第一章:もしも、パンツの代わりにマクラを貰っていたら
--第一章:もしも、パンツの代わりにマクラを貰っていたら--
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村長のジジイが呼ぶと9歳になったコピットが一抱えもあるマクラを持って部屋に入ってきた。
「コレが、英雄の使っていた『リスポーンのマクラ』だ。これを使っておけば、お前の『爆宴の彷徨者』でここに戻って来ることができる。」
ジジイが偉そうにマクラの解説をする。
英雄は他の物は村から貸し出された物を使っても、マクラだけは頑なに自分で用意した物を使い、村を出る時に「使いすぎたから今度また新しい物を作るよ。」と言って捨てて行ったらしい。大事に取っておくなよ、そんなモン。
だが、マクラといっしょに使い方も伝わっていたらしく、オレは英雄のマクラを使ってジジイの家で少しだけ仮眠を取った。ジジイの言う通りなら、これで寝た場所に戻って来るようになるらしい。
村のみんなの声援に見送られてボロボロの石垣の上からオレは魔獣に向かって躍り出る。オレが活躍する場面を見ようと、畑を台無しにした魔獣が殺される場面を期待して村人全員が集まっている。
オレが英雄だ!
『爆宴の彷徨者』がある限りオレは安全に魔獣たちを殲滅できる。
魔獣が多く群れている場所を探して駆ける。そうすれば、少し早く村は安全になるんだ。村人たちの歓声が高まる中、魔獣の方もオレを見つけて狂ったように寄って来る。良いぞ。もっとだ!もっと集まってこい!!
走るオレを喰おうと魔獣が鼻先まで寄って来る。2匹、3匹。今だ!
タイミングを見計らって『爆宴の彷徨者』を使うとオレの意識は白く染まり、魔獣たちが爆ぜていくのが解る。
ああ、本当に魔獣たちが爆発していく。これが『爆宴の彷徨者』の力なんだ。英雄様の力なんだ。
これで畑の仇はとれる。がんばって育てたオレの、いや、村のみんなの努力の塊を踏みにじった魔獣たちを片っ端から皆殺しにできる。
ふふ、ははっ。あーはっはっは。
薄れゆく意識の中、これから蹂躙する魔獣たちの事を思ってオレは笑う事が止められなかった。
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マクラの柔らかい感触で意識が戻るとジジイの家の汚い天井が見えた。はっきりと覚えている。オレは魔獣を殺してやった。そして今からまた殺しに行く。蹂躙する。そう考えると心が震え、体が昂ぶる。
「きゃっ!」
コピットの声が耳元から聞こえる。いや、なんで悲鳴なんて上げるんだ?魔獣を殺せたことに昂ってオレの顔が怖くなっていたのだろうか。
体を起こしてコピットを怖がらせないように微笑みを浮かべる。大丈夫だ。いくら魔獣を殺したばかりで昂っていたって、オレはオレだ。頭からは魔獣を蹂躙することが離れてくれはしないが、コピット1人くらいを怖がらせない事くらいはできるだろう。
「大丈夫か?」
なるべく優しく問いかけてやるが、コピットは真っ赤な顔でオレの方を凝視している。心なしか、オレの顔より下の方を見ているような気がする。
ゆっくりと、コピットがオレの下半身を指さす。
その指につられて、ゆっくり視線を下ろすと、オレの元気になったJrが天井を向いていた。
バタン。
「おお、戻ったか!さぁ、もう一度、頼むぞ!まだまだ魔獣が群れているが、何度か繰り返せば全滅させることだって簡単だろう。」
ジジイがドアを乱暴に開けて入ってきた。
「いやいやいや、待てって!聞いてないぞ!裸になるなんて!」
「ああ、オレも知らないし。それより、早く来てくれ。オマエが爆発したら魔獣たちの暴れ方がひどくなってきているんだ。」
ジジイがオレの腕を引っ張りながら言う。
「いやいやいや、裸でどうやって行くんだよ!服ぐらい着させてくれ。」
「なに、また『爆宴の彷徨者』を使えば爆発して服なんて無くなるんだろう?裸だって構わないじゃないか。」
「いやだぜ!オレは絶対に外に出ねぇ!」
コピットに見られただけでも死にたいのに、次の魔獣を斃しに行く為にはオレの『爆宴の彷徨者』を見に来た村人全員が集まっている場所に行かなければならない。さっき声援を送ってオレを見送ってくれた村人全員の前に裸でだ。
全力でベッドにしがみつく。
「何を言っている。ちゃんとココに証文は残っているんだぞ。」
ジジイは1枚の契約書を掲かかげながら言う。ジジイの『身勝手な調印書』は口約束でも約束をしてしまったら、自動的に法的な契約文書を作ってしまう恐ろしい『ギフト』だ。コイツを使われればどこへ逃げても指名手配されてしまう。
「チクショウ!それでもオレはここから動かねぇ!」
「仕方ない。ガジル!チュウコン!頼んだぞ!」
ジジイが声をかけると、ガジルの『緊縛の夢』がオレの体を六角形に縛り上げる。そして、縛り上げられたオレをチュウコンの『力こそパゥワァ』でオレを軽々と担ぎ上げる。オレを見て絶句している村人たちの間を通って、再び石垣の上に立たされた。
村人たちより高い位置に立たされ、隠す物が無い体には『緊縛の夢』でJrが強調されるように縛られた縄が残っている。
そしてJrは元気に風と遊んでいる。
魔獣が吠える声が遠くに聞こえる。
終わった。
静かだった村人の間からヒソヒソと話す声が聞こえる。
終わった。
村人全員がオレのJrが元気に風と遊んでいる姿を見ている。
終わった。
オレの人生は終わった。
オレは魔獣を蹂躙していく。元気なJrを振り回して、何度も何度も村人の間を駆け回って行く。
やけくそだ!
その後、オレは『裸の英雄』として村人の間で語り継がれていった。
裸の英雄END
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いや、胸のつかえが取れたよ。
「いやいやいや、ひどくね?村のヤツ等の笑いものになるならまだしも、コピットにまでバッチリ、シッカリ、ハッキリ、クッキリ見られてるじゃねぇか!」
彼女もオマセさんだよね。指の隙間から覗くなんて卑怯な事はしないで、しっかり見た上でちゃんとオマエに教えてあげる優しさも持っているなんて。
「いや、それは優しさじゃねぇだろ!?できるなら、見なかったことにして逃げ出して欲しかった…。」
父親のモノと比べていたんだよ。小さいって。
「小さくねぇ!」
いや、キミの名誉の為に書かなかったけど、その後の村人の噂話では…。
「あ~!あ~!あ~!!!聞こえねぇ!!!てか、なんで心のつかえがとれているんだ?」
ああ、よく聞いてくれた。作中で『パンツが無ければ即死だった。』って書いてたんだけど、きちんとした理由を書きそびれていてね。
「即死は即死でも、精神的な死亡の方じゃねぇか!!」
でも、ちゃんと英雄には成れているだろ?『裸の英雄』様♪
「『裸の英雄』様♪じゃねぇ!」




