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『退屈』だから酒盛りしよう。

--『退屈』だから酒盛りしよう。--


あらすじ:ノブイとデブが仲間になった。

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「オレ、来週、ガジルちゃんと結婚する予定だったんだ。」


使いっ走りの兵士のノブイがいつもの様に愚痴をこぼす。一番の貧乏クジはコイツだろう。


オレは『爆宴の彷徨者』を取ったから仕方ないし、元奴隷商のデブはオレを奴隷にした(つぐな)いだから今回の旅は仕方ない事だとしても、こいつは街を護るために兵士になって、領主の護衛にまでなったのに、森の氾濫の最前線にいきなり飛ばされることになったのだ。


エリート兵士だったのが、上司である鎧の男の気まぐれで選ばれてここにいるのだ。


まぁ、兵士なんだから戦いに行くのは当たり前とも言えるのだが。


「まぁまぁ、良いじゃありませんか、結婚なんて女の奴隷になるようなものですよ。一生懸命、荒野を越えて家に帰っても、温かい家庭なんて夢物語だったんですよ。いや、荒野の方が自由に過ごせるだけ楽だったかもしれません。」


奴隷商から奴隷に墜ちたデブがノブイの夢を壊すように話す。もしかしたら、鎧の男はノブイの結婚を邪魔するためにオレの護衛、というかオレが魔獣を退治するかどうかの監視だな、を命令したのかもしれない。


「いや、婚約できるだけマシだって。オレなんて村の全員のオンナからそっぽを向かれてしまって、結婚どころか女の子とまともに口さえきけなかったんだぞ。」


1つのテーブルに3つのジョッキ。領都を出てからは毎日のように3人集まっては酒盛りが開かれる。だいたいは女の話だ。


魔獣の暴れている森は領地のはじっこにあるので遠い。たどり着くまで毎日、馬車に乗り続ける以外の事は無いのだ。最初は物珍しかった光景も速攻で飽きた。変わらない畑の景色ばかりが広がる中を、代わる代わる交代して馬車を動かす以外には何もすることが無い。


オレが作っていたのと大して変わらない畑の1本道で、知り合ったばかりの男が3人だぜ?酔わないで喋れる話題なんてあるワケねぇじゃないか。


どうせ、明日も馬車の上だ。二日酔いになったって構いやしねぇ。馬が勝手に歩いてくれるさ。


鳥が鳴く静かな道をガタゴトガタゴト進んでは、村に1件しか無い酒場で管を巻く。酒場ってより、村の寄り合い所だな。オレの村にも酒場はあったが似たようなものだ。


村で一番酒造りが上手いヤツの家に集まって酒を分けてもらってるんようなモンだが、そう言うのが何代か続いくと、そのうち行商人も寄るようになって2階が宿として開放されるんだ。まぁ、酔いつぶれた客か行商人。たまに来る旅人しか泊まる奴もいないけどな。


どの村に行っても変わり映えしねぇんだよ。


だから、毎日、同じ話をするしか無くて、今日も井戸で冷やされていたハズのエールがすっかりヌルくなって泡が消えるくらい時間が経っている。でも、やる事もない退屈な馬車の上で交代で昼寝をしているから眠くはねぇんだ。


それに酒場に取ってつけたような宿だから部屋数なんてないんだ。どうせ酔いつぶれても3人して同じ部屋でゴロ寝するんだぜ。結局のところ1日中、それこそ寝ている間もずっと男3人で顔を見合わせているんだ。


「女なんてロクでも無いんですよ。がんばって料理の上手なオトコを奴隷にして美味いメシを食えるようにしてやったのに、ソイツと浮気してたんですよ。」


「いや、オレのカジルちゃんはそんな事はしねぇ!」


「幻想を抱いたって無駄ですよ。アナタがこうして任務に就いている間にも新しい男を咥え込んで腰を振ってるに決まってますよ。」


「そこまで、イジメてやるなって。コイツだって来たくて来てるんじゃねぇんだし。」


あまりにもデブの言いようが酷かったので、同情して口をはさんでしまった。オレだってコピットが他の男とじゃれあっている姿なんか想像したくもない。まぁ、これだって何回目なんだって話だけどさ。


「付き合うまでに5年かかったんだぞ!5年!それくらいカジルちゃんは貞淑で初心(うぶ)な娘なんだよ!!」


「そこいら辺で女でも買ってくれば良いじゃないですか。」


「こんな農村で売ってる女なんかいないんだよ。というか、奴隷の分際で酒を飲むんじゃねぇ!」


ノブイがデブの酒を奪おうとするが、毎日の事だからデブも知っていてヒラリとかわす。


まぁ、村人全員が顔見知りなんだ。ウリでもしてバレて見ろ、次の日からオレみたいに村八分になって、まともな生活なんて出来なくなるんだ。女ってのは怖いからな。もしも、誰かの旦那にウリをしたのがバレればオレ以下の立場になるんじゃないか?


「勘弁してくださいよ。もう、奴隷をイジメられないから、お酒が退屈な馬車の旅で唯一の楽しみなんですよ。」


「なら、楽しい鉱山労働に送ってやるよ。毎日が落盤と酸欠でエキサイティングになるさ。なぁ、爆炎の。そう思うよな。」


誰も、オレの事を名前で呼ぼうとはしない。今からオレを魔獣のボスの前まで連れて行って、置いてくるのがコイツ等の仕事だ。2人とも『爆宴の彷徨者』で死なないという事を聞いているとはいえ、実際に見たわけじゃ無い。


可愛そうなオレを生贄(イケニエ)に連れていく気分だろうか。一緒に酒を飲んで騒いでいても、愛着が湧くのを嫌がってオレの名前を(かたく)なに呼ぼうとはしなかった。


まぁ、下手したらコイツ等だって魔獣のエサになるんだがな。


「鉱山に行った方が奴隷商をやっていた時よりは役に立つんじゃないかな。」


「そ、そんな~、イジメないで下さいよ~!」


「さぁ、飲むぞ~!どうせ、領主様のカネだ!めいいっぱい騒ぐぞ!」


「そうだ!そうだ!婚約者の事なんて忘れるんだ!!」


「領都に戻ったらオレは結婚するんだ!!!」



星の無い夜に、いつものノブイの絶叫がこだました。



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次回:『オレの村』じゃねぇか!



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