うんです違うんです」


 壊れたレコードの様に同じ言葉を繰り返す知美。


「俺の話聞いてる?質問に答えてくれる?お前は俺の言う事聞きたくないの?」



「俺の躾不足なの?」


 ヒッと息を漏らす知美。


「やだやだやだやだごめんなさいごめんなさい…」


 目を細めた男は何かを座っているソファの後ろから取り出し、知美の見える様な位置に掲げた。


 それは先の曲がったハサミの様な歪な器具で明らかに正しい使われ方をしていないシロモノであった。


「給料日だろうが今日は…?なんでテメェから言わねえんだよ!!」


 怯える知美の反応にますます怒気を増した男は、知美が何か言う間もなく激昂を始める。


 こうなってはもうどうにもならない。


 知美はどんな時も顔だけは傷つけない男の優しさに感謝しながら、嵐が過ぎるのを待つのだった。



 side C.伊藤いおりのせかい


 おうちにはこわいひとがいるから

 かえりたくないです


 でも

 おかあさんはやさしいです

 おとうさんはいません


 あんなやつはおとうさんじゃない

 おとうさんはおとうさんはおとうさんはおとうさんは

 お父さんは

 います。




せなかがあついですあたまがいたいですかみがいたいですそとはさむいですむしはにがいです


 おおきくなったら


 ぱんやさんになりたいです



だれも正気じゃない。

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