どう考えたって最後の『チャンス』だろ?
--どう考えたって最後の『チャンス』だろ?--
あらすじ:荒野の真ん中で注目を浴びながらクソをした。
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チクショウ。なんてひどい目ばかり会うんだ。
パンツ1枚でえっちらおっちら荷物を担いで奴隷商の小隊に引きずられて歩き通すこと数日。荒野を抜けて草原を抜けて村を抜けた。旅の間は粗末なメシとパンツ1枚で歩き通して、寝る時だって土の上でごろ寝するだけで掛布のひとつも貰えやしねぇ。
クソをするのにもしたくもない感謝をしなくちゃならないし、その後の始末も懇切丁寧に『お願い』をしなくちゃならねぇ。チクショウ!
村を通るたびに首輪とパンツ1枚のオレをわざわざデブの近くに繋いで村のヤツ等の反応を見てはデブが喜んでいたんだ。もうオレを助けてくれるヤツも居ねえよ!
オレを拾った事が余計な事だったから他のヤツ等の余りモノしかやれねぇとは言っていたが、他の奴隷たちだってロクなモンを食っているワケじゃねぇし、オレと同じく掛布も貰えていねぇ。
そもそも、余計な事だったらオレを拾うなって話なんだがな。
そんな事を口にすれば荒野で野垂れ死ぬよりかは良いだろうと恩を押し付けられてしまう。実際には『爆宴の彷徨者』があるからオレは荒野でも平気なんだけどな。
だが、今は『爆宴の彷徨者』の存在を知られる訳にはいかねぇ。なにしろアレはオレの切り札だ。『爆宴の彷徨者』を使えると知られたら、『ギフト』の封印を解除してもらえなくなってしまうだろう。オレが逃げる事もできるようになるし、デブを殺すことだってできる『ギフト』だからな。
だから、オレの『ギフト』は『土の聞き手』って事にしてあるのさ。どうせ『ギフト』は封印されているしオヤジの持っていた『ギフト』だから多少の知識があるしな。
だが、そんな旅路の毎日も今日で終わりだ。
昨日の夕方には遠くの畑のその向こうに街を見る事が出来た。あそこまで辿り着いてしまえばオレはケツにスライムを注入されて奴隷として売られてしまうだろう。
街に着くまでに何度か脱走をしようと試みたが、昼は馬車に引きずられて歩き詰めだし、夜は体の自由を奪われて寝る以外にできる事が無い。寝返りだって自由に打てねぇんだ。
それに隙を見て逃げ出したって10歩も歩かないうちに体の自由を奪われて無様に地面に転がる事になるに決まっている。
『爆宴の彷徨者』で逃げる以外の方法は完全に封じられているんだ。
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「ほら、コレを着ろ。」
街の城壁が近づいた時、デブはオレにボロボロの服を渡してきた。いや、服があるなら最初っから渡せよ!やっぱりコイツはオレが笑いものになるのを見たいためにパンツ1枚のままで放置していたんだ。
「何を今さら?」
「言葉遣いは正しくしておかないと、新しいご主人様の所で苦労するぞ。まぁ、それも売れればの話だがね。」
デブは不満を露わに唇を尖らせたので慌てて言葉遣いを直すことにした。口笛を吹かれて封印が痛くなるのも嫌だが、それよりも理由が気になったんだ。だって、街には居れば今までより多くの人間がいるのだから、オレを見世物にして笑いものにするには打って付けだろう?
「街に入るのに服を着る必要が有るのですか?」
「ああ、残念な事に街には衛兵が居るからな。みすぼらしい体を披露したいのかもしれないが、オマエが捕まってしまったら金にならないじゃないか。」
オレは露出狂じゃねぇ!だが、デブの考えは解った。街の外には頑丈な城門がある。きっと村の石垣のように森の大氾濫を警戒しての事だろう。そこには門番が立っているから街の入り口を通るオレがパンツ1枚でいれば、不審に思われてオレの背中の奴隷印が見つかるかも知れないのだ。
やはり、この奴隷印は違法なもので、見つかるように騒げば奴隷商が捕まるかもしれない。
「おっと、騒ぎを起こさないように、街の中では手と口は封印させてもらうぞ。」
チクショウ!読まれていたか!?まぁ、誰だって騒ぎを起こして逃げたいって思うよな。
オレはボロボロの服を着せられて手と口を封印されてしまった。足は封印されていないが、首輪をロープで馬車に繋がれているから3歩走れば首が締まってしまって逃げ出せねぇ。
オレの格好は魔女の首輪をしている事もあいまって、どこからどう見ても立派な普通の奴隷に見えてしまうだろう。
「よお、久しぶりだな。」
門に近づいた奴隷商に、門で警備をしていた門番が気楽そうに声を掛ける。
「見張りご苦労様です。やっとの事で戻って来れましたよ。」
「遠くまで大変だな、また新しい奴隷が増えたのか?」
「ええ、人手は多い方が良いですからね。」
「まぁ、荒野を渡ろうなんて金をもらっても嫌だからな。奴隷か、オッサンみたいな奇特な奴じゃなきゃ行きやしないか。」
「だからこそ美味しい商売になるんですよ。商売敵が居ないですからね。」
門番と奴隷商のデブが挨拶を交わす。チクショウ。顔見知りだったらオレが騒ぎを起こしても逃げにくいじゃないか。門番だって奴隷印の事を知っていてオレの考えが間違っている可能性もある。だが、次の一言がオレの希望になった。
「どうやったら、そんなに奴隷を増やす事が出来るんだ?」
「やだなぁ、前にも教えたじゃないですか。向こうの国の奴隷を管理する貴族と知り合いなんですよ。」
「そうだっけ?悪い、悪い。どうしても、その貴族の名前が思い出せなくてな。」
「秘密なんで勘弁してくださいよ。オレと同じように奴隷を使って荒野を抜けようなんてヤツが出てきてしまうじゃないですか。」
わっはっは。と門番とデブが笑いあうが、その笑い声は空虚で2人も目が笑っていねぇ。
「そろそろ、街に入れて貰ってよろしいですかね?何しろ歩き詰めで、もうクタクタなんですよ。」
「ああ、引き留めて悪かったな。」
チクショウ。なんか知らないが奴隷商は疑われているみたいだ。ここでオレが奴隷になった経緯を大声で喚き散らせれば門番の気を引けるかもしれないのに。
奴隷商のデブが声を掛けると街の中に向けて馬車が動き出す。
馬車が動けば当然、オレを繋ぐ縄が引っ張られて歩かなきゃならない。
門を通り過ぎるオレと門番の間は遠すぎて、封印された声が届くはずもない。
チクショウ。騒ぎを起こさなきゃ逃げられないのに。
「なぁ、門番さんよ。奴隷の焼き印ってのは、あのデブが使っても問題ないモノなのか?」
俯いて歩くオレの耳に、のんきな男の声が聞こえてきた。
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次回:『奴隷商』捕まる。ザマァみろ!




