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注目のまと『道の王』

--注目のまと『道の王』--


あらすじ:オレは変態じゃねぇ!

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変態扱いされて、オレは狭い裏路地を一目散に逃げだした。


女の悲鳴に釣られて来たのは、さっきから騒いでいる3人の男たちだけじゃねぇ。ヤツ等の後ろには人だかりが出来ていた。なんでこんなに沢山の人が居るんだ?村の頑丈な女が叫んだくらいじゃ、こんなに人が集まらないぜ。


「オレが何をしたって言うんだよ!」


幸いにして狭くて薄暗い路地だったからオレの顔まで見たヤツは少ないはずだ。このまま逃げて、どこかで干してある服でも盗んで着込もう。ずっとパンツ1枚の変態の姿のままでは目立ってしまう。


「待て!」


「逃げるな!」


「変態!!」


待てと言われて待つバカも居ない。とにかく逃げなきゃ捕まっちまう。後ろを振り向けば狭い路地に悲鳴を上げた女を押しのけて男たちが走り出そうとしているのが見える。アイツ等に追いつかれたら変態として袋叩きに会うに違いない。


叫んだ女を乱暴に扱っているくらいなんだ。オレが捕まればもっとひどい目に遭わされそうだ。


とにかく路地を駆け抜けて角を曲がって男たちを()かないとおちおち服を盗むことも事もできやしない。裸足の足が石ころを踏んでしまって思うようにスピードを出せない。


チクショウ、何で靴も履いていなんだよ。


狭く分岐の多い路地を右へ左へと駆けていく。逃げる事に必死なオレの息はどんどん上がって行く。苦しい。


頭が真っ白になるほど息が上がってしまった頃、後ろを振り返れば追ってきていた男たちもいなくなっている。入り組んだ路地のおかげで上手く()くことができたようだ。何も考えずに闇雲に走ってきたのでどこにいるのかさっぱりわからない。


どうせ、走り始めた場所さえどこなのか解らないんだから考えるだけ無駄だ。村ではないのは確実だろう。


フラフラと息を整えながら歩いて行くと、路地の隙間から太陽が差し込んできた。この先には開けた場所がありそうだ。


日当たりの良さそうな場所だ。きっと洗濯物も良く乾くに違いない。そうだ、さっさと洗濯物を干してそうな庭を探して服を盗まないと、ずっとパンツ1枚で彷徨(さまよ)う事になる。


もうすぐ路地を抜けそうだ。一息ついて陽の当たる庭を探そう。


狭い路地を抜けて明るい日差しの下に出ると、そこは大通りだった。


人が大勢通っている。


目の前には村の大通り以上の広い道があって人の群れが移動しているが、どれだけの人数が居るんだ?村祭りでもこれだけの人数が集まるとは思えない。


「きゃぁぁぁぁ!!変態!!」


1人の女の悲鳴で人の群れが一斉にオレを見た。


息を荒げて女物の汚れたパンツ1枚で細い路地から飛び出してきたオレを無数の目が見つめてくる。息を呑むと新鮮な空気が肺に入って脳が活性化していく。逃げ続けて真っ白になった頭に血が通って意識がはっきりとしていく。


人の群れが騒ぎ始める。


ざわ。ざわ。


硬直した体とは裏腹に、脳が活性化して群れが騒ぐ理由を理解していく。


「女のパンツを履いているぞ。下着泥棒か?」


「シミが付いているぞ。変態だ。」


「股間が盛り上がっていない?」


無我夢中で逃げていた時は気にしなかったのだが、改めて言われると、どんどん顔が火照って行くのが解る。オレだって好きでこんな格好をしてるんじゃねぇ!


「衛兵を呼べ!」


その一言でオレは我に返った。恥ずかしがっている場合じゃねぇ。このままでは捕まってしまう。せっかく逃げたのに捕まってしまう。どうにかして逃げなければ!


迫って来る人の群れに向かって走り出す。どうせ道も解らないし、どこにいるのかも解らない。目の前で行く手を(はば)んでいるヤツだって、どこのドイツかも解らない。


なら、誰かの持っている服でも盗めば良いんだよな。


恥なんてパンツ1枚の時点でかいているんだ、すでに失う物なんてねぇ!なに、少々借りるだけだ。新しい服を買うまでの短い…いや、金も無いから新しい服を盗むまでの短い時間だけ借りるだけだ。


人の群れを掻き分けながら走り始める。


集まりかけていた人間を押しのけて、良さそうな荷物を持った人間を探す。まだ、時間が早いからか大きな荷物を持っている人間は少ないが、その中から盗みやすそうな荷物を持ったヤツを物色する。


「変態だ!変態が逃げるぞ!!誰か捕まえろ!!」


「教会の方へ逃げたぞ!」


「パンツしか履いてない変態だ!」


人の間を走りながら細かくステップを繰り返す。大通りは小石も無くて魔獣の群れの間を駆け抜けるよりも走りやすい。人の影を利用して人間が反応するよりも早く次の影に滑り込む。


いた!行商人の物らしい荷馬車が向こうを向いている。その荷台には晴れていて使わない雨除けのマントが掛けられている。あれを盗めばすぐにでも着込める。


雨は降っていないが、マントくらいならパンツ1枚で走り回るよりは目立たないだろう。パンツ1枚だと目立つから、マントを着た後にゆっくり次を物色すればいいのだ。


小さくフェイントをかけて、荷馬車へと向かうと、後ろからすれ違いざまにマントをかっぱらって脇道を探す。


「ひったくりだ!マントを盗んだぞ!」


後ろから声が上がる。


マズイ。見られていた。脇道へ駈け込んで、まずは人目から遠ざからないと!


人の隙間に細い脇道を見つけて駈け込む瞬間、右手に(ひるがえ)っていたマントが引っ張られてしまった。


「あ。」


体が崩れて空が見える。


地面を転がる。


チクショウ!もう少しだったのに!


転がりながら脇道へ駈け込んだオレの手からマントは消えていた。だが、構っている暇はない。次はオレの体が捕まるかも知れない。走りながら脇道の入口へと集まって来たヤツ等の目の前に水の球を浮かべてやる。


ついでに、転んだ時に付いた泥を落とすために素早く浄化の魔法をかける。汗も一緒に飛んで行って気分が楽になる。だが、そろそろ一息つきたい。ゼイゼイとなる音が耳に聞こえる。


チクショウ。


顔の前に魔法で水の球を作って頭から飛び込むと、頭が冷えて口にも水が入ってきて少し喉が(うるお)った。


角を曲がって、角を曲がって、角を曲がって、まっすぐ進んで、積んであった木箱を倒して、路地をメチャクチャにして、ようやく後ろから人が来ないようになった。


チクショウ。ここはどこなんだよ。なんでオレは裸なんだよ。


上がった息を少しずつ整えて、人気のない路地で座り込んだ。


ゼイゼイゼイ。


最近は逃げ回ってばかりだ。村長のジジイから逃げて、魔獣から逃げて、街の人間から逃げて。チクショウ。どうなっていやがるんだ。


ゼイゼイゼイ。


とにかく着る物を探さないと、街の人間ともまともに話も出来ない。


ゼイゼイゼイ。


何でパンツだけなんだよ。


しばらく息を整える。


やっと顔を上げる事が出来ると、狭い路地から空を見上げる。太陽が眩しい。


誰でも持っているようなものを、ちょっと簡単に手に入れたかっただけなのに。そのために『爆宴の彷徨者』を選んで英雄になりたかったんだ。


さらに天を見上げると、3階くらいの高さにロープに掛けてある男物の服を見つけた。


やった。これで服を手に入れる事ができる!



逃げ回らなくて済むぞ。



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次回:『大の字』になって壁と壁との間で踏ん張って。



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