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黄色い『悲鳴』

--黄色い『悲鳴』--


あらすじ:魔獣の群れにあちこち(かじ)られた。

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「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」



甲高(かんだか)く鳴り響く女の黄色い悲鳴で目を覚ました。頭に響いてズキズキする。


それに、やけに肌寒い。


すでに春を過ぎて暖かくなっているハズなのに、このままでは風邪をひいてしまう。


悲鳴の理由を知るために顔を上げると、目の前の細くて小さな路地に1人の女が立っていた。村では見た事の無い顔を警戒してうかがってみると、どうやらこちらを見て震えているようだ。女の顔が真っ青になっている。


オレの後ろに何かあるのだろうかと振り返ってみると、狭く薄暗いレンガ敷きの良くある路地が続いていて、これまた良くあるスライムの入ったゴミ箱だけがデンと鎮座(ちんざ)していた。だが、女が悲鳴を上げるようなものは見当たらない。


きょろきょろと辺りを見渡しても、人が1人通れるだけの小さな路地は見覚えが無く、オレの記憶の中には思い当たる場所が浮かんでこなかった。


オレの村じゃない。


最初に悲鳴を上げたきり静かになった女に、この場所を尋ねるために体を起こそうとすると、再び女は叫び出した。


「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!来ないで!犯される!!!」


さっき見回した時もオレ以外に人影は居なかった。という事は女はオレに犯されそうになっていると勘違いしているのだろうか?


おいおい、オレは紳士だぜ。永いこと嫁となる女を探している愛の狩人だ。


村の凶暴な女共には嫌われすぎて嫁のなり手になりそうになかったから、親切にしてやる事も無かったけど、初対面の結婚できそうな女にはなるべく優しくするつもりだ。


オレより年上のようだが、ギリギリ若い娘と言っても良い年の女だろう。ちょっと美人とは、いやかなりかけ離れていて、どちらかと言えばオバヤンに似ていて、頑張れば、かわいいと言えなくもない。


だがオレの守備範囲の中に十分入っている。なによりオレの事を知らない結婚できる可能性のある女だ。粗末に扱うわけが無い。


まずは体を起こして、気さくに挨拶でもして落ち着いてもらえるように話かけてみよう。


第一印象は大事だ。


「はじめま…。」


「イヤ!来ないで!寄らないで!(はら)まされる!!!誰か助けて!!!!」


オレが声を掛けようとすると女は増々騒ぎだした。オレがどうしたっていうんだろうか?変な顔でもしていたのだろうか?


ただ話しかけようとしただけじゃないか。


「悲鳴はここからか!?」


「ハンデちゃんどうしたんだ!?」


「強姦魔はどこだ!?」


ハンデと呼ばれた、さっきから叫び続ける女の後ろから男の姿が現れた。マズイ。このままだとオレが強姦魔にされてしまう。


ハンデも他の男たちも、身綺麗で小洒落こじゃれた服を着ている。オレの村だと畑仕事や狩りをしているせいか、もう少し泥臭い格好をしている。相手が貴族とは思えないが、知らないヤツが汚い身なりをしていれば疑われるかもしれない。


「いや、オレは何もしてないよ。」


手を上げて首を振って見せる。というか、目覚めたばかりで、こんな場所でなんで寝ていたのかもわからない。


「ん?変態か?」


「あ!変態だ!」


「間違いない、変態だ!!」


現れた男どもが、みんなしてオレの事を変態だと断定した。


オレが何をしたって言うんだよ!


オレは、オレは、村で嫌われて、嫁が出来なくて、魔獣を殲滅(せんめつ)して来いって言われて…。


…やっと思い出した。


そうだ、オレは魔獣の群れに放り込まれたんだっけ。


村長のジジイに縛られたまま石垣から突き落とされて、魔獣の群れから這う這うの体(ほうほうのてい)で逃げ出して、いや、右足を失って、右腕も左腕も失って…。だが、今は右足も両手も痛くない。


そうだ、最後に『爆宴の彷徨者』を使ったんだ。英雄がの『ギフト』が護ってくれたのか?


「どうした?変態?」


「ハンデちゃんに悪いことをしたようだな。逃がさないぞ変態!」


「おとなしく捕まれよ変態!」


男たちが変態と断定して話しかけてくる。


なんで、オレが変態なんだよ!


村のみんなから嫌われて、魔獣の群れに放り込まれて、こんな可哀そうなオレが何で変態なんだよ!!チクショウ!


「オレは何もしていねぇ!!」


「何もしていないワケが無いだろう。」


「その格好で言われてもな…。」


「どのツラ下げて変態じゃないって言えるんだ?」


そう言えば、魔獣の群れに放り出された時はジジイにズボンを履かせてもらえなかったんだっけ。


と言う事は…。今のオレってば下は女物のパンツを履いているだけなのか?


冷汗が流れる。


もしかすると、今のオレの服装は汚い農村の村人どころか、農民のシャツに前の方にシミが付いた女物のパンツだけを履いているだけかもしれない。


ジジイの細い枯れ枝のような指で履き替えさせられたシミのあるパンツ。


オレのパンツごとズボンを引きずり降ろされて、丁寧にJrの位置調整までして履かせてくれた女物のパンツ。


恐る恐る、自分の体を見下ろす。


…。


…絶句した。


ズボンを履いていないだけじゃ無かった。シミの付いた女物のパンツ以外は何も着ていなかった。シャツは?靴下は?靴も履いていない。パンツ1枚の生まれたままの姿だった。


これは万人が変態と呼ばれるわけだと妙に納得してしまう。オレがこんな姿のヤツと出会ったら間違いなく変態認定している。絶対に近づかないし、女がいれば近づけさせない。


どおりで肌寒いワケだ。


季節のせいじゃ無かったんだな。


「どうした?変態?まただんまりか?」


「今さら自分の格好を確認したってなにもないだろ?変態。」


「観念して、おとなしくお縄に付けよ、変態。」


あ、捕まったら牢屋にぶち込まれるワケか。女を襲ったワケでも、女を犯したワケでもないのに…。どうしてだ?


(うつむ)いていた顔を上げる。


下を見ていたってパンツしか見えない。


汚れた女物のパンツしか見えない。オレのJrの部分がもっこりしている。なるほど、牢屋にぶち込まれるには十分な格好だ。


それに、どう考えたって誤解を解くことは出来なさそうだ。


なら、逃げるしかない。


「オレは変態じゃねぇ!!」



オレは狭い路地を後ろに向かって一目散に駆けだした。



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次回:注目のまとの『道の王』




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