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第三章:もしも、主人公がさっさと魔女に降参していたら。

--第三章:もしも、主人公がさっさと魔女に降参していたら。--



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「お姉様、許してください。お姉様。」


オレはなりふり構わず懇願する。哀願と言っても良いだろう。


「ダメよ。『爆宴の彷徨者』なんて物騒な物を持っているんだから厳重に管理しないと。」


畑に置かれた机の上にうつぶせになって女のすることにじっと耐えていなければならない。


「ほら!動かない!」


そう言うと、女は持っていた針をオレの脇腹に容赦なく突き立てる。チクショウ!オレは動きたくても動けねぇんだ!この女に着けられた首輪で魔法もギフトも、それどころか体の自由さえ奪われているんだ。


だが、オレの体は女の手の動きに敏感に反応してしまう。体に針を刺されているんだ反応しないわけがないだろう?


やっとの事で森から抜け出して、この畑を見つけたオレは、腹の減り具合に耐え切れず生えていた眠りナサルという野菜を食べて寝てしまった。怒った女に1晩中責めつけられ、オレは女に忠誠を誓った。


いや、1晩中、目隠しをされて鳥の羽でくすぐられてみろ。オレじゃ無くたって女に服従するだろう。その結果がこれだ。


ちくちくちく。


女はオレの体に一定のリズムで針を突き立てる。針には糸が付いていて、その糸はなんでもタマシイでできているらしいのだ。


ちくちくちく。


女が手を動かすたびにオレの体に模様が刻まれていく。奴隷の紋様がオレの体に縫い付けられていく。『ギフト』封印の首輪をつけられていたから、これ以上の封印は無いかと思っていたのだが、女はオレの目の前で魔獣を簡単に殺して新しい首輪を作ると、オレの首輪を交換した。


まるで、魔獣が操られて自分から殺されに来たかのようにフラフラと寄って来たんだ。そして、首を撫でたかと思うと魔獣が死んでいた。


戦慄に呆然としているオレを放って置いて、女は鼻歌を歌いながら首輪を作っていた。


「痛いです!お姉様!」


針を刺されて体が反射的に動いてしまう。そのたびに女は糸を抜いて縫い直す。村の女たちが縫物をするよりも丁寧に、丁寧にオレの体に糸を通していく。だが、魔法を封じられているから治癒の魔法をかける事もできない。


「皮とタマシイに縫い付けているだけで、肉にまで届いていないでしょう?そんなに痛くは無いハズよ。たぶん。」


いや、タマシイに縫い付けるってどんだけ念入りに封印するんだよ。


「じゃあ、タマシイが痛いんです。」


「そんな訳あるワケないじゃない。タマシイが痛さを感じるなんて!まぁ、どの道、『爆宴の彷徨者』を使われたら焼き印なんかじゃ効き目が無いからね。知ってる?『爆宴の彷徨者』を使うと肉体は元通りに戻るのよ。だから、紋章をタマシイに刻み付けないといけないのよ。」


いや、知らねぇよ。傷が治ったり腹の減りが治まったりしていたが、奴隷の焼き印まで消し去ることができるとは思ってもみなかった。


「でも、わざわざ糸を縫い付けなくても、タマシイとやらに印を付けるだけで良いんじゃないですか?お姉様。」


オレがそう言うと、女は目を見開いていたが、やがて納得したように言った。


「ま、まぁ、そういう方法も無い事は無いけど、危なっかしい『ギフト』だから念を入れているだけよ。」


どうやら、もっと簡単な方法が有ったらしい。


再び静かになった女がオレの背中の縫物を再開させる。野晒(のざ)らしの机の上は寝ているだけで痛いんだ。どうせなら女のフトモモの上にして欲しかった。



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「よし、できた!」


パシンっとオレの背中を叩いて女が叫んだ。


陽はすっかり昇ってオレの背中を焼いていた。女は途中から木の巨人を呼んできて日影を作っている。日に焼けた背中に針が刺さると痛さが倍増する。オレの背中まで日影を作って欲しかった。


奴隷の紋章を縫い付けられている間に、オレは今まであったことを洗いざらい話すことになってしまった。どうせ暇だったしな。


「ふ~ん。」


女の反応は薄く、オレの話に興味を示すことは無く、ただ一言だけ。


「今回の賭けは負けたみたいね。」


とだけ呟いていた。



「さて、これからどうしようか?村から追い出されたみたいだし、元に戻すこともできないのよね。」


まぁ、追い出されたかどうかは判断が難しい所だが、石垣から突き落とされはしたが帰って来るなとは言われていないからな。だが、突き落とされた事実があるから村に戻りたくなんて無い。あれで森の氾濫が終わったとは思えないから戻ってもまた魔獣の群れに突き落とされるだけだ。


もし仮に森の氾濫が終わっていたとしても、魔獣の群れに突き落とすようなヤツ等の隣で安心して寝ていられると思うか?『爆宴の彷徨者』で脅したとしても、メシに毒を仕込まれていないかビクビクしながら暮らさなきゃならない。


普通の毒なら浄化の魔法で無効化できるが、世の中にはそれでも殺せる毒という物や呪いなんかが有るらしい。貴族の世界にはあるんだってよ。


「どうか、ここに置いてくれませんか?なんでもしますんで。お姉様。」


もう1度森に戻りたくもないし、豊満な女と2人きりみたいだし、もしかしたらチャンスがあるかもしれない。


「正直、手は間に合っているのよね。逆に、キミが増えると今の畑の収穫量じゃちょっと心許ないんだよ。」


女は畑を見渡しながら言う。割と大きな畑で、オレが背中を縫われている間にも木の巨人がせっせと畑を耕したり、雑草を抜いていた。木の巨人の手入れの仕方は村の畑なんかよりよっぽど良い


「そこを何とか!お姉様!」


ココを出ても行く当てもない。新しい仕事を探すにしても『ギフト』を封じられたままでは何をすることもできない。『爆宴の彷徨者』でまともな職業に就けるかも怪しいのだが。


「女の独り暮らしだし、野獣くんといっしょに生活なんてできると思う?」


心の中を見透かすように紅い瞳がオレを見つめてくる。


いや、下心アリアリだけどな。


「背中に奴隷の紋章まで縫い付けたじゃないですか。ボクがお姉様に何かできるわけがありませんよ。お姉様。」


背中に奴隷の紋章が有るのだ。このまま街に行っても紋章が見つかれば他の奴隷といっしょに生活することになるかもしれない。色々な噂を聞くが、何年も長生きができないような過酷な環境が待っているみたいだ。


「まぁ、拾っちゃったし、どうにかするか。」


「ありがとうございます!お姉様!」


感謝して女に抱きつこうとすると、ひょいと身を(かわ)される。



その後、オレはダメラと寝食を共にすることとなった。


深くは聞かないでくれ。



魔獣のお婿さんEND

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「って、また動物扱いされるのかよ!?」


良かったな。お嫁さんが出来たぞ。


「ミレじゃないか!」


オマエを結婚させるために一生懸命考えたんだ。たぶんオマエはこれからわんわんとしか言えなくされるんだ。


「いや、前回も似たような状況だったけどな。ぶぅぶぅがわんわんに変わった所で違いがねぇ!」


私の世界ではちょっとランクが上だぞ。


「オレの世界じゃ動物なんて肉と変わらねぇんだよ。というか、本編のENDってオレが魔女の所に戻されたんだよな。だったら、本編の後はこれと同じ状況になるのか?」


いや、違った方向に行くよ。本編だとダメラ死んでいるからね。可愛そうに、お婿さんに殺されちゃったからね。


「殺したくて殺したんじゃねぇ!」



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