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さいしょの『逃亡』

第一章:魔獣に囲まれた村

--さいしょの『逃亡』--


あらすじ:英雄の宝を使わないと即死らしい。

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9歳のコピットの手に収まるような小さな箱。この中に入っている英雄の愛用品が無ければ即死と言われ、オレは村長のジジイの言葉に頷くしかなかった。


どんなものか解らないがコイツが有れば『爆宴の彷徨者』を使い放題に出来るんだ。『ギフト』を封印する首輪を解除してくれるなら、村を助けてオレが英雄に成ればいい。助けた後に首輪はしてやらねぇけどな。


「わかった。村を助けてやる。」


『ギフト』を授かる前までは仲の良かったヤツも居たし優しくしてくれた人も居た。今まで生活してきた村だ。今では奴隷のように扱われる事にはなってしまったが全滅させるのも気が引け無い事もない。


丁度いい引き際だと言える。


コイツを手に入れて村を救った後は、みんなに恩を売って暮らせばいいんだ。命の恩人、どころか村の恩人だからな。せいぜい、大きな恩を売ってやろう。


なに、イザとなったら自由になった『爆宴の彷徨者』の力で脅せば快適に暮らせるようになるさ。それに『爆宴の彷徨者』の力がすごければ、コピットも見直してくれるかもしれない。


コピットから箱を受け取ったジジイが厳重に封印していた鍵を解くと、鎖がジャラジャラと音を立てて落ちて行く。静かにフタが開かれると、そこには…女モノのパンツが入っていた。


「何だよ!これが『爆宴の旅人』の英雄の愛用品だって言うのか!?」


「そうだ。かの英雄の三種の神器の1つと言われている。」


シンプルな白をベースにして、少しのフリフリなレースを付けた、かわいいパンツ。小さな赤いリボンが付いた、オシャレなパンツ。身に着けた者の大きなお尻がこぼれるだろう、小さなパンツ。


女モノのパンツなんて母親のモノしか見た事がないが、どんなに頑張っても妄想があふれてしまう。このパンツに足を通した女のケツを妄想しないわけが無い。これは女の秘密の花園を隠すためのモノなんだ。


その先を知りたい。


だが『爆宴の旅人』の英雄は男だったハズだ。そして、パンツの前の方にはシミが付いていて汚い。男が穿()くものじゃ無いだろうし、パンツに穿く以外の使い方でもあったのだろうか?


「これを英雄はどうやって使っていたんだ?」


「パンツに穿く以外の使い方があるのか?」


ジジイはとぼけるが噂には聞いたことが有る。村の男どもの中には女のパンツを使うヤツが居ると。村八分にされている俺には知る(よし)もないが、どのような使い方をするのだろうか?この機会に知っておいても良いかもしれない。


「これは女の穿くモノだろ?英雄が穿いていたというのか?男の英雄がか?どんな使い方をしていたんだよ?」


「知らん!パンツに穿く以外の使い方があるものか!」


ジジイは知らないと言い張るが、コレを穿いては人として致命傷になりかねない。オレが女のパンツを穿いたことを村の人間に知られれば、絶対に蔑まれて笑われる。オレだったら穿いたヤツを指さして(わら)う。一生嗤う。


「他の男が穿いていたパンツなんて穿けるか!?」


「大切なオマエの命には代えられまい。さあ、死にたくなければコレを穿くんだ!!」


英雄が穿いていたとすれば、コレには英雄のJrが納められていたハズだ。他の男の男モノのパンツを穿く事でさえ躊躇(ためら)われるのに、他の男の穿いた女モノのパンツを穿いたりすれば、人間として何かが終わってしまう。


いくら英雄と同じ行為だとしても、明日からのあだ名がパンツ君とか、パンティ君になったら嫌すぎる。しかも前側が汚れているんだ。『汚パンティの英雄』なんて言われた日には落ち込んで餓死するまで家から出なくなる自信がある。


ここは、逃げるしかない。


こんなパンツを穿けるわけが無い。


村の外は魔獣だらけだから、村の中のどこかにほとぼりが冷めるまで逃げ込むしかない。自宅か、納屋か、押し入れか。逃げ込んで中からしっかりと鍵をかけて籠城(ろうじょう)するしかない。


「やってられるか!」


オレは英雄の宝から逃げるように走り出した。


「あ、待て!逃げるな!おい!カジル!チュウコン!捕まえろ!」


オレがジジイの家のドアを開けるより早く、隣の部屋から男が2人飛び出してオレの退路を(ふさ)ぐ。チュウコンとカジルは村の中でも戦闘力のあるヤツ等だ。


カジルの『ギフト』である『緊縛の夢』はロープを結ぶのに便利だし、チュウコンの『力こそパゥワァ』は人間より大きな岩を持ち上げられて色々な場面で頼られている。


何より2人のコンビネーションは家畜が逃げ出した時に重宝されるのだ。カジルのロープで家畜の動きを止めて、チュウコンが家畜小屋まで運ぶのがいつものパターンだ。


家畜のように逃げ出すオレを捕まえるには最高の布陣と言える。


だがしかし、『ギフト』が使えないとは言え、オレも多少は鍛えてある。村人のイジメに耐えている内に鍛えられたのだ。(せま)りくるカジルとチュウコンの隙間を縫って、コピットを突き飛ばして扉を蹴破(けやぶ)って、ジジイの家を後にする。


逃げ出すことに成功したのだ!


次は隠れる場所を考えなきゃならない。家にはオヤジとオフクロが居るが、オレが『爆宴の旅人』を授かったと知って落胆と(あきら)めの顔しかしなかったヤツ等だ。オレが奴隷のように扱われていても抗議すらしない。


今度もまた裏切られるかも知れない。裏切られてジジイに突き出されたらアウトだ。オレはパンツを穿くことになる。家に戻る事を諦めて消去法で納屋を選択して逃げ込むと、扉の内側に荷物を置いて厳重(げんじゅう)に戸締りをする。


聞き耳を立てて外を窺うがオレを追ってきたヤツ等の気配もない。上手い具合に巻いたようだ。


これで、一安心だ。


だが、魔獣がいなくなるまで籠城するしかないから、夜になったら石垣の中にある小さな畑の作物を手に入れて、しばらくの食料を確保しなければならない。よし、夜に活動するために、ひとまず仮眠を取ろう。


木でできたボロくて薄暗い納屋に壁の隙間から太陽が差し込んでいる。家畜のエサにも肥料にもなる藁が山積みにされている。ひと眠りするために明かりに照らされた(わら)の山に近づくと、1本の藁が突然動き出した。


2本、3本、藁が集まり、藁が(みずか)ら縄になっていく。


これは、荒縄!?


しまった!!カジルの『緊縛の夢』か。こんな使い方ができるなんて聞いてないぞ!?


瞬く間に縄になった藁がオレの体をまとわりついてくる。荒縄はまるで生きているようにオレの体に這い上がって、見る見る間に六角形を多用した厳重な縛り方に変わっていく。


「チクショウ!オレが何をしたっていうんだよ!」


誰もいない納屋の中で悪態を吐く。


「チクショウ!」


ドッカーン。


爆音と共に納屋の扉が押えていた荷物ごと吹き飛んで行った。土煙が治まる前にチュウコンがのっしのっしと入って来る。『力こそパワァ』で吹き飛ばしたのか!チクショウ、(もろ)すぎる。納屋なんて選ばなければよかった。


「観念しろ。オマエは村を助けると言っただろう。約束は守ってもらうぞ。」


村長のジジイは1枚の契約書を(かか)げながら言う。ジジイの『身勝手な調印書』は口約束でも約束をしてしまったら、自動的に法的な契約文書を作ってしまう恐ろしい『ギフト』だ。コイツを使われればどこへ逃げても指名手配されてしまう。


全身を荒縄で縛り上げられたオレに、ジジイがゆっくりと近づいてくる。


「オレにも法的な義務は課せられてしまうからな。約束どおり英雄の宝はオマエにやろう。」


そう言ってイヤらしく笑うと、ジジイは枯れ枝のような指をオレのズボンにかけて、パンツごと一気に下ろしてしまう。下げられるズボンに引っ張られてオレのJrがポロンと外気にさらされる。


「くっ、殺せ!」


死にたい。


「ガマンしろ。オマエを死なせないためなんだ。」


ジジイは嗤いながら赤ちゃんを扱うように丁寧にシミの付いた女物のパンツをオレに穿かせる。オレのJrの位置を枯れ枝の指が修正すると、ゾワゾワと背筋に怖気(おぞけ)が走る。


ジジイがオレにパンツを穿かせると、待っていたチュウコンが黙ってオレを縛っている縄を引っ張って納屋の外に連行してしまった。


「ズボンぐらい穿かせろよ!」


このままでは上着に女物のパンツを穿いただけのオレのあられもない姿が、村の人間に見られてしまう。


「ズボンを穿かせるなんて、オマエとの契約には無いからな。」


ジジイは嗤って言うと縛られたオレを村の石垣まで引っ張って行く。


騒ぎを聞きつけて連行されるオレを見に村人が集まって来る。人の声につられて次から次へとと村の連中が集まって来やがる。ああ、オヤジやオフクロまで見に来ている。


縄で縛られて引きずられるように歩くオレ。


そして注目されるオレの下半身。


ズボンを穿かされていない下半身。


ざわざわと人垣から声が聞こえる。


「おいおい、何でアイツは女物のパンツなんか穿いているんだ。」


「アイツに女のパンツを穿く趣味でもあったのか?」


「気持ち悪い。死ねばいいのに。」


事情を知らない村人の嘲笑(ちょうしょう)の言葉がオレの頭を素通りしていく。


小さな子供の目を隠している母親がいる。


「見ちゃだめよ。」


オレの下半身に冷ややかな視線が集まる。


小さくて汚れている女物のパンツから、ジジイに触られて大きくなって、こぼれそうなオレのJr。


チェリーなオレは敏感なんだよ!


殺してくれ。



静かなざわめきの中、冷ややかな視線を浴びながら村の端まで来ると、怪力バカのチュウコンに持ち上げられて石垣の上に立たされる。高い位置から見える村の外には群がる魔獣の姿があった。


ひどい。目の前に広がる畑が多くの魔獣に踏み荒らされてしまっている。


今年の作物は壊滅的だ。


チクショウ。せっかく頑張って育てたのに。村人からの冷たい視線に耐えて育てたのに。村人たちへの怒りが、魔獣への怒りに変わる。


「ふん。それじゃあ頼んだぞ。英雄。」


現状を忘れて(いきどお)るオレの耳にジジイの声が聞こえると、オレは『ギフト』を封印する首輪を外されて石垣の外に叩き落された。



いや、オレ絶対死ぬよね!?



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次回:決死の逃走『魔獣の群』



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