たった『4人』でどうしろと!?
--たった『4人』でどうしろと!?--
あらすじ:パンツが勝手に約束してしまった。
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久しぶりに、まともな服を着た。奴隷商のデブに着せられていた服はボロボロだったからな。穴の開いていない服なんて何日ぶりなんだ?
荒野を10日以上歩いた気がするが、面倒くさくて途中から数えるのを止めてしまったんだ。だって、日数はそのまま奴隷商の前で醜態をさらした回数なんだぜ。日数を数えるたびに思い出してしまうんだよ。
パンツは脱げないし首輪もハズレねぇから着けたままだが、服で隠してしまえば何と言う事は無い。首輪の上から手ぬぐいを巻いてあるから見えねぇんだよ。
「私はこれで失礼してもよろしいでしょうか?」
奴隷商のデブが言う。オレが着替えられたって事は手の封印を解いてもらったって事だからな。コイツが居るのはおかしくない。コイツも居る前で着替えるのは嫌だったけど、まぁ、上着を脱ぐだけだったから、グダグダ言うよりはササっと着替えてしまった方が気が楽だったのさ。
「いや、オマエには、まだやってもらうことがある。」
鎧を着た男が言った。領主の野郎は退散している。パンツとの交渉が上手くいってオレが魔獣のボスを倒す事になったら跳び上がって喜んで帰って行った。鼻歌まで歌って帰って行ったぞ。
というか、魔獣退治だってオレに任せないで領主の兵士とかにやらせれば良いんだよな。
「あ、後は何をすればよろしいでしょうか?」
ちなみに奴隷商だったデブも今では奴隷の首輪が嵌められている。違法な奴隷商をしていて捕まったんだから当然だな。分厚い首の肉でほとんど見えなくて息苦しそうだ。
「コイツの魔法と『ギフト』も開放して欲しいのさ。」
ちょっと待て!まだ手しか解放されていないんだ!口も解放してくれ!!
鎧を着た男の肩を叩いて、反対の手で自分の口を示してアピールする。口がきけなきゃ魔獣退治なんてしたくないって言えないじゃないか!
「ん?なんだ?オマエがどうかしたか?」
ああ、チクショウ!なんて察しの悪い人間なんだ!オレの口が封印されている事はさっきの会話で判っているハズだろう!?
「あの…、口が封印されたままで喋れないのではないでしょうか?」
そうだ!デブ偉い!!オレはデブを差して親指を立てる。てか、こいつが自発的に全部の封印を解いてくれていればこんな面倒な事にはならなかったのだけどな。まぁ、コイツも奴隷の首輪をしていて命令されたことしかできないから仕方ないかも知れんが。
「ああ、そう言えば口がきけなかったんだっけか、それじゃあ、ふう…。」
がさり。
「隊長、お呼びになったでしょうか?」
せっかく、口の封印を解いてもらえると思ったのに、横からやって来た1人の兵隊に邪魔されてしまった。封印が解けてから来てくれってよ!
「ああ、突然呼び出して悪かったな。ノブイ。」
「いえ、でも、領主様の5番目の奥様が呼びに来てくださったことにはびっくりしましたが。」
もしかすると日傘を差していた方か団扇であおいでいた女が5番目の奥様とやらかも知れないな。
「まぁ、それくらい急ぎの用件なのだ。ノブイ!オマエをこれから小隊長に任命する。オマエがこのガキを連れて北の森に行き、魔獣のボスを倒して来い!」
「え?は?いえ、まじゅうのぼすですか?」
ノブイと言われた男が困惑する。いや、そうだよな。いきなり呼ばれて理由も解らずにボスを倒せって言われてもな。
「コイツは『爆宴の彷徨者』の使い手だ。コイツを護衛して魔獣のボスの近くまで行き、『爆宴の彷徨者』を使わせれば良い。連れていくだけだから簡単な話だろ?」
「いやいやいや、待ってくださいよ。北の森って森の氾濫が起きている所じゃないですか!たった1人でどうしろって言うんですか?」
「だから、連れていくだけだって言っているだろう。ついでだから、このデブも連れて行くといいい。」
「え!?私もですか?いや、私なんて連れて行っても何の役にも立ちませんってば、いやホントに。絶対に。」
今度は奴隷商だったデブがびっくりして挙動不審になる。いや、ほんと、この鎧の男は何を考えているんだ?
「役には立つさ。オマエには『爆宴の彷徨者』のガキに着いて行ってもらう。いいか、下手に『爆宴の彷徨者』を使われたらノブイがヤバいんだ。現地までこのガキの『ギフト』を開放するなよ。それに人手だって足りてねぇ。商人だったんだら馬車の操作くらいでできるんだろ?」
ああ、鎧を着た男はオレが『爆宴の彷徨者』を使うのを恐れているんだ。魔女が言ってたもんな、オレは周りの人間からは爆弾にしか見えないってな。
「そりゃ、できますけど。」
「オマエは魔獣の出てくる森の入り口までで言ってくれれば良い。馬車を操って森の入り口でガキの『ギフト』を開放した後に待機、全部終わったらノブイを回収してと一緒に帰ってくれば減刑されるだろう。」
「ほ、本当ですか!?」
デブが破顔する。いやマジで壊れたような笑顔なんだって。
「ああ、ちゃんと領主様も了承済みだ。それと、ノブイ。森から一番近い村で狩人を雇ってガキと一緒に魔獣のボスを探すんだ。今回の任務は魔獣の群れの殲滅じゃねぇ。ボスさえ倒せればそれでいい。詳しい事はガキの履いているパンツに聞くんだな。」
「は?パンツですか?」
ノブイが変な顔をする。いや、そりゃそうだろうよ。
でも、参ったな。『ギフト』が使えるようになったら、さっさと逃げ出そうと思っていたのだが、村まで逃げられそうもないぞ。
村で狩人を雇ってもたった4人しかいないんだぜ。どうやって魔獣を倒せって言うんだ?
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次回:『退屈』だから酒盛りしよう。




