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『大の字』になって壁と壁との間で踏ん張って。

--『大の字』になって壁と壁との間で踏ん張って。--


あらすじ:男物の服が干してあるのを見つけた。

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逃げるのに疲れて座り込んでいた場所は人目に付かないような狭い路地で、壁と壁の間は両手を伸ばせば届くくらいに狭い。


勝手口らしきドアが有り、その上の方、3階に窓が見える。そのあたりには日が当たっていて洗濯物がよく乾くのだろう。男物の服が窓の内側から見えないような場所に、まるで隠すように干されている。


とっかかりの少ないレンガの壁と壁の間を大の字になって手と足を突っ張って登って行く。このまま3階まで登ればあの服を盗める。3階は少々高いが壁は思った以上に楽に登れる。


だが、大きく開いた股間が涼しい。


下から見たらオレは滑稽(こっけい)な姿をしているだろう。女物のパンツをだけを履いた男が大の字でよじ登っているのだ。股間の布の少なさが心もとないから、誰も下を通らないことを祈るしかない。見付かったら言い訳はできないだろうし逃げ場も無い。


小さなレンガの隙間に足をかけて、壁と壁の間を2階までよじ登るとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。こんな狭い路地でも通る人間が居るのだろう。よじ登るのを止めて息を殺して通り過ぎるのを待つことにする。


足音はオレの居る狭い路地に入ってきて、女が大股開きのオレの真下のドアを叩く。


しばらくして中から男が出てくる。


「ごめん。きてしまったわ。」


「もう終わったって言っただろ。帰ってくれ。」


「ダメなの。アナタが忘れられなくて…。」


「オレには妻も子もいる。忘れてくれ。」


「イヤよ。散々弄んでくれて、今さら逃げるの!?」


オレの足元で痴話喧嘩が始まってしまった。いや、こんな場所でするんじゃねぇよ!オレは息を殺して精いっぱい手と足を伸ばして我慢するしかない。早く終わってくれ!


「オレにはその気が無かったんだ。」


「あんなことまでさせておいてその気が無かったって言うの!?」


「お前だってノリノリだったじゃないか?それに最初からオレに妻子がいる事は判っていただろう。」


「別れてくれるって言ってたじゃない!嘘つき!」


大きな声を出さないでくれ!そろそろ腕がしびれて痛くなってきた。もう少し手足が引っ掛けられる場所だったら楽だったのに、タイミングの悪い時にきやがって!


あ、上は見るなよ!女物のパンツ1枚で大の字になって宙に浮いているオレが居るから。頼むから見ないで!!


「少し、落ち着こう。声を荒げては人が来てしまう。」


良かった。男は女を家の中に招き入れてドアが閉まった。


手は震えて頭は真っ白になっている。体を動かして少し上にある(ひさし)に足をかけると休むことが出来そうだ。少し休んでもう一度3階を目指そう。もう少し頑張れば服を盗むことができる。


休んでいると部屋の中から痴話喧嘩の続きが聞こえてきた。


さっきまでは、腕の限界が近くて早く終わる事を望んでいたが、余裕が出来てしまえば他人の不幸なんて面白いだけだ。不倫なんてしているからこういうことになるんだ。オレに一人回してくれれば良いんだ。


部屋の中はヒートアップしている。きっと路地よりも人目に付きにくいからか、大胆に声を荒げる事ができるのだろう。


「アナタを殺して私も死ぬわ!」


「やめてくれ。オレには妻も子もいるんだ。」


その話は3度目だ。芸の無い男だな。さっきからそれしか言っていないぞ。せいぜいがんばって殺されてくれ。オレの小さな犯罪より目立ってくれれば逃げやすくなるからな。


それに、言い合いをしている間なら多少物音を立てても気づかれにくいだろう。


やっと洗濯物が干してある3階の窓辺までたどり着くと、どうやらあの浮気男の家の物らしい。足元の2階の窓の内側から声が聞こえる。隠すように干してあるのだから、案外どこかで間男でもして逃げ損ねて、水の魔法でもかけられたのかもしれない。ザマァみろだ。


脚を突っ張って服を盗る。ご丁寧に靴まで干してある事からすると、本当に全身に水をぶっかけられたのかもしれない。


いつ、あの女が出てくるか解らないので服を落としたりできない。手早く腰に結んでしまおう。


後は、落ちないように降りていくだけで良い。登る時より難しく、片足を壁から外すと滑り落ちそうになることがある。落ちてしまえば言い争っている部屋の中の二人にも聞こえてしまうかもしれない。


気を付けて少しずつ降りるとしよう。


2階の窓まで降りると、女のなまめかしい声が聞こえてきた。


おいおい、さっきまで喧嘩をしていたんじゃないのかよ!


オレのJrも思わずピクンと反応する。


「もう、ずるいわ。いつも同じ手ばかり使って。」


「お前だってノってきただったじゃないか。」


くちゅくちゅと水の鳴るような音がしてきた。


オレのJrがむくりとする。


村の集まりでオヤジどもが話していたのを聞いたことがある。これが男と女の営みってヤツか?


いや、今はマズイ。Jrが元気になってしまえば、はみ出てしまう危険性がある。女のパンツは小さいのだ。


でも、見てみたい。


男と女がどんなことをヤっているのか。女ってヤツがどういうものなのか。しかし手足が限界だ。さっきまで長々と足の下で喧嘩をしてくれたせいで、長い時間手足を踏ん張っていたから疲れがたまっていたのだろう。


それに、元気になってはみ出たJrを下から見上げられたら…。


それが、もしも美人で嫁になって欲しいような女だったら…。


そうだ、危険を冒すことはない。このまま下に降りて逃げよう。


オレは何も見なかった。


…。


いや、こんなチャンスは滅多にないぞ。


初めて見る事が出来るチャンスかもしれない。


少し…、少しだけ覗いてみても良いんじゃないか?


女の高い声が聞こえた。


いや、コレはゼヒ見なければならないよな。


探して見れるような物じゃないぜ。


バクバクする心臓の音に気を付けてそろりそろりと窓の方へ近づく。


もう少し、もう少しで、覗くことが出来る。


Jrが元気にならないようにも気を付けなければならない。


はちきれてしまったら、パンツからはみ出した状態で逃げ回らなければ…。


いや、今は盗んだ服もある。


多少元気になったって構わないじゃないか?


「もっと。」


囁くような女の声が色っぽい。


オレも嫁にこんなことを言われてみたい。


再び窓から水っぽい音が聞こえ始める。


オレの振るえる指が窓枠にかかった。良し、指一本でも引っかかれば動きやすい。


一気に体を動かすことにする。


ドスン。


窓枠に飛びつこうと右足に力を込めた時に左足が滑ってしまった。


そのまま2階の窓の高さから落ちてしこたま背中を打ち付ける。



チクショウ!もう少しだったのに。



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次回:服が手に入れば『大通り』を歩けるぜ。




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