終章:もしも主人公が見捨てていたら。その①
--終章:もしも主人公が見捨てていたら。その①--
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魔獣のボスが走りだす。
その時、狂想の魔女がオレに着けた首輪から声をかけてきた。
「彼らを助けて欲しければ願いなさい。教えてあげたでしょ?」
魔獣は走る。
その先にはジィちゃんとノブイがオレのために魔獣が眠るお香を焚いてくれている。魔獣の動きは速すぎて、ジィちゃんたちとの距離は遠すぎて、オレがいくら一生懸命に走っても、オレがいくら『爆宴の彷徨者』を使っても、オレには助ける事ができない。
魔獣達は一瞬でジィちゃんとノブイを蹂躙するだろう。
そして、その後は…。
オレはどうやっても助かる道がある。『爆宴の彷徨者』を使えば瞬時に村に帰ることができる。だが、ノブイやジィちゃん達が助かる道が見つからねぇ。その弱みに付け込んで魔女はオレに聞いてきたのだ。
ノブイもジィちゃんもオレに優しくしてくれて、こんなとこまで付いてきたんだ。見捨てたくはねぇ。
だが、魔女がタダで助けてくれるとは思えねぇ。何かオレに対して要求してくるんじゃないのだろうか?それに、首輪から声がきこるだけのヤツに何かができるとは思えない。ノブイもジィちゃんも覚悟の上で魔獣の丘まで来たんだ。
「お前の助けなんて要らねぇよ!」
オレは彼らを、見捨てる事にした。
断腸の思いってヤツだ。だが、魔獣の群れが彼らを襲っている今が最大のチャンスなんだ。ボスもハーレムも手下どもも魔獣達は皆、目の前の獲物を襲う事に夢中でオレから見れば背中ががら空きだ。
群れを抜けてボスに到達するには最高の条件だろう。
オレは魔獣達の背中を追って走り出す。群れのヤツらは目の前の獲物に夢中で小さなオレが飛び出したことに気が付いていない。やはりチャンスなのだ。
オレは丘を走り続ける。息が切れて呼吸ができなくなっても、ボスに到達さえしてしまえばオレの勝ちだ。『爆宴の彷徨者』を使って村に戻れば息どころか体まで元の状態に戻るんだ。
雑魚に捕まる事だけを心配すればいい。だが、それだって『爆宴の彷徨者』を使って仕切り直しをすればオレは絶対に勝てる。もう、魔獣の居場所は判っているんだから、面倒が増えるだけだ。
魔獣のボスは獲物を目前にして立ち止まった。オレを見つけたようだ。
チクショウ!そうは上手くいかねぇって事か?
ボスは群れに命令すると数匹の雑魚がオレに向かってきた。
向こうでは獲物に対して蹂躙が始まっているようだが、なに、慌てる時間じゃねぇ。仕切り直しだ。
襲い掛かってきた雑魚を相手にオレは『爆宴の彷徨者』を使った。
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目が覚めると、オレは村を飛び出した。
森へ行く為に。再度、魔獣のボスにまみえ、殺すために。
そして、大事な人間を殺した報いを与え、魔獣を駆逐するために。
やる事は簡単だ。位置が判っているんだからまっすぐに進めばいい。クソを塗る必要もない。オレは森の入り口に立つと『爆宴の彷徨者』を使った。
少し解説しよう。オレがやっている事を。
オレは村から森を抜けて魔獣がたむろしている丘まで道を作るつもりだ。『爆宴の彷徨者』を使い爆発で木がなぎ倒された後を辿ってどんどん爆発していけば、いずれ『爆宴の彷徨者』の軌跡が道になるだろう。
途中で魔獣に出会ってしまったらまた『爆宴の彷徨者』を使って爆殺すればいい。『爆宴の彷徨者』を使う回数が増えるだけで、大した手間にならない。だって、オレの体力は村に戻った時点で回復するんだぜ。森まで走るのは面倒だが、回復した体力で走るんだから疲れ知らずなんだよ。
オレはどんどん森を切り開いていく。
オレが『爆宴の彷徨者』を使うたびに森の木々は吹き飛ばされて道が延ばされる。途中で魔獣が出てくれば森といっしょになって吹っ飛ばしてやる。魔獣たちは森が破壊されるのを嫌がってか、どんどんオレを襲ってくる。なに、数が減ってくれれば、こちらとしては好都合だ。
昼も夜も関係なく、オレは森を破壊する。
森が氾濫するのは森があるからだ。森が無ければ魔獣も消える。ボスが丘から居なくなるならば、オレは森を破壊しつくせばいい。
森に道ができる。丘へと続く栄光の道だ。ボスを殺せばオレの未来は約束されている。オレは英雄に成る。何十をも超える数の魔獣を殺せる奴なんて英雄の他に聞いた事はねぇ。
一心不乱に丘への道をこじ開けると、大きな月を背負って魔獣のボスがオレを見下ろしていた。
ヤツもここを決戦の場と決めたようだ。
ヤツが死ぬか、オレが死ぬか。だが、オレが死ぬ事は有り得ねぇ、『爆宴の彷徨者』がある限りオレは無敵だ。どうやったって死ぬ未来が見えねぇ。腕を引きちぎられようが足をかみ砕かれようが、オレには『爆宴の彷徨者』がある。『爆宴の彷徨者』さえ使えばオレは無傷で復活できる。
ボスが丘を駆け下りてくる。栄光の丘を墜ちるように。
ヤツの天下はこれでおしまいだ。オレは笑いながら最後の『爆宴の彷徨者』を使った。
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テントで目覚めると、オレはため息を吐いた。
「終わった…。」
たった2人の犠牲で森の氾濫を終わらせたんだ。十分な成果だろう。
暗いテントの中でもう一度目を瞑ると、胸から熱い物が込み上げてくる。
泣くんじゃねぇ。泣いたって犠牲になった2人は帰って来やしねぇ。オレの選択は正しかったんだ。怪しげな魔女の言葉に耳を貸さずに斃しきったんだ。
大の字になって物思いに耽っていると、闇が動いた。
テントの中に人の気配なんて感じなかった。人間を相手に『爆宴の彷徨者』を使う事を躊躇っている間に、闇は一瞬の内に近づくとオレを押さえつけて首輪をつけたのだ。2つ目の首輪を。
チクショウ!
「誰だ?」
オレの質問に闇が嗤った。
そして、オレはまた封印された生活に戻ることになった。
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次回:終章:もしも主人公が見捨てていたら。その②エピローグ。
「エピローグじゃねぇ!」
ゴメン、長くなったので分けたんだ。
「2回もSS集を入れておいて、読者様も絶対今日で終わりだと思っていたんじゃねぇか?
面目ない。週末にゆっくり読んでくだしあ。
「無計画に書きすぎだぜまったく。」
私は言葉の彷徨者~。
「迷子の間違いだろう!!?」




