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終話:『悪魔の囁き』

--終話:『悪魔の囁き』--


あらすじ:魔獣のボスがジィちゃんとノブイの方に走って行った。

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魔獣は走りだす。


オレの首輪は魔女に着けられたものだ。狂想の魔女。人を操り魔獣を操り、村を潰して街を壊した。子供を震え上がらせるほどの伝説の魔女だ。オレの体を散々イジメ抜いて、語尾に『お姉様』と付ける事を強要してくれた恐ろしい魔女だ。


その魔女が首輪からオレに声をかけてきた。


「彼らを助けて欲しければ願いなさい。教えてあげたでしょ?」


ああ、たっぷりと教わった。それはもう体の芯まで染みつくくらい、たった一晩、いや、海の時を合わせれば二晩かも知れないが。あの魔女の恐ろしさは骨の(ずい)まで教わった。


だからこそ、今のこの状況をどうにかしてくれるかも知れない。


魔獣は走る。


その先にはジィちゃんとノブイがオレのために魔獣が眠るお香を焚いてくれている。魔獣の動きは速すぎて、ジィちゃんたちとの距離は遠すぎて、オレがいくら一生懸命に走っても、オレがいくら『爆宴の彷徨者』を使っても、オレには助ける事ができない。


魔獣は一瞬でジィちゃんとノブイを蹂躙(じゅうりん)するだろう。


そして、その後は…。


いや、オレには『爆宴の彷徨者』がある。例え魔獣のボスがオレに襲い掛かろうとも、オレの喉を引きちぎる前に『爆宴の彷徨者』を使えば逃げられる。それも魔獣のボスを倒して安全な村のテントに戻ることができる。


それだけで平穏な昔の村に戻って領主との約束は果たされ、オレは英雄に成れる。何よりコピットの命が護られる。2人を見捨てればそれで森の氾濫は終わるんだ。


魔女の言う事なんて聞かなくても良いんだ。


だが、オレだけが生き残ってしまったら、オレは村のみんなから受け入れられるだろうか?いや、オレが『爆宴の彷徨者』を得ただけでも仲間外れにしてくれたような連中だ。きっと受け入れてもらえないに違いない。


コピットと結婚できたとしても、ずっと心にしこりが残ってしまうに違いない。


ノブイ。知り合ってから短い間に色々話す事が多かった。デブと三人で毎晩酒を飲んで、毎日くだらなくて同じ話を何回も話し合った。友達の居なかったオレが初めて心の内を話すことができたんだ。アイツは魔獣のボスを倒したら結婚すると言っていた。


ジィちゃんはオレが小さい頃、悪さをするといつもゲンコツで殴ってきた。だけど皆に平等で絶対にオレをバカにすることは無かった。今回だって狩人が魔獣を怖がって来てくれない中を、足を悪くして引退したはずの体を引っ張ってここまで連れて来てくれた。


できるなら、助けたい。


しかし、魔女が無償でオレを助けてくれることが有るのか?狂想の魔女として数々の伝説を残してきたあのオンナが、散々にオレの体を(もてあそ)んでくれたあの女が、タダで助けてくれる事なんてあり得るのか?


魔獣のボスが樹をなぎ倒す。そこには怯えた表情のジィちゃんとノブイの姿が有った。


「助けてください!お姉様!!」


たまらずオレは叫ぶ!頭の中をぐるぐると思考が走っていたがジィちゃんとノブイの顔を見てそんな事はぶっ飛んでしまった。


「遅かったから、後でオシオキよ。」


首輪から魔女の声が聞こえると、ジィちゃんとノブイの姿が消えた。


「キミの願い通り2人は助けてあげたわ。転移の魔法で村に戻っているはずよ。あとはガンバってね。」


チクショウ!魔獣のボスまで倒してくれるとか甘い期待を持ったオレが馬鹿だったぜ!あの魔女がそんなに優しいワケがねぇ!オシオキってのはオレにボスを倒せって事なのか!?


だが、それだって一瞬だ。


ボスが走ってきてオレに噛みつく一瞬だけ怖い思いをすればいい。あとは願うだけだ。『爆宴の彷徨者』に願えばオレは一瞬で安全な村に戻れる。


そして、ボスはオレの爆発に巻き込まれて死ぬのだ。魔獣のボスが死んで森の氾濫は終わるのだ。ふふふ。オレは『爆宴の彷徨者』の英雄と同じになるのだ!これはオシオキではない。オレが英雄になるための道が約束された試練でしかないのだ!!


家ほどの大きさの魔獣のボスがオレに襲いかかる。人間が入れるほどの大きな口をめいいっぱい開けてオレに噛みつこうと襲いかかる。


だが、オレは『爆宴の彷徨者』の英雄になるのだ。恐れる事はない。


「ふふふ、ふはっ、あーっはっはっは!」


オレは抑えきれない笑いと共に『爆宴の彷徨者』を使った。



これでオレは英雄だ!!



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チチチチチチッ。


小鳥の声が響く。


木の家?


目が覚めるとオレは見知らぬ木の家で寝ていた。頭に柔らかい感触がある。この感触はリスポーンのマクラに違いない。


「あら、目が覚めたようね。」


女の声がオレの頭の上から聞こえた瞬間、全てを思い出した。森の氾濫で魔獣のボスを倒して勝利した事を。


だが、何でオレはこんな所に居る?オレは村のテントにリスポーンのマクラを置いたはずだ。『爆宴の彷徨者』を使ったらテントに戻るんじゃなかったのか?


「キミのおかげでリスポーンのマクラを手に入れる事ができたわ、ありがとう。」


女はオレに声をかける。いや、魔女がオレに感謝を述べる。


「でも、ちょうど良かったわ。マクラを解析していたおかげで2人を無事に村に送り届ける事が出来たんだもの。」


そうか、2人は助かったんだな。


「じゃあ、何でオレはここに居るんだよ!?」


見覚えのない木の家だ。村の家なら大抵の家に入ったことがあるし、作ったヤツが1人しかいないから似たような家しかないのだ。村に何人も大工が居るわけがねぇ。とすると、ここは魔女の家という事になる。森に戻ってきてしまったのか?


「人間を転移できるのにマクラが転移できない道理は無いでしょう?マクラをここに転移させたのよ。」


オレは脱兎のごとく駆けだした。パンツ1枚でドアを蹴とばして畑を抜けたら、そこには森があった。


チクショウ!絶対に逃げ出してやる!


ためらわずに『爆宴の彷徨者』を使った。



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チチチチチチッ。


小鳥の声が響く。


「無駄よ。マクラがココにある限りアナタはここに戻って来るのよ。」


魔女が紅茶を飲みながらオレの目覚めを待っていた。


「ちょうど人間の精液が欲しいと思っていたのよ。新しいホムンクルスを作るのにね。知ってる?精液を腐敗させるとホムンクルスができるのよ。今まで使ってたコは魔獣の精液で作ったらできがイマイチだったのよね。」


柔らかい表情でで魔女が嗤う。


「チクショウ!!!絶対に逃げ出してやる!!!」


オレの絶叫が不快な深い森に木霊(こだま)した。



--True BAD END--

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もうちょっとだけ続くのぢゃ:『BAD END 1』



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