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村で『行商』すれば嗤われるに決まっているんだ!

--村で『行商』すれば嗤われるに決まっているんだ!--


あらすじ:海の時とあんまり変わらなくてゴメン。

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「なぁ、オマエは喋れるのか?」


馬車にヒモで繋がれて荒野を歩きながら、オレは隣に歩いているヤツに声をかけてみた。


背中の焼き印に塩を塗りたくられたオレは、泡を吹いて倒れてしまったそうだ。奴隷商のデブは倒れたそばから水をぶっかけて覚醒させてくれたけけどな。チクショウ。


そしてコイツの背中にもだが、オレの背中には他の奴隷たちから搔き集めた荷物が乗せて歩いている。わざわざオレのために他の奴隷たちの余分な荷物を集めて、付けられたばかりの奴隷の焼き印の上に背負わせるんだから涙が出てくる。いや、マジで荷物がこすれていてぇんだって。


荒野を歩くにあたって奴隷商のデブはオレにサンダルをくれたから太陽に熱せられた尖った石を踏んでしまう事はなかった。まぁ、草で編んだぼろぼろで、オレが石を踏んで大事な商品を落とさないようにするために履かされているんだ。


サンダルを貸してくれるくらいなら、最初っから荷物を背負わすなって話だよ!


その上、万が一荷物を落としたら罰を与えられて借金にさせられてしまうから、いくら背中が痛くても簡単に気絶することも出来ねぇし、多分、倒れたらパンツ1枚のオレの素肌が荒野の地面で焼かれて死ねる。


魔法を封じられているから水だって飲めねぇし、これで気絶するなって方が無理じゃねぇのか?


逃げ出そうにもサボろうにも、首輪が縄で馬車に繋げられてやがるから強制的に歩くしかねぇ。


オレの隣を歩いているヤツも似たような境遇だ。まぁ、オレよりも身なりはしっかりしていて、服も靴もマシなモノを付けているし、荷物も背負子(しょいこ)で背負っているから背中が()れるなんて事も無いだろう。


オレの背中の荷物を集めている間にも何人かのヤツに声をかけてみたが、返事が返って来ねぇ。デブが言うには、うるさいから声を出せないように封じているそうだった。


オレだけは奴隷の焼き印が定着するまでは、あまり封印しない方が良いらしくて自由に喋れたりするのだが、オレだけ喋れたって周りのヤツらが喋れないんじゃ封印されているのと同じことだと思うんだ。


結局、オレの隣を歩いている男も悲しそうに首を振るだけで喋る事は出来なかった。


チクショウ!話くらいは聞かせてくれって言うんだ!


ここは、どこなんだよ!?



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陽が傾いてきた頃、荒野の真ん中にある小さな村にたどり着いた。荒野の中にあるみすぼらしい村で畑も小さいが、どうやって暮らしているんだ?


奴隷商のデブが村の見張りに簡単な挨拶をすると、オレ達一行は村の中に通されて中央にある広場で小さな露店を開くことになった。


どうやら、この奴隷商は南の方から奴隷を集めてきて北の街で売る道中で行商もしている様だった。オレが背負わされていた荷物もそんな商品が入っているらしい。だから売り物の奴隷が荷物を背負っていたんだな。


奴隷商が広場に敷布を広げて商品を並べると村の住人たちが久しぶりの行商に声を弾ませてやってくる。オレの村でもそうだったが、滅多に来ない行商は毎日同じ顔しか見る事のない村人にとって最高の娯楽になる。


商品を見るだけでも楽しいが、酒で行商人をもてなせば村の外の話を聞くことができるからだ。『爆宴の彷徨者』や海の話だってそうやって聞いたんだ。


小さな村の小さな広場に村人たちが全員やって来たんだ。


「ママ~!あのお兄ちゃんママと同じパンツを履いているよ。」


「しっ、見ちゃダメよ。可愛そうな奴隷さんなのよ。」


人が集まれば、当然オレも村人の目に触れるわけだ。そして、オレはパンツ1枚なので非常に目立つ。村に入る前にオレはデブにせめて腰布を付けさせてもらえるように頼んだのだが、あえなく却下されてしまった。


視線を浴びてヒソヒソ声で(わら)われているオレを見て、デブはニヤニヤと楽しそうに笑っていやがる。


「パパはママのパンツを履いたりしないモノね。」


「パパには男の人用のパンツがあるからね。男の人で女の人のパンツを履くような人を変態って言って、女の子は絶対に近づいちゃダメなのよ。」


「なんで~?」


「変態は悪い人なのよ。」


と言うか、ヒソヒソ声で話しているようだが全部聞こえているんだ。いつまであの母娘は話を続けているんだよ。変態、変態と変態の解釈を小さな娘にしていると、せっかく気にしないようにしているのに気になってしまうじゃないか!


しかも娘の方はコピットよりも幼そうだぞ。


ヒソヒソ声は、あの母娘だけじゃねぇ。集まってきた村人の中からも聞こえてきやがるんだ。


真っ赤になって小さくなっているオレと村人の間に、オレの隣を歩いていたヤツがすっと割り込んできてくれた。広場に広げる商品が入った木箱を運ぼうとしているオレの反対側を持つフリをしてオレの体を村人たちの好奇な視線からかばってくれた。


「あ、ありが…。」


オレが赤面しながら礼を言おうとすると、不機嫌になった奴隷商のデブが割り込んできた。


「アイツは荒野の真ん中でパンツ1枚で倒れていたんですよ。首輪もしていましたし、大方どこかから逃げ出してきたのでしょう。さぁさぁ、そんな事よりこちらの干し肉はいかがですか?脂ののったビッカツを干してますから旨味がたっぷりで美味しいですよ。」



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その男はそれからもオレに優しくしてくれた。


荷物を運ぶのを手伝ってくれたり、村人の視線から守ってくれたりだけじゃない。メシを配ってくれる時も自分の分を少なくしてオレに分けてくれたり、寝る時だって何も言わずに柔らかくて背中が痛まない場所を教えてくれた。


粗末だが久しぶりのまともなメシで浮かれていたオレは本当にすごく感謝して、涙まで流して食ったんだ。『ギフト』を貰ってから初めて両親以外に優しくしてもらったんだ。


そして、次の日。



男は村に売られて行った。



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次回:『岩の上』でしろって言うのか!?



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