『狩人』だって怖がってんじゃないか!
--『狩人』だって怖がってんじゃないか!--
あらすじ:マクラが見つかった。
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「コピット、マクラを用意しておいてくれ。」
村長のジジイが言うと、コピットがジジイの後ろからオレの方を振り向かないで猛ダッシュで家に入って行った。
終わった…。チクショウ!何だか知らねぇが思った以上に嫌われているんじゃないか?やっぱり『ギフト』の封印を解除されたら魔獣なんてほっといてオレだけ逃げ出してしまっても良いんじゃないか。
魔獣のボスと戦うには魔獣の群れの居る森へ入らなきゃならないんだ。どうせ魔獣を倒したってオレは村に居場所が無いし、無理やり住み着いたって嫁が出来るわけじゃねぇんだ。
「マクラの件は置いておくとして、もうひとつ助けて欲しい事があります。」
ノブイが話を切り出した。ちなみに奴隷商だったデブは話に飽きたのか馬車の上で寝ている。まぁ、最近は昼間に馬車の上で寝る事が多かったからオレだって眠いんだけどな。
「他にも何か手伝えることがあるんですか?」
「ええ、魔獣のボスを探すためにも森に入らなければなりません。それで、この村の狩人を案内人に雇いたいのですが。」
ああ、そう言えば、逃げる事ばっかり考えていたから狩人を雇うって話を忘れていた。この村の狩人は7人。2家族しか居ねぇ。それだけで村で普段食べるには十分な量の肉が獲れるからな。
それに近くには狩人だけの村ってのもある。足りない分は狩人の村から買うし、祭りなんかの時に来ては保存用の燻製肉なんかも置いて行ってくれる。
「狩人達は兵士たちの手伝いをしている所にいるはずなので、たぶん集会場の方にいるでしょう。こちらです。」
村長の家の隣が集会場になっていて、今は領都から来た兵士たちの拠点になっているようだ。この村に配備された兵士たちは200人。少なく感じるが、森は広いからあちこちの村に分散して配置されているそうだ。
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「オレは嫌だぜ。今の森に入るなんて命を捨てに行くようなもんだ!」
「今の森の声はオレ達の味方をしていないんだ。森の声で魔獣たちの動きを把握できないから、いつ後ろから襲われてもおかしくない。危険すぎる。」
狩人をまとめているオヤジが感情的に怒鳴った後に、オヤジの息子が補足を入れてくれた。だがその意見は否定的で、その後もノブイが必死に説得を試みていたが7人がみんなが首を縦に振る事は無かった。
「それなら森の入り口まででも良いんだ。何とかしてボスの居る場所だけでも解らないか?居場所が解れば、オレとコイツだけで行くよ。」
と言ってノブイがオレの事を指さす。
「おいおい、シロウトが簡単に言うなよ。行くったって森の中ってのは簡単に歩けるもんじゃねぇんだぞ。オレ達だって長い年月をかけて少しずつ道を切り開いてきたんだ。」
今だから解る。魔女の居た森なんて歩くだけでも苦労をした。パンツ一枚だったって理由だけじゃない。獣道以外は歩けそうも無かったし、その獣道ですらあちこちから枝が飛び出していて、ネレヒルみたいな危険な存在も居る。
「でも、キミたちは森に来てくれないんだろう?」
オレも行くとは言ってないけどな。パンツが勝手に約束したんだ。いくら助かる可能性が高くたって魔獣の群れの中に行くなんて御免だ。魔獣に噛みつかれれば痛いし、『爆宴の彷徨者』を使う前に死んでしまうかも知れないんだぜ。
狩人たちとの進まない交渉をノブイは頑張っているが、オレは話にすら参加していないで突っ立てるだけだ。村を出て森に入る前に『ギフト』を開放してもらったら逃げるつもりなんだ。ここで頑張る必要もない。
その方がノブイを危険にさらさなくて済む。
オレが森に入らなければノブイが危険な森に入る理由も無くなるだろう。短い間だったが一緒に旅をしてきて一緒に飲んで、一緒に騒いだ仲だ。ノブイはどう思っているのか知らないが友達が居なかったオレにとって、それは楽しい時間だったんだ。
死んでも言わねぇけどな。
「ワシが行こう。」
「オヤジ!」
そこには、引退したはずのジィちゃんが立っていた。ジィちゃんは狩人のリーダーの父親で十年以上前に手負いの魔獣に噛まれて足を悪くしてしまっている。以来、狩人の仕事は引退して、他の狩人達が獲ってきた動物を解体したり毛皮をなめしたりしてのんびり暮らしていた。
オレの子供の頃には引退していて、ずっと村で子供たちの遊び相手をしてくれている。優しいジィちゃんだった。
「ワシなら森の声も聞けるし、森の歩き方も知っている。なにより、おいぼれの役立たずじゃ。少し足は遅いが、なに、逃げる時に置いて行ったら時間稼ぎくらいはできるだろう。」
「いや…。」
「黙れ!お前たちには未来がある。ここがワシの最後の晴れ舞台だ!格好ぐらい付けさせろ!」
リーダーのオヤジが反対する前に、ジィちゃんが背筋を伸ばして怒鳴りつける。優しいジィちゃんしか知らないオレにとっては衝撃的な光景だった。
その姿は格好がよく、誰も彼もを惹きつける。
そんな魅力を醸し出していた。だからこそ、オレは絶対に逃げようと思う。ジィちゃんだって魔獣に殺させはしない。オレが頑張らなくても兵士がたくさんいるじゃないか。
英雄が居なくたってアイツ等が束になってチマチマ倒していればいつかは森の氾濫も収まってくれるんじゃないか?森の氾濫の時にだけ都合よく英雄が居るワケ無いんだから。なんか対処法だってあるはずだ。
オレが逃げればノブイもジィちゃんも助かるんだ。
リスポーンのマクラさえ奪ってしまえば、後はオレのやりたいようにやれる。簡単だ。マクラを安全な場所に置いておいて盗みをすれば金に困る事も無いだろう。失敗したら『爆宴の彷徨者』で逃げれば安全な場所に戻れるし、成功すればボロ儲けができる。
串肉の屋台の時は店のオヤジが居る時だったから悪かったんだ。『爆宴の彷徨者』が封じられなければいつでも好きな時に逃げられるんだ。オレだったらやれる。
そうこう考えている内にノブイとジィちゃんの間で話が付いたようだ。
決行は明日。
オレは家に帰りたくはないから、兵士のテントを借りて泊めてもらう事になった。
そこでマクラを使えばオレはいつでもテントに戻って来ることができる。あとはデブに『ギフト』の封印を解いてもらって、森に入る前に安全な場所で反対方向に走りながら『爆宴の彷徨者』を使えばテントに戻れる。
そしてテントからマクラを持って逃げれば、すぐに追いついて来れないだろう。村に残ったヤツ等からすれば何が起こっているか解らないだろうしな。テントには予備の服も用意しておかなければならないな。まぁ、簡単に言いくるめられるだろう。
テントを用意してもらって、着替えの服も用意できた。夜は景気付けに酒をのんだ。
千鳥足になってテントに戻ると、そこにコピットがマクラを持って立っていた。夜の月が美しい。
「が、がんばってよね。」
コピットはそれだけ言うとオレにマクラを投げつけて走って逃げて行った。
うん。がんばっちゃうもんね、オレ!
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次回:『ボス』が居なきゃ倒せないじゃないか!




