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勇者の最後


「わしもそろそろ頃合いか」


重たい身体を動かし、ゆっくりと俺は足を進める。

山岳地帯ラグーアから少し離れた山の中に作った小さな家、そこがわし今の居場所。


わしが35歳の時に現れたこの世界に次々と現れ、各地に甚大な厄災をそれぞれ引き起こした。その5体の魔獣を3人の仲間と共に討伐した。


大斧を振り回して硬い外骨格でさえ破壊する、パワー戦士ゴードン。素早い一閃で魔獣を切り裂く、剣豪マーク。膨大な魔素を持ち、数々の魔法を作り、それを操った紅一点、賢者フィイラ。

そして、わし、魔法と剣を高水準で操る、勇者キース。


5体を討伐したのち、わしたち4人は別れた。ゴードンはダオール王国に戻り、そこの騎士団長、マークは地元の国に帰り、剣術の道場を開いた。

対して、各地に銅像が建つぐらい有名になりすぎたことに耐えられなかった俺と魔法の研究に集中したかったフィイラはそれぞれ違う森でひっそりと暮らした。


それからいくつもの日が流れ俺はついに70歳になった。これからは肉体的にも魔素の量もただ下がるしかなくなる。


「この転生魔法を使うには今日しかない」


10年前に亡くなったフィイラから死ぬ直前にイメージと仕組みだけ教わった転生魔法。


フィイラは魔法に関しては本物の天才だ。15歳にして、従来の魔法の概念をぶち壊すような論文を発表した。今見れば世紀の大発見を記した論文だったのだが、彼女の年齢、性別、そして内容の特異性からろくに相手にもされなかった。その時に、儂は彼女と会った。その当時、ある程度の魔法が苦手な冒険者だった儂は、彼女と偶然会い、彼女の論文を半ば偶然読んだ。その後、意気投合した儂らは彼女の理論通りに魔法を練習していた。そして、彼女の狙い通りに魔法が使えるようになり、いつのまにか儂たちは冒険者の誰よりも強くなっていた。


そして、わしはフィイラが好きになっていった。

15歳の時に初めてあった時は、自分より10歳も若かったので、彼女のことを大人ぶっているけど、傷つきやすい妹のような子供としか思わなかった。でも、一緒にいるうちに彼女のひたむきな姿勢や時々滲み出る可愛さに惹かれ、その10年後の災厄獣との戦いの時、1番若いのにずっとわしらを励まし支え続けた彼女の姿を見て、自分の気持ちを確信した。

けれども、告白することはできなかった。意識したら彼女と話す時にどうしても緊張し、初めてあった時のような妹扱いしかできなかった。彼女が初めてあった時から彼女の身体のいたるところの成長が全くなく、小さいままだったので妹のように扱うことに違和感がなかったことも原因かもしれない。


そのまま、何十年もすぎ、ある日突然、フィイラの危篤の知らせが届いた。別れたといっても時々会いに行っていたので驚いた。急いでフィイラの家に着くと、すぐに俺だけ彼女の部屋に呼ばれて、ベットの中で横になって胡桃色の綺麗な髪を持つ彼女からこの魔法を記した紙を渡された。


「これが約1000年後に転生できる転生魔法。5年間かけて、1からやっと作れたものさ。この魔法を使うと使った3日後に死んで、転生できる。ボクはもう自分の身体がおかしくなると感じて、使えなくなるのが怖いから使った。だから、あと少しでこの時代の僕は死ぬ。それで、この魔法が使える可能性がある量の魔素を持っているのはキースしかいない。だから、すぐにとはいわないから使ってほしいな。リスクもあるし、無理にとはいわないけど‥‥‥。魔法の理論とイメージは書いておいたけど、ボクのどの魔法より難しいし、教える時間もボクにはもうないから‥‥‥」


「わかった。絶対に使う。魔素が減る70歳までには絶対に使う」


「ありがとう。ボクは3580年に生まれるように転生する予定だから、君も同じ年を設定して魔法を使ってほしい。思いだすと、君とは長い時をともに過ごしたものだ。埋もれそうになったボクを拾ってくれて、あの理論が正しいことを証明してくれた。ボクと君が強くなったせいで、あの時あの論文を見もせずに廃棄した学者たちは大目玉。皆、ボクに「見せてください」って、懇願してきたよ。まぁ、二度と見せる気はないけどね。だから、本当に君には感謝しているよ」


「俺だって、フィイラに会えなかったらただの冒険者で終わってた。本当にいいパートナーだった」


「ボクもそう思うよ。ただ唯一の不満は君がボクのことをずっと妹扱いしてきたことだ。確かにボクと君はかなり歳が離れているし、初めて会ったのはボクが15の時だ。その時のボクはまだ子供だ。ただ、成長したら1人のレディーとして扱うべきだろう。確かにもう染み付いてしまった一人称はボクは弟や妹感が出るし、背や‥‥‥は他の者より少し小さいかもしれない。でも、君が強くなってから急に寄ってきた女たちよりはボクはよっぽど大人の風格をしているだろう」


「成長?大人の風格?」


「いいさ、君はそういうやつだからね。だから、ずっと妹扱いされてきた分、1000年後、君を弟扱いしてあげよう」


そんなやり取りをしてフィイラはその日の夕方にマークやゴードンにも見守られて、息を引き取った。


その日から、ずっとフィイラからもらった魔法の理論を解き、イメージを固めてきた。

ゴードンやマークにはお別れを済ませてきた。


できる準備は終わった。


「ーー転移魔法」


周りにいくつもの時計が現れると針が何十回もまわった。


3日後、勇者キースは静かに息を引き取った。

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執筆の励みと共に作者が歓喜します。

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