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『オレの村』じゃねぇか!

--『オレの村』じゃねぇか!--


あらすじ:乾杯をしよう、不条理と不幸に。

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「おう、見えてきたぞ。」


「おいおいおい、やっぱりオレの村じゃねぇか。」


陽が沈む前の真っ赤な夕焼けの中、オレ達3人が付いたのはオレが生まれ育った村だった。いや、昨日泊まった街とか見覚えがあると思っていたんだよな。どこもかしこも似たような景色に見えるから違うかと思っていたぜ。


「なんだ?気付いていなかったのか?」


領主の所にオレが『爆宴の彷徨者』を使って行方不明になっているって報告が行っていたんだし、辺境の森に近い村なんだから数は少ないよな。


「いや、知ってたし。何度も通った事のある道だし。」


村の作物を売りに行かされるのに何度も通った道だ。まさか、気付いていなかったとは恥ずかしくて言えないから虚勢(きょせい)だけ張る。


「ここの村だけがオマエが『爆宴の彷徨者』を使って魔獣を1度追い払っているんだ。魔獣も『爆宴の彷徨者』をもう一度使われるのを恐れているのか、他の村よりも数が少ない。オレ達が森に侵入するには打って付けだろう。」


「そりゃ、良い情報だな。」


オレはそっぽを向いて答える。魔獣が少なくてもオレを魔獣の群らがる中に突き落とした村だ。正直に言うと入りたくない。村に帰ってもオレはまた除け者(のけもの)になるだろうし、まだ森の氾濫は終わっていないのだから、いつまた魔獣の群れに突き落とされるか解かったもんじゃない。


「なんだ、やっぱり気にしているのか?もしかするとオマエの雄姿を見て惚れた女が居るかもしれないぞ。」


からかうように言われる。ノブイとデブには毎晩のように、この村で受けてきた屈辱の数々を披露しているのだ。ネタが無かったとはいえ酒の勢いで喋ってしまった秘蔵の話まである。


「いや、無いな。アイツ等オーガなんだって。」


「まぁ、とにかくココまで来たんだ。腹をくくってくれよ。」



街道沿いに村まで行くと、見知らぬ兵士が門を護っていた。村人の顔は全員分覚えているんだから間違いはない。門にはあちこちに傷跡が残っていて魔獣の物と思わしき血がべっとりと付いている。


「お~い!領主護衛団のノブイだ。『爆宴の彷徨者』の英雄を連れてきた。村に入れてくれ。」


ノブイが馬車に積んであった旗をひらめかせながら兵士に声をかけると、門はギイギイと音を立てて開いて行く。


ゴクリ。


ただ村の門が開いただけなのに喉が渇く。オレが帰っても歓迎されるとは思えない。それどころか、なぜ帰って来たのかと石を投げつけられるかもしれない。


村に入ると、予想とは裏腹に誰も居なかった。


いや、オレの知っている顔がって事だ。村の中には兵士が居る。ノブイが言うには森の氾濫を鎮圧するために領主から派遣されてきたヤツ等だそうだ。知っている村の知らない連中の中を村長のジジイの家の前まで馬車を進めていくと家の前でジジイが出迎えてくれた。


ジジイ以外はどこに行ったんだ?知った顔を見てホッとした気持ちと、疑問符が浮かぶ。


「おお、本当に生きていたのか!?」


オレは応えない。


「魔獣に向かって行ったオマエのおかげで一時的とはいえ村から魔獣が去ってくれた。おかげで、女子供だけでも疎開(そかい)することができた。感謝する。」


チクショウ。なんだって「感謝」なんてかたっ苦しく言うんだよ。素直に「ありがとう」って言ってくれれば良いのに。だが、村に人影がいない事は解った。オレが居なくなった後に疎開したんだ。だったら男も含めて全員で逃げてくれれば良いのによ。


「なんでだよ?なんで全員で逃げなかった?」


「この村を捨てれば、ワシ等の住む場所が無くなる。外に出たって新しい畑を手に入れられないからな。新しい街でどうやって暮らしていくんだ?」


「なんだって出来るじゃないか!畑じゃ無くたって良い。鍛冶屋だって陶芸屋だって何だってあるだろ?命を捨てる事を考えれば他の仕事をするなんて簡単な事じゃないか!」


「『ギフト』が使えなければ他の仕事に就いたって人並み以下の仕事しかできないのは、オマエが一番よく知っているだろう?それに、この村から人が居なくなれば、次は女子供が疎開した村を魔獣が襲うだろう。」


『ギフト』。


神様からもらった特別な力。祝福だと人は言うけれど、それは他の仕事に就けなくなる呪いでもあるんだ。


オレみたいな馬鹿じゃ無ければ、だいたいは親と同じ『ギフト』を手に入れる。親の仕事を継いで、親から教えて貰った通りに、親から受け継いだ畑を耕すことになる。


鍛冶屋だって陶芸屋だって同じだ。火の入れ方、鋼の叩き方、土のコネ方。どれか一つでも『ギフト』があれば出来上がる物の品質が変わって来る。


それに加え兄弟たちが他の『ギフト』を手に入れれば、例えば長男が『土の聞き手』で次男が『腐れ土の支配者』として協力して畑を作れば収穫量は倍以上に増える。


子供の数だけ『ギフト』を増やせばそれだけ豊かになって行くんだ。


だけど、逆に言えば『ギフト』が使えなければ人並み以下の収穫しかできない。どう頑張ったって『ギフト』を持っているヤツ等以上の仕事はできないんだ。


かちゃり。


ジジイの家の扉が開いてコピットが顔をのぞかせる。だが、オレの顔を見たとたんに驚いた顔をしてジジイの影に隠れやがった。チクショウ。傷つくんだぞ!


「お話の途中で失礼ですが、この村の村長でありますか?」


「そうだ。アナタは?」


ジジイの言葉に黙ってしまったオレの代わりにノブイが口をはさんできた。正直、答えようのない重苦しい雰囲気に耐えられなくなっていたから助かった。


「領都から派遣されてきました領主護衛団のノブイと申します。今回は彼の助けを借りて魔獣のボスと戦いに来ました。ご協力をお願いします。」


「魔獣のボス?」


「彼の知人の言う事には、ボスを倒せば魔獣たちの統制が緩んで森の氾濫の勢いがゆるくなるそうなのです。今の彼には古の英雄のように『爆宴の彷徨者』の力を十分に使えないので、苦肉の選択としてボスだけを狙います。」


知人と言うか、パンツだけどな。


「な、まさかコイツの『爆宴の彷徨者』は不完全なのか?不完全だから英雄のようには村に戻って来れなかったのか?」


「どういう事だ?」


今のジジイの言い方だと、オレが『爆宴の彷徨者』を使えばすぐに村に戻って来ると思っていたようではないか!?


「古の英雄は魔獣と戦って傷つくと、(みずか)らを爆発させて村に戻ってきた。そうして、何度も何度も爆発しては魔獣を倒していったと文献には書かれている。だから、てっきりオマエも『爆宴の彷徨者』を使った後に村に戻って来ると思っていたのだ。」


それなのに、オレは爆発したっきり村に戻って来ない。村を襲っていた魔獣は居なくなったけど、同時にオレも居なくなってしまったと。


「英雄の使っていたマクラに秘密があったんだとよ。マクラが無ければどこに飛ぶか解かったもんじゃねぇ。」


「な!あのマクラにそんな力が有ったのか!?他の人間が使っても特別な力なんてなかったんだぞ。」


「ちょっと待て!今なんて言った?有るのか?英雄の、『リスポーンのマクラ』が?」


「ああ、オマエにやったパンツといっしょに伝わっていた。」


チクショウ!最初っからマクラを使っていればこんなに苦労しなくても済んだんじゃないか!



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次回:『狩人』だって怖がってんじゃないか!




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